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荻野仁調教助手



この馬の登場はもう何度目になるのだろう。3歳時の栄光から一転、無事故ながらも勝ちきれないジレンマを抱え、それでも走り続け、昨年の天皇賞(秋)でやっと二つめのG1タイトルを掴んだエイシンフラッシュ(牡6、栗東・藤原英厩舎)。その連覇を目指しての秋緒戦が、昨年同様のステップとなる毎日王冠。古豪中の古豪に、いかなる味付けを施して臨むのかを荻野仁調教助手に改めて伺った。

照準を次戦の天皇賞(秋)連覇に

-:毎日王冠に出走予定のエイシンフラッシュは今朝(9/26)、併せ馬で追い切られました。Cウッドコースに入っていく時の出掛けなのですが、久保助手が引っ張って、福永ジョッキーが跨って、若干、お尻で促すようにして入ってきたのが印象的でした。

荻野仁調教助手:馬が大人になっています。この馬はダービーを勝って、その後はなかなか勝てなかったのですが、(厩舎の中では)主みたいなものですよね。だから、目標のレースに向けて、この馬のコンディションをどう整えてやるかっていう感じです。あと、ジョッキーがこの馬をどう理解して乗るかですね。3歳、4歳、5歳の頃と、どんどんこの馬自体が進化しきているので、次第に乗りやすくなって、馬が良くなっています。去年の頃から完成に近づいてきていて、今現在も良いですよね。馬に余裕があるし、気持ちも凄く落ち着いています。

(続けて)

この馬はコンディションを整えて、ある程度、中身を作って、どこを目標にするかです。今回だったらまず、天皇賞を連覇したい、という目標を掲げて調整しています。まずは前哨戦の毎日王冠ですね。そこに行って勝つことも大事ですが、とりあえず無事に。この馬に関して言ったら、走る馬の怖さは故障です。だから、毎日王冠も大事ですが、とりあえずは天皇賞を意識して、そこでピークに持って行きたいというのが先生の中にあるみたいです。


-:そのためには、良い状態で、壊れないための調教ですか?

荻:壊れないための調教もありますが、壊さないための普段の管理ですね。これも結局、休んでいる時に山元トレセンに行って、体と心のリフレッシュがないと、トレセンに来て攻められないです。

-:競馬はクイーンエリザベス以来になりますが。

荻:こういう馬は、ピンポイントで馬を作っていかないといけません。今が昇り調子だというような馬じゃないですから。ピンポイント、ピンポイントで調子を持って行って、最終的に何が目標かっていうところをいつも定めて、先生は作っています。時間と全てをかけて。今日は終い1Fが12.4(秒)の80(全体時計が80秒)くらいですよね。僕も前で(準オープンのトーホウストロングに)乗って誘導させてもらいましたが。

-:荻野さんがトーホウストロング(1600万下)に跨って、結構外目を4コーナーで回って、そのピッタリ内をフラッシュが抜いていきました。

荻:今までずっと、色々な馬に乗ってフラッシュの相手をしてきましたが、1週前でとりあえずの意識は長めからの時計です。それぐらいで行けば、全体の時計は82、3ぐらいの馬ですから。あとはフラッシュが見ながら後ろにつけて、“見とけや”みたいな。それでちょっと調子を見てます。

-:前半はトーホウストロングとの差がかなり開いていましたよね。

荻:結局、時計がこれだけ欲しいんですが、この時計が欲しいということは、道中の流れも結構行かなきゃいけません。

-:流して欲しいですよね。

荻:スッと行って、それで心肺機能を高めたいというか、負荷をちょっとでもレース前の週に与えておきたいというのが、先生の意見なんだと思います。

-:リードホースに跨っていた荻野さんも、大事な役目で緊張しますね。

荻:毎日、緊張しています。追い切りになればなるほど、重要なことですから。ここを遅すぎたり、速すぎたり、そんなことをしていたら、馬は仕上がりません。そこは先生も厳しいです。

-:今朝のCウッドコースで、80.4の終い12.4というのは予定通りですか、ちょっと速いくらいですか?

荻:ちょい速いですね。でも、これくらいの負荷は与えたかったので、前の週でちょっと動かして。

-:久しぶりに福永ジョッキーがフラッシュに跨りましたね。

荻:後ろにつけて並んで、直線をなりで抜いて行きましたよね。馬なりの綺麗なフットワークで。これがもう、レース当週になると、81か2くらいの今日の時計よりも2つくらい遅い時計でも、ピュッと矢を放ったような動きになります。

-:緩急をつけるのですか?

荻:最後のところが違うんです。馬に合わせるだけで、スパーンって行くんですよ。その週は、その動きを馬がやるというようなイメージが今までのフラッシュです。だから、今日は体を使って、乗り役はただ合わせて乗っているだけです。来週に向けての体の準備で、全体的な負荷を与えておくんです。

-:フラッシュの追い切りで特徴的なのは、メンコですよね。

荻:アイシールドですね。後ろにつけるとチップが飛んできて、目とかに当たると休まなきゃいけなくなるので、うちは重ねて、後ろにつける馬には着けます。

-:追い切った後はすぐに外しているのですか?

荻:そうです。


スタッフが感じるエイシンフラッシュ

-:そのあと、フラッシュは厩舎周りでいつも通り運動をしているのですが、これがまた独特で、凄くゆっくりとマイペースで歩いているのがフラッシュらしいですよね。

荻:担当している久保君が熟知しているので任せています。あとはいつもそうですが、昼から歩様をみてチェックします。歩様を見てからじゃないと安心はできません。

-:こちらは府中の毎日王冠なのですが、ここを無事にクリアして、天皇賞連覇に向けて、良い発進がしたいですね。

荻:間があいている馬は、一回使うだけで変わるので、勝ち負けは、勝ちに越したことはないですし、ファンのためにも勝つことを意義にして出るのが一番大事ですが、正直に言って、無事に毎日王冠を回って来てほしいです。

-:実際、去年の毎日王冠も負けましたが、その結果を天皇賞につなげられましたからね。ちょっとヒヤっとした面もありましたが。

荻:勝ってくれるのが一番いいのですが、結局は無事に後のレースに行けるようにね。100%に持って行って使えるように、無事に帰ってきて欲しいです。やっぱり、天皇賞の重みは違いますから。

-:しかも、昔は勝った馬は2年連続で出られなかった訳ですから。ちなみに、今朝乗られた福永ジョッキーの感触はいかがでしたか?

荻:「乗りやすいわ。乗りやすくなってるわ」って喜んでました(笑)。

-:以前、騎乗した萩Sの時とは違うのですね。

荻:祐一は乗っている数が多いですから。彼が乗らなきゃここまで来てないですよね。乗りやすくなっているっていうのは、簡単に乗れるというわけではなくて、ジョッキーが簡単に乗れるようにするのが、一番大事なことですが、その中でも祐一がそういう風に思うくらいに、馬も成長していますし、そういう風に持って行っているのは確かです。

-:藤原先生はジョッキーに対するこだわりもちろんお持ちなのですが、馬に対する考え方としては、誰が乗っても力を出せるような馬づくりというのを、心がけていらっしゃる方ですよね?

荻:だから、色々しんどいのだと思いますよ。自分がジョッキーになりたかった人ですから。

-:先生自身も、今でもジョッキーに対する憧れがあるのですね。

荻:イメージ通りに馬が折り合って、馬が突き抜けるような、理想をずっと持ちながら作ってきているから、その通りにやってくれた時が一番うれしいんじゃないですか。フロックとかあまり好きじゃないですからね。アカンと思ったらアカンのままがいいだろうし、エエと思っているのにアカンのは、何か理由が絶対にあって、それが何かということも追いかけます。

-:そこを改善していって、次のレースにつなげるのですね。

荻:“なんでや?”っていう理由がないと。だから、「勝ってしもうた」みたいのはあんまり好きじゃないんです。

-:狙って「俺はわかってた」みたいな感じですね。

荻:だから乗り役に「勝てー!」と言うんでしょうね。みんなプレシャーを与えられるから難しいですが(笑)。

エイシンフラッシュの荻野仁調教助手インタビュー(後半)
「藤原英厩舎の精神的な支柱」はコチラ→

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【荻野 仁】 Hitoshi Ogino

卓越した調教技術は、専修大学時代の馬術チャンピオン(障害)という裏付け。藤原英昭厩舎の開業当初から調教助手として屋台骨を支えており、フードマンとして各担当からの意見を取り入れ全頭の飼い葉を調合している。2つ上の先輩である藤原英昭調教師とは小学生時代から面識があり、両人の絆と信頼関係は絶大。名門厩舎の躍進を語る上でこの人の名前は欠かせない。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。