関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

内田博幸騎手

最後の一冠を獲るための前哨戦、ローズSは最内枠から出遅れながらも、極悪馬場をものともせず、大外から17頭をごぼう抜きにしたデニムアンドルビー。ズバ抜けた能力はあの競馬で一目瞭然だが、秋華賞の舞台は、右回りという以外はコース形態がまるで違う京都内回りの2000m。難コースをこのコンビでどう攻略するのか、内田博幸騎手が思い描く理想の競馬などを伺ってきた。

<関連リンク>

最終追い切り後のコメントはコチラ⇒


ゴールドシップを彷彿させる末脚

-:秋華賞1週間前のデニムアンドルビー(牝3、栗東・角居厩舎)の追い切りですが、3頭併せの真ん中。前回のローズSの前に担当の小滝助手に伺ったところ「1回夏休みを挟んでリフレッシュした効果で、もうちょっと先行して、無難なポジションで競馬ができれば」というお話でした。レース内容としては、オークスと同じように馬が気分的に進んで行かないという状況だったのだと思うのですが、内田騎手から振り返っていただけますか?

内田博幸騎手:雨が降って下も重くて悪くなっていましたし、僕自身も“無難な競馬がしたい、中団よりも前ぐらいに付けたい”と思っていました。返し馬でも気合をつけて、馬にやる気を出させて行き脚はつけておいたので、スタートして行けそうだなとは思っていたのですが、ゲートはみんなと同じに出ているのに、その後の行き脚がどうしてもつかなくて……。

“馬場が重くて気になっているのかな”という心配もあったのですが、その結果、全体を見渡すこともできましたし、外に出して、じっくりとこの馬のリズムに合わせながら。後は、ある程度は上がって行かないと間に合わないので、コーナー手前から少しずつ進出して行きました。4コーナー手前で少し息を馬に入れさせて、直線に入って追い出したという形になったのですが、あそこからなかなか渋太く伸びてくれたので、この馬の力があることを見せつけたレースではないかと思います。


-:位置取りに関しては、あれをマイナスと捉えずに、デニムアンドルビーのタメが利いた走りができていると捉えたらいいのですよね?

内:オークスよりも、休み明けの前回の方が動きは良かったです。

-:完全にリフレッシュした効果を感じましたか?

内:前に付けられるかどうかは正直、やってみないとわからなかったです。付けられるんじゃないかと思ってはいたのですが、案外、馬が行きたくないみたいだったので。

-:見ている側にも内田騎手の行きたいという気持ちは伝わってきましたが、“馬の性格が後ろから行きたい、先行したくないのかな”と感じたのですが。

内:馬の方が後ろから行きたい雰囲気になったので、これはしょうがないなと思って。

-:ただ、あの馬場をこなせたというのは収穫ですよね。適性だけではなく、精神力が強い馬じゃないと、あの馬場を走り切ることはできないと思うので。

内:ああいう力のいる馬場でも、差して来られたのは収穫ですよね。普通は後ろから来られる馬場じゃないので。ましてや中団とちょっと離れていましたから。

-:しかし、見ている側はかなりに不安になったレースでした。

内:1番人気になっていましたし、それに応えたいというのがジョッキーの心理なので、この位置になってしまったけれど、どうしようかなという気持ちはありました。でも、馬がどうしても行かないのなら行かないでしょうがないので、行く気になるまで我慢して、ある程度、馬のリズムを壊さないで走らせるしかないなと思っていたので。

10/2(水)、CWでオールザットジャズらと併せて6F:84.5-68.3-53.5-39.4-12.3秒を馬なりでまとめた










-:内田騎手といえば、オウケンブルースリで勝った菊花賞の時も途中で動いて、4角手前でちょっと息を入れて、もう1回頑張らせるという、それにちょっと似たような脚の使い方をデニムアンドルビーでもしていたのかなと思っていたのですが。

内:オウケンブルースリとはなかなか比較がしにくいですが、目一杯の脚は使っていないものの、上がって行って他の馬と比べれば脚を使っているので、どこかで息を抜いてあげようという考えていましたね。そして、良い感じで息が抜けていたので、それに関しては似たような気もしないではないですが、オウケンの時は、早々とある程度前につけてから息を抜けたので、どちらかというと同じ菊花賞のゴールドシップに似ているのかなという気はします。

-:あの馬場では、普通ならあそこまでは伸びないという気がします。

内:あの馬場で上がっては来ているのですが、もっと後ろですからね。4コーナー手前で息は入れていますが、前のグループからしてみれば、結構後ろの方ですよね。そこから直線だけで上がってくるのだから大したものだと思いますよ。

オークス3着からの成長

-:不安点としては舞台が変わって京都の内回り2000mという、後方から進む馬からしたら、ちょっとリスキーなコースだと思うのですが、本番を前にした今日の追い切りで、1回使った効果や変化は感じましたか?

内:具合も悪くなさそうですし、レースを使った後に毎回堪える馬にしては意外と平気だったので、本番に向けて逆にいいんじゃないかなと。このあいだ、重い馬場であれだけのレースをしたので、ちょっと堪えているかなとも思っていたのですが、意外といい感じで来ていると聞いたので、それなりの追い切りを中間にできているし、今回も3頭併せでびっちりやれたので。

-:その辺が体力的に3歳春から成長していますか?

内:肉体的にしっかりしてきているのではないかと思います。

-:頼もしい状態で迎えられそうですね。

内:そうですね。実際に馬がスタートして、それなりの位置に付けられそうなら、それなりの位置に付けますし、付けられなかったら、付けられない競馬をするしかないし、こればかりは分からないですけどね。

-:あの馬に乗られていて、春からの跨った感じでサイズとか幅とかの変化はありますか?

内:そこら辺はあまり感じないです。でも、体重も少し増えていたし、実は入っていて、逆に重めぐらいだったので、ちょうど良くなっているんじゃないかなと僕は思います。



本来、理想とする馬場状態

-:あとは、馬場状態が重馬場から京都の軽い馬場に変わるということで、デニムアンドルビーの走りについてはどうですか?

内:軽ければ軽いほど、この馬は切れ味があるので。実際にそういうレースをしていますからね。未勝利を勝った阪神でもあれだけの競馬をしていますし、切れ味が逆に生きるので、重いよりも軽い方が良いかなと思います。

-:位置取り云々を気にするよりも、あの終いの素晴らしさというのを信頼して、ドンと構える戦い方ですね。

内:ほとんどがそういう競馬ですし、僕が乗った中で1回も前に行けたことがないので。だから、スタートして無理やり前に付けることはないですけど、スタートしてスーと中団ぐらいに付けられるなら、付けてみようかなという気持ちもあります。ダメだったら、あの馬のいつも通りになってしまうでしょうし、それは、馬のリズムがレースの当日にどうなっているかという。それなりに行っても大丈夫なリズムだったら、それなりに行くし、ダメなリズムならダメなリズムで、この馬のレースをするしかないですよね。

-:見ている側では引っ掛かっている感じがないので、ドスローで団子状態になった方が、この切れ味は生きるんですかね?

内:京都は行った馬が粘るということがどうしてもあるので、仕掛け遅れということだけはしたくないです。あんまりゆったり構え過ぎてもだめなので、コースと内回りと色々なことを考えてレースをしなければいけないのかなと。



-:おそらく1番人気だと思うので、悩ましいレースになると思うのですが?

内:前に行くことができるのが、ある程度確立されていれば気持ちも楽なのですが、そういった競馬がなかなかできていないので。

-:あの重い馬場であそこまで切れたのならば、京都でなら反則技ぐらい切れるんじゃないですか?

内:長い脚も使えて、さらに切れるので、逆に組み立てはしやすいのかなという気持ちもしないでもないです。僕が乗って、いい結果に持って行くことが仕事なので、それを目指しますし、応援してくれている人もたくさんいるので、期待にも応えたいと思います。

-:枠だったら、どのあたりが乗りやすいですか?

内:何枠でもいいです。枠は気にしていないです。

-:1番人気でプレッシャーが掛かると思いますが、秋華賞頑張ってください。

内:この馬の力を出し切ることが、1番近い道だと思います。リズム良く行きたいですね。

●オークス前・デニムアンドルビーについてのインタビューはコチラ→





【内田 博幸】Hiroyuki Uchida

1970年 福岡県出身。
1998年 大井競馬からデビュー。
2008年 JRAへ移籍。
JRA初騎乗
1993年7月25日 2回新潟4日2R ワカバトウショウ
JRA初勝利
2002年4月21日 3回東京2日1R イルラーゴ


■最近の主な重賞勝利
・13年 宝塚記念/13年 阪神大賞典
(共にゴールドシップ号)
・13年 ローズS/13年 フローラS
(共にデニムアンドルビー号)
・13年 ヴィクトリアマイル(ヴィルシーナ号)
・13年 目黒記念(ムスカテール号)
・13年 弥生賞(カミノタサハラ号)
・13年 NZトロフィー(エーシントップ号)
・13年 エルムS(フリートストリート号)
・13年 ダイヤモンドS(アドマイヤラクティ号)


公営・大井競馬所属から1989年に騎手デビュー。
的場文男、石崎隆之騎手らが全盛期の時代に頭角を現すと、2004年に年間385勝(他、中央では28勝)を挙げて、初の南関東・地方競馬全国リーディングを獲得。 また、鉄人・佐々木竹見の年間505勝の記録を2006年に更新。同年には地方524勝、中央61勝という並外れた成績を残し、翌年には地方所属ながらNHKマイルCでピンクカメオに騎乗し、中央G1初勝利を挙げた。
07年には08年度のJRA騎手試験を受験を決意。当時の規定で、1次試験は免除となり、晴れて、08年3月1日付けでJRA騎手となる。その後の活躍は周知の通りだが、2010年にはエイシンフラッシュで日本ダービーを制覇。一昨年は大井競馬で頸椎歯突起骨折の重傷を負い、長期休養を余儀なくされたが、ゴールドシップとのコンビでG1の舞台でも活躍。完全復活をアピールしている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。