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平井裕介調教助手

年明け緒戦までは堅実な反面、勝ち切れない印象だったクリソライトだが、シュタルケ騎手が乗った500万下を圧勝すると、そこからはジャパンダートダービーまで3連勝。現在も連対記録は9続いており、その3歳王者が金沢のJBCクラシックに殴り込みとなれば興味はつきない。今回は人馬ともに初登場、とりわけ初めて持つ担当がいきなりG1馬という平井裕介調教助手に、古馬初対戦となる大一番への手応えを伺った。

いきなりの運命的な出会い

-:よろしくお願いします。平井さんは初めて担当された馬がクリソライト(牡3、栗東・音無厩舎)というお話を聞きました。

平井裕介調教助手:最初は、前の厩務員さんからの担当が2頭いて、その馬との入れ替えで持ったのがクリソライトですね。

-:素晴らしい縁ですね。

平:ありがたいです。どこでも堅実に走ってくれるから、ありがたいですね。

-:まずは血統的な話を聞きたいです。体を見たら、“なるほどな“と思う馬なのですが、最初に2歳で入ってきた時はどのような印象でしたか?

平:調教師からは最初「牧場ではヤンチャな馬やから」と聞いていました。先にバルトロメオが入って来て、ずっと一緒に調教をしていて、バルトロメオが入ってきて1週後ぐらい、慣れてきた頃に一緒にしようということになりました。「とりあえずヤンチャやから気をつけろ」と言われたけど、跨ったら、そんな悪いことはしない。普段は噛んできたりとか、じゃれてきたりするんですけど、別に性格で特別な苦労をすることはなかったです。

-:見た目は、パワータイプのゴールドアリュールという感じですか?

平:今よりはまだ、馬体はちっちゃかったですからね。まあ、筋肉量はある馬だなとは思っていました。最初は芝で下ろす予定だったんですよね。でも、調教の動きが今イチ上がってこなかったので、1週延ばしたら、ちょうどダートの番組があったので。去年の中京はそこそこパワーが必要な芝だったじゃないですか。初戦やから芝で下ろそうかなと思ってたんですけど、調教の動きが今イチだったから、延ばしてダートデビューという感じでしたね。

-:調教の手応えより、実戦の方が良かった感じですか?

平:そうですね。新馬の時なんかは半信半疑で、距離もどこが良いのか分からなかったですし。すごく良いフットワークで走る馬だったので、将来が楽しみだなとは思っていましたけど、最初はその程度です。

-:でも、2戦目でいきなり未勝利を勝ちましたね。

平:ゆくゆくは成長するなと思っていました。ダートの1400を使った後は良い番組もなかったので、1カ月半ぐらい放牧に出したんですよね。そこで、良い形で帰って来てくれました。でも、初戦はゲートでゴネたんですよね。ゲート再審査ギリギリまで行ったので、ゲートの中で縛ったりもしました。2戦目も、勝ったけど結構危なかったんですよね。だから、3戦目のプラタナス賞までの間に1回縛りました。ゲートで縛った後は全然悪いことはしなくなりましたね。

-:ゲートで縛ったとなると精神的にはどうなのでしょう?

平:初日に1回ひっくり返ったんですよ。それが相当怖かったらしく、それ以降は1回もやらなくなりました。



4戦連続の2着を経て覚醒

-:プラタナス賞では1番人気になって、2着で、そこからずっと2着ですけれど、その理由を説明していただいて良いですか?

平:あのレースで勝っていれば、もっと早くG1馬になっていましたよ。その後も僕は勝てるとずっと思っていたんですけど、展開のアヤばっかりですね。今でもそうなんですけど、他の馬に合わせちゃうところがあります。競り合いになると譲っちゃう感じのレースが4回連続で続いたと思うんです。プラタナス賞でも、1回並びかけたけど、ヴェルデホにグッとやられたら外に行ってるんですよね。次のもちの木賞はドシャドシャの馬場で逃げ馬が粘るようなレースで、大外を回してきたんですけど、あれもちょっと遠慮していた部分があったかなと。あれは離れてたから、そんなにひどくなかったですけど。

樅の木賞は北村君の手応えも良かったから併せに行ったら、逆に遠慮しちゃって、最後ロードクラヴィウスにボーンとやられて。その次、年明けの黒松賞も、あの馬には珍しくロバーストナカヤマに競り勝ったところを、外からソロルにビュッと出し抜かれた感じだったんですよね。だから、あの子自身の気性もあったと思うんですけど、展開のアヤも全部にあったのかなと。でも、どこに行っても堅実に走ってくれていました。ゆくゆくは走るだろうから、僕もいろんな競馬を経験できて、あの子自身にも良い経験になったんじゃないかなと思いますね。


-:ただ、この馬を最初に見た時にちょっと重さを感じたんですよ。僕らは馬に乗れないから、体を見て判断をするだけなんですけど。早い時期に北村友一騎手に「すごく楽しみな馬がいる」と紹介されて、クリソライトが坂路で走っているのを注目していましたし、競馬でも注目していましたが、“う~ん?”みたいな。

平:坂路ではそんなに動かないです。多分、併せ馬をやっても、どの馬にも大して勝てないんじゃないかというぐらいで。

-:レースを見ても、教えてもらった後は2着が続いていたので、懐疑的な見方をしてたんです。でも、この間のジャパンダートダービーを見ると予言的中という気はしますよね。

平:攻め馬でも、単走の方が気持ち良く走るんですよ。だから、ああいう風にビュッと抜ける競馬が理想です。昇竜Sで、競り合いになった時でも抜かせなかったじゃないですか。“ちょっと成長してるんだな”と思いましたね。あれが、去年の秋とか今年の春先だったら、多分馬が待ってたと思うんですよね。あのレースでも結構待っていたらしいんです。北村君が「焦った。抜けた瞬間に馬が止めました」と言っていて。だから、いつも突き抜けるだけの脚はあるけど、それを出せてなかったんだと思います。

-:その理由は、“精神的に弱い”とか、“いいヤツすぎる”とか色々とあると思います。この馬は、どちらかと言うと、いいヤツすぎるんでしょうか?

平:そうですね。だから、他の馬に合わせちゃうんでしょうね。精神的にもまだ、かわいい部分もありますよ。



JBCでの魅力は55キロという斤量

-:顔を見ても、まだちょっと幼さが残っているなという感じはするのですが、500万・昇竜S・ジャパンダートダービーと3連勝しています。変わってきた面というか、精神的にシッカリとしてきた面は、乗っていて感じますか?

平:元々、競馬場に行ったら用意の時はうるさいんですけど、パドック出たら一切悪いことはしないんですよね。ホンマに片手1本で曳けるので。だから、その辺はあんまり変わってないと思います。1頭で抜けるレースの方が一所懸命、走るので、500万で勝った時にシュタルケ(A.シュタルケ騎手)に、「抜けたら遊ぶから抜けても最後まで追ってくれ」と言って、ビシッと追ってもらったんですよね。そうしたら、ああいう勝ち方をしました。

-:1秒ちぎったと?

平:だから、それが次のレースにも繋がったんじゃないかなと思います。あれで馬が最後まで走るのを覚えたのかもしれないですね。

-:ゴール前まで止めずに走るのが競馬だということを覚えたんですね。それがジャパンダートダービーの圧勝に?

平:繋がっていると思います。

-:でも、ジャパンダートダービー(以下、JDD)前は、1秒以上もブッちぎるとは思っていましたか?

平:僕は勝つならちぎると思っていました。また、いつその癖が出てくるか分からないので、競り合いなら負けるとも思っていましたけどね。でも、昇竜Sを勝てたらジャパンダートダービーも勝てるんじゃないかと正直思っていました。だから、JDDを勝てたのは北村君が乗った昇竜Sが一番大きかったと思いますよね。

-:この馬の形でないパターンで勝てましたね。


「みやこSの57キロより、金沢の2100の55キロの方が合うと思っていたので、JBCにスベり込めたのはすごい幸運だなと思ってます」

平:1コーナーで、頭を上げて挟まってましたからね。あの位置からよく来たなと。結構雨で締まりかけてた馬場だったので。

-:どちらかと言えば、この馬はパサパサの馬場の方が良いですか?

平:僕はそう思います。だから、みやこSの57キロより、金沢の2100の55キロの方が合うと思っていたので、JBCにスベり込めたのはすごい幸運だなと思ってます。とは言っても、雨が降っても、そこそこには来てくれると思います。パワー型の体になってきているし、どんな条件でも走ってくれているので。

-:日本のダート馬の中にも、京都の軽い猛時計で走るのもいれば、阪神とか中山で不凍剤が入って重くなっても良いタイプもいます。クリソライトはパワーが結構あるから、時計の遅い勝負にも向いているスタミナとパワーを兼ね備えているのでしょうか。

平:簡単にはバテないと思います。あと、55キロというのは魅力的ですね。みやこSは57ですからね。今年のJCダートも57なんですよ。11~12月を跨いでいるので。12月に入ると毎年1キロ減だから56じゃないですか。今年は55なんです。得なんですよ、今年は。

クリソライトの平井裕介調教助手インタビュー(後半)
「プラス10以上の大幅な馬体重増が濃厚」はコチラ→

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【平井 裕介】 Yusuke Hirai

野球が好きだったことにより目を通していたスポーツ紙がきっかけで競馬に興味を持つ。高校時代は馬術部と迷った末に野球部に所属。卒業後は北海道の高村牧場に就職する。牧場の活躍馬は古くはスターマンやマイケルバローズ、現在ではガルボなど。その後はグリーンウッドで働くかたわら、水口の乗馬クラブで馬術を学びJRA厩務員過程へ進学。一昨年は最も厩舎所属が困難な時期であり、1年間はヘルプのピンク帽で8つの厩舎を転々とする。昨年5月、様々な偶然が重なって音無厩舎へと正式に所属。初めて任された担当馬がクリソライトという幸運の持ち主。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。