関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

塩見覚調教助手

中身のあったトライアルの内容を秋華賞で爆発させて、見事に牝馬2冠を達成したメイショウマンボ。その母メイショウモモカから担当し続けてきた塩見覚調教助手にとって、それは運命と呼ぶにふさわしいが、タイトルを取った後も舞い上がっている様子はない。人馬ともにピークを迎えた後の一戦となるエリザベス女王杯へのモチベーションを聞き出すべく、秋華賞直前に引き続きロングインタビューを受けていただいた。

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最終追い切り後・武幸四郎騎手のコメントはコチラ⇒


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思惑が合致した秋華賞で2冠達成

-:メイショウマンボ(牝3、栗東・飯田明厩舎)の秋華賞は感動的なレースでしたね。G1・2勝目、おめでとうございます。

塩見覚調教助手:ありがとうございます。ホッとしています。

-:メガネバンドを使った姿が印象的でした。

塩:スポルディング。目立っていましたか、ヘヘヘ(笑)。あんなカッコの悪いね。

-:オークスの時は返し馬でメガネが落ちて、芝に埋まったメガネを探すのが大変でしたね。



塩:オークスの時は人間が一杯一杯でしたね。幸四郎(武幸四郎騎手)も、馬も一杯一杯でした。でも、今回は馬の後ろで普通に話ができましたからね。ゲート後ろでも、成長していると思いました。オークスの時もローズSの時もパドックは(係員にも)少し手伝ってもらったかなあ。苦労するほどではなかったですが、今までは、ジョッキーが跨った瞬間、ガーッとなっていました。でも、ローズSでは、ジョッキーが跨ったところで、“あれっ?”と思ったんです。そこまでテンションが上がらんな、と。まだ仕上がってないし、馬を追い込んでないから、その分の余裕かと半信半疑でした。
“うわっ、この馬成長してるわ”と思ったのはゲート後ろなんです。跨っても、急にテンションがポンと上がらなくなった。体もひと夏を越してすごく成長したと分かっていたんですけど、精神面もまたすごく成長していると思いました。


-:秋華賞では、ローズSから馬場が一変して良馬場で戦えた訳ですけど、しっかりと走りましたよね。その方が、馬には負担が少ないですか?

塩:ローズSの時は2週間ぐらいでの仕上げやったんですよ。馬券を買っている人には本当に申し訳なかったかもしれんけど、そこまで仕上げず、叩いてグンと良くなるという感じで、ピークで秋華賞を迎えたいという目論見やったので。幸四郎もその辺はよく分かっていたので、馬が止まった時点でしゃにむにには追っていません。ダメージも、あんな馬場で走ったからどうかなとは思っていたけど、翌日に獣医さんに見てもらったら「普通のレース後の疲れぐらいだよ」と言われました。
乗り始めも翌週の金曜日ぐらいで早かったので、その辺りは上手いこと連携が取れたというか、幸四郎も状態が分かっていながらレースを迎えて、次が本番というのを考えて最後まで乗ってくれたのかなと思います。お陰でグンと上がって、本当にピークで秋華賞を迎えられました。




-:ピークを迎えた状態で牝馬2冠となった訳ですけど、今度は目標外であったエリザベス女王杯です。それをどういう風に判断すれば良いですか?

塩:実際は秋華賞が本当に“ (10段階のうち状態が)10”やと思うんですよ、現時点でね。その後はそこまで疲れがなかったので(秋華賞後の)土曜日ぐらいから乗り始めたんですけど、 “10”のデキやと、いっぺん緩ませて乗り始めなくてはならないんです。当然上のラインではあるけど、小さい波はあるんで、ちょっと下げたところから、先週の日曜に15-15で準備をして、今日(10/31)の1週前追い切りとなりました。調子が下がっていたのが、15-15をしたことでちょっと上がって、上がりきったところで今日の追い切り、という感じです。今から残り10日で“10”に近づけるように、というのが僕らスタッフの仕事なんでね。

我がままは変わらずも着実に成長

-:1週前追い切りは角馬場の運動から見させていただきました。角馬場の時は結構言うことも聞いていましたし、変な動きをすることもなく幸四郎ジョッキーも乗りやすそうな動きをしていましたが、内容は若干抑え目なのかなと思いました。

塩:調教師(飯田明弘調教師)は「単走で良いかな」という話を先週の時点でしていたみたいです。単走でやると、気分良く走ったらやりたい以上のすごい時計が出てしまいそうなので、飯田君(飯田祐史技術調教師・元騎手)の指示でペースメーカーを付けようとなりました。それで、併せで1頭置いて我慢をさせました。それでも、残り3ハロンまでのペースメーカーであって、残りの3ハロンは“自由に自分の思い通りに行って良いよ”という感じの追い切りでした。テンをだいぶゆっくりめに入ってもちゃんと折り合って、最後は外に回して。見た目より時計が出ていたのでビックリはしたんですけどね。

もっとゆっくりに見えたけど、あんなに出ていたのかと思いましたね。思っていた通りの時計で十分でしたし、もう鍛え上げることはいらないというか、秋華賞の10の時に持っていけるようにと思っています。



10/31(木) CWコースで81.8-64.7-50.3-37.2-12.1秒(馬なり)をマーク






-:あの調教を見たら、調子はそんなに落ちていないですか?

塩:跨っている人間には“全然どこも変わらんで”というレベルなんですけど、やっぱりエサの食いっぷりが落ちたりとか、獣医さんが触って心臓の音を聞いたりすると、“ちょっと疲れが出たかな”というぐらいの微妙な感じがあります。飼い葉を食べつつも、ガツガツ感がないみたいなレベルです。

-:精神的に成長をしているということですが、今日の追い切りでは、3コーナぐらいでペースメーカーの馬がちょっと躓いたというか、ウッドの軟らかいところでノメった感じでガタッとなりました。マンボは別に何も気にしてなかったようですね。

塩:「道中の運動で本当に落ち着いたよね」という話は常々していたんですけど、やっぱり普段も春より落ち着いていますね。その代わりに我が出てきて、地下道からコースに行く時にはちょっとね。

-:でも、“女王”ですからね?

塩:この馬の場合はゴネというか、わがままですね。馬は“ざまあ見ろ”みたいに思ってるかもしれへん。叩いたりすると蹴りますが、そこで人間がちゃんと怒らなかったらやりたい放題です。

-:それもちゃんと分かっているところを見ると、頭が良いんですね。

塩:そういう気の悪さもちょっと見せてはいるんですけど、全体的に見れば普段は落ち着いています。当然、それがレースに行っても顕著に出ています。まあ、他の大人しい馬と比べるとわがままかもしれないですけど。

-:春から比べるとどうでしょう?

塩:全然違う。こっちも春はバカ正直に、多少ケンカしてでも一緒にみんなと出て、前の馬のペースに合わせて、強引にケンカしてでも抑えて、そうしている内にテンションがガァーと上がってしまったんです。地下道だとテンションが上がってケンカをしていましたが、オークスで人間も学習して、秋からは先出しにしてもらって、馬が行くのに人間が付いていって、パッと放しています。そういう点も若干良い方には向いているとは思うんです。許される範囲のことをして良くなっているので、させてもらっています。



-:傍から見ていると、塩見さんのキャラなら、馬が暴れたら暴れ放題にさせるのかなと思ったけど、実際はちょっと違うんですね。馬が暴れていても結構ケロッとして、周りに気を使いながら「ゴメンね」と声をかけたりして、あんまり慌てないのかなと思いました。

塩:桜花賞の時はソワソワしてたでしょ。多分、人間も場数を踏んでくると場慣れをしてくるんでしょうね。馬もやろうけど、人間も場慣れをしてきたというのはあります。結構、想定内のことで収まっています。秋口は僕ら、もうひとつ悪い方に行くと思っていたのが、“あれっ、意外と大丈夫やな”と。

-:そんなことを思っていたら、見透かされて、もうちょっとやられるかもしれないですよ。

塩:でも本当に馬は賢くなりましたね。

-:精神的な成長をもう一丁、エリザベス女王杯に繋げたいですね。

塩:秋華賞は本当に“これで負けたらしゃあないわ”というぐらい良かったので、それぐらいまでに持って行ければいいです。まあ、競馬のことなので結果はわかりませんが。この前の天皇賞(秋)を見ていても、一番上手に競馬をした馬が勝っていますし。秋華賞の状態まで持っていくというのは大前提ですけどね。

-:ファンが気になっているのは古馬との力差です。担当者としてはどんな気持ちで古馬陣営を見ていますか?

塩:正直わかりませんが、ヴィルシーナはジェンティルドンナがいなかったら3冠馬な訳ですからね。やっぱりすごいなとは思いますし、ましてやブッちぎられた訳ではなく、際どい競馬をした時もありますし。僕にしたら、秋華賞の時は逃げ道がなかったけど、今回は逃げ道(負けてもいい理由)がありますね。“やっぱりお姉ちゃんの方が強いわ”って、ヘヘヘ(笑)。とはいうものの、今年の3歳牝馬はレベルが低いみたいな感じで思われているやろうし、あんまりマンボが無様な競馬をすると、一緒に戦ってきた馬に申し訳ないなとは思います。

メイショウマンボの塩見覚調教助手インタビュー(後半)
「他とは違った感覚を持つ異色の競馬人」はコチラ→

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【塩見 覚】Satoru Shiomi

競馬に縁のない過程で育ったが、トレセンで働いていた知人の影響で興味を持つ。静内のグランド牧場で5年の勤務を経て、トレセンへ。ナリタブライアン、メジロパーマー、ナリタタイシン、シルクジャスティス、イイデライナーらを擁した大久保正陽厩舎から、厩舎を渡り歩き、現在の飯田明弘厩舎へ。
これまではオープン馬を一頭しか扱ったことがなかったが、母も手掛けていた自身所縁の血統馬メイショウマンボと運命的な出会いを果たす。デビュー当初のメイショウマンボについては「兄弟も走っていないし、そんなに期待もしてなかったんです。大人しくて自分で乗れたら良いや、ぐらいのスタンスでした」と振り返る。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。