元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
世界レベルの日本
2021/11/30(火)
皆様、こんにちは!この間は、ふと昔のことを思い出していました。まだまだ騎手になり立ての頃、高速道路も今のように沢山できていなかった時代。関西馬は関東への遠征を頻繁に行うことができず、本当に勝負できる馬のみが東上という形でした。それが、今では毎週のように多くの馬が関東へと勝負しに行き、さらにダービーや大きなレースでの勝利も多くなりました。騎手に関しても移動が楽になり、全国・世界へと乗りに行くことが可能になりました。競馬後進国とよばれていた日本が交通の便の改善により挑戦できるようになり、日本馬のレベルアップに伴い今では世界で戦える競馬先進国へと変わってきているなとしみじみ感じ、嬉しくなりました。
それでは、先週の競馬を振り返りましょう。東京競馬場ではジャパンカップが行われました。昔は海外馬が大半を占め、世界戦のイメージが強かったレースも、海外からの挑戦がない年すらあり、徐々にジャパンカップがジャパンだけカップへと変わってしまっていました。それも上記した日本馬が強くなってきたからという理由があるかもしれません。それでも今年はアイルランドから2頭、フランスから1頭の挑戦がありました。しかし、全てを跳ね返し、見事に有終の美を飾ったのは世界のYAHAGIとFUKUNAGAコンビのコントレイルでした。
無敗の3冠から勝ち星が遠ざかっていましたが、全てのレースにおいて走りが悪くなったことはありませんでした。ホースマンの夢でもある3冠制覇。本来コントレイルは福永君のコメントにあったように3000mは厳しかったと思います。それでも厩舎や福永君、育成牧場、みんなが一致団結し保たせ、馬もそれに応えて手に入れた3冠。その代償として、万全から遠のいてしまっていたところがあったと思います。そこから再度立て直し、この馬は世界に通用する馬だと全員が信じやり直し、やり続けたことが引退レースでの勝利に繋がったのだと思います。
福永君の「今までの騎手人生の全てを詰め込んだ1頭」という言葉には、勝利の全てが詰まっていました。以前にも書きましたが、彼は決して騎乗技術が恵まれた方ではありません。しかし、それを誰よりも早く認め、自分自身を見つめ直しました。彼にしかできないアプローチを研究し続け、ここまで辿りつきました。トップ騎手になれど毎日歩いて馬場を確認し、競馬新聞には誰よりも多くの色ペンがついています。そこに経験と自信が生まれ、家族の支えができてこのポジションを勝ち取ったのです。
比べることはできませんが、私は「彼は騎手として洋一さんを超えた」と言いたいです。レース直後に涙をこらえることができなかったほど集中し、注ぎ込んできた思いが最高の結果でコントレイルの引退を迎えられたことを嬉しく思います。そして、日本馬が世界一だと結果で出してくれたことに、チーム日本としても非常に誇らしい勝利でした。
ジャパンカップが終われば、もう師走。師匠も走るほど忙しい年末に競馬界ではG1ラッシュが続きます。開催も中山・阪神・中京へと変更になりますのでお間違えなく!開幕週の中京ではダートG1チャンピオンズカップが行われます。好調の3歳馬達からソダシがダート初挑戦をしてきます。血統的にも非常に楽しみな1頭です。ただ、レースではキックバックを避けたいというところもあると思いますし、枠の並びが非常に重要になります。
その3歳牝馬に、そう簡単にはやらせないというのがカフェファラオになるのではないでしょうか。こちらも枠順が重要になる馬で、内枠では難しくなります。包まれず自分の走りができる真ん中から外が必勝のための条件になるかもしれません。その他にもインティやチュウワウィザードのベテランに、テーオーケインズや中京大好きオーヴェルニュなどがおり混戦が予想されます。アメリカのダートでも結果を出してきた日本馬が、世界のダートでも通用すると再度見せつけてくれるようなレースを期待したいと思います!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。