戸崎圭太騎手 VS 御神本訓史騎手

「水上学の競馬直談判」第3回は競馬ラボではお馴染みの戸崎圭太騎手がゲスト!
昨年も地方全国リーディングに輝き、今や地方の枠を超えた活躍を続ける戸崎圭太騎手に、水上学がどんな切り口で迫るか?
また、これまでのインタビュー集とは違った戸崎圭太騎手の声もお楽しみください!

一流騎手への目覚め


水上:最終レースは勝ったと思いましたが、残念でしたねえ。今日の馬場は差しも利いていたように感じました。

戸崎:馬場もパサパサしているので、前に行く馬が力を使っているぶん、後ろの馬に有利になることもありますね。

水上:乗っていらっしゃって「今日は前が有利になりそうだな。差しが利きそうだな」というのは感覚で感じるものですか?

戸崎:そうですね。開催初日などは傾向を掴むのが難しいところはありますが、やっている内に「前が止まらないな」とか、そういうのは感じてくると思います。

水上:中央とは違って、何日間か連続の開催になるから、初日の掴み方というのは、地方競馬の場合は大きなポイントになりますね。

戸崎:ただ、基本的には先行が有利ですからね。それほど、僕も意識はしないですね。

水上:今日は以前から取材を受けていただいている競馬ラボでの企画ですが、改めてお聞かせいただければと思います。
この取材にあたって、幾つか資料を拝見した時に意外だったのが、中央競馬を最初は知らなくて、最初から地方競馬のジョッキーになろうと志していられたそうですね。それは本当なのですか?

戸崎:ハイ。中央競馬も地方競馬も知らなくて、もともと栃木出身で那須に(地方競馬の)学校があったので、地方競馬の道に進むことになりました。

水上:中央競馬は観られたことはあったんですか?

戸崎:イヤ、なかったですね~。

水上:そうなんですか?それで、なぜ、ジョッキーに……。

戸崎:近所の方で競馬が好きだったと思う方が、僕の体が小さかったこともあって、声を掛けてくれたんですね。「騎手に向いているんじゃないか?」って。それからですね。迷いもなくやってみようと思いました。

水上:その時に14~15歳の少年として、なりたかったものというのはなかったんですか?

戸崎:ずっと野球をやりたかったので、野球を続けたいというのはありましたし、「プロを目指せるなら」という思いもありました。それに基本的に体を動かす事は好きでしたね。そういった事もあって、騎手の話が出た時は迷いもなかったですね。

水上:野球という夢を捨てることに躊躇いはなかったんですか?

戸崎:基本的にずっと補欠でダメでしたし(苦笑)、体も小さいし、甘くはないというのはわかっていましたからね。

水上:じゃあ、競馬のトレーニングを受けてから、競馬の魅力を知っていったんですね。その時は「こんな楽しいものがあるんだ」という感じだったのか、「エラいところに来てしまったな」という心境でしたか?

戸崎:う~ん、学校での毎日は大変でしたけれど、全く競馬を知らなかったので、単純に興味は湧きました。

水上:(デビューされてから)ご自分の中では順風満帆ではなかったでしょうけれど、表面上は年を追うごとに成績も上がっていきましたよね。最初に屈辱や挫折を味わった時はどんな時でしたか?

戸崎:一番大きいのはデビューして、ふた開催目で落馬をして、骨折で3ヶ月間休んだことです。初騎乗・初勝利もさせてもらって、乗り数も多くなってきて……、競馬を簡単に考えていたんですね。そういった気持ちでレースに挑んでいた時に、狭いところに無理やり入ってしまって、鐙が抜けて、馬群の中で落っこちてしまったんです。

水上:怪我をしたことで自分の未熟さというか、若さを感じたと。

戸崎:それは感じましたね。今でも思い出すほどです。

水上:成績的には2007年前後から、グンと飛躍的に上がっていると思いますが、何かその辺りで掴んだキッカケみたいなものはありましたか?

戸崎:特に自分の中ではなかったですけれど、大井だけでなく、(南関東3場)他場の調教師の先生ですとか、オーナーさんから声を掛けられて、チャンスを貰えたことが大きいですね。

水上:当時のご自分として、モットーであったり、心掛けていらっしゃった事はどんなことでしたか?

戸崎:単純にトップを獲ること。リーディングというのはデビューした頃から意識はしていましたね。

水上:その夢が現実になりそうだという手応えは、デビュー何年目くらいから実感されましたか?

戸崎:行ける手応えというか、「そうならなくちゃいけない」と思ったのは、内田さん(博幸騎手)が中央に移籍する年からですよね。その前年に勝ち鞍では、内田さんに次いだポジションにいたので、そういう馬にも乗せてもらいましたし、ならなくてはならない立場だと感じていました。

水上:先程のコメントでも「先行を意識する」と仰っていましたが、ただ、前に行けばいいというわけではないわけですよね。ご自分のスタイルであったり、騎乗技術というのは、その辺りに出来てきたのですか?

戸崎:……。[ハッキリと答えて]イヤ、ここ最近ですね。

水上:そうなんですか!?

戸崎:ここ最近と言っても、完璧じゃあないですけれど、改めて感じたものはありましたね。

水上:企業秘密かもしれませんが、そのポイントを教えていただけませんか?

戸崎:う~ん、丸っきり感覚の問題なので……。口では説明できないところがありますね。

水上:でも、それは徐々にわかってきたものか、瞬間的に閃いたものであったのか、そのあたりはどうでしょう。

戸崎:そうですね。パッと、「コレだな」と感じたのは急だったかもしれません。

水上:それはレース中に。

戸崎:中央で新潟に乗せてもらった時ですね。清水久詞先生のビップセレブアイで勝たせてもらった日ですね(7月16日)。あの日は何か思うようなところがありましたね。

戸崎騎手マネージャー:閃いたというより、普段から「ああでもない、こうでもない」と考えているじゃないですか?それが確信に変わったというのが正しいんじゃないでしょうか?

戸崎:そうそう、何もないものがパッと降りてきた感じではないんです!

マネージャー:「こうしてきたことが正解だったんだ」と掴んだというか。そういった方が正しいかもしれないですね。

競馬ラボスタッフ:松坂投手の名言である「自信が確信に変わった」ような感じですか(笑)。

戸崎:イヤ、これまで自信はなかったですからねえ。本当にいい馬に乗せてもらっているというのが、勝てた理由でしょうし。でも、馬の能力を最大限に引き出すというのが、僕らの一番の仕事ですから。自信がついたとはいえませんが、その時に感じたものはあったので、これはもう自分の信念というか、間違いじゃなかったと思うので、それはずっとやって行こうと思いますね。今までは芝だったら「ソフトに優しく乗らなくちゃいけない」といった先入観があったんですけれど、その日は全てを空にして挑んだんですよね。

マネージャー:でも、全部のことに対してじゃなくて、一部分のことなんですよね。一部分で確信めいただけであって、馬乗り全てに確信を得たわけじゃないですからね(笑)。色々あって気付いたわけで、10年後になったら、今の自分を観ても「まだまだだったな」と思うこともあると思いますし。

戸崎:やっと、一つの信念というか、それを持てたのかと思いますね。馬乗りには何百、何千、何万と掴まないといけない要素もあると思うので、「その中の一つを得られた」と言えば、わかりやすいかもしれないです。

マネージャー:今の自分からデビューしたての1~2年目を観ると全然だしね。だけれど、今から10年後になったら、今の自分にも思うこともあるでしょうし。それはこれからじゃないですか。といっても、気付かずに10年経つかもしれませんが(笑)。

戸崎:でも、何も気付かずにいるよりは、今、こうして気付けたことが本当に良かったですね。一つそれを感じられたのは、すごく大きかったと思いますし、ここへきて、やっとそれを感じられましたね。

マネージャー:むちゃくちゃ数は乗っていても、今になって気付くわけですから、競馬って奥が深いですよね。と思っていても、それが間違いかもしれませんし。

戸崎:馬乗りは完璧がないし、色々な要素の組み合わせがあって、本当に難しいでしょうから。“対・動物”なわけですからね。

水上:その感覚の一端でも知りたいところですが、馬に乗った事がない者、ジョッキーではないとわからないんでしょうね。ある程度、共通言語がないと……。

マネージャー:だけれども、それとも違うんです。僕も昔、馬に乗っていて、同じような感覚はあるはずですが、この先、その上に行かれたら、もうわからないですから。だから、どんどん孤独になると思いますよ。言ってもわかる人がいない。例えば、武道の達人でもそうじゃないですか?精神世界にいってしまうというか。宮本武蔵や野球のイチローさんにしろ、自分の中で自問自答して、解決していかないといけないですから。

水上:柔道とか武道の「道」の世界ですからね。

戸崎:それが夢かな。そうなりたいというのはありますね。

水上:デビューしたてのジョッキーはある種、我武者羅に乗っていて、結果が出て、勢いがつくこともあるわけじゃないですか?でも、そこから壁にぶつからない人はいないはずで、そこからが問題なんでしょうね。

戸崎:壁にぶつからなければ、成長はしないと思いますね。ただ上手くいっているだけではね……。そして、数も乗らなくちゃいけないし、いい馬に沢山乗せてもらわないと。馬に教えてもらえることって、すごく沢山あるので。自分の力ではダメなんですよね。この世界は。みんなの力があってこそだと思うので、そこは日頃から感謝しながら、乗らないと思いますね。