戸崎騎手から見た中央競馬
2012/2/18(土)
水上:私は主に中央競馬での仕事をさせてもらっていますけれど、地方競馬を観て思うことは“ジョッキーの巧さ”ですか。中央、地方どちらがいいというわけでなく、地方競馬はコーナーの締め方であったり、隙のないレースをしている印象があって、そういった環境の中でトップを獲ることは、本当に大変なことに思えるんですけれど。
戸崎:そうですね。でも、いい馬に乗せてもらう前提があるので、自分の技術というよりも、声を掛けてもらえることがありがたいというか。こういう成績をあげられて、改めて、感謝の気持ちは湧いてきます。
水上:中央で最初にお乗りになられたのは2005年の福島だったと思います。その時の印象はどうでしたか?
戸崎:芝のレースに騎乗するのが、すごく楽しみで行って、初めて乗った時に“硬さ”を感じましたね。ダートだと幾らかクッションがあると思うんですけれど、芝だとダイレクトに感じますからね。それにビックリしましたね。
水上:ダートも地方だと、より深いですからね。芝も見た目はフカフカに見えても、硬い印象があるんですね。その後は中央でも頻繁にお乗りになられて、攻略されて来ていると思いますが、中央・地方の違いといえば、中山や阪神の坂があるじゃないですか?初めて坂のコースを経験して、どうお感じになられましたか?
戸崎:普通に観ても、物凄い勾配でビックリしましたよね。これだけの坂を上がって、直線勝負するんだということに。
水上:どうやって適応はしていきましたか?
戸崎:やっぱり、あそこで踏ん張れることも必要ですし、登りきってからも続きますからね。そこの余力も残していかないように感じましたね。
水上:でも、それは一つの面白さであったり、駆け引きでもありますよね。地方競馬場にも勿論、特色はありますが、その点、中央のコースは直線の長さや坂であったり、バラエティがありますよね。騎乗されていて、この競馬場は楽しい、難しいと感じられる部分はありますか?
戸崎:東京競馬場は広いですし、気持ちいいですね。直線も長いので、ユッタリとした雰囲気も好きです。
水上:あ、そうですか?ユッタリ乗られる方が好きですか?
戸崎:基本的にはそうですね。馬との会話を楽しみながらというか、そんな感じで乗れるところが楽しいです。
水上:素人にはわからないところですが、よくジョッキーの方が言う「馬との対話」というと、具体的にはどんなコミュニケーションをとられるんですか?
戸崎:基本的には人間からの一方通行だと思うんです。“対話”と言っても……。馬はしゃべってくれないですし、こっちの都合で解釈しているだけだと思いますが、たまに一体感があったり、言うことを聞いてくれると、「納得してくれているのかな?」とは感じますね。
水上:逆に馬の方からアピールしてくることはないんですか?反抗したり。
戸崎:沢山ありますね。そういう馬を「どうやって気持ちよく走らせてあげようか」とはよく思いますね。
水上:その点に関しては中央で乗られる時と、地方で乗られる時は違うものですか?
戸崎:基本的には同じだとは思いますが……、どこでなだめてあげたり、どこで怒ってあげたり、というのを早く感じ取りたいとは常々思います。
水上:レース自体の質の違いはどのあたりに感じますか?
戸崎:やっぱり、中央の方が流れは落ち着いていますね。地方の方は小回りだけに2コーナーを回ったらバタバタしたり、ゴチャつく競馬があります。それにゲートから出鞭を入れて、テンからペースが上がる事がありますから。
水上:中央の方が折り合い重視なところがあるんですけれど、どうも脚を余して負けているようなケースが多い気がして(苦笑)、その点、地方の方や外国人騎手が乗りに来た際もそうですが、最後まで能力をしっかり出させてくれているというか。そういう新鮮味であったり、ファンを納得させてくれている競馬をするんですよね。言いにくい部分もあるかもしれませんが、乗っていて中央のジョッキーと違う部分はありますか?
戸崎:う~ん……、確かに“折り合い”という部分では、中央の方の方がソフトな印象はありますね。地方の場合はダートですし、小回りというのもあって、“馬を動かさないといけない”というのもあって、そっちの方が中央の騎手よりも強引さはあるんですけれど、逆に当たりのキツさというのは感じますね。
水上:それがいい方に出る時もあれば、裏目に感じる部分もあると。
戸崎:そうですね。他の人はどう感じているかはわからないですけれど。
水上:中央で乗られる時も基本的には前目を意識されていますか?
戸崎:そうですね。ただ、先行の方が癖になっているせいか、落ち着いて乗れる部分はありますけれど、差し切れたりすると、それも気持ち良かったりしますね。
水上:中央のレースに乗られて、このジョッキーをマークしようとか、参考にされるような方はいますか?
戸崎:僕は安藤勝己さんを常々、注目して見させてもらって、ああいうレース運びはなかなかできないんじゃないかと思わされます。
水上:安藤さんはもともと地方の騎手で、中央の生え抜きの方ではいますか?
戸崎:それはもう、武豊さんですね。あの感覚はいくら努力しても、感じられないというか。だから、そこを目標には置いていないですよね。感覚がわからないですし、レベルが抜けているというか。
水上:お話しなさったことは当然ありますよね。
戸崎:ハイ。でも、馬乗りのことは……。僕も引いてしまって、なかなかですね(笑)。あんまり一緒に乗られる機会もないですし、開催中はゆっくり話せることもないですから。オーラがあって、なかなか話にいけないところはあります。凄い方なので……。
水上:逆に中央に乗りに行った時に気軽に話しやすい騎手は。
戸崎:松岡(正海騎手)とか、地方出身の方ですかね。
水上:じゃあ、けっこう中央に乗りに来た時というのは一匹狼じゃあないですが、あまり接することもなく。
戸崎:イヤ、そんなことはないですよ。みんな、話しかけてくれたりしますし。やっぱり、何も知らないで行くよりは、安心できますし、精神的にも楽なところはありますね。
水上:中央のレースとかはビデオに録ってご覧になられたりはされますか?
戸崎:ハイ。自分が乗ったところは必ず観ますし、休みの日は中央のレースを観ていますね。
水上:デリケートな話になりますが、これまで中央の試験を2度受けられて、結果的には残念なことになってしまいましたが、最初に受けられたのが2005年で、次が去年ですよね。2回受けられる中で心構えの違いはありましたか?
戸崎:最初に受けた時は半信半疑というか、「ちょっとやってみようかな」というくらいで、去年は一回限りのつもりで、そこは真剣にいきました。
水上:結果が伝わってきた時の心境はいかがでしたか?
戸崎:残念というか、悔しかったですけれど、「もっとしっかりやらなくちゃいけないんだ」とも思いましたし、やる事はやったので、受け入れはしました。
水上:まだ時間が経っていないですが、また、気持ちが向くことがあれば、挑戦したいとは思っていますか?
戸崎:そうですね。ハイ。
プロフィール
水上 学
Manabu Mizukami
1963年千葉県生まれ。東京大学文学部卒。
エフエム東京のディレクターや、競馬場場内エフエム放送であるターフサウンドステーションの制作構成などを経て、グリーンchの構成作家に。現在は競馬ライターであり、評論家。
初めて見たレースは1971年の日本ダービー。ヒカルイマイの逆転劇と、競馬自体の美しさに感銘を受けて競馬にノメリ込む。 70年代後半から血統に興味を持ち、手製の血統表を作成。以後試行錯誤を重ねつつ現在に至る。現在は競馬ラボ提供のラジオ日本「土曜競馬実況中継」でも解説を担当中。
【最新著書】
『月替わりに読む馬券の絶対ルール』(ベストセラーズ刊)
【出演】
『土曜競馬中継』(ラジオ日本1422KHZ)
『競馬予想TV!』(フジテレビTWO)
戸崎 圭太
Keita tosaki
1980年7月8日生まれ、栃木県出身。
公営・大井競馬所属の騎手。1998年に騎手デビュー。
08年に年間306勝を挙げて、初めて地方全国リーディングに輝くと、2009年は387勝、2010年は288勝、2011年は327勝をマーク(地方競馬のみ)。
また、2008年頃から頻繁に中央でも騎乗。2009年に21勝、2010年も22勝を挙げている。重賞では2010年の武蔵野Sをグロリアスノアとのコンビで制し、JRA重賞初勝利を挙げると、2011年の安田記念ではリアルインパクトとのコンビでG1初制覇。
地方でも、これまでに東京ダービーを4勝、フリオーソとのコンビで帝王賞を2勝するなど、数々のビッグタイトルを手にしている。現在は競馬ラボでインタビューを定期連載中。