安藤勝己×戸崎圭太インタビュー

第1章「アンカツ流騎乗論。中央と地方、感覚の違いとは?」


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「ほんと好きなんですよね。勝己さんの乗り方が」(戸崎)


「ブエナのオークスは、本当に失敗だと思ってる」(安藤)


-:まずは、お二人はそれぞれにどのような印象を持っていましたか?

安藤「僕は正直あまり印象に残っていないというか、(地方から)JRAに来てちょうど10年経っていたし、歳も20違うってこともあって、内田くらいまでなら分かるんだけど。それだけ歳が違うってことかな(笑)」

戸崎「僕も、地方では(大井と笠松が)離れていたので、あまり接点もなく、交流させてもらう機会もなかったんですけれど、中央に入ってからその素晴らしさを知りましたね」

-:戸崎さんは安藤さんが騎乗しているところをご覧になって、どういう感想をもたれました?

戸崎「どのレースでもそうなんですけれど、ああいう競馬はなかなかできない、ということをいつも思いますし、常に感激しています」

-:安藤さんが騎乗して一番印象に残っているレースは?

戸崎「ブエナビスタのオークスの時に、4コーナーを回って、外に出すのかと思ったら、我慢してまた追い出したんですよね。あの時がすごいなと思いました。僕の中では“我慢”というのが、競馬では必要だと思っていて」

第70回オークス(GI)桜花賞2着のレッドディザイアが「打倒・ブエナ」の秘策として、インコースで脚を溜める戦法に。後方待機から悠然と大外を回ったブエナビスタがハナ差交わし2冠を達成した。


安藤「あれはね。迷っただけ、ほんとに(笑)。あの時は本当にどっち行こうか迷って」

戸崎「いや、迷ってても安全牌だったら、もっと早くに出てると思うんですよね」

安藤「でもね、“一完歩踏み遅れたな”って。あの時は本当に失敗だと今でも思っている。桜花賞の時はね、反対に4コーナーで外を回って一息入れたけれどね。あの時は『間を割ろうと思って、割れなかったんじゃないか?』って言われたけれど、割る気もなかったし、あそこで一息入れて、直線あれだけあれば、十分間に合うと思って乗ってたから。ただオークスの時はね、迷って一呼吸遅れたね」

戸崎「でも本当に、どのレースを見ても我慢っていうか、一息入れられるところがすごいんですよね」

安藤「まず“(競馬にとって)慌てないのが一番かな”って思ってたから。いつも思いながらできないし、未だにできなかったんだけれど。勝とうと思わないので乗るのが一番いいな。勝ちに焦るとロクなことがねえなって。強けりゃ少々遅れても勝つやろって(笑)。それくらいに思って乗ってたから」

戸崎「自分も思うように努力はしてるんですけど、なかなか競馬に行くとできないというか」

安藤「俺も最後までやっぱりできなかったね。今でもそう思う」

戸崎「好きなんですよね。安藤さんの乗り方が。本当に」

-:戸崎さんは「安藤さんのようなジョッキーが目標」とおっしゃっていたことがあるということですが。

戸崎「ハイ。南関東ではずっと石崎さん(石崎隆之騎手)を手本にしていたんですけれど、あの方も我慢ができる点が、自分の中では凄く感じるんです。やっぱり、(安藤)勝己さんを見ても、同じく凄くてカッコイイんですよね、レースの仕方が。いつも“真似したいな~”と思っているんですけれど、ホントできないんですよね」

安藤「俺はね、カッコ良く勝ちたいなんて思って乗ったことはない。カッコ良く勝とうと思ったら、綺麗に勝とう、うまく勝とうとかってなっちゃうけれど、“自分のリズムで走らせて、それで負ければしょうがねえな”と思って乗っているほうが多いかな」

「ちょっとこう、前に前にってばかり思っちゃってますね」(戸崎)


安藤「どうしても結果を出そう出そう、と思っちゃうからね、最初は特に。そうすると、自分のリズムを崩して勝ちにいっちゃって、失敗したりすることが多いから、まずは勝つことを頭の中から除いて、自分の馬の良さを出すことを考えて乗ったほうがいいと思うね」

戸崎「そうですね。やっぱり今も乗ってますけれど、ちょっとこう、“前に前に”ってばかり思っちゃっていますね」

安藤「どうしてもそういう気持ちになるのが当たりまえだけどね。ただ、10頭乗って2頭勝てば、もう一流なんだから。そう思うと、ほとんどが勝てないのに勝とうと思ったら、反対にミスが多くなるからね。2着や3着でも、自分のペースを守って走った着順なら、納得しなきゃなんないし」

戸崎「それはもう、昔からなんですか?」

安藤「いつ頃からそう思うようになったんやろ。最初はもう勝つ気ばっかりだったよ、本当に。いつからか変わったね。昔は勝ちたいばっかりでがむしゃらで」

戸崎「乗り方とかレースの内容とかってのは変わってきたんですかね?」

安藤「変わったね間違いなく。地方と中央の違いもあるけれどね。地方は勝つためには位置取りが、すごく重要な部分がある。中央では全然関係ないと思う。頭数も多いし、距離も違う、直線も長い、馬場も大きいし。
(戸崎騎手は)大井だから笠松よりは近い部分があると思うけれど、中央に行ったらもっと違うね。あまり位置取りを考えるより、自分の馬のリズム考えた方が。“自分のいいリズムで行ったな”と思った馬でも、勝てない馬が多いからね」

「外国人騎手のような乗り方を目指してもいいんじゃないか?」(安藤)


-:以前、安藤さんからお話を伺った際に、戸崎さんの騎乗が「若干、中央仕様に変わったんじゃないか?」っておっしゃっていましたけど、戸崎さんは意識していることがありますか?

戸崎「やっぱり芝のレースだと馬の反応が繊細になってしまうので、そこは気をつけなきゃいけないところかなって思うんですよね」

安藤「芝のレースに乗っていて、ペースの違いってわかるでしょ?グンと速くなる時と、ダートの速くなる時とモノが違うから。その分、長く脚を使えない馬も一杯いるし、感覚は全然違うよね。馬も敏感だし。走る馬に限って、けっこう敏感な馬が多いし」

戸崎「やっぱり、馬が一生懸命になっちゃうって部分がたくさんあると思うので、ゲートを出す時から気をつけなきゃいけないのかなって思いますよね」

安藤「やっぱり、地方はゲートでボンと出していって、それが当たり前だからね。中央ではゲートの早い馬なんかは、ボンと出して、グッと腰入れただけでグーンと行っちゃうから。もう乗り出してるからわかってると思うけれどね。
そういう部分で俺も苦労したことがあったよ。結局、自分の重心もあるんだけどね。地方の時って(馬を)動かしてナンボでしょ?その重心がもう染み付いてるの。地方ではそういうことが必要な馬も一杯いるから。それで、中央に来たら、また全然違うと思うしね。そういうところは経験だと思うよ」

-:そういう意味で技術的な面で一番アドバイスすべき点はどういうところなんでしょうか。

安藤「いや、技術的な面は全然ないと思う。ないっていうか、人それぞれだから。だから馬に乗るときに、俺はあまり他の騎手に聞いたことないですよ。乗る騎手によって馬の動きは変わるから。重心によって馬の動きが変わるし、道中俺なんかが乗るとかかっちゃうような馬でも重心があってればかからないし。そういう点で聞かれてもそういう事を教えても「俺が乗ってるからかもしれないなー」と思ってるから。そういう点では自分の感覚で返し馬で掴んだほうがいいと思うけどね」

戸崎「重心が後ろ……。“確かにそうなのかな?”って感じはありますね。やっぱり、地方の乗り方とは変えなきゃいけない馬ってのはたくさんいるので、それは思いますね」

安藤「でもね、俺は戸崎くんの騎乗をずっと見ていると、重心自体は前じゃないけれど、手首がすごく柔らかく見える。手首をガチっと握らねえから。その分、別に重心は後ろでもいいと思うけれど。外国人騎手なんかも、重心自体が前のジョッキーは少ないけれどね。外国人騎手も手首が柔らかいし、力があるからね。もっと短い手綱でグッと抑えこんでフッと抜いちゃうから。
ああいうのを覚えるといいかもね。ちょっと今は長手綱すぎるんじゃないかな。もちろん、それも一つの良さだけど、変えるのであれば、外国人騎手のように拳を下げて抑えこんで、フッと抜くような、っていうのを目指したほうがいいとは思うんだ」


プロフィール


安藤 勝己(あんどう かつみ)

1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1 22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成した。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。今後は「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。

■公式Twitter■
@andokatsumi


戸崎 圭太 Keita tosaki

80年7月8日生まれ、栃木県出身。
公営・大井競馬所属の騎手。1998年に騎手デビュー。
08年に年間306勝を挙げて、初めて地方全国リーディングに輝くと、2009年は387勝、2010年は288勝、2011年は327勝をマーク、2012年には地方通算2000勝を達成した。中央への参戦も積極的に行い、2011年の安田記念ではリアルインパクトとのコンビでG1初制覇を挙げている。 2013年に中央騎手免許試験に合格。1月末に引退した安藤勝己氏に入れ替わるように3月1日付で中央入りした。(美浦:田島俊明厩舎所属)今、ファン・関係者から最も将来を嘱望されている騎手の1人である。

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