内田勝己×安藤章夫


まさかだったのか、必然だったのか、圧倒的な支持を受けた秋緒戦の京都大賞典を5着と取りこぼしたゴールドシップ。しかし、春を振り返れば、同様に単勝1倍台の天皇賞(春)で崩れた後の宝塚記念は、生涯一番の着差をつけての大楽勝。この魅惑の部分が、観るものを熱狂させ、大いに悩ませるキャラクターでもあるのだろう。今回は同馬の不動の主戦である内田博幸騎手と、その背の感触を知る数少ない中の一人である安藤勝己の対談が実現。元地方Nо.1ジョッキーの両人がゴールドシップについての本音をぶつけ合った。

ジャパンカップの舞台の適性は!?


安藤勝己元騎手:今日はゴールドシップについての話ということで、最近は道中ペースが遅くなって、自分が行く気になった時に動いた方が、また終いジワジワと伸びる感じがする。スタートして、ちょっと高跳びになって走ってるでしょ?

内田博幸騎手:高跳びで走ってますね。だから、抑えて行って下さい、という形の方が良いのかもしれないんです。それに、これまでを振り返っても、有馬記念の時が一番キレたんですよ。

安藤:正直、有馬記念の時はビックリしたもん。こんな強い馬かなと思って。

内田:他のレースも勝っているんですけど、まだあの脚は使わないですね。あれが一番強い勝ち方ですよね。相手云々というよりも内容というか伸びが。だから、なるべく有馬記念のようなレースを、と思っているのですが。

安藤:中山の走りが良いのは良いんだろうな。

内田:良いんですかねえ……。どうなのでしょうか。

安藤:中山はコーナーがキツいじゃない。G1級になると京都なんかでは他の馬もスピードに乗ってくる。ゴールドシップはそこまでのスピードがねえからな。


内田:坂になってるから、意外と気を付けるんですよね。どうしてもあの坂で脚を使ってると、ブレーキを掛けて4コーナーを回って来ちゃうから、意外と直線で伸びないんですよね。だから、あんまり仕掛け過ぎるというのも微妙なんですよ。なので、菊花賞を勝った時は手前で、馬なりで構えて行けたじゃないですか。だから、直線でまた伸びたんですよ。それを上手いこと天皇賞(春)の時にやろうと思ったけど、行けなかったですね。

-:そういう意味で今回の東京コースというのはファンから見てどうなのかと思うところですけれど、内田騎手から見ていかがですか?

内田:この馬が走ってくれるように乗るしかないでしょうね。スタートを出て、流れ次第でどうするかというのを馬の反応を見ながら行くしかないというか……。直線は最後坂なので、そこが一番伸びるように脚を使って来れれば。リズムよく馬を走らせるのが僕たちだからね。走らせる方向に持って行くように騎乗を組み立てるというかね。



「何回かやって、全部勝つ馬じゃねえよ。勝つ時は“やっぱりすごいな”という勝ち方をする馬だし、負ける時はアッサリ負ける馬だし」(安藤)



-:安藤さんから見て、ゴールドシップの東京コースの適性はどうでしょう?

安藤:やっぱり馬場は時計が掛かれば良い。パンパンの馬場になったら合うタイプではないよね。あの馬を見てると、上がりがすごく速くなったりすると……。ダービーもすごい上がりの速い競馬やったから、ジワジワ、ジワジワと脚を使ってくるんだけど。また、位置取りが悪いから。あれがある程度の位置取りで楽に行ける馬なら良いんだけど。

内田:作戦を立てるのが、自分でも毎回苦労するところではあるんですよね。それでも勝ってきているから、この馬の持っている力と運がある馬でもあるのでね。

安藤:何回かやって、全部勝つ馬じゃねえよ。その流れによって、ある時は強い勝ち方をするけど、合わねえ流れの時はそれなりの競馬しかできねえし。まあ、どの馬もだけど、全部勝とうと思うとチグハグになっちゃって、変なリズムになっちゃうから。だから、勝つ時はやっぱりすごいなという勝ち方をする馬だし、負ける時はアッサリ負ける馬だし、そういうタイプもいるよ。


内田:どう乗ってくるというのは当日にゲートが開いてみなきゃ分からないし、この馬ばっかりはどうこうとイメージで乗るというよりも、馬場に入った時のヤル気とゲートに入った時のスタートの出具合で色々とそこから逆算して組み立てていかないといけないから、乗り方というのは……。要するにジョッキーとしてやるべきことは、この馬の力を出せるように乗っていくことがベストかなというのがあるので、この馬の力を出し切れるような騎乗を心掛けています。慌てても何も良いことはないので、でも、人気のある馬なので、やっぱり結果は出したいという思いは強いのですが。

安藤:普通の馬なら2、3回、ああやってやりつけたら、もうちょっと行くようになるんだけどな。

内田:逆に引っ掛かるぐらいになると思う。

安藤:それが、反対に逆らってる感じやわな。

内田:逆らう方が強いですよね。後ろからとか周りから馬が来て、その馬たちに反抗して突き抜けてるというのがある感じなので、元々能力があるから。そうなればこっちのもんだけど、それが逆になっちゃうと非常に苦労するというか……。そこを上手く引き出すことがジョッキーの腕じゃないかなと思いますし、安藤さんみたいに上手くドンと構えて乗れるようにしていければ大丈夫だと思いますよ。


京都大賞典5着の理由を探る

-:前走(京都大賞典)は1番人気に支持されましたが、あれっというような印象を持ったファンも多いと思います。内田騎手から見た敗因はどう感じていますか?

内田:一つは外枠もありましたね。前回はそれで良い結果が出たから、どうしても後ろになり過ぎちゃうと、という心配がありました。枠順も外だし、平坦コースなので、ある程度は仕掛けて行っても脚をタメられるんじゃないかなと思っていたのが、意外とタマってなかったというか、3コーナーではもう手応えがなくなっちゃったので。その分、馬の走る気を削いだのか、1回は効いたけど2回は効かないというのがあるんじゃないのかなと。

安藤:1回目より2回目の方がスタートをして逆らって、余計悪かったもんな。

内田:外の隣枠の馬が牝馬だったので、嫌だなと思ったら、やっぱり牝馬が出て、自分が(追いかけるように)ゆっくりと出るので。やっぱり男馬だから、牝馬が大好きだからね。牝馬がいるとその馬を待ってたりする面もあるから。それがゲートでも隣だから、馬同士でも男女が分かると思うんだよね。そういったこととか、逆らうのがこの馬の個性でもあるので、それを逆の発想にして上手くこの馬の能力を引き出すように乗っていきたいなと思います。

ゴールドシップが牝馬を追いかけるのはいつものことですよ。特に攻め馬の時は。別に元々そんなにスタートの速い馬じゃないから、それが気になった、というよりも、元々のスタートなので、僕はあんまり気にはしてないんですよね。ただ、牝馬が隣というのは……。だから、前回は強引にある程度のところには付けようと行ったので、それに逆らって馬が走ってしまったというところもあるんでね。それを踏まえて、この馬の持ち味を活かした競馬を自分をするだけなので。


安藤:俺は「京都では危ねえな」と言ってたでしょ。その前の宝塚記念が上手く時計が掛かる馬場になって、外枠。あれが外枠でなかったら行けなかったから。結局、平均ペースである程度上がりも掛かってるから、あの馬の良さが出たけど、速い馬場でスッと行くような馬じゃないから難しいよ。いつも半分はアテにならない部分があるなと思って見てるから。

内田:安藤さんも2歳の時に乗られたことがありますものね。

安藤:北海道の時はゲートを出えへんかったからジッとしてて、外に出さずに最後まで内におったの。最後、決着付いてからエライ勢いでビューンと来て2着になったんだけど。ラジオNIKKEI杯では「ある程度やってくれ」と言われて、マクって行ったけど、逆らい逆らい走ってるから。反対にある程度、我慢をしてた方が、終いそれなりに伸びるなという気がしてた。だけど、本当に行けと言ったら逆らっていかないし……。だから、周りが見るより「あそこで動け、ここで動け」と、そんな風にできる馬じゃねえから、それは難しいよ。



「型に嵌まってないところが、この馬の良さじゃないかと、僕は思うんです」(内田)



-:聞くと、ゴールドシップが走ること自体に飽きてきたりとか、そういう心配になることもありますが、今のところそういう部分はないですか?

内田:この馬はそういうことよりも我の強さが出た方が、より競馬で出す面があるので。それをどう乗っている方が上手くコントロールしてそっちの方に持っていくかなんだけど、馬に逆らってしまうと、それが逆効果になるので。微妙なサジ加減をするところが、すごく幅があり過ぎちゃって、その幅を詰めるのに、どれだけ上手くやれるかをレース中に考えないといけないから。

安藤:そうそう。とっさに判断しなきゃなんねえから、ここで動いた方が良いだとかはね。

内田:ここまで勝ってきてるけど、まず共同通信杯は本当にこの馬の運ですよね。G1を勝っていく路線のために、あのスタートができたんじゃないかなと今では思います。3番手のインコースをジッとして行けて、勝ったからこそローテーションを上手く組んで行けて、それが上手く組んで行けたからG1を勝っていって、最後には有馬記念まで勝ってという。秋緒戦は負けはしましたけど、型に嵌まってないところが、この馬の良さじゃないかと、僕は思うんですけどね。