比較できない部分が魅力の馬
2013/11/21(木)
-:1週前は栗東に行かれて追い切りに乗られましたね。
内田:相手(ラトルスネーク)がかなり動く馬で後ろから追走で来てたんだけど、ある程度ノンビリしてたらちょっと遅れて、これはマズイなと思って少しずつスピードを出していって直線並ばれて一瞬交わされたけど、最後のゴール前でまた重心を低くしてグッと伸びてくれたんでね。馬場もその時は重かったんです。53秒台で来て、最後が13秒6なので。馬場の深い坂路で、最後までシッカリ脚を使って沈み込んだ走りしていたんで、それは良かったかなと思いますし、後は当日に馬がどれだけヤル気になってくれてるかというのと、僕とゴールドシップとの駆け引きで、走る方向に持っていかないといけないんで、それを上手く引き出せるように。
-:1週前追い切りでは先行する形が意外だったのですが?
内田:相手がとにかく物凄く動くんですよ。ああいう馬ですからね。負かされてしまうことを教えてしまうと、ヤル気が出ない部分に繋がることがひょっとしたらあるかもしれない。やっぱりヤル気を出すためにはそういった調教での馬の調整は必要だと思いますよ。
-:手綱を取られて、精神面、体調面、そこら辺の感触はいかがですか?
内田:大分、馬もヤル気になってきてるので、来週追い切りをして更に馬に気持ちが入れば良いかなと思います。みんな長い間、この馬をずっと調教してレースを使ってるので。やっている厩務員さんとか助手さんとか調教師の先生は全部分かってつくってくれてるのでね。あとはこの馬の良い面を引き出すこと、それだけに限ると思います。
「状態というよりも、馬がヤル気を出すか出さないかというとこで、出せるように上手くコントロールして行ければ」(内田)
-:強かった宝塚記念と比較して、いかがでしたか?
内田:比較が出来る馬じゃないから、微妙に難しいんですよね。比較と言われても、比較できないですよね。
安藤:こればっかりは馬に乗ってみないと分からんわなあ。状態はずっと平均してんじゃないの。そうムチャクチャ変わる馬じゃないと思うよ。
内田:状態というよりも、馬がヤル気を出すか出さないかというとこで、出せるように上手くコントロールして行ければというとこなんでね。だからといって、それが毎回上手くコントロールできて、有馬記念みたいなレースができるかと言われたら、何とも言い難いですけど……。でも、“この馬が良い結果になるように”という気持ちで乗っていくしかないんでね。
-:安藤さんから見て、ゴールドシップがジャパンカップで好走するためのポイントはどういったところにありますか?
安藤:前の日ぐらいから雨が降ったら、ハハハ(笑)。馬場が重くなれば良い。軽い馬場だと苦しいと思うよ。それなりに力はあるからまとめてはくるんだろうけど、勝ち切るまではどうかなと。ジェンティルドンナは東京走るしね。でも、今度はまた行く馬がいないんだよな。行く馬がいないから、ジェンティルも苦労するかもしれねえけど。あっちも最近はちょっと行きたがるから、反対にそれが欠点になってるけど、2頭を足して2で割りゃ、凄く良い馬なんだけどなあ(笑)。
内田:行きたがりますよね、今ね。
安藤:ジェンティルは行きたがって、ダラッとした競馬をしちゃってるから。だけど、やっぱりあの馬、東京は走るよ。この前もあの競馬で付いて行って2着に粘ってるんだから。東京の走りが一番良いよね。エイシンフラッシュはすごくスローで瞬発力勝負になる馬場じゃないと、勝つまではいかない気がするし、エイシンに合うような競馬の流れになったら、ゴールドシップは合わねえと思う。
「正直、乗ってそんな良い馬じゃないから。すごく柔らかい、乗り味が良いという馬じゃない。ただ、動きだしたら、なかなかすごいなと思ってた」(安藤)
-:安藤さんが騎乗された時のこの馬の印象はどうでしたか?
安藤:正直、乗ってそんな良い馬じゃないから。すごく柔らかい、乗り味が良いという馬じゃない。ただ、動きだしたら、なかなかすごいなと思ってた。それとやっぱりちょっと難しいところがある。
内田:レースに乗らないと分からないですね。調教よりもレースの方が走るじゃないかというのがね。
安藤:動きだしたら良いよな。普通に乗ってたら、そんな良い感じじゃないけど。
内田:本番に良いタイプと言っちゃあ、良いタイプですよ。だから、それが毎回上手くいけば良いんだけど、こればっかりはサジ加減がすごく難しいんですよね。F1とか車でさえ、タイヤのちょっとした持って行き方で違ってくるだろうし、チューンナップでちょっと上手くいかなかったりすることですから。ましてや馬は生きてますからね。明日ちょっと雨だから、明日は高速馬場だから、ハイと、脚を取り替えられる訳にはいかないじゃないですか。そこが機械ではつくれないところですから、逆に面白いんじゃないかなと思いますよ。
安藤:あれがゴールドシップの持ち味だわな。そういう馬場で飛んでいっても、自分に合う流れになると強い勝ち方をしたり。だから、全部勝つ馬なんかなかなかいねえよ、どんなとこ行っても。絶対に得意、不得意があるから。
-:前回の負けた時のファンの溜息を見ていると、お二人が仰っていただいたポイントは、あまり認知されていないのかなという部分があります。ファンにも完全無欠な馬ではない、ゴールドシップの良さ、魅力をわかってほしい、とも思います。
内田:それはインパクトがあるからですよ。勝った時のインパクトがどうしても強いし、宝塚なんてジェンティルもいて、フェノーメノもいて、天皇賞(春)ではフェノーメノにアッサリと負けてるのに、逆に今度はまとめて交わして、つき離した勝ち方をしたりする馬なので。有馬記念もそうだけど、みんなが伸びてる中で、さらに1頭だけ違う次元で伸びている、そういった脚を使う馬なので、常に勝った時はインパクトの強いレースをしていると思うんですよね。
安藤:確かにそれは言えるわな。
-:先ほど内田さんが「当日になってみないと分からない」ということを強調されてたんですけど、もしファンが見る上でレース前にこういった仕草が出ればゴールドシップの良いところが出てくるんじゃないか、出てこないんじゃないかというのは分からないですか?
内田:乗ってる時は、常に“今日も良い感じだな”と思って乗っていますので。良い方に考えないと、大きいレースは悪い方に考えると、自信がなくなってきて、自信がない上に1番人気になったら、やっぱり良い判断ができないというか、判断力が鈍ってしまうというか……。いつものレースの流れを見失ってしまいますから……。
安藤:何でも良い方に考えないと。大人しかったら、今日は落ち着いてるなと思わんと。元気がねえななんて思ってたら、それは結果なんて出るはずがねえよな。ジョッキーというものは。
内田:それだけ自分の気持ちが入ったり、緊張の度合いで、そこが鈍ってしまう危険というものはあります。それを鈍らないようにしないといけないのがプロですから。あとは安藤さんの度胸を少し分けてもらってね。
「何回も騎乗していますけど、1からやり直すつもりで競馬をしてきたいと思っています」(内田)
-:返し馬の出脚なんかでは区別できませんか?
内田:何かすごく制御が利かないというぐらいの方が良いかなあ。
安藤:たまにひどいことやってるな。大人しく上手くキャンターに行ってる、と結果が出てないというか、ちょっとでもボーンと一発跳ねたり、利かないところがあったほうがいいんやないか。
内田:有馬の時は跳ねてました。それを上手く横切らないといけないから、こっちが威嚇して抑えたんですよ。大概、乗ってる方がヤバイなと。
-:前回の京都では「元気がないように見えた」という意見を聞いたのですが、前走はどう感じましたか?
内田:京都の時は絶好調だったので分からなくなったんですよね。調教は「今までで一番良い」と思っていたんです。だからこそ、仕掛けても大丈夫だなと思ったんだけど、サッパリだったので。そう言えば、レース前に大人しかった気はするけど……。
-:どうしても事前のジャッジが難しかったりするゴールドシップですが、とてもとてもファンが多い馬です。レースに向けて締めの一言をお願いします。
内田:やっぱり人気をする馬だと思うので、白い馬だから余計に目立つし、勝負服も赤と白なので、どうしても目立つというか競馬が映える馬なので、それに恥じないような内容にしたいと思っています。当日はレースの流れを上手く読み取って、ゴールドシップが本当に走りたいなと思うように走らせてあげれればなという気持ちでいるので、何回も騎乗していますけど、1からやり直すつもりで競馬をしてきたいと思っています。
安藤:そうやね。凄い難しい馬なんで、買う方も難しいと思う。本当にそれがゴールドシップの持ち味だから、その点はしょうがないことで。強い時は強いけど、ああいう馬がいてもおかしくないからね。そういう目でファンも見てくれれば良いんだけどな。オレも予想でジャッジするのは難しいけど、本当のことを言ってるだけで、もし蹴ったりしても注目してるということに変わりはねえから。内田のことも応援しとるで、ジャパンカップは頑張ってほしいな。
プロフィール
【内田 博幸】Hiroyuki Uchida
公営・大井競馬所属から1989年に騎手デビュー。的場文男、石崎隆之騎手らが全盛期の時代に頭角を現すと、2004年に年間385勝(他、中央では28勝)を挙げて、初の南関東・地方競馬全国リーディングを獲得。 また、鉄人・佐々木竹見の年間505勝の記録を2006年に更新。同年には地方524勝、中央61勝という並外れた成績を残し、翌年には地方所属ながらNHKマイルCでピンクカメオに騎乗し、中央G1初勝利を挙げた。
07年には08年度のJRA騎手試験を受験を決意。当時の規定で、1次試験は免除となり、晴れて、08年3月1日付けでJRA騎手となる。その後の活躍は周知の通りだが、2010年にはエイシンフラッシュで日本ダービーを制覇。一昨年は大井競馬で頸椎歯突起骨折の重傷を負い、長期休養を余儀なくされたが、ゴールドシップとのコンビでG1の舞台でも活躍。完全復活をアピールしている。
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1 22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成した。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。今後は「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。
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