安藤勝己×川田将雅


いよいよ幕を開ける2014年のクラシック戦線。桜花賞ハープスター、皐月賞トゥザワールドと、何れも最有力馬と目される両横綱に騎乗するのが、こちらも本年の全国リーディングをひた走る川田将雅騎手。昨年度のJRA最高勝率騎手を獲得しており、巷では安藤勝己との共通項も囁かれている。満を持してここに、新旧・最高勝率騎手のスペシャル対談が実現。現在、競馬ファンが最も知りたいであろうスターホース、そして騎乗論について、両人がギリギリのラインまで語り尽くしてくれた。

あまりにも違う調教とレース


-:相手も例年に比べると粒揃いだなというところがあって、桜花賞でもレッドリヴェールを筆頭に、ほぼ同じメンバーがライバルになると思うんですけど、やってみて手強いなと思う部分はありましたか?

川:結果としては負けていますけど、正直ありませんね。なぜなら、動いてなくてあそこまで来ている訳だから、同じ女の子に対しては思ったことはないですね。それよりもこの子が普通に走ってくれれば、それで良いと思いますね。

安:だけど、あれぐらいの性格の方が良いよ。ちょっとカッカしてきた?

川:元々、牧場にいた時はすごい煩かったらしいんですよ。でも、トレセンに来た時はすごく大人しかったんですよ。でも、今はメチャクチャ煩くて、わざと落としに来るんです。パニックでやるんじゃなくて、分かってやってるんです。そこで、ガチッと怒りたいんですけど、怒ると完全に落とされるなという背中をしていますからね。

安:動きがやっぱりすごいの?

川:落ちるわけにはいかないから、怒れないじゃないですか。だから、余計に調子に乗っちゃって。坂路なんかは速めで上がっても元気一杯だから、下りる時は飛び込んで行きそうな勢いだし、ビタ止まりしそうだし、右にも左にも行きそうで自由過ぎちゃって。

安:全然、イメージと違うな。返し馬なんか見てるとオットリとしてるし。

川:この間も返し馬で行く時に直前まで厩務員さんに持ってもらって、Uターンしてから放してもらいました。ネックストラップもチューリップ賞から着けたんですよね。返し馬で落ちるようなことがあってはいけないので、お願いしました。

安:それはイメージと違うな。すごい度胸が良いし、ちょっとモッサリした感じで、ブエナが全然そんな感じやったから。

安藤勝己

川:去年まではそんな感じだったんですよ。今年になって、ようやく動けるようになったら元気一杯で……。お兄ちゃんとの違いは、分かってやっているのとパニックでやっているのとの違いですね。ハープスターは、分かってやっているので、変なことはしないです。競馬に乗ってて、今のところは。

安:落として逃げていかないタイプだな(笑)。本当にわざと落としにくるヤツがおるもんな。それで落ちようもんなら癖になって、何回でも落としにかかる。

川:すごい背中をしているから、一発本気でやられたら絶対に無理だなと。

安:普通の時はすごいバネがあるね。

川:かなり怖いです。だから、普通のところに行っても苦労します。

安:全然、イメージとは違うわ。

-:チューリップ賞では圧勝する訳ですけど、阪神JFとはそのような感じで全く中間の感触が違った感じですか。

川:中間、僕は乗っていませんが、1週前の追い切りはかなり良い時計だったので。

安:俺も大丈夫かなと思って、あの時計はな。

川:先行して引っ張って79秒台で……。そこで動きすぎたという経緯もあったので、最終追い切りは乗らなかったんです。追い切った次の日に坂路1本で「明日なら乗って良いぞ」と言われて、乗りに行ったらそこで落ちそうになったんです。中間は最終追い切りにしても助手さんは「動いてない」と言ってましたし、厩務員さんも「全く動いてない」と言っていたので、早くも攻め馬でズルさというのを出すようになっていますけどね。それがインタビューで答えた、最近我がままというのに繋がっているんです。

安:競馬だけを見ているとズルさはあるけど、反対にノホホーンとしたタイプなのかなと。

川:大人しいんですよ、やってない時は。レースの時だけ本気になってやり出すから、馬場まで引っ張っていってもらわないといけないんです。

安:牝馬のG1の時でも大人しく歩いていってたやろ。大したもんだな、性格がシッカリしてるんだなと思ったもんやけど。

川:あの時は性格がボケーっとしてたんで。

安:見てても、それぐらいの馬じゃないと大物じゃないよ。

川:普段の調教でも、坂路に行く時は厩務員さんに山まで引っ張っていってもらって、下ろし際まで連れて来てもらう感じです。パニックではないですけどね。

安:本当にそうだよな。パニックになってやる馬はレースでもパニックになるけど、そうやってわざとやっている馬はレースに行ったら、精神はドッシリとしているんだけど。

川:今はそれを楽しんでいるんでしょうね。

安:でも、頼もしいと言っちゃ頼もしいよな。

安藤勝己

-:チューリップ賞のレースは理想通りでしたか。何か注文はありますか?

川:楽に勝ったとは言え、多少は仕掛けてはいるんですけど、反応は全くないに等しいので、そこだけですよね。あとは動いてくれたら良いというところなので。あれでも動いてないので、求めるところはそこしかないですね。道中の動きは格段に良くなったので。

安:大分、新馬の頃よりは進歩しているような気がする。前より反応は多少なりとも良くなっていると思う。前は真剣に追わなきゃ出ていかないような感じだったけど。

川:やっぱり道中で動くようになった分、仕掛けてからもちょっとはスッと動いてくれるようにはなっています。

安:スッと前に取り付いていくから。新潟の時でも一瞬何もないのかなという、本気になって叩きだしてからビューンと行ったんやけど。

川:叩いても動かなかったですね。

安:ああいうのはやっぱり強い。ただ、体型が詰まったような感じに見えるんよ。正直距離がどうなのかなと。まあ、牝馬同士のオークスは問題ないやろけど。最終的に上に行って、2000までは大丈夫やろうけど、本当にその先2400とかになった時にどうなのかなという部分もあるけどね。

川:そこはちょっと分からないですね。前回の感じからすると、道中で動けるようになってきたのも良いことではあるけど、お兄ちゃんのことを思えばこのまま歯止めが利かなくなると困るなと。やり出したら、パワーが違いますからね。今はフワッと行ってるから、終いはすごい脚を使ってくれますけど。

安:今はそのまんまで伸ばして、その内覚えてきて、段々と性格が変わってくるから。使ってくると、何か行きっ振りが良いなとなってくる時があるからな。

川:今回も動かしてそうなったんじゃなくて、ポンとゲートだけ出して、引っ張って下げることもせずリズムだけ整えようと思っていたら、グーンと動きが良くなったんで、今はこれ以上はいらないですよね。

安藤勝己

課題は「無事であること」本当にそれだけ


-:ファンの方に向けては桜花賞ではどんな競馬を見せたいですか?

川:何よりも普通に走ってくれれば良いと思っているので、普通に走れる競馬をできたら良いなと思います。

安:阪神の外回りだし、やっぱりある程度は力の勝負になるから、少々ペースが速いとか遅いは関係ないから、力さえ出せばまず負けんと思っとるし、その点では安心して乗ってれば良いわな。やっぱりジュベナイルの時は状態が良くもなかったんだろうし、まだ馬も子供だし、ちょっとずつでも変わってきてるから。とにかく無事でおればやね。

川:本当にそれだけです。無事にその日を迎えて、無事に回ってきて普通に走ってくれたら、それで十分です。

安:それこそ調教で落ちて逃がして、そっちのほうを心配しなきゃな。

川:本当に我がままで、今はそれが楽しみでしょうがないでしょうからね。それで、乗ってる人間が「危ない、危ない」となっているのが、今は楽しいんだと思うんですよ、あの子は。

-:川田騎手は目の前の競馬を1戦1戦こなしていくだけだと思うのですが、3歳牝馬のハープスターが凱旋門賞に登録をして、その行動を安藤さんはどのように見ますか。

安:斤量的にも3歳牝馬はずっと活躍をしているから、凱旋門賞は。さっき言ったように距離的にどんなもんかなという、多少の不安はあるけど、オレはカッと昇るようなタイプには見えないし、そのぐらいの気性で牝馬はちょうど良いし、海外に行ってもカッカして反応が良過ぎる馬より、ちょっと反応が鈍いぐらいの馬の方が絶対に合うしね。そういう点ではチャンスはあると思うね。オレは新潟を見てから、これは絶対に凱旋門に行くぞと思ったもん。

川:ユーイチさんの結婚式でお会いした時におっしゃってましたもんね。

安:それが夢ではあるよね。行って良い競馬をして勝って欲しいよね。ただ、まだまだこれからのことだよな。これから上手く育って初めて……。本当に3歳なんで、どこでどう変わってくるか分からないし、そういう点ではまだまだ先のことより一つ一つ段階を踏んでからだから。

安藤勝己

-:安藤さんは「ブエナよりも上に見ている」とおっしゃったじゃないですか。と言うことは、今の3歳世代の牡馬、牝馬合わせても一番だと見ていますか?

安:もちろん一番強いと思う。ダービーでも良いと思ってる。そうするとユウガが困るけどな、ハハハ(笑)。

川:何より無事に行ってほしいということだけですね。あれだけ速い上がりですが、それでも全然動いていませんから。これで動いたら、どれぐらいの脚を使うのか分からないですけど、そっちの方が心配しますよね。

-:桜花賞に向けてはとにかく無事でということですね。

川:そうですね。無事でさえあれば。何度も言いますけど、本当にそれだけです。