「世界一の馬」今後の選択肢は
2014/5/10(土)
昨秋から3度目を数える大和屋暁オーナーへの独占取材だが、インタビューの開始からジャスタウェイは瞬く間にスターダムを駆け上がり、ドバイDFを圧勝。4月に発表された「ワールドベストレースホースランキング」でも日本馬史上初となる世界No.1の評価を受けたことは、競馬界に大きな衝撃を与えた。ジャスタウェイの惜敗が続いていた当時から「ドバイに行きたい。ドバイで勝ちたい」と大きな目標を公言してはばからなかったオーナーが、その夢を実現した今、どんな思いでいるのか、喜びと悩める胸中を明かしてくれた。(取材日:4月10日)
-:そして、レース選びについては、以前はあまり意向を主張しないとおっしゃっていましたよね。
大:そのつもりだったんですけど、“これだけの馬になった今、きちっと相談して決めなければダメでしょう”的な感じで須貝先生と角田先生に呼び出されました。祝勝会兼今後の相談会みたいなことを北海道でやってきました。結局、酒飲んでうやむやになって現時点(4/10)でちゃんと決まっていないんですけど……。
-:現時点では国内という路線にはなっているんですね。
大:ええ。安田記念か宝塚記念のどちらを使うんだ、という話からその先をどうしていけばいいかとか色々と話をしたんだけれど、結論ははっきりとは出ませんでした。他の陣営がどのレースを使うかもあるし、海外に行くにしても、やっぱり遠征って簡単なことじゃないですからね。
-:しかも、今回の遠征は人馬共に今まで経験がなかった訳ですからね。
大:榎本君(担当の榎本優也調教助手)に関してはそうですね。厩舎としてはアスカクリチャンで香港へ遠征していますが。
-:滞在中は僕も榎本さんと連絡はしていましたが、あまり口には出していなかったのに、終わってからは「すごく大変だった」みたいなことはおっしゃっていたので。それでも榎本さんは、基本的にレース前は慎重な姿勢なので、僕は安心してみていますよ、という話はしていたんです。
大:僕も何度かは向こうで会っているから、「どう?」って言ったら「元気ですよ」というような感じでは言ってくれていたんだけれど、「ちょっと大変な時期もあったんです」とも言ってた。それにしても、走ったらあの圧勝劇。見えない所で物凄く苦労してるんだろうけど、なかなか表には伝わってきませんからね。
-:とはいえ、ドバイ制覇は前々からオーナーが目標にされてきた、夢のような結果が実現したわけです。
大:……次、どうしようかねえ(笑)。
-:このインタビューに臨む前に、それを聞こうかなと思っていたんです。
大:ねえ。どうすれば良いんだろうか?馬主資格をとった時もそうだったんだけど、こういう大きな目標を達成してしまうと、その反動がね……。脱力してしばらく何も考えられなくなるんですよ。
-:以前のインタビューでお話を伺って、ちゃんと発言をして、それをやることの大事さを説いていただきました。「有言実行」と。
大:そうですね。言うと意識をするので、やっているんですけど、今回ばかりはどこに何を設定したら良いのか……。“ドバイを制覇して、レーティング130。現時点で世界一”ですとか言われたら、それ以上の目標って……ぱっと浮かぶのは年度代表馬ですかね。でもそれってドバイで勝った後に設定すべき目標なんだろうか?
-:年度代表馬だとしたら、あと1個、2個、G1を獲ったら見えてきますね。
大:それを考えると、どこを使っていけば良いのかというのも難しいところですけどね。“距離を延ばしていきたい”という考えもあるじゃないですか。
-:宝塚記念に行ったら、今年のメンバーからも盛り上がりますよね。
大:色々な意見があるんですよ。宝塚記念が盛り上がるような気はするし、それを勝たないと逆に年度代表馬は獲れないんじゃないのか、という意見もある。もし日本馬が凱旋門賞を勝てば、問答無用でその馬が年度代表馬だという意見もね。そして、本質的にはマイラーじゃないよな、という気もありますから。
-:“マイルもこなせるけれども~”というタイプですよね。マイルといっても、広いコースのマイルであって。
大:ずっと「距離が、距離が」と言われてきたけど、天皇賞(秋)だって、あれだけ離しているんだから。1F延びたって、距離が延びる分には平気だと思っているんだけどね。ハーツクライの子供ですしね。
「今までは考えなくて良いことを考えないといけなくなる。(これからは種牡馬としての)価値を高めていく戦いになる訳だから、負けると下がるだろうから、変なローテも組めないし。本当はあまりそういうことは考えたくないんですけどね」
-:先ほど色々な意見があるとおっしゃっていたんですけど、僕も榎本さんに「秋は凱旋門賞もあるんですか?」と言ったら、「そんなことは言わないでくれ」みたいなことを言われました。
大:みんなが言うから。おもしろいぐらいみんな言ってくるからね。てんでばらばらなんですよね。「直線が長い方が良い」と指摘してくる人もいて、“この前、中山で勝ったやん”みたいなね。あとは話し合いの中で、結果的には天皇賞(春)を見て、今後は決めようという方針にはなっているんです。主に天皇賞に出ていた馬が、宝塚記念へ来るだろうからね。ただ、宝塚記念は夏に近い気候じゃないですか。そこを考えると、そこを使うのが良いのかどうか、という判断があったり、なかったり……。難しいですよ。
-:強い勝ち方をしたからこそ、余計にそういう話が?
大:そうそう。今までは考えなくて良いことを考えないといけなくなる。(これからは種牡馬としての)価値を高めていく戦いになる訳だから、負けると下がるだろうから、変なローテも組めないし。年度代表馬を目標にするにしろ、世界最強を目指すにしろ、色々な要素があるからね。いや、大変ですよ。本当はあまりそういうことは考えたくないんですけどね。ちなみにどこを使えば良いと思いますか?
-:やっぱり宝塚記念ですよね。メンバーが一番揃うんですから。あそこで集まるメンバーは、もしかしたらそこでしかやれない可能性がありますよね。キズナは秋には凱旋門賞に行っちゃうでしょうし(天皇賞後に骨折が判明)、エピファネイアもどうなるか分からない。ゴールドシップ、ジェンティルドンナだってそう。みんなバラバラになっちゃうので、そこでブツけた方が競馬のためには盛り上がるかなというのはありますね。
大:そうですよね。盛り上がるよね。それは間違いない。
-:安田記念はジャスタウェイが出たら楽勝できると思いますよ。今のマイル路線で、府中の1600mなんかでやったらちぎると思いますけど、宝塚記念に出すのなら使う必要はないのかなと思いますね。
大:須貝先生のニュアンスとしては安田記念が希望みたいですね。G1を3つ勝てば年度代表馬になれるという意見もある訳ですよ。だとしたら距離適性があいまいな宝塚に固執しなくてもいいんじゃないかっていう意見もあるんです。逆に言うとだからこそ、距離適性を見る為に徐々に延ばして行った方が良いんじゃないかとか……。昔、須貝先生がマイルのレースを使うならマイラーの身体を作る必要がある的なことを言ってたんで、その論法で行くと中2週で宝塚はありなのか?とか。
-:去年の東京が結構、芝が硬いというか、天侯的に馬場が乾いちゃって硬い印象があって、騎手の方々も散々「硬い」ということを口にしていたので、それを考えると安田記念は脚元の心配もあります。
大:そうだよね。荒れた馬場はそんなに良くないんじゃないかと。道悪は平気かもしれないけど、ボコボコのところはちょっと向いてないんじゃないかな、みたいな意見もあったので。難しいですよね。結局の所いくら考えたところで絶対にこれが正しいってのは誰にも断言できないことだし。
-:オーナーとしては“競馬ファンのことも考えたい”という意識はありますか?
大:勿論。色々な意見があるでしょうしね。だけどその全部は汲み取れない訳じゃないですか。どれか一つ、次に何を走るかというのは。須貝さんもこの前の話し合いできっぱり明言しなかったというのはそういう部分もあるんじゃないでしょうかね?僕がこうなんだから須貝さんなんてもっと色々言われてるだろうし、考えないといけないことがいっぱいあるでしょうから。でも結局はどれか一つを選ばないといけない。
-:今おっしゃったように、一つしかない訳ですからね。ちなみに、同じ業界の方からは結構言われますか?
大:言われる、言われる。今までは「どこを使うの」みたいなことは聞いてくるんだけど、「どこを使え」とは言われたことがなかったから、「本当に大きなお世話だよ(笑)」という話なんだけれど、ここぞとばかりに言ってくるからね。業界ではないけれど、一番ウケたのは親戚。あなた競馬は知らないだろうと。ちなみに親戚の考えたプランでは、夏は七夕賞を使っていました。ハハハ(笑)。最近では一番愉快なネタです。
プロフィール
【大和屋 暁】Akatsuki Yamatoya
ジャスタウェイのオーナー。幼少期から競馬に興味を持ち始め、若くして社台サラブレッドクラブ(一口馬主)に出資。同クラブで出資を始めた2年目に、ハーツクライと運命的な出会いを果たすと、ドバイシーマクラシックを制し、異国の地で人生初めての口取りに参加した。
その後、ハーツクライがノド鳴りによる突如の引退に一念発起し、馬主になることを本格的に決意。馬主としてもハーツクライに所縁のある血統にこだわりを持ち、初めて所有したジャスタウェイがアーリントンCを制し、天皇賞(秋)も制覇。
遂には、かねてから目標にしていた所有馬によるドバイ遠征に挑戦し、ジャスタウェイがドバイDFを圧勝。夢を実現させた。
本業は脚本家、作詞家。『銀魂』をはじめ、数々のアニメ・特撮などの脚本を手がけている。 勝負服の柄は緑、黒うろこ、袖黒縦縞。