「夢を追い続けていくこと」が馬主の使命
2015/4/24(金)
「夢を追い続けていくこと」が馬主の使命
-:最後にこれから馬主を志す方へのメッセージ、馬主をやっていて良かったなという瞬間などをお話していただけますか。
西川:馬主にも色々なパターンがありますが、僕みたいに長くやっている馬主はいないと思いますね。馬主は一つ勝てば苦はなくなってしまいます。これが僕の持論ですね。「喜びが100」というのはオーバーかも分かりませんが、50敗しても、1勝がその50敗をなくしてくれるというか、それが馬主の喜びですね。しょっちゅう勝っている人は、一つ負けたらコノヤロー!となる人がいますが、数少ない頭数で遊んでいる人で、年間に1つか2つしか勝てない人は、何十回と負けているわけですから。1つ勝つと、また新しい馬を買おうと、そういう気持ちになる。競馬での1勝の喜びは何十敗の苦労を流す。例えば、馬券でもそうじゃないですか。獲れない獲れないと思っても、最後に獲った。今日は2万の負けで済んだと、これですよね。
僕は浮き沈みをずっと見ています。大手馬主さんや、タレントを連れて歩いている馬主さんも中には一杯いますよ。ジョッキーと一緒に食事にいって、タレントを呼んだりする人も。そういう人たちが競馬界から去っていく時の寂しさも全部見ているわけです。
僕などは意外に慎重な時は慎重に、これでダメだ、と思ったら直にジョッキーへ聞いて「止めましょう」と言ったら、すぐに止めてしまう。「これは何とかなるから、使って決めましょう」と意見してくれるジョッキーもいるし、ジョッキーのその判断は調教師よりも早いですよ。そういう諦めも肝心。「もうちょっと良くなる余地があるよ」と言われた場合は、あと2回使って、同じジョッキーに乗ってもらって、ダメなら諦めますと。新しく馬主になりたいという人はやはり夢だから、夢とロマンは何十年経っても追い続けるものですよ。
経済的に遊ぶお金があるならば馬で遊んでも、僕はそれは良いかなと思うんですよ、馬が好きであれば。馬の世界を好きな人じゃないと、薦められないじゃないですか。最初は馬主さんに会ったり、調教師やジョッキーと知りあったりして、そういうキッカケを掴むものなんですよ。馬主になってしまったら、経済的に許す限りは自分の夢を追った方が良い。ウチはお金儲けで牧場をやったんじゃなくて、親父が趣味で牧場をやったのです。たまたまそれが当たっちゃって、毎年重賞を勝った時代もあって。結局そうすると、重賞を勝った馬に自分の外国から勝ってきた繁殖牝馬に付けちゃうわけですよ。自分の馬で競馬をしたいというのが、これがまた夢なのです。それで成功しているというのは、金子さん(金子真人オーナー)くらいのもので。それでも、馬主は夢を追い続けていかないとダメですね。
「あの人はすごいな」と自分も思われた時があったし、「タレントのくせに」と言われた時代から馬を持っているわけですよ。何とかもう1勝したいから、こういう馬が出てきたから、その馬に夢を追うのです。僕らが一番言うのは、騙されても馬をけなしちゃいけないんですよ。人間が牧場に見に行って「この馬は良くないな」など口に出して言うと「あの馬主は来なくて良いよ」となってしまいます。ジョッキーでも本当に中に入っていけば行くほど「あれは止めた方が良い、止めましょう」と言ってくれますが、たまに乗ってもらう人だと「いや、良かったですよ。負けたけど、まだできますよ」というお世辞になってしまうわけ。それに馬主が騙される。調教師もそうですからね。その馬が未勝利でも、給料を払わなければならないから置いておくの。それは困りますよね。
安藤:しょっちゅう使えれば良いけどね。未勝利で全然使えなかったらね。
西川:今、僕らが考えているのは、責任逃れするなら地方競馬で勝たせてくれと。地方競馬の免許がなくて、スーパー未勝利が終わっちゃった場合、今度は1勝馬と一緒に走るのですよ。それは苦しいでしょう。中央競馬で免許を持っている馬主さんはそのままスルー、地方競馬の馬主免許をとれる。これを地方競馬でやろうとしています。2~4週間で免許が取れるようにするのですよ。中央競馬の免許を申請した馬主は、同時に地方競馬の申請も出す。中央でオーケーしているのだから難しい審査はいらないわけだよね。中央+地方の免許をあげるという、そういう方が絶対に良いんですよ。
-:安藤さんも今日の話聞いて馬主に興味が湧きましたか?
安藤:正直なことを言うと、預託料が高過ぎる。ここまで人を使う必要もないし、このご時勢に大名商売みたいなことをやってちゃ、馬主は増えないですよ。あれだけ数も使えないと、採算が合わないのだから。やっぱりそういう部分で、牧場も減ってきている、地方競馬もこういう状態だからしょうがないのですが、競馬を盛り上げるには地方競馬も生き残れなきゃ。やっぱり底辺が広くないと強い馬はできないし、みんなが我慢するという部分では、JRAだけ贅沢過ぎる。自分が地方にいたから特にそう思う。自分も中央では良い思いをさせてもらった身ですが、預託料はもっと安くできるでしょう。
西川:だって世界の競馬が弱ってきて、欧米の競馬場が潰れちゃうほどですから。日本だけですよ。売上が良くて賞金が良い。それに調教師が甘え過ぎる。「俺たちは土、日に休めない」というわけ。それが仕事なんだから当たり前ですよね。
安藤:もっと個人馬主がいて、色んな馬がいて、色んな騎手がいて、昔の競馬はそういう楽しい部分があったから。
西川:ジョッキーもこちらの方が強いかも分からないが「西川さんの馬に乗るよ」というような男気あるジョッキーに出てきてもらいたい。
安藤:今は何かあったら替えられちゃう。だから、余計騎手も伸び伸び乗れないから、馬を育てるというレベルじゃないですよ。毎回、結果を出さないとダメだから。だから、馬も育たない部分もあると思うよ。
西川:そういう悪循環になってますよ。それはなぜかと言うと、全員が売上に甘えちゃってるから。馬主もそうですが、全てがそう。馬主は平気で高馬を買うんですよ。
安藤:凱旋門賞だのドバイだのが主流だけど、本来は日本のG1を使うのが筋。凱旋門賞を勝って意味があるというのは、正直社台グループしかないと思う。種馬として日本の馬のレベルを世界に見せるという部分でね。
西川:例えば、ウエスタンメルシーが凱旋門に行って勝ったとしても、何の値打ちもないわけ。その馬を社台に預けて、ディープインパクトに付けてセリに出すことは値打ちというかも分かりませんが、それ以外はないわけですよ。だから、日高辺りの牧場はドンドン潰れていっちゃうんです。
安藤:これまでも地方の馬が走った時に中央競馬が盛り上がったんですよ。ハイセイコーやオグリキャップ……日本人というのは、そういう存在を求めているのだからね。オレなんかも地方出身でそういう部分で応援された部分があるから、そういう競馬を大事にして欲しいですよね。
西川:どんな馬でも最後は調教師が持っていくわけですよ。ところが専門的に、大井から、笠松から、そういう専門につくっていったらどうなるかなとも思いますよね。
安藤:日本の競馬は、絶対に底辺から成り上がった馬が活躍した時に盛り上がるの。正直、凱旋門賞で勝ったからといって、日本の競馬は昔のようには絶対に盛り上がらないよ。日本で盛り上げよう、という話だったら、天皇賞や有馬記念を目標にすることが重要なんだから。
西川:負けて同情を買う。ハイセイコーが勝てなくて同情を買って、オグリキャップや地方から行った馬がみんな人気があるわけじゃない。そういう馬をつくらなきゃいけない。最後に僕が期待している馬を言っておこうかな。昨年のスーパー未勝利に間に合わなかった馬がいるの。海外から持ってきた、プルピットの最後の子なんですよ。名古屋に行って3勝してくれたウエスタンゼウス(牡4、美浦・和田雄厩舎)という馬。メルシーもそうですが、出てきたら応援してあげてください。
-:長いお時間に渡って、貴重なお話を聞かせていただいてありがとうござました。
プロフィール
【西川 賢】Ken Nishikawa
1948年8月24日生まれ 東京都出身
東京都台東区出身。冠名はウエスタン、勝負服の柄は黄。芸能プロダクション「新栄プロダクション」代表取締役社長であり演歌歌手(芸名・山田太郎)。1968年に弱冠20歳(当時史上最年少)で馬主資格を取得。1975年に法人馬主である西川商事株式会社の代表に就任。1997年、再び個人馬主に戻る。現在は日本馬主協会連合会副会長、中山馬主協会会長、東日本馬主協議会会長を務めている。北海道日高郡新ひだか町に生産牧場ウエスタンファーム(旧有限会社北西牧場、2009年名称変更)を持ち、所有馬のほとんどを自家生産しているオーナーブリーダー。
プロフィール
【安藤 勝己】Katsumi Ando
1960年3月28日生まれ 愛知県出身
76年に笠松競馬でデビュー。78年に初のリーディングに輝き、東海地区のトップ騎手として君臨。笠松所属時代に通算3299勝を挙げ、03年3月に地方からJRAに移籍を果たす。同年3月30日にビリーヴで高松宮記念を勝ちG1初制覇して以降、9年連続でG1を制覇。JRA通算重賞81勝(うちG1・22勝)を含む1111勝を挙げ、史上初の地方・中央ダブル1000勝を達成。13年1月惜しまれつつ騎手人生に終止符を打った。「競馬の素晴らしさを伝える仕事をしたい」と述べており、さらなる競馬界への貢献が期待されている。