第1章「キャリア30年超のベテランたちの共通意識」
2015/11/25(水)
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山本昌氏:(対談スタートの前から競馬の話題に花が咲き……)先週も馬券を買っていたのですが、回収率が100%に届いていないので、これは一生負けると思って、買い方を変えたら、ちょっと回収率が上がってね。ただ、評価として同じくらい良いなと思う馬がいたら、低い方、オッズの低い方を買うようにしていますね。この間も1頭軸から相手8頭に3連単マルチで流していたら、1着で来たんですよ。相手も来て、「ヨシ、ウン十万!」と思って。出資しているサンデーレーシングの方から電話が来て「山本さん、おめでとうございます。でも、これ3着と4着が入れ替わったら500万馬券ですよ」と言われて、どういうこと、と思って調べたら、1000万だったのです。当たったのにガッカリしちゃって、ハハハ……(笑)。いや~、惜しかったなと。
小牧太騎手:いや~そんなに馬券にものめりこんでいるんですね。僕より競馬に詳しいかも、ハハハ(笑)。この前もユタカくん(武豊騎手)から「昌さんは小牧さんより競馬に詳しいですよ」なんて教えてもらったんです。
-:対談前ですが、既にアットホームな雰囲気ですね、ハハハ。ということで、その雰囲気のまま、お二人を中心にお話いただければと思います。それでは最初の話のキッカケとしまして、お二人の年齢が近いということですね。山本さんが65年生まれの50歳で、小牧さんが67年生まれの48歳と。キャリアもほとんど30年前後と同じということで、ベテランと呼ばれる域に達してからの心境、ご苦労、そういったお話からお願いします。
昌:小牧騎手もキャリアが30年以上ということですか?
太:ええ、31年ですね。
昌:あ~そうだったのですか。僕は32年で現役を終わりましたが、ルーキーの頃を考えると、「ふた昔前」くらいのことに思ってしまいます。小牧騎手はルーキーの頃はいかがでしたか?
2人あわせて98歳という大ベテラン同士の対談が実現!
太:僕自身も、そんなベテランという気持ちじゃなく、毎年18くらいの若手がドンドン出てくるので、同じような感じでずっと来ているな、と。僕が年齢を重ねたことよりも、若手が毎年入ってくる、そんなスタンスですね。
昌:「山本さん、ベテランなのによくやっていますね」と言われたものですが、ベテランだからといって、ツーアウトチェンジなんてハンデをくれないじゃないですか。自分の子供より下の子がドンドン入ってきますが、それも仕方のないことだから、あまり歳のことは考えないようにしよう、というのはすごく思っていましたね。
太:そうですね。やっぱりまずは気持ちで負けたくないというのが一番ありますから。僕らも若手騎手には減量特典という制度はありますが、ベテランにそんなものはありませんからね。むしろ体重の管理など、難しくなるくらいで(笑)。
昌:そうですね。とにかく僕もそうです。たまに違うチームで、甲子園に出ていた有名な18歳の子とファームで対戦するじゃないですか。やっぱり負けたくないですもんね。「何で18の子供に打たれなきゃいけないんだ!」そういう気持ちがすごくありますから。そういう意味ではお互いに若いのかな、という気もしますね。
僕は騎手の世界が全く分からないので、質問させていただきたいのですが、昔と変わったということはありますか?僕は球界に入って、昔はとにかく「走れ、走れ」だったんですよ。もう走らされて、走らされて「倒れるまで走っておけ」ということを言われましたが、最近は違うんですよね。練習をして、最後のトレーニングルームでのトレーニングまで全部が管理されていて。僕らの時代はトレーニングルームなんて存在しなかったですから。とにかく走って、技術練習は投げて打って、最後は走って倒れて終わり、というような練習をしていましたが、競馬界はどうなのでしょうか。技術論が変わって来たとか、そういうのはあるのですか?
「僕の若い時って、酒飲んで、飲みに行って、朝帰ってきて……というのがしょっちゅうだったんです(笑)。今の子は、本当に酒を飲まないし、遊びにも行かない。それが悪いわけではないのですが、どこか物足りなさは感じますよね」(小牧太)
「僕も昔は先輩によく飲みに誘っていただいたんですよね。ただ、今の後輩たちを見ると、誘うのにちょっと気がひけたり、何か部屋で1人パソコンを見ている方が楽しいんじゃないだろうか、と。誘うのもちょっと気を遣って」(山本昌)
太:技術論は基本、一緒なのですが、やっぱり個人、個人でトレーナーを付けたり、科学的になっている部分は確かにありますよね。僕もそういうことをしていますし、若い子たちなんかも積極的にそうしています。
昌:そうですよね。科学的になっていますよね。昔はチームにトレーナーが1軍に1人、2軍に1人で、若い子はマッサージを全然してもらえませんでしたからね。今は1軍に4人、2軍に4人と人数が違います。その辺も変わってきたし、シッカリしている部分はシッカリしていますよね。
太:そうですね。僕の若い時って、酒飲んで、飲みに行って、朝帰ってきて……というのがしょっちゅうだったんです(笑)。今の子は、本当に酒を飲まないし、遊びにも行かない。それが悪いわけではないのですが、どこか物足りなさは感じますよね。
昌:僕も昔は先輩によく飲みに誘っていただいたんですよね。ただ、今の後輩たちを見ると、誘うのにちょっと気がひけたり、何か部屋で1人パソコンを見ている方が楽しいんじゃないだろうか、と。誘うのもちょっと気を遣って「(控え目な言い方で)ちょっと行ける?」とかね。昔は「オイ、行くぞ!」「じゃあ、お願いします!」の世界だったのですが、今は「お前、この日は大丈夫か?」みたいに聞かないといけないというのは、どこの世界も一緒なのかな。
太:あ~そうですね。今の子は大人しい!僕もよく連れて行く若手もいるけど、飲みませんからね。
-:そういう変化って、良い、悪いで敢えて分けてしまうと、お2人にとって良いことだと思われますか。今の若い人たちの生活姿勢、生活態度、もしくはちょっと違うんじゃないかなみたいなところもありますか?
昌:やっぱり人と会っていくこと。例えば、色々な方を知り合いとして付き合っていくのも大事でしょう。ただ、野球の技術論に関しては、僕らが入った頃よりは数段進んでいますね。今はこういう時代なので、携帯電話、スマートフォン、パソコンなどがあれば何でも見られますし、アマチュアの指導者の方のレベルが上がっていますので、上手いな、とは思いますよ。上手いと思うのですが、いびつな伸び方をしている子が多いんですよ。こんなに上手いのにそこが出来ていないんだ、と思わされますし、僕らは入った頃から基本を徹底的に鍛えられましたから、そこが出来ていないだ、と気付くことが多いですよね。
「小牧さん観てくださいよ」と自身が馬券で惜敗した
レース映像を小牧騎手に見せる山本昌さん
-:ジョッキーは野球と違って個人競技に近いですが、若いジョッキーを見ていて、その辺はどうですか?
太:やっぱり一緒で上手ですね。僕がデビューした時なんかは、馬に乗ってもバラバラでしたからね。でも、今の子は最初からきちんとした乗り方で、そうしなくちゃいけないという感じになっていますからね。逆に、新人でも下手だったら、すぐ乗せてもらえなくなったり、そういう現実が競馬の社会では激しいのでね。それは野球でもそうだと思いますけどね。
昌:そう。全く同じで、様子見しようという球団が減りましたね。ダメだったら、すぐに次の職業に行ってもらおう。そうなってきました。ただ、最初から情報が頭に入っちゃっているので、プロに入ってから先輩たちの話を聞いたり、盗んだり、真似したりというのも減ってきたのかなと。僕らは、最初それが基本だったので。先輩の良いところを見て、教えてくれないので盗むこと、先輩のやっていることを勉強したりと。今の子は出来あがっていますよね。その辺だけが心配かと。技術があって、色々な情報があって、そういうことはすごく良いことですが、自分で盗んで、これから頑張っていく気持ちというか、そういうものがもうちょっとあった方が良いんじゃないかとは思いますね。
-:小牧さんは、若いジョッキーから何か質問されたり、そういったケースはありますか?
太:頻繁にはないですね。聞かれたら教えますが、聞かれなかったら別に教える必要もないと思っています。と言うのも、個人競技でみながライバルなのでね。本当に、コイツよりは良い馬に乗りたいと、そう思っているので。
昌:野球界も全く同じです。僕も言われればアドバイスをしますし。ただ、先発ローテーションに入るようなピッチャーに、ルーキーの頃からこうだよ、と教えることはないですね。聞いてくれば、もちろん言いますが、似ているなと思います。
山本昌×小牧太スペシャル対談(第2章)
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プロフィール
【山本昌】 Masa Yamamoto
本名:山本昌広
1965年8月11日生まれ 神奈川県出身。
日大藤沢高から1983年のドラフト5位で中日ドラゴンズに入団。1988年に留学先のアメリカで代名詞ともいえるスクリューボールを習得し、優勝争いに加わっていた同年夏に帰国すると、8試合で無傷の5勝を挙げてリーグ優勝に貢献する。1993年に最多勝、最優秀防御率の2冠、翌年は2年連続最多勝に輝き、投手最高の栄誉である沢村賞を受賞。97年に3度目の最多勝を獲得するなど球界屈指のサウスポーとしてドラゴンズの強力投手陣を支えた。2006年9月には史上最年長でのノーヒットノーランを達成。2008年8月には史上24人目となる通算200勝を達成し、40歳を過ぎてからも卓越した投球術で勝利を積み重ね、50歳を迎えた今年、史上最年長登板記録などを更新し、31年の現役生活にピリオドを打った。通算219勝165敗。
私生活では多趣味な一面もみせ、競馬にも精通。既に一口馬主の出資も始めており、期待の2歳馬リライアブルエースにも出資している。
【小牧 太】 Futoshi Komaki
1967年9月7日生まれ、鹿児島県出身。1985年に兵庫県競馬組合の曾和直榮厩舎から騎手デビュー。当時の兵庫県競馬はアラブのみだったが、当地で重賞57勝をマーク。兵庫リーディングを10度、全国リーディングも2度獲得と、地方競馬で一時代を築く。
'01年頃から中央での騎乗も増えると、01~02年と2年連続で年間20勝以上をマークし、'04年にJRAへ移籍。そして、'08年の桜花賞でレジネッタに騎乗して涙のG1初勝利を挙げると、翌年にも恩師・橋口弘次郎師のローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制覇。2度目のG1勝利を挙げた。大ベテランと呼ばれる年齢を迎えた今も、G1制覇を目標に日々、努力を続けている。