第1章:菊花賞で悲願達成のとき オーナーの心境や如何に
2016/11/17(木)
菊花賞をサトノダイヤモンドが制し、馬主歴26年目にして、待望のG1初制覇を果たした里見治オーナー。数多の良血馬を抱えることで知られるオーナーだが、聞けば、人馬の出会いはまさに運命的。また、超ハイレベルと目された3歳世代を牽引したサトノダイヤモンドだが、今後の目標、来年の凱旋門賞挑戦と、その動向に興味は尽きない。急遽実現したオーナーへの独占インタビューで、愛馬に対する思いの丈、今後の展望を余すことなく語っていただいた。
※サトノダイヤモンドが有馬記念参戦への経緯、里見オーナーの意気込みのほどは
第3章「有馬か?香港か? そして、来年は凱旋門賞挑戦へ!」で公開中です!
第1章:菊花賞で悲願達成のとき オーナーの心境や如何に
第2章:サトノダイヤモンドとの巡り合い 総ては運命だった
第3章:有馬か?香港か? そして、来年は凱旋門賞挑戦へ!
-:まず、サトノダイヤモンド(牡3、栗東・池江寿厩舎)の菊花賞までを振り返っていただきたいのですが、春シーズン、皐月賞は直線で不利があり、ダービーでも落鉄があったりと、力を出し切れないで終わってしまいました。オーナーとしてどのようなお気持ちでしたか?
里見治オーナー:きさらぎ賞でほとんど持ったままで勝てて、皐月賞も可能性があるのではないかと期待していたのですが、池江(泰寿)調教師は皐月賞よりも「とにかくダービーが目標」という意識で、皐月賞時は、馬のデキとしては80%くらいだったみたいですね。それでも、ある程度やれるだろうと思ったのですが、確かに直線での不利はあったけれども、正直に言って、(不利がなくても)勝てるまではいかなかったとみています。
-:皐月賞に関しましては、オーナーの方でもここは勝てばもちろん嬉しいけれども、もし負けることがあっても、次のダービーこそが本番だ、というお気持ちだったのですね。
里:まあ、そうですね。それで、ダービーの時は「本当に自信があります」と調教師も言われていたので、勝ち負けはしてくれるのではないかという思いで観ていました。実際にはああいう形で負けた訳ですが、実は悔しいけどしょうがないな、と思ったのです。ところが、(馬主席から)下に降りて行って、調教師と一緒になった時に「実は落鉄をしていた」と聞いて、“何でダービーの時に限って落鉄するのかな”と。正直に“自分に馬運がないから、そういうことになるのかな”とも思いましたし、後になって非常に悔しかったですよね。
▲四半世紀にわたる悲願達成にも穏やかな語り口で当時を振り返ってくれた里見オーナー
-:力負けをしたならまだしも、そういうトラブルだけに、余計に諦めきれないですね。
里:そうなんですよね。調教師も非常に温厚な人柄なのですが、落鉄と聞いた瞬間に、側にあったものを思いっきり蹴飛ばしていましたからね(苦笑)。だから、非常に悔しかったのだろうなと。私も悔しかったのですが、少なくとも力負けはしていないという思いは持ちながら……。本当は、調教師は「無事に行ったら凱旋門賞に行きたい」という夢を持っていたようなのですが、落鉄をして蹄もかなりボロボロになっていましたから、これはもう路線を切り替えて、秋の菊花賞を目指すしかないと。私もこの話をしまして、もう(今年の凱旋門賞は)止めましょう、となりましたね。
-:ダービーの敗戦、内容によって、秋は菊花賞という目標がそこで定まったということなのですね。3歳馬にとっては、夏を越すということが一つ大きな課題ですが、その間は順調に来られましたか?
里:そうですね。すごく順調だと聞いていて、「神戸新聞杯はトライアルだから8割方で馬をつくって、本番の菊花賞で100%にしていきます」という話だったので。いわゆる「8割方」でも負けないのではないかと思ったのですが、一抹の不安もありましたね。
▲激闘の末、ハナ差惜敗 さらに落鉄も判明した日本ダービー
-:しかし、確かに着差は僅かでしたが、勝ち方は余裕綽々でしたしね。
里:そうですね。抜かれない感じはありましたよね。
-:最大のライバルと目していたディーマジェスティもセントライト記念をそのような勝ち方で来て、いよいよ菊花賞での頂上決戦という形だったのですが、戦前のお気持ちとしては愛馬を信じつつ、ライバルも気になりますよね。
里:もちろんそうですね。その他の馬とは、色々なレースでほぼ格付けが出来ていると思っていて、ディーマジェスティとは1勝1敗。ところが、競馬評論家さん、トラックマンの方々の見解を僕が見た限り、半数以上が「ディーマジェスティの方が菊花賞に向いているのではないか」と。「(母系に)ブライアンズタイムの血を引いて、そこが色濃く出ているから……(ディーマジェスティが有利)」みたいなね。
それに調教師も「いや~、1800~2000がベストだ」みたいなことを言っているので、どうかなと(笑)。だけれども、正直に言って、6~7割勝てるのではないか、という思いは持っていましたね。馬のデキも調教師に「100%大丈夫です」と言われ、それはルメール騎手もそういうことを言ったので。あとは余程の不利がなければ何とかなるという思いで、実は観ていましたね。
▲菊花賞は早目抜け出し 楽な手応えで2馬身半差の快勝!
-:僕らの様な凡人ですと、2回ああいうこと(アクシデント)があると、何かまたそういったことが起きるのではないか、という心配に思って、もしかしたら、さぞハラハラした気持ちではなかったのかなと。
里:いえ、当然そういう気持ちはありましたよ。だから、それはルメールもそう思っていて、中に突っ込まないで外々で邪魔をされないような位置取りで、少しくらい距離を長く走っても、行けると自信を持っていたみたいなので、その通りの走り方になったのかと思いますよね。
-:レースをご覧になっていて、大体どの地点でこれは大丈夫という風に確信されましたか?
里:これは、4コーナーを回って直線に向くところですね。僕は自分の馬とディーマジェスティしか観ていなかったです(笑)。そうしたら、すぐ後ろに来ていて、4コーナーを回るあたりでディーマジェスティにもうムチが入っていて、ダイヤモンドは持ったままだったので、この辺で行けるのだろうと。もうちょっと観ていたら、こちらは追っ付けていくだけでリードを離していったので、これなら勝てるだろうと。
-:そこまで余裕を持ってご覧になった直線ですが、ゴールの瞬間というのは万感胸に迫るような思いがありましたか?
里:その瞬間はあまりなかったですね。“大丈夫だな”と思ってから、ゴールまでけっこう長かったですから、これなら大丈夫と思って観ていた訳ですから。“あっ、勝った!”という思いはありましたが、そこでバンと突き上げてくるような思いは、その瞬間はあまりなかったですね。
-:終わってからしばらくしてからも、そんなことはありませんでしたか?
里:いえいえ、それで、口取りということで下に降りていって、そこへルメールが戻ってきて、しばらく馬を愛撫して、下馬する時も涙を流していたのです。それを見て、僕もちょっとグッと来て、ハグをする時に“本当に勝ったんだ”という思いが……。しかも、あのルメールが涙を流しているのを見ているから、尚更そういう思いがしましたね。
-:外国人ジョッキーがそういう感激の涙を流すということは、どれだけ彼がサトノダイヤモンドに思いを寄せていたかということですよね。
里:そうですね。本当にそう思いましたね。と言うのは、あれだけG1も一杯獲って、今日本に来ている中でも、リーディングを争うようなジョッキーなのに、あの菊花賞というレースで彼が涙を流すというのは、前のことも含めて、余程嬉しかったのだろうと思って、つい私も込み上げてくるものがありましたよね。
-:ちょっと話は逸れますが、当日菊花賞にはサトノエトワールもエントリーしていた訳ですが、エトワールも含めて2頭菊花賞に出走させようと思われた理由はおありですか?
里:それは何もないのですが、角居調教師が「チャンスがあるので、出られるのなら出したいのですが」と言うから、勝負になるとは思わなかったのですが、それも馬の経験になるかも分からない。「じゃあ、出られるなら出して下さい」と言ったのです。