第1章:名手たちが語る“勝利の極意”
2017/1/1(日)
かの大騎手・安藤勝己の後を追うように、入れ替わる形でJRA所属になった戸崎圭太騎手。その後の活躍はご存知の通りだが、昨年はまれに見るデッドヒートを制し、3年連続JRAリーディングジョッキーの座を獲得。確固たる地位を築いたといえるだろう。その輝きはG1ハンターとして名を馳せたアンカツさんとはまた違った形ではあるが、今回は2013年3月以来となる対談が実現。約4年弱の中での変化と成長に迫った。
(取材日:2016年12月18日 取材・構成=競馬ラボ・小野田)
第1章:名手たちが語る“勝利の極意”
第2章:まさにプロフェッショナル 外国人騎手の強みは豊富な経験値
第3章:大先輩からのアドバイス 怪我なく、来年はG1での活躍を
-:本日は年末のお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。本来ならば、既にリーディングジョッキーが確定しているであろうというタイミングなのですが、今年は空前の接戦。当初の予定ではリーディングを祝してのアンカツさんと戸崎圭太騎手の座談会のはずですが、現時点ではわからない状況ですね……。戸崎騎手が1勝したら、ルメール騎手が1勝してという感じで。
戸崎圭太騎手:こんなにも接戦な年って、あるのですかね。
-:全然ないですよね。大体、残り1~2週で決まっている感じですからね。
圭太:だから、(他の)騎手も「すごく面白い」と言っていましたよ。ファンはもっと面白いんだろうね、ハハハ(笑)。
安藤勝己元騎手:見ているほうは面白いわな。そういう意味では、有馬記念以外の面でも盛り上げていると思うよ。
-:最終週まで目が離せませんね。前回の対談からは3年9カ月経ちましたが、その間にも一緒に会う機会はあったものの、こうして記事にさせていただくのはそれ以来。安藤さんから見て、(戸崎騎手の)4年弱の活躍を見られていかがですか?
安藤:俺が辞めるのと同時くらいやったもんな。ちょうど俺と入れ替わりだよな。ただ、(地方から)来て、一緒に乗ったりしていたからな。(お互いに)地方の時はほとんど一緒に乗っていない。
圭太:ええ、乗っていないです。
-:その時は「中央でもリーディングを獲れたら良いな」という話をしていたんですよ。
安藤:その通りになったわけやね。
-:記事を読み直したら、その時に言っていることが面白かったですよ。戸崎さんは安藤さんを見ていて「あんなに勝負どころで我慢出来るのはすごいな」という話をされていたんですよ。安藤さんはそれに対して、「勝たないくらいの意識で行った方が良いんじゃないか」ということは仰っていました。
安藤:そうかもしれんね。それと、自分で(馬への)当たりが硬くなっているところがあるから、どっちかと言うと(道中は)自分で思っているよりは一つ後ろでしか競馬出来んかったから、正直な。そこまで出すと行っちゃうから。抑える自信がねぇから。だから、我慢するしかねぇというのが、正直なことやけど。
圭太:いや、でも直線での追い出しですよ、我慢は。あそこがすごいなと思いますね。
安藤:やっぱり自分に合ったタイプがあるじゃない。岩田康誠(騎手)なんかでも、溜めとってズバーンと来るタイプで、ユタカちゃん(武豊騎手)はそうじゃない。やっぱりスムーズにロー、セカンド、サード、トップと外を回ってスーと上がってくるタイプで、馬を一気に動かすタイプじゃない。だから、そういう部分では、圭太はやっぱり当たりが柔らかいし、色々なレースが出来ると思う。ただ、合うタイプというのは、ある程度先行していくのが合っているかな、というのが分かるし、だから、合うタイプの馬に乗った方が良い。ユタカちゃんにも「合うタイプの馬に乗った方が良い」と言ったけど、それをアイツは勘違いして、ハハハ(笑)。走らん馬は乗るなと言っただけで。
-:その対談の時は戸崎さんのことを「手首が柔らかい乗り方」だとも言っていましたね。
安藤:そうそう。やっぱり、昔の地方競馬とは違う。だから、中央に合うと思ったよ。最初から言ってると思うけど。どっちかと言ったら、俺とか岩田とか、小牧(太騎手)も柔らかくはないけど、圭太なんかは全然柔いし、重心が全然違うよ。
-:安藤さんは重心が後ろだったということですね。
安藤:後ろだし。だから、良い時にデビューしたんだよ。的やん(的場文男騎手)みたいな乗り方やったら芝はダメ。ハハハ(笑)。昔はみんなああやったんや。ああいう風にみんな後ろからで、だから躍動しても、みんな真似をする訳じゃない。それで、競馬自体も地方も変わってからデビューしているから良かったよ。俺らも酷かったもん、(馬上で)暴れるばっかりで。
圭太:馬のレベルもあったんじゃないですか。
安藤:まあレベルは低かったな、それもある。
圭太:僕なんか、地方競馬だと言ったって、サッーという馬しか乗っていなかったので、そんなにウワッていうのはあんまりなかったですからね。そういう差がやっぱりあるのでしょうね。
▲アンカツさんも「当たりが柔らかい」と評する戸崎騎手の騎乗
-:ファンがイメージしているほど、「地方馬」と言っても、というところがあるのですね。
安藤:昔の地方馬と違って、だいぶ進歩していたということやね。ユタカちゃんにも言ったんだわ。ユタカちゃんは最初からやっぱり良い馬ばっかり乗ったじゃん?だから、ああいう乗り方になっちゃうし、溜めてビューンという乗り方やスムーズに馬の力を出すことが先決になるような馬ばっかり乗ってるから、やっぱりそういう馬に乗ってると身に付いちゃって、馬がどうしても動いてしまうから。地方競馬は地方競馬で的やんが悪い訳じゃない。その頃の時代が悪いだけで、ハハハ(笑)。俺らもそうやったもん。追えや良い、追えや良いという時代だから。
圭太:それこそ拍車を着けてビューンと。
安藤:本当にそういう時代だから。だから、ちょうど地方競馬も変わりつつある時代だから良かったんだよな。全然、今までに来た地方の乗り役と(違って)、当たりが一番中央に合ってるというのは分かってたよ。それと、性格も良いし、誰にも好かれそうや。そういうのが違うよな。
-:そこも重要ですか?
圭太:すごく大きいですよね。技術だけでは、というのは感じますね。俺はそこが7割くらいあるんじゃないですか(笑)。
-:いやいや(笑)。それでも、どんな人でもスターには周りの支援もあるといいますか、たくさんチャンスがあって、良い機会を得た方がもちろん上手くなりますよね。
圭太:それはそうですね。やっぱり乗ってこそ、だと思うんですね。感じるものもありますしね。競馬に乗らないと勉強にならないですから。いくら乗らないでイメージしてトレーニングしてという感じでも。競馬で得るものはすごくあると思うので。あとは、良い馬に乗らないと余計にそれこそありますしね。
安藤:昨日もユタカちゃんとしゃべったんだ。ユタカちゃんも勝ち鞍は随分減った訳じゃない。今年は海外に行ったり、色々あったけど、やっぱりこっちで勝たないとそういうことも出来なくなる訳じゃない。そういう部分は「来年はもうちょっと勝ち鞍を増やさないと」という風に言ってたな。やっぱり馬って巡り合わせやからな。良いと良い馬が集まってくるし、絶対に良い成績だと良い馬が集まってくる。それはしょうがないことだな。
俺なんかちょうど良い時に辞めたよ。それは本当に自分で。だから、そういう部分は運もあるしな。小牧なんかはかわいそうなところがあったんや。ちょうど俺の後で、バンバンG1を勝つ、小牧はすぐにその後に入って、園田の期待がメチャクチャ大きいわけ。それで、もっと勝たなきゃという焦りがあって、それは自分でも言ってたしね。だから、焦ったってしょうがないしな。ちょっとしてからや今は肩の力が抜けて、上手く乗るようになった。やっぱりどうしても成績を出さなきゃならねぇと思うと焦っちゃうし、そういう部分では小牧も、地方から来る時にけっこう良い馬を乗せてもらったじゃん。
そういう時に来て、思うように成績が出なくなったから焦っちゃって、その内にG1に向かうような馬を降ろされるようになって、そうするとやっぱり落ち込んでいくし、そういう意味で、俺は本当に運が良かったよな。来てちょうどすぐにG1を勝たせてくれたし、本当にそういう部分で流れに乗ったら良いけど、一つ流れを間違うと下がってくし、何でもそうやな。里見さんもG1勝つようになったしな、ハハハ(笑)。あれは有馬(サトノダイヤモンド)も勝つぞ。
圭太:この勢いじゃねぇ。里見さんすごいですもんね。
安藤勝己「間違いなく何でも波があるよ。それを早く戻すのも、やっぱり考え方一つやわな。本当にそう。絶対にスランプは、大きいスランプや色々あるけど、絶対にあるよ。それを戻すのも、やっぱり考え方一つやわな」
-:リーディング争いでいえば、ルメール騎手に有馬を勝たれるとなると、その前に勝ち星を稼いでおかないと。
圭太:それはそうですよ。本当は今日(12月18日)リードしておくべきだったんだな。
安藤:だけど、こんなもんは思い通りにいかない。馬って、やっぱり勝つ時は気分良くなって勝っちゃうんだ。流れがあって、馬の力だけじゃないからな。良い流れになると、そういう風に向かうという部分で、長々と持ち込まない方が立ち直りも絶対に早いし、それをずっと落ち込んでいると段々悪くなっていくからな。
-:そういうメンタル的な部分はいかがですか?
圭太:今年は一時期ありましたね。夏まではすごく調子が良かったので、後半、あのままの勢いで入っていって、あのイメージで行っちゃっていたので、何かペースも落ちました。ここ最近ではリーディングという意識もあったかな。そういうのがあって何か気分良く乗れなかったというのもあるのですが、またここにきては、気分良くは乗れています。
安藤:だけど、間違いなく何でも波があるよ。それを早く戻すのも、やっぱり考え方一つやわな。本当にそう。絶対にスランプは、大きいスランプや色々あるけど、絶対にあるよ。それを戻すのも、やっぱり考え方一つやわな。
圭太:本当に考え方はすごく大事ですね。
-:今は、むしろリーディング争いでは正念場ですが、変に意識をされていることはあんまりない訳ですか?
圭太:うん、そうですね。まあ、何だろう。リーディング獲るというよりも1レース、1レース良いレースをして、それの積み重ねなので、他を意識してもしょうがないし。
安藤:競馬でもそうだもんな。本来、他の馬は関係ねぇ訳で、他の馬をどうのこうのじゃなくて、自分の馬が自分のレースをするのが基本。途中で見て、相手がこんなところにいて、手応えが良いなという馬はマークするけど、最初からどうのこうのというもんじゃないよな。
圭太:まったくその通りですね。
▲自らの経験を基に競馬の流れ、リズムを語ってくれたアンカツさん
-:よくジョッキー間でアドバイスを求めることもあるそうですが、聞かれたりしないですか?
安藤:(周りは)よく聞くわな。
圭太:僕は別にマークはしないと。
-:そうですね。よくどの馬を意識されますか、と聞かれても「全然気にしないと」言っていますね。
圭太:確かにG1とかでは、他のマスコミさんにもよく聞かれますね。
安藤:相手がどうのこうのと。本質的には相手は関係ない訳だから。
圭太:その馬のリズムがある訳だから、相手に合わせていたらというのはありますかね。
安藤:だから、競馬というのは、これも運やけど、全部流れなんか作れるものじゃないから、その馬に合うか別の馬に合ったレースになるかというので勝ち負けが変わってくるので。この馬はスローの瞬発力勝負が合うけど、それが自分でどうこうは出来ねぇから。
-:あとは前回の対談で「手綱を短くして乗ってみないか」と安藤さんがおっしゃっていましたが、その後のいきさつを教えていただけますか?
圭太:徐々には短くなってきているかなというのはありますよね。というのも、勝己さんのアドバイスを受けて、自分では意識はしているので。やっぱり短く持つのが基本だし、地方の時よりは短くはなってきていますね。それは、やっぱり長くて御しきれないというか、余しちゃうというのは感じているので、というのはありますね。一時期やろうと思って、ダメだった頃もあるのですが、徐々に長い目で見てというのでやってはいますね。
-:僕自身はその経緯を伺っていましたが、こうして、その変化の理由を語っていただくのはあまりないことかと。ちなみに、長くなる、短くなるというのはどれくらいの差のものなのですか?
安藤:変えるのは難しいけどな。そら、本当にひと拳だけで全然違う。
圭太:いやぁ~全然違いますね。
安藤:自分の肘の位置がね。だから、馬によっても違うわけ。全部をそうするわけではなくて、前に行く馬と頭が高い馬でも全然違うし。
圭太:あとは、ブン投げて乗った方が走るのもいるし、持って走るのもいるし。
安藤:ちょっとでも突き上げた方が良い馬もいる。
圭太:一概に、というのはあるのですが、基本的には意識していますよ。
▲前回の対談からアンカツさんのアドバイスを参考にしたという戸崎騎手
安藤:やっぱりルメール(クリストフ・ルメール騎手)なんかでもピタッとしとるもんな。
圭太:していますねぇ。
安藤:どの馬に乗っても重心が変わらないというか、本当にそういう部分は上手い。正直、ミルコ(ミルコ・デムーロ騎手)より、やっぱり総合的にはルメールの方が上手いよ。ミルコの方が思い切りは良いし、あれは大舞台で活きるけど、アイツは妙に勝負運が良い。良い方に展開も向いちゃうし。一方で下手に乗る時もある。たまにゲートですごく出遅れるしね。やっぱりルメールは掛かる馬や何に乗っても総合力がすごいな。
圭太:ルメールのスゴさは分かりますね。
安藤:だから、あれくらい勝っても不思議じゃない。
-:それと張り合っているのはスゴいことだと思いますけどね。
圭太:今年、ライアン(ムーア騎手)に言われたんですよ。エージェントの方にですけど「お前らすげぇな」って。「(リーディングは)ルメールだと思っていたから、それで張り合っているんだから、お前ら大したもんだ」って。
-:昨年は一緒に飲んだ時に、「ぶっちゃっけ、俺はどうなんだ」と聞いたら「よく分からん」みたいなことを言われたと。
圭太:そうそう「まだ一緒に乗ってないから分からない」と言われて。
-:認められた訳ですね。
圭太:別に騎乗(の良し悪し)はアレだけど(笑)。でも、やっぱりライアンだって、ずっと一緒にルメールと乗っている訳だから、(ルメールのスゴさは)それは分かるじゃないですか。