第2章:まさにプロフェッショナル 外国人騎手の強みは豊富な経験値
2017/1/11(水)
安藤:だけど、やっぱりムーア(ライアン・ムーア騎手)もすげぇな。この前の香港カップ(モーリスに騎乗)なんか、あんな競馬なかなか出来ない。ずっと我慢して、馬を避ける時、ヒュッ、ヒュッと。ジェンティルドンナでもそうだったもんな。ドバイ(シーマクラシック)でも。
圭太:1回締められて、もう1回立て直してシュッ、シュッとね。
-:ああいう動きってあまり目にしないので、騎手がすごいのか、馬がすごいから出来るのか気になっていました。
安藤:ありゃあ(ジョッキーが)難しいよ。
圭太:普通はスピードが止まっちゃいます。一度も(スピードを)落とさず、あの動きというのはあまり見ないですものね。多分、周りの馬の脚を寸前までちゃんと計った上で切り返しているんですよね。慌ててやっていたら、自分が飛んでいっちゃいます。
安藤:本当に微妙なことなんだけど、なかなか出来るもんじゃないし、それに、あの人気馬であそこに突っ込むというのが大したもので、ジッとしとって、普通はあの手前で焦るねん。4コーナー手前でどっち行こう、どっち行こうと。
圭太:またそれで(スペースが)開くんですよね。
▲アンカツさん、戸崎騎手がともに舌を巻いた香港Cでのライアン・ムーア騎手の騎乗
-:すごいジョッキーといえば、夏には「モレイラ(ジョアン・モレイラ騎手)さんの活躍にも刺激された」とおっしゃっていました。「東京での騎乗も見てみたい」とも。
圭太:それはありますね。すごいのでしょうが、どういう競馬をするのか……。というのも、僕が理解できないのは、語弊はありますが、北海道で早仕掛けというか、何かメチャクチャなレースをして勝つんですよ。しかも、それが楽勝だったり。馬と一体感というか、あれを俺がやったら、馬はバテちゃうと思うんですよ。何か常識では考えられないすごいところを持っているんです。古くは、川崎の佐々木竹見さんみたいにブワッと大逃げをしたり、外の4~5頭回っていても勝ってしまう(名古屋競馬の)坂本敏美さんのような。
安藤:坂本さんは、コースがどうのこうの、ゲートがどうのこうのじゃねえ。もう真似が出来ねえ(笑)。馬が動くということは、馬がいかに力を出していないということで、力以上のことは絶対に出せねえから。普段、良いジョッキーが乗ったって、本当は7~8割しか出してないから。それを「9」出せる秘訣があるんだろうな。そういう部分が持って生まれたモンがある。
圭太:何かすごい感覚を持っていますね、きっとモレイラなんかも。
安藤:要は、アイツらも世界各国に行っているわけじゃない?相手がどうこう分かんねえ状況で乗るのだから、研究する必要がねえもんな。俺も最後の方は新聞を全然読まなかった。作戦なんか立てる必要がねえ。乗った感触で競馬をするのがベストだと思って。
-:それは前にも言っていましたよね。「たまに距離が分からない」と。
圭太:それで勝つんだから、半端じゃないということですよ(笑)。
安藤:1番、2番に乗ったら返し馬は危ない。距離が分からないと、どっち(の待機所)に行って良いか……。そういう時に「距離どんだけやった?」と聞くだけで(笑)。笠松なんかは全部分かっとったんや。それくらい研究はしていた。もともとバカな訳じゃねえから、ハハハ(笑)。
-:研究熱心な頃もあれば、感覚重視だった頃もあったわけですね。
安藤:考えてみたら、最初にマカオに行ったりしたのも俺だから。実費でもオーストラリアに行ったりしたけど、新聞見たって分かんねえ。人気なんかでも全然分からないもん。これで競馬するなら、乗った感触しかねえやろ、という感じで。だから、いつも新鮮な気持ちで乗れる。馬っていつも一緒じゃないから、その時の感触で乗った方がベストやと思うんやけどな。
▲アンカツさん笠松在籍時代のレース風景 「当時は研究していた」とのことでしたが…
-:直観力じゃないですけど、そういうのも磨かれていったと。
安藤:ただ、ダメな時はやっぱり批判は受けるよ。それはしょうがないことで、結果が全てだからね。だけど、その感覚で良いこともあるからね。競馬はほとんど上手く行かないんだから。どんな良いジョッキーだって、勝つのは1~2割なんだからな。
-:戸崎騎手は移籍されてこの3年間で、特にムーア騎手なんかは顕著に活躍されるようになりましたし、そういう中でやってきたというのは、今まで南関にいる時とは全然違うくらいの経験をされている訳ですよね。
圭太:違いますね。すごく面白いし、まだまだ未熟だなと感じるので、その分、まだ上手くなれるぞとは思いますね。すごく楽しいですよ。
安藤:大井の時は、相手は的やんだけやったもんな、ハハハ(笑)。
-:単純に勝ち星を取られるという、額面的なものだけじゃなくて、ああやってムーアさんとか、モレイラさんとかが活躍することによって、色々と刺激も受けますしね。
圭太:昔はそういう人が来たら……みたいに思っていましたけど、今は何か違いますね。やっぱり得るものがすごく大きいので。それこそムーアは世界NO.1のジョッキーですよ。そういう騎手と一緒に乗れるし、すごいことですよ。日本の競馬も良くなるはずだと思います。
安藤:アイツらはムチ1本で世界各国を渡り歩いているんだもんな。すごいよな。日本からすると夢のような話や。俺らからしたら“プロフェッショナル”や。あっちこっちの国に行って勝つんだよな。そういう部分で、やっぱり経験というよりそういう立場になっているから、どこに行ったって緊張しねえわな。
-:この前も香港に行かれましたが、2年連続ということで、今年の遠征はいかがでしたか?
圭太:すごく面白いですね。最近は短期で日本に来たり、けっこう会っている人もいるのでね。
安藤:英語はしゃべれるの?
圭太:ちょっとはしゃべれます。やっぱり海外は刺激にもなるし、またハッピーバレーというのはすごく面白いんです。浦和競馬場をもっとすごくしたみたいな。
-:バンクがすごいですよね。
圭太:本当に馬を御しておかないと、競馬にならない感じですね。だから、すごく強い馬や速い馬たちは、あそこでレースが出来ない。大きいレースはしないじゃないですか。全部シャティンでやるから。
-:今年はその中で、柵の位置の問題で余計に回り切れないというか。
圭太:そうそうそう。みんな膨れていましたよ。ライアンでさえ膨れていたから、俺も膨れて大丈夫だと思って(笑)。
-:そのレベルの人たちが集まっても膨れる訳ですね。中山がトリッキーだと言われますけど、それどころじゃないですか。
圭太:そんなどころじゃないです。やっぱり日本はスピード競馬だから、まだそういう難しさはありますけどね。まだ向こうは御せるところはありますから。馬のレベルでいえば、日本よりもかなり低いレベルかもしれませんが、去勢して落ち着いているので、そこもまた乗りやすさが違いますよね。
安藤:でも、地方の方が癖のある馬は多かったやろ。
圭太:いや、僕の頃はそうでもなかったですよ。
▲昨年も香港競馬で勝ち星を挙げた戸崎騎手 ズボンは香港ならでは!?
安藤:俺なんか乗り慣らしが嫌やったもんな。馴致をみんなやる時代やから。また、馬のレベルも酷かったしね。だって、安い馬しか来ねえじゃん。放牧したら掴まらないような馬ばっかやし、ハハハ(笑)。それを横に出すだけで怖がる馬に「乗れ」と言うんやから。とんでもねえ時代やったからな。モンゴル遊牧民みたいやもん。
-:香港に2回行かれて、今後海外に行く考えは……。
圭太:行きたいのは行きたいですけどね。でも、自分からはないかな……。
-:何度か聞いてはいますが、そのための英会話じゃなかったんですか?
圭太:みんなにそういう風に言われたんだけど、違うんですよ。短期で外国から来るじゃないですか。そういう人と何となくしゃべれれば良いなという感じで始めたので。
安藤:香港も短期免許とかあった。俺にも出しよったんや。地方の成績で認めるということで。
圭太:地方の時に。ええ、そうなんですか!?
安藤:そうそう。最後に免許が下りたと言って、そのタイミングで中央も受かったから。それで行かんようになったけど、香港に友達がいて、簡単なのはマカオやったから、最初は。香港はやっぱり枠があって、ヨーロッパとかオーストラリアとか来るじゃない。それで出していて「勝己、大丈夫来られるようになった」と言った時に「もう止めとくわ」と言って、ハハハ(笑)。
-:マカオはどれくらい行かれたのですか。
安藤:マカオは短期間で2~3年は行ったな。最初は1週間のつもりでおったら、勝てんもんで「勝つまで帰らん!」とか言って、ハハハ(笑)。そういう時期もあった。
-:「昔は負けず嫌いだった」と前回の時もおっしゃっていましたもんね。
安藤:そうそう。
圭太:それって、いくつくらいの時ですか。
安藤:ライデンリーダーで負けてから。その後(30代で)芝の経験を積まないといけないと思って。そういう思いがあったから、桜花賞もあれだけ勝てたのかもしれんね。
圭太:すごいねえ。
安藤:だから、その後で特指レースができたんで、ちょうどその頃、けっこう自分で行きよったね。オーストラリアとかはゲートと言ったら、押しくら饅頭みたいな競馬で全然ダメやった。まあ、半分遊んどったんやけど、ハハハ(笑)。
安藤「香港も短期免許とかあった。俺にも出しよったんや。地方の成績で認めるということで」
-:でも、システムや待遇は日本が一番良いですよね。
安藤:賞金自体はね。
圭太:クリストフ(ルメール)も言っていたけど「日本でたくさん税金を取られるのは良い」と。「やっぱり環境がすごくいい」と。海外だと雑なところもあるのかもしれませんね。
-:お金を払うから丁寧にしてよ、という感じですか。海外の人は調整ルームが良いなんて話をよく耳にしますが、安藤さんはルームの制度はいかがでしたか?
安藤:体重が重いから、やっぱりあった方が良かったかな。ただ、地方の時はやっぱり1週間とか缶詰というのは、若い時はね……(笑)。そうそう、ムーアは冷静でパッと明るい感じはせんけどな。
圭太:全然しないですね。そういうのはないです。
安藤:デットーリはムチャクチャ明るいもんな。アイツがおるだけでムチャクチャ華やかになる。本当に全然違うもん。ムーアはシビアな感じに見えるな。
圭太:そうですね、クールで。でも、話しかけるとすごく話をしてくれるんですけど、まあストイックですよね。日本に滞在中でも「ホテルにこもって、トレーニングをして外に出ない」と言いますもんね。
-:トレーニングというと、日本人ジョッキーのイメージですが、ああいう人でもトレーニングされるんですね。
圭太:いや、それがするみたいですよ。
安藤:外国人の方がするよ。カッパ着て馬場走ってるもん。
-:しかし、今はみんなトレーナーを付けていたりしますよね。この前、地下馬道を走っているのを見て思いましたけど、本当に脚が速くなりましたね。全然違うなと思いましたよ。
圭太:ああ~。いや、走ってるんですよ。
安藤:本当か?俺なんか馬に乗りに行く時、躓きよったぞ(笑)。