【JRA賞授賞式】史上に残る名ジャンパー・オジュウチョウサンの和田正一郎調教師
2018/2/1(木)
JRA賞授賞式でトロフィーを受け取る長山オーナー
1月29日(月)、東京都内のホテルにて、日本中央競馬会(JRA)主催の2017年度 JRA賞受賞式が行われた。
JRA賞とは競馬と馬に関する特に優れた業績に対してその栄誉をたたえ、感謝の意をあらわすために設けられた。その表彰行事として、騎手・調教師をはじめ多くの関係者が出席して盛大に行われた。
「3月10日のレースは故障で延期します」
2017年最優秀賞馬オジュウチョウサン(牡7、美浦・和田郎厩舎)の長山尚義オーナーの発表に、会場がどよめいた。3月10日のレースとは、当初次走として発表されていた阪神スプリングジャンプのこと。王者は中山グランドジャンプをぶっつけ本番で迎えることになった。
この経緯について、授賞式の後、すぐに管理する和田正一郎調教師に話を伺いに行った。落ち着いた物腰の師は、静かに話し始めた。
和田郎師:「ちょっと体調不良がありまして……。診療所で見てもらったりしていました。だいぶメドは立ってきたと思います。調教もそろそろ再開できるでしょう。ただ阪神スプリングジャンプに出すには期間が足りないと思います。どのレースもそうですが、体調が100%整わなければ出走はさせられないと思っています。しかもこれだけの馬ですからね。いい状態で出られるのであれば、中山グランドジャンプから始動するという形になりますね」
こう話したように、次走についてはまだ確定していない。これだけの馬ということで、ほんの少しの不安があれば、より万全を期することは必然とも言える。
『絶対王者』。オジュウチョウサンはそう形容される。2017年の年度代表馬投票で障害馬としては異例とも言える3票が入って話題になるなど、その存在感は歴代の名ジャンパーたちをしのぐものがある。師に、オジュウチョウサンの長所について尋ねた。
和田郎師:「オジュウチョウサンは身体能力が高いし、心臓が強い。うるさいし扱いも大変ですが、気持ちが強い馬です。本当に凄い馬だと思います。次元を超越した存在です。競馬行くと、ファンの皆さんがたくさん応援してくださる。本当に凄い馬です」
何度も「凄い馬」という言葉を使い、「次元の違う馬」と愛馬を称えた。師にとってもこの馬の存在は特に大きなものだろう。転厩という形で厩舎にやってきて3年。平地の未勝利馬は障害レースの頂点まで上り詰めた。
昨年12月の中山大障害。日本競馬史に残る名勝負となったこのレース。師はどのような心境で見つめていたのだろうか。
和田郎師:「本当に追いつくのかと思って見ていました。しかし石神ジョッキーが冷静でしたね。焦って追いかけていたら障害飛越をミスするかもしれませんし、あまり追いかけすぎてしまうと、今度はバテて後ろの馬に差される、それも頭にあったと思います。そんな中で冷静に頑張ってくれました。馬も本当によく頑張ってくれましたね」
苦笑いしながら、柔らかな語り口で振り返る。見ている側としては最後の最後までどちらが勝つか分からないほどの手に汗握る白熱した叩き合いだったが、勝利を意識したのはどのあたりだったのだろうか。
和田郎師:「最終障害を飛ぶあたりで少し差が詰まったので、もしかしたらいけるかな……という思いはあったのですが、4コーナーを回ってから再びアップトゥデイトが踏ん張っていたので、もう並びかけるまでは分からなかったですね。凄い競馬だったと思います」
4100m、4分36秒1という時間の中で、最後までどうなるか分からなかった、この名勝負。
この熱いドラマは、絶対王者オジュウチョウサンに加えて、芦毛の名ジャンパー・アップトゥデイトがいなければ成立しなかった。そんな『最強のライバル』について、師はどう見ているのだろうか。
和田郎師:「アップトゥデイトも強い馬ですからね。あのスピードは凄いです。障害も上手いですし、本当に強い馬だと思います」
歴史に残る名勝負となった中山大障害
昨年、オジュウチョウサンは2年連続でジャンプG1を両方制し、障害G1を4連覇、2年連続最優秀障害馬に選ばれる快挙を達成した。脚元への負荷が強く、タフな障害という舞台でこの記録はまさに偉業。新たな勲章を手にした愛馬に対し、次のようなメッセージを送る。
和田郎師:「本当によく頑張ってくれたと思います。キタサンブラックと同じように、こちらも乗り込んでしっかり鍛えましたし、それに耐えてくれました。厳しい調教を課しても最後まで前向きな気持ちを失わず、しっかり頑張って走ってくれましたね」
師の口から出てくるのは、まず愛馬への感謝の気持ちである。そして言葉の最後にも愛馬への感謝の気持ちを込める。真面目な、和田郎師らしい言葉だ。勲章を次々に獲得する王者にはファンも多い。
和田郎師:「普通、障害に行ったら、あまり注目度は上がらないですよね。注目度は平地より低いです。そういう中でファンの皆さんの注目を浴びて、応援されるというのは本当に凄い馬だと思います。私たちのやることは、いい状態で、無事に競馬に持っていくことだと思っていますし、いいレースをして喜んでいただければと思います。まずは無事にいきたいです」
8年前、開業から1年ほどしか経っていない”ルーキートレーナー”だった時、あるパーティーでご一緒させていただいたことがある。すでに活躍している他の調教師の隣で、「いつか、自分もこのようなパーティーで色々と聞かれるくらいの馬を育てたい」と、熱を帯びた静かな口調で語っていた師。あれから8年。愛馬について自信を持って答える師の姿が輝いて見えた。
時間は戻り、授賞式の壇上。長山オーナーは最後に2018年の目標を問われ、「今年はアイドルになってほしいです!」と答えた。絶対王者・オジュウチョウサンは記録にも、記録にも残る名ジャンパーとして、今年も高い壁を超え続ける。