水上学の競馬直談判

ー水上学が競馬関係者をゲストに招いて、現在の競馬界が抱える様々な問題を徹底討論する対談シリーズ「競馬直談判」。第2回目のゲストは個人馬主の佐々木主浩氏!

ご存知の通り、プロ野球選手として日本・メジャーリーグを股にかける活躍で一時代を築いた佐々木氏が、なぜ、現在は競馬界に身を置いているのか?また、逆風が吹き荒ぶ昨今の競馬界において、個人馬主の現状とは…前回の小島茂之調教師との対談でもキーワードになった「馬主」。その存在が競馬界にとっていかに重要な存在であるか迫ったー

水:お忙しいところ、ありがとうございます。本日は個人馬主の佐々木主浩氏としての顔を中心に、お話を聞かせていただこうと思います。よろしくお願いします。

佐:水上さんと会うのを楽しみにしていました。こちらこそ、よろしくお願いします。

水:まず、この話は避けては通れないと言いますか・・・・。佐々木さんは仙台ご出身ということで、大震災に私たち以上に心を痛められていると思いますが・・・。

佐:私の実家は平気でしたが、同級生の中にはご家族が被害に遭われた方もいるんです。彼は『こんなにつらいことはないけど、頑張って生きていくしかない』と繰り返していましたね。地元の方々や被災者の皆様に、私でできることなら何でもしようと思いました。

水:色々なことがあの日以来、変わってしまいましたよね。そういった中で、競馬界は胸を張れる社会貢献ができていると思います。

佐:そうですよね。支援競走や騎手たちのチャリティーなど力になってくれています。ただ被災地は、まだまだ私の知っていた街とは思えない、とんでもない状態なので、競馬界には長い支援をお願いしたいです。

水:東北地方は競馬熱が高い地域ですものね。

佐:多いですよ。なので、福島開催がしばらくできないというのは残念です。馬主繋がりでいえば、トーセンの島川さん(島川隆哉氏)が仙台ですね。

水:今年のダービーは“何としても出すのが目的”とおっしゃっていて、トーセンラーとトーセンレーヴの2頭が出走しました。トーセンレーヴの執念のローテーションにも理由があったんですよね。

大魔神馬主を志す

水:今、島川さんのお話が出ましたが、佐々木さんが交流のある個人馬主さんというと、やはり有名なのはアドマイヤの近藤さんだと思いますが、その他の方といいますと・・・・。

佐:アーネストリーで宝塚記念を勝ったマエコウ(前田幸治氏)さんですね。3頭出しは凄かった。 マエコウさんとはベイスターズに入ったばかりの頃、すでにお会いしていたんですよ。当時のコーチがマエコウさんと仲が良くて、競馬に携わっている方とは知らずに飲みに連れていってもらったんです。馬主になってから競馬場で『覚えているか?』なんて声を掛けられて、その時にいただいた名刺のことを思い出しました。当時はまだあまり競馬に興味がなかった頃ですが、今思えばそういう運命だったのかなと(笑)。

水:そもそも競馬との出会いは馬券ですよね?

佐:まず好きになったのは馬券ですが、最初に観て感動したレースはオグリキャップの有馬記念(90年)でした。もともと親父の実家が牧場で、牛中心だったと思いますが動物がいたんです。小さい頃から遊びで餌やりなどをしていましたね。そういえば、叔父がいつも競馬ばかり見ていて『何が面白いの?』と思っていましたが、実際こんなに面白いことはありませんよね(笑)。

水:馬券を買いだしたのはご自分で思い立ったんですか、それとも先輩の影響ですか?

佐:結構、ベイスターズのみんなが買っていましたので影響になるのかな。ビギナーズラックとはいいますが、最初はあまり当たった記憶がありません。覚えているのは、白幡さんという選手がいて、彼のニックネームが「メシ」だったんですね。その方がそれにちなんで「ライス」シャワーの馬券を買ったら本当に来たんです。遠征先での出来事だったんですが、あれはどのレースだったのかな?何十万も儲けたとか大喜びしていたなぁ。

水:ハア・・・意外と、プロ野球選手も素朴な楽しみ方をされているんですね。

佐:結構そんなもんですよ。後輩の三浦大輔(投手)も馬主になりましたけど、アイツも馬券からですね。

水:佐々木さんが馬主になったのは2006年、地方競馬の資格から取得されましたね。現役の間は野球に集中されていたとして、馬主になろうと思ったきっかけはどのようなところからだったのでしょう?

佐:僕は松嶋菜々子さんの大ファンでして「やまとなでしこ」というドラマで、スチュワーデスである彼女が馬主バッジを着けている出演者に寄っていくんです。これは凄いなと!現実は飛行機で馬主バッジを着けていても、スチュワーデスさんは寄ってきてくれませんが…(笑)。一応これは表向きの冗談としてよく言っている話。 本当のところは、野球が終わったので、それ以外でも夢を持ちたいなと思ったからです。

水:最初に持たれたのは、道営のミスターフォークでした。

佐:そうです。その頃にたまたま寿司屋でアドマイヤの近藤会長(近藤利一氏)にお会いして、中央に入るキッカケをいただきました。で、翌年に中央の資格を取って馬を持ちました。それがアドマイヤマジンです。

水:その後、まだ多くの頭数がデビューしているわけではありませんが、ほとんどの馬が走っていますよね。

佐:頑張ってくれていますよね。マジンプロスパー、キャプテンマジン、アドマイヤマジンですか。僕の場合、なぜかノーザンファーム以外の馬が走る(笑)。

水:こういっては失礼かもしれませんが、血統的に見ても良血というわけではない馬たちが見事に走っています。どういう視点で馬を選ばれているのかが非常に気になっていたんです。

佐:まずは、とりあえず人に聞きますね。色々な方に聞きます。最後に困った時は馬の形です。人でもそうだと思いますが、偏りがないかどうか、全体のバランスを見ますね。

水:プロスポーツ選手だっただけに、フィジカル面への意識はかなり高いわけですから、素人よりはそもそもの見え方が違うのでしょうね。

佐:とにかくバランスにはこだわりますよ。他の細かいところは橋田先生(橋田満調教師)に相談して教えてもらったりしています。

水:それが走るんですから素晴らしいですよね。そして、たまたまかもしれませんが、活躍馬の大半はダートが主戦場になっています。

佐:そうなんですよ。芝ではこないだ(6月4日)初めてマジンプロスパーで勝ちました。

マジンプロスパー
Majin Prosper
3歳時には勝ち星を挙げることができず、地方に転入した時期もあったマジンプロスパー。
初めての芝のレースとなった6月4日の4歳上1000万下(阪神芝1400m)を、あのサクラバクシンオーが記録した1分19秒9のタイレコードをマーク。今後の飛躍が期待される。

水:もしかすると、佐々木さんの好みの体型に、ダートで走る上で必要な要素があるのかもしれません。

佐:いやあ、そうなのかなあ。本当は芝で活躍させたいんですよ(笑)。やっぱり芝がいいです。クラシックを意識して馬を買うわけですから。

水:アドマイヤコジーンやキャプテンスティーヴといた地味な種牡馬の産駒で結果を残されているから、どんなポイントで選んでいるのかと思いましたが、見た目だったんですね。

佐:本当にバランスは大事ですね。マジンプロスパーも最初来た時に、すっごくバランスが良かったんですよ。中尾先生(中尾秀正調教師)が見つけてくれた馬なんですけれどもね。

水:そう考えると、血統って、あんまり重要ではないのかもしれませんね(笑)。

佐:いや、それは大事とは思いますよ。あと、僕がずっと思っているのは、小さい頃にどこで過ごしたかだと思うんですよ。2歳になって、レースに出るまでが重要だと思うんですよね。馬選びにおいて、そこには拘りたいと思いますね。

水:生産牧場や育成場の施設や人材の良さということですね。

佐:プロスパーもノーザンでやってもらいましたし、キャプテンマジンもノーザンに変えたら見違えるほどよくなりましたからね。