苦しくも楽しい馬主ライフ

水:さて、このようなご時勢ということもありますが、馬主をビジネスとして成立させるのは難しいことだと思いますが。

佐:個人ではやっぱりキツイですよ。

水:他の個人馬主さんたちと、そういう話題でお話をされることなどはありますか。

佐:しますよ。やっぱりキツイなという話になります。預託料の請求を見ると、一頭につきの人件費というのもかなりの額になります。そこで僕らが納得するのは、自分の馬たちをちゃんと見てもらっている分だからと。ただ、個人で継続するには楽な金額ではありませんけどね。

水:やっぱり個人馬主さんが減っていることも、競馬の盛り上がりに水を差してしまっている部分はありますよね。

佐:今はクラブが主流ですからね。クラブにはクラブの良さがあるのは十分分かっているんですが、あまりにも個人馬主への逆風がひどいので・・・。
そういった部分で、僕なんかは微力ですが、影響力の大きな近藤会長や金子さん(金子真人氏)には頑張ってほしいです。

水:そういった意味で、厩舎制度というか、JRAサイドに個人馬主という立場から要望したいことはありますか。

佐:とにかく預託料はもう少し安くしてほしいです。それでも、僕が入れている関西の厩舎は関東よりも安いと聞きますが。まぁ、すべてにおいて馬主に責任がのしかかってきますから、厩舎選びというのは非常に重要です。

水:クラブというのは、そのような部分を会員が負わないようにしているから、上手くいく部分もあるのでしょうね。

佐:入りやすいですものね。

水:昔は個人馬主さんだけということもありましたが、そのためか、ニックネームがつくような個性的な馬も多かった気がします。

佐:騎手と馬主の関係も密だったようですしね。今はクラブの馬に乗っている騎手のほうが多いわけですから。

水:クラブの場合はドライに外国人騎手を乗せる感じになっていますが、個人の場合はその馬主さん込みで騎手を育てるような風潮もありましたからね。なので、私も個人馬主さんに対するケアを、騎手の育成という面からもJRAはもう少し考えるべきだと思っているんです。

佐:確かに。今のままだと、個人馬主は消滅する時代になってしまいそうな気がします。冗談ではなく、本当に「個人馬主所有馬限定戦」なんてやってほしいと思いますよ。

水:面白いアイディアですね。

佐:というのも、除外が本当に多いじゃないですか。頭数の多いクラブはいいですけど、個人馬主、それも持ち馬が少ない僕らのような立場の馬主は、馬が使えないことが一番響くんですよ。お金が回らないわけですから。その意味でも、個人馬主を救済するレースというのも、近い将来では必要になって来ると思うんです。 除外過多の改善はしてくれてはいますけれども、現実問題としてあまり変わってこない。ならばそれくらいの思い切ったアイディアを実現してほしいですよね。 あとは、経費削減も分かりますけど、レースの賞金をチマチマ削るのは本当にやめてほしい。いくら馬主はお金だけじゃないといっても、意欲を削いでしまいます。もっと削るべきところは他にあるのはハッキリしてますからね(苦笑)。

水:JRAにとって、馬主さんはお得意さんでもあるわけですよね。経費削減というのは、あくまで自分たちで使う経費を減らすという意味であって、お得意さんに支払うべきお金を減らすというのは大変な勘違いだと思います。広告費やファンサービスのお金が削られているのを聞くと、言語道断だと思いますね。

佐:本当に、声を挙げていかないと厳しいですよ。

水:では、佐々木さんから厩舎サイドに対して注文をつけるケースというのはありますか。

佐:それはほとんどないですね。相手は馬のプロなので、基本任せるべきだと思っています。相性を気にするほうなので、騎手の起用に関しては何度か言ったこともありますが。騎乗ぶりに不満を感じたからというわけではなく、あくまで人と馬の相性です。

水:良いほうを伺うのは問題ないと思うのですが、どの騎手との相性が良いんですか?

佐:北村友一君はいいですね。あと今年デビューする期待馬には福永君が乗ることになると思います。

水:騎乗ぶりをご覧になっていて、どのような騎手が佐々木さんにとって有難い存在ですか。もちろん勝たせてくれることが一番でしょうけれど。

佐:普通にやってくれればいいですよ。あんまり無理してガツガツやられるのは馬も可哀想ですから。いるじゃないですか?そういう騎手も。

水:そこは馬券を持っているファンと馬主さんとの違いでしょうね。僕らは最後までキチンと追ってくれるのが一番だと考えるんですが。

佐:あんまりムチを入れられるのも…。トップを争っていれば話は別ですが。

水:子供を見るような感じなのでしょうか。馬に無理をさせず勝たせてくれる騎手が理想ということですね。ということは、追い込みよりも先行タイプのほうがお好きで?

佐:ハイ。見ていて安心もしますしね。

水:最近の競馬自体に関してはどうですか。レースを見ていて思うことというのはありますか?

佐:外国人騎手はやっぱりハングリーさが違いますね。この間、食事をする機会があったのですが改めて感じました。日本人がそうじゃないとは決して言いませんが、極端な話、体の張り方が違うというか・・・。無理やりこじ開けないと勝てないという局面でそれをすると日本では嫌われるから、不満を持っている外国人騎手も多いようです。

水:昨年の秋から、よく外国人騎手が審議の対象となって降着などもありました。それに通ずるお話なんでしょうね。

佐:逆に言うと、日本の騎手が外国で勝てないのはそこですよね。割っていかないと勝てない部分が、日本の競馬ではなぜか割れない。その一瞬が勝負所じゃないかと。

水:割っていったほうが馬に負担が掛からないケースもありますからね。変に外を回しても距離はロスしますし、その分だけ叩かなくてはいけないわけですから。

佐:勝己さん(吉田勝己氏)がよく『外国人を乗せると2馬身違う』というんですが、それは僕も納得。さっきのクラブの話じゃないですけど、サンデーレーシングが外国人を起用するのはその理由です。

水:先程せっかくお話がでたので。佐々木さんが北村友一騎手について“おっこれは”と思われた理由はどこにありますか。

佐:あんなにズブかったキャプテンマジンが変わったところです。彼が乗ったことで、全然何もなかったようにスッと出るようになりましたから。これは、手が合うんだなと。アンカツさんが一生懸命追っても動かなかった馬ですよ。

水:厩舎の都合もあるでしょうけれど、許されるならば北村友騎手には引き続きご自分の馬に乗ってもらいたいと。

佐:そうですね。特に若い騎手たちに育ってほしいです。川須君とか田辺君とか、もっと頑張ってもらいたいですよ。日本人騎手には日本人騎手の良さがあって、彼らはそれを持っているように思います。

水:では、調教師さんとのコミュニケーションはどうでしょう。

佐:馬優先にしてくれる、いい調教師さんに恵まれていると思います。

水:僕は全然わからない世界なのですが、どういったことをお話されるのでしょう。やはり定期的に状態の報告があったりするのでしょうか。

佐:絶対にあります。

水:使う、使わないは調教師さんが決められて、番組決定の報告があるわけですね。

佐:そうです。それに関しても口を出しません。僕が知っている人たちは、馬に合わせてくれますよね。特に松田さん(松田博資師)なんて典型です。いい意味で頑固ですし、自分のスタイルを貫いていますから。全てお任せです。

水:厩舎は違いますが、マジンプロスパーを芝に使った時はどうだったんですか?

佐:あれは僕が言いました。

水:やっぱり、言っているじゃないですか(笑)。

佐:違うんです。もともと芝でおろす予定で、牧場で調教をつけていた人も『なんで芝を使わないんですか?』と言っていて、僕も芝の方が良いと思っていたんです。それで先生に『牧場の方から芝を使った方が面白いと聞きました』と言ったんです。中尾先生も、芝で行けると思っていながら脚が弱いからダートを使っていただけなんです。

水:ダートで結果を残している馬を芝で使うのは、調教師側からしたらなかなか決断し辛いところはありますよね。だから、佐々木さんに言ってもらってむしろ良かったのかもしれませんよ。