初めての個人所有馬ジャスタウェイがレーティング世界No.1の評価を獲得し、種牡馬に。
人並み外れた馬運の持ち主が脚本家という本業のキャリアを活かし、馬主ライフを書き下ろします。
『馬名決定』
2023/5/4(木)
仕事で信じられないようなちゃぶ台返しがなされたり。酷いウソツキに騙されかけたとか、これで万全だろうという愛馬の名前を申請をしても却下されたり。さらに言うともう5月だというのに今年に入って愛馬がまったく勝てない。など、いろいろと流れが悪い状況でした。
ならばなんとか流れを変えなければならない。そう思った私は、何かとても楽しいことを仕込まなければと思いました。楽しいことがあれば流れはきっと変わるはず。
これはという名前が却下され、仕事の都合で通りそうだった名前を取り下げたりと、紆余曲折があったのですが、考えて考えて考えた挙句、もうなんかこんな感じでいけばいいのではという境地に辿り着いたのです。
経緯を説明しますと、今年の2歳馬、イイナヅケの牝馬は既に入厩しております。ゲート試験も間近でほんとに6月にはデビューできるのではないかというくらい順調に来ていて、この仔の名前をつけないと、というプレッシャーから悩みに悩んだ名前なのですが、結果、「ヒヒーン」父ジャスタウェイ母イイナヅケの牝(須貝厩舎)という名前になりました。
そしてその手前の段階から馬名が決定していたのがオツウの牡馬、「パッカパッカブー」父ハービンジャー母オツウ(須貝厩舎)とあいなりました。決してふざけているわけではありません。いや、ふざけているのかもしれませんが、じっと見つめていると、なんだか可愛らしくて面白く、人気の出そうな名前のような気がしてきたのでいろいろと悩んだ結果こうなったのです。
さらにはこの二頭、前評判がここ数年の中では抜群によろしい感じです。あくまで私のひいき目と思い込みの産物ではありますが、エルデストサンやマジカルステージよりも前評判が上ならば、きっとどちらもクラシック戦線に絡んできてくれるだろう。
須貝先生も「そろそろ大和屋さんの馬で重賞勝たないとな」というようなことを言ってくれたような気がします。育成の時のノーザンファームの定期リポートもかなりよさげで、辻牧場さんの育成部門でも走ってきそうとのコメントを頂きました。
さらにはどちらもグッドルッキングホース。派手な顔だちをしています。まあそんな感じの手ごたえを踏まえた上で、僕はG1を前にした時の共同記者会見を思い浮かべたのであります。
至極真面目な顔をしたインタビュアーと須貝先生が、やりとりします。
インタビュアー「では須貝先生に質問です。前走快勝のヒヒーン号ですが、本番へ向けてのヒヒーン号の調整過程から教えてください」
須貝「はい。ヒヒーンは水曜に3頭併せで追い切りました。6Fからマジカルとエルデストサンを追いかける形で合わせてヒヒーンが先着。最後はさっと流す程度ですが、手ごたえは抜群でしたね。負荷をかけすぎないようにと鞍上にはお願いしていました」
インタビュアー「今回、初距離と初コースとなりますが、ヒヒーン号にとって東京コースはどうでしょうか?」
須貝「ヒヒーンだけでなくこの距離が初というのはどの馬も同じですし、若駒ですので乗り越えないといけない部分はいろいろとありますが、ヒヒーンは東京コース、合うと思いますね。長い直線でヒヒーンの末脚がヒヒーンといきるんじゃないかと思います」
インタビュアー「では全国のヒヒーンのファンの皆さんに一言お願いします」
須貝「陣営一丸となって結果が出るよう頑張っていますので、皆さんヒヒーンの応援のほう、よろしくお願いいたします。ヒヒーン」
どうでしょうか?かなり面白いことになってくれるであろう姿が展開されることになるのです。欲を言えばインタビュアーが途中で我慢できずに噴き出してくれるとなおグッドです。そしてその次の週に、パッカパッカブーでも同じようなやりとりをしてくれればいいと思っています。
とまあそういう感じでG1を前にした共同記者会見の様子を思い浮かべてしまったことからこれらの名前がつきました。やけになったりとかそういうことではなく、新たな境地に辿り着いた結果のネーミングかと思われます。
なんか昔やった作品から名前とかで考えていると、昔の嫌な思い出が続々思い出されてしまうので精神衛生上よくないのもあるのかもしれません。記者会見だけでなく実況で名前を聞くのも楽しみですね。直線でヒヒーン、ヒヒーンを連呼するアナウンサーは自分はいったいどんな仕事をしているんだと自問自答することでしょう。
それは恐らくパッカパッカブーを連呼するアナウンサーの方も同じことがいえるでしょう。どちらも話題になりそうな名前なので実力もともなって、共同記者会見を行える舞台まで突き抜けてくれることを願っております。
そしてもう一頭、マダムジェニファーの2番仔(タリスマニック×マダムジェニファーの牡、西村厩舎)の名前も決定しました。名前を「コウリュウ」と申します。漢字は江流、意味は大きな川の流れ。こちらもなかなか深いエピソードを持っている仔なのでもう少しデビューが近づいてから、改めてそのお話をたっぷりしたいと思います。
なんとか今年も名前をつけることができました。来年の今頃は毎日どきどきしている自分がいるはずだと妄想しながら彼らのデビューを待ちたいと思います。まずはヒヒーンが早い時期にデビューするはずですので、皆さん応援よろしくお願いします。ヒヒーン!
了
プロフィール
大和屋 暁 - Akatsuki Yamatoya
脚本家・作詞家・ライター。若くして一口馬主に出資を始め、クラブ馬主歴2年目にハーツクライと運命的な出会いを果たすと、有馬記念、ドバイシーマクラシックを制す大活躍。しかし、ノド鳴りによるアクシデントに見まわれ、突如として引退したことに一念発起、馬主になる決心を固めた。個人馬主としては、初めてデビューを果たした所有馬ジャスタウェイが大活躍の強運ぶりを発揮。遂には、目標であったドバイ遠征を実現させ、ドバイデューティーフリー(現在のドバイターフ)を圧勝。「自らの馬でドバイを勝つという」夢を実現させたばかりでなく、そのパフォーマンスが評価され、2014年度のワールドベストレースホースランキングでは、日本馬史上初の1位を獲得している。
現在の現役所有馬はカリボール、マジカルステージ、ジャスコ、キングロコマイカイ。一口馬主や共有馬ではアウィルアウェイ、ルーツドール、イストワールファムなどに出資している。
本業ではアニメ版「銀魂」、「スーパー戦隊シリーズ」などの脚本を手がけ、2020年公開の映画「デジモンアドベンチャー」も担当。愛馬との数年間に及ぶ足跡を綿密に綴った『ジャスタウェイな本』などの執筆も手がけた。