キズナ、いざダービーへ!…平林雅芳の目

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3月23日(土)阪神11R毎日杯(G3)(芝1800m)
キズナ
(牡3、栗東・佐々木厩舎)
父:ディープインパクト
母:キャットクイル
母父:Storm Cat


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弥生賞で皐月出走権を逃したキズナ。このレースでその権利を獲って向かうものと思っていた…。ゴールに入って、まずは安心と湧いてくる喜びと共に階段を急いで降りて行った時に、エレベーターに乗りこむ佐々木晶師の姿が見えた。ちょうど階段を下りきった時に、そのエレベーターが開いた。姿を現した佐々木晶師から《皐月賞は行かないから…。中2週では走れないから》だった。引き上げてきた鞍上に勝利のねぎらいをかける言葉よりも、それを伝える。思わず《エエッ!?》の声。
後刻、ウイナーズサークルで表彰式が進んでいる。そばでレイをかけられて周回しているキズナを観やる。《そうだな~…。ダービーへとユックリ行った方がベストだな…》と気持ちも切り替えられた。まずはこの勝利を喜ぼう…っと!!

いったいどれくらい先頭から離れていたのかを、ビデオを観ながらストップ・ウォッチで測ってみる。前半の800メートルで2.25秒だった。上がりの800の時は残念ながら先頭を映してくれない。上がり600は外廻りだけに4コーナーのカーヴのところ。測りづらい。むしろ離されていて2秒の後半だった。それだけ前が飛ばしに飛ばしている流れであった。1800の距離で11秒台のラップを6回も記すなんて、今どきの3歳戦ではない事だ。若葉Sでも、2000ながら5回の11秒台を刻んだが、それをも上回る荒い競馬となってしまった。

タイセイウインディが逃げた。デビューから松山Jが手綱を握り、ダート戦で逃げ切っている。バッドボーイが2番手。この馬は先行タイプで粘りこむ馬だ。そこへラブリーデイが絡んできた。あまりスタートは早くなかったのだが、直ぐに順位を上げてきた。最初はガイヤースヴェルトもこの集団にいたのだが、抑えて4番手を選ぶ。
3ハロンを進んだあたりでタイセイウインディの逃げ、2番手が競りで内バッドボーイに外ラブリーデイ。そこから2馬身でガイヤースヴェルト。テイエムイナズマ。キズナは前から相当離れた位置で、メイショウブシンと並ぶブービーだ。コンマ2秒2ぐらいだった。すごい縦長の展開となった。

前の5頭はさらに接近し始めてていく。6番手のオメガキングティーが気合いをつけて行くぐらいだった。
《1000メートル通過58.5》とオーロラビジョンに映し出す。ラブリーデイのバルジュJが、内の川田Jを観ているシーンも見えた。その先行集団5頭がさらに横並びになった。テイエムイナズマが一番外へと張り付く。一旦上がったガイヤースヴェルトが下げて内へと進路を取り直す。キズナを含めた後方の馬群も、だいぶ前との差を詰めて4コーナーのカーヴを廻った。

どの馬も追っている。外廻りと内廻りの間を、先行集団5頭が並ぶ。その後ろを3、4頭が追う。キズナはまだその後ろ。武豊Jの右ステッキが飛ぶ。
再びラチが現れたあたりで、前の喧騒から抜け出たガイヤースヴェルト。ラチ沿いをシュタルケJのステッキが飛ぶ。残り1ハロンだが、まだキズナは7番手ぐらい。でも脚色は悪くない。残り100、前を行くのはガイヤースヴェルトだけ。と思った途端に抜き去った。抜けたらもう流し気味で、ゴールを迎えたキズナ。バッドボーイが3着。テイエムイナズマが4着。逃げたタイセイウインディとラブリーデイが後方に沈んだだけ。
やはり阪神の芝は先行優位が判る。2番人気のコメットシーカーは、その先行集団の後ろの5番手で入った。

激しい競馬であった。中2週で皐月賞へ向かうのはやはり酷な事であると、ビデオを観ると良く判る。皐月賞をパスする選択は、馬のために正しい選択だと同感できる。もっともっと大きな仕事をする馬であろうと思えた。

あの日、昼過ぎぐらいに検量室前に佐藤哲Jが現れた。左手を吊ったままだった。いろんな人がそのテッチャンに声をかけて行った。《大丈夫か?》《エエ、ハイ、大丈夫です!》の返答に、お互いが顔を観て笑ってしまった。キズナの調教とかイロイロと話もした。
そして最終レースの前に、今度は佐々木晶師と二人で帰って行った。右手で握手をしておいた。絆を感じる二人の後ろ姿だった…。



平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。