【特別対談part4】悲願のダービー制覇へ!"自分に勝つ"ことの重要性

「勝つ技術は備えている」と戸崎騎手のダービー制覇に太鼓判を押すレジェンド・中野栄治元騎手。戸崎騎手も過去のダービーと比較して違うところがあるようで…

競馬界の先輩から見る騎手・戸崎圭太

——中野先生から見て、戸崎騎手はどういうジョッキーでしたか。

中野:馬を抱えられるなと。今の地方競馬出身の人がなんで上手いかというと、小さい時から基本をビッチリ叩き込まれているから。戸崎くんの場合はしっかり馬を抱え込めている。

馬ってフワーっと1本ずつ脚が前に行って、1回全ての脚が地上から離れてフワって飛ぶでしょ。しっかり抱えこめていると、その飛んでいる瞬間は馬が楽になるから疲れづらい。もう身に染み込んでできているって感じだろうね。あとアスリートは脇が開いたらダメなんだけれど、開いてない。

★

中野元調教師が絶賛する戸崎騎手の騎乗フォーム

戸崎:他のスポーツでも脇は開かないように、とは言いますよね。でも嬉しいです。自分ではそんなことを考えたことがなかったのは本音ですが、なるほどなと思うところがあります。

中野:地方競馬にいた時に師匠がいて、乗り方とかをちゃんと教わったんだろうね。技術なんかは後でついてくるんだよ。競馬学校にいた時から、それこそ1日何十頭と乗ってきたでしょ?今の子はデビューしたてでも1日4頭くらいかな。

数も少ないし、鐙が長いんだよね。「鐙を短くして乗れ」って言ったよ。ジョッキーは鐙を短くしてスッとスタイル良く乗らないと。今はみんなそうでしょ?1日4、5頭だけ乗るとしても、鐙の長さの違いで後々に差がつくんだ。

戸崎:昔は鐙を短いままで乗っていましたね。中央に来て、今でこそ長くして乗りますけれど。

中野:そういうことをちゃんと基本的にやっていく内に、技術は後からつくと思うんだよね。でも技術より重要なのが挨拶。「おはようございます!」ときちんと言うようにって前々から言ってるんだ。挨拶から一日が始まるんだから、明るい顔をして「おはようございます」としっかり言うようにと。

★

戸崎:挨拶は"基本のき"ですからね。人間として。僕もそこは意識してきました。先生のお話を聞いていると、馬とコミュニケーションが取れていると言いますか、何をやったからこうできているわけでもなく、自然とそれができている。僕は馬とのコミュニケーションを今まで大事にしてやっていたのですが、お話を聞いていて凄く感じました。

中野:自然体でね。基本を知らない人は何をやっていいか分からないだろうけど、基本が身についている人は自然にできちゃうはずだよ。馬と心の中で対話できなきゃダメだね。

自分がペースは遅いなって感じたら、早めに行くぞって思うじゃない?そこから動作に移すより早く、そう思ったらもうすでに動いているような感覚だよ。

(ランフランコ)デットーリが日本に来た時、うちの馬で東京の1400mに乗ってもらったの。1番人気だったんだけれど出遅れちゃったんだ。それが向正面ではもう4番手にいたからね。しかもデットーリは動作をしてないんだ。やっぱり心で馬を操っているんだなって思ったよ。

戸崎:馬と会話できるって言いますよね。多分あるんですよね、そういう領域が。

★

中野:まして、戸崎君はなで肩じゃない。これはもう持って生まれたもの。アスリートはなで肩じゃなきゃいけないと思う。いくら才能があってもなで肩じゃないと。体つきを見たら素晴らしいね。

戸崎:体が小さいからこそ騎手になれたので、もう親に感謝です!

中野:俺は調教師になった時点ではもうちょっと大きくなりたかったな。足の長さも10cmくらい足したかったよ(笑)

2度の2着とは違った第91回日本ダービーに

——改めてですが、ダービーに挑む戸崎騎手へ先生からのアドバイスはありますか?

中野:そんなアドバイスなんてことはないよ。たださっきも言ったように、もう自分に勝って、馬を信じてだね。それしかないと思いますよ。勝てる技術やらは全部備えているからね。本当に"自分に勝って"ほしいな。

——くしくも「自分に勝つ」とは。戸崎騎手が常々…。

戸崎:そう!僕の座右の銘なんです。メンタル面は勝負の世界では大きく左右されると思っているので。

中野:繰り返しになってしまうけれど、心で勝って、次に技。まず自分が怖がってたり、モヤモヤしていたら勝負にならない。僕たちは一瞬で馬を操っていく職業だから。ちょっと迷っただけで何馬身もの差ができるし、相手もいる競技だからね。本当に迷いっていうのは負けに繋がるから。

戸崎:先生は自分に勝ったからこそダービーを勝てたわけですね。

中野:皐月賞の時は勝って当然と思って負けたんだ。気持ちに甘い部分があった。その分ダービーは今度は絶対に勝たなきゃっていう気持ちだった。そのためには何をするかって、色々な視点からレース展開を読んで、馬の性格も知って、相手のことも考えて…。あとはもう馬の力を引き出すだけのところまで持っていった。

競馬には自分1人ではどうにもできない部分はある。馬群がゴチャついたりね。自分に勝っていれば、そういう時に冷静に対応できるんじゃないかな。自分に勝っていれば取り返せるから、何があろうが大丈夫だって信じて乗ることが大事。ゴール板が動いたりはしないんだから(笑)

戸崎:精神的な部分が大事だなというのは僕も思っていました。今日は先生から凄く心強い言葉をいただけました。参考にしながらこの後の1ヶ月間を過ごし、万全の準備をしたいなという気持ちになっています。

★

中野:どうか楽しい1ヶ月で過ごしてください。

戸崎:この1ヶ月、本当に嚙み締めたいです。なかなかない経験だと思うので。

——皐月賞上位入線からダービーに向かう経緯は今までも経験されています。その時と今年の違いはありますか。

戸崎:違いますね。エポカドーロやダノンキングリーは距離に不安がありましたから。色々考えなきゃいけないことがあったんですが、今回は逆に東京の方が、ダービーの方が、皐月賞よりもいい舞台だなと思っています。そういった面では気持ちは楽になるところはあります。1番人気になるでしょうし、気の持ち様は違いますね。

中野:普段、人気は気にするの?

戸崎:いや~、気にしないですかね。先生は気にしました?

中野:俺も人気は気にしてなかったな。ダービーとかそういう特別な時は、人気よりもまず自分が乗る馬は強いんだと思って乗っていたね。

戸崎くんがこれまでは距離が持つか持たないかっていう不安があったって言ってたけれど、そういう不安があると乗り方も変わってくるんだよ。 皐月賞とは400mの差なんだけれど、この400mが大きい。今回はきっと距離も大丈夫っていうことなので、今までと違ってもっと楽な気持ちで臨めるのかな。今回は自信があるんじゃないかな。

★

ダービーに向けて順調に調整されるジャスティンミラノ

戸崎:エポカドーロとダノンキングリーの2頭は、何か工夫をしなきゃ、何とかしなきゃいけないなっていうのがあったかもしれないです。今回はもう思いっきりいけるというか、そういった部分はあります。

中野:皐月賞のペースで粘り切ったってことは凄いよ。これならっていう感触があるんじゃないかな。距離が延びて大丈夫なら。

戸崎:皐月賞の方が不安でした。初めて尽くしだったので。あれを難なくクリアしてくれたので、本当に自信を持たせてくれているのはありますよ。

中野:ダービーは出走馬18頭に色々な思いがあるし、それぞれのドラマがある。その頂点がクラシックであり、ダービー。応援しています。

戸崎:ありがとうございます!頑張ります。