
2016年の阪神JSでJRA史上初の同一重賞7年連連対記録などJUMPレースの顔として活躍する高田潤騎手。 そして、ファンサービスの積極性は競馬界一とも噂される熱き男の生の声をお届けします!
障害レースファン注目!直木賞作家と現役騎手がジャンプ愛を語る
2025/5/28(水)
馳星周氏最新競馬小説『飛越(ジャンプ)』刊行記念
馳星周✕石神深一✕高田潤「ジャンプ愛トーク!!」
直木賞作家・馳星周氏が障害競馬をテーマに執筆された最新競馬小説『飛越(ジャンプ)』(光文社)の刊行記念として、取材に協力した石神深一騎手、高田潤騎手と共に鼎談が行われました。なぜこの2人に取材を依頼したのか。「障害競馬を盛り上げたい」という3人の思いは…
1965年生まれ、北海道出身。横浜市立大学卒業。96年『不夜城』(第18回吉川英治文学新人賞、第15回日本冒険小説協会大賞)でデビュー。
『鎮魂歌 不夜城II』(第51回日本推理作家協会賞)『漂流街』(第1回大藪春彦賞)『少年と犬』(第163回直木賞)など多著多数。熱狂的なステイゴールド一族のファンとしても知られる。2023年7月から小説宝石で連載をスタートした『飛越(ジャンプ)』(光文社)が2025年5月28日に刊行される。
——これまで馳先生は『黄金旅程』『ロスト・イン・ザ・ターフ』『フェスタ』と競馬を題材にして3冊の本を書かれていますが、今回『飛越(ジャンプ)』を執筆されたキッカケを教えてください。

馳星周氏(以下、馳):自分が障害競馬大好きなので、いつか障害競馬のことは書きたいな、と思っていたんです。平地の騎手と比べて障害の騎手は数が少ないじゃないですか。人同士の繋がり、あるいは人馬の繋がり方も密なような気がするんですね。
そのなかで騎手たちはどうやって戦っているのか、どういう人間模様があるのかとか想像すると、絶対に面白いだろうなと思っていたので。
あとはオジュウチョウサンという絶対王者の存在ですよね。僕はオジュウチョウサンのファンで、なおかつ僕が大好きなステイゴールドの直仔ということもあって、もう大好きで大好きで応援していたけど「誰があの絶対王者を倒すんだ」というのはロマンなんですよ。

良い馬が回ってきたらこの馬で何とかオジュウを負かしてやろうという思いもあっただろうし、逆にオジュウがここのレースに出てくるんじゃダメだろうなという諦めもあっただろうし。
絶対的なチャンピオンという存在があって、そこに立ち向かっていく姿というのは小説として面白いと思ったし、それを書きたかったというのが一番の理由ですかね。
——現役ジョッキー2名に直接取材をされたようですが、なぜ競馬ラボファミリーの高田騎手にお声掛けを。
馳:何でも話してくれそうだと思ったから(笑)。
高田潤騎手(以下、高):アイツ断らなそうやな、みたいな(笑)。

馳:編集者と相談して「ジョッキーの話も聞きたいね」となったときに、高田騎手だったら軽く引き受けていろいろ話してくれるんじゃないかって。面識はなかったんですけど、トークショーとかやっているのを観た感じで、一生懸命に真摯に話してくださりそうだったんで、高田騎手がいいんじゃないかなと思って。
あと石神騎手はオジュウの主戦だったので、話をぜひ聞きたいということで。話を聞くのであればトップジョッキーじゃないと意味がないので、お二人に依頼しました。
最初は熊沢さん(熊沢重文元騎手)とも思ったんですけどね。熊沢さんはステイゴールドの主戦でもあったんで、障害以外のことをいっぱい聞いちゃいそうで。話がそれまくりそうだったんで(笑)。
石神深一騎手(以下、石):ステイゴールドの熊沢さんの話だけで一冊書けちゃいますね(笑)。

オジュウチョウサンの主戦・石神深一騎手
高:確かに確かに(笑)。
——お二人はこれまでに「小説の題材にしたいから取材に協力してほしい」という依頼を受けたことは。
石:小説はないですね。初めてでした。
高:騎手クラブから「馳星周先生から取材の依頼がきています。直木賞作家の」って連絡がきてビックリしましたよ。ええっ!?って。面識なかったんで、そこから馳先生のことめっちゃ調べて。
——取材はどのような形で進められたんですか。
馳:コロナの真っ最中だったんで、各々ズームでお話させていただきました。お二人とも何でもお話してくれて、面白い話をいっぱい聞かせてもらいましたよ。
平地から障害に使おうっていう馬を、最初にどうやって障害馬に向けて調教していくのか、という話を聞きたかったんですけど「最初は横木を跨がらせるところから」という話を聞いて、へー、そんなことするんだ、とか。

高:障害練習の一番最初に横木を跨がらせるなんて、競馬専門紙にもスポーツ紙にもどこにも載らない話ですからね。
馳:いちファンとしても面白かったし、小説家としてもいろいろ作品のなかに反映させてもらいました。基本的には聞きたいことを大まかに聞いて、あとは競馬ファンとして自分が知っていることと、小説家として書きたいことを上手く混ぜ合わせていく、みたいな。だから取材は大雑把でいいんですよ。障害騎手って普段何しているんですか?くらいの軽い質問で。
高:本当にそんな感じで、こっちとしても「え、これでいいの?これでもう書けるんすか?」みたいな。

馳:書いちゃいました(笑)。で「競馬社会の人間関係について何でそんなに知っているんですか」と言われたりしますが、それはもう想像力です。想像力で補っています。
石:そこが凄いですね。人間の心情とか、僕たち競馬のプロから見ても、なんでここまで分かっているんだろう?って思うくらいリアルな感じで。円谷が酒浸りになるとか「ああ、よく分かるわあ」って(笑)。先生がこれまで書いてきたいろいろな経験も生かされているんでしょうね。
高:グランドジャンプとか大障害とか、大きいレース前にはパドック集合時間が近づくにつれてみんなが無言になっていく、とか何で知ってんの?って(笑)。

馳:僕は騎手じゃないけど、同じ人間じゃないですか。同じ人間だったら、こういうときはこういう考え方をしたり、こういう反応をするんだろうなっていうのが、100パーセントそうかは分からないけどだいたいこんな感じだろう、それほど外さないだろうな、と。
——取材を基にして、作品中の人間関係を書かれているのかと思っていました。
馳:これも小説家のタイプによって様々で、ものすごく細かく取材する小説家もいるんですけど、僕はあんまり知りすぎちゃうと嘘が書けなくなっちゃうんですよ。
小説っていうのは基本的に嘘、フィクションなので、やっぱりその嘘を書ける余地を残しておきたいんですね。ここでストーリーをグンッと加速させるために噓を1個入れたいっていうときに、本当のことを知っていると「あ、これ嘘じゃん」って書けなくなっちゃう。

でもね、嘘でいいんですよ。ジョッキーやホースマンは「こんなのねえよ」と思うかもしれないけど、なくていいんです。なぜなら読者は知らないから。だからその嘘を書くために、自分が知らない余地を残しておかないといけないんです、僕は。
これは競馬の小説だけに限らないですよ。いろんな小説を書くときに、必要最低限の話を聞いたら、あとは知らない方がいいっていうスタンスなので。知りすぎちゃうと、嘘が書けなくなっちゃうんですよ。これはありえないことだからって。でもありえないことがないと、物語って面白くならないんですね。
高:僕も読んでいて思いましたね。僕らから見たら「いやいやいや…」ってなるところもありますけど、結局この物語を読者がどう感じるかが大事であって、実際に100パーセントのリアルを伝える必要って全くないじゃないですか。

馳:それだとノンフィクションになっちゃうんですよね。
高:僕らは読んでいてフィクションの部分が分かるじゃないですか。でも例えば6割本当のこと、4割フィクションというバランスがあることで、読者の興味がかきたてられるというか。ジャンプを読ませていただいて、フィクション小説ってこうあるべきなんかな、ってすごく感じました。
石:絵もないから、その部分も自分の想像で広がりますよね。

馳:そうそう。読む人の想像力にあとはお任せだから。その想像力を補ってあげる最低限のことを僕らはしなきゃいけないんだけど。
石:水戸市近辺で円谷が酔っ払ってるところとか面白かったです(笑)。
——石神騎手はオジュウチョウサンに騎乗されていた経験があるので、ジャンプを存分に楽しまれたのでは。
石:どっちの翔吾さんの気持ちも分かる、みたいな感じでしたね。最初の酔っ払っている円谷が俺なのかな?と思ったり、絶対王者は森山だから俺は森山かな?とか。まあ僕も最近は酒臭いまま調教に出ることはないですけど。
高:以前はあったんかい(笑)。

石:競馬の日の当たる部分ではなく日陰のところもしっかり書いてくださっていたので、より面白さが増していると感じましたね。本当、読んでいて面白いですよ。
高:こういう障害レースをテーマにした小説って、なかなかないじゃないですか。こうやって一冊の本にしていただいて本当にありがたいな、って僕らも思います。
馳:競馬の小説を書くにしても、JRAのスポットライトが当たるところは興味がないんですよね、小説家としては。ステイゴールドが好きなのもそうなんですよ。ディープインパクトじゃ、スポットライトが当たりすぎてつまらないんです。なんか裏街道みたいなのが好きなので。みんなにもっと知ってもらいたいですね、ジャンプレースのことを。
——JRAもバックヤードツアーをしたり、レース中継でドローン撮影を取り入れたり、スクーリングの様子をSNSで発信したり、障害レースを盛り上げようとしていますが、ファンの反応についてジョッキーのお二人はどのように感じていますか。
高:SNSを通じて閲覧数もすごく多くてコメントもたくさんありますし、改めていろいろなイベントをやって良かったなと思っています。こういうのは大事ですし、盛り上がるし、必要とされているかなというのも感じたので、これからもこういうことをやり続けていきたいですね。

石:本当、継続していくことが大事だと思います。
馳:僕のXのタイムラインて偏っていて競馬のことしか流れてこないんだけど(笑)、障害ファンって、めっっっちゃ熱いですよ。ものすごくいろいろなことを調べていて、各ジョッキーのバイオリズムがこうだとか表示している人がいたりして「スゲーな」と思うくらい熱い人が多いです。
石:障害ファンは、高い熱量で声を掛けてきてくれますね。
馳:障害を愛してくれる人たちはいっぱいいるんでね、そういう人たちをもっと増やしていきたいなと思います。
僕はまだ競馬歴8年くらいで、ジャンプレースも最初は胸が痛くて見られなかった。それは何でかっていうと、やっぱり事故が多いから。それを変えてくれたのは、やっぱりオジュウチョウサンなんです。こんなに強くてカッコいい馬がいるんだ、と。しかもステイゴールドの子だし。

競馬ファンのなかにも「障害は興味ない、馬券も買わない」っていう人は多いじゃないですか。だから、そうじゃないよ、障害って熱いよっていうのを書きたかった。
石:本当、ジャンプを読んで一人でも多くの人に障害レースを見てもらいたいですね。
馳:JRA馬事文化賞もらえないかなあ。僕はこれまで何かの賞が欲しいって言ったことはないんですけど、ひとつだけ欲しいのが馬事文化賞なんです。去年『フェスタ』でもらえるかと思ってたんだけど、初老ジャパンがいてもらえなくてさ(笑)。
石:相手が強かったですね(笑)。
高:いや、これは馳先生に馬事文化賞を取っていただきたいですね。障害ファンにジャンプを読んでもらって、その熱さで障害に興味のない人たちも巻き込んで盛り上がっていって、最終的に馳先生が馬事文化賞を受賞されたら最高ですね。

馳星周氏サイン入り『飛越(ジャンプ)』を抽選で5名にプレゼント!6月4日(水)締め切り
funfunkeiba@keibalab.jp
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プロフィール
高田 潤 - Jun Takada
1980年11月3日生まれ、大阪府出身。
1999年に松田博資厩舎所属から騎手デビュー。デビュー当初から、平地・障害の垣根を越えた活躍を続けると、2006年にはドリームパスポートで神戸新聞杯を制覇。これが平地重賞初勝利となった。
一方、2008年にはキングジョイとのコンビで中山大障害を制し、キャリア初のJG1勝ち。2013年には待望の障害リーディングに輝いた。
また、2009年には師匠である松田博資師の元を離れ、フリーに転向。2012年にも生涯の伴侶を得るなど、公私ともに充実期を迎え、障害競走の次代を担う存在として更なる活躍が期待される。