競馬専門紙にて記者として30年余り活躍。フリー転身後もその情報網を拡大。栗東の有力ジョッキーとの間には、 他と一線を画す強力なネットワークを築く平林氏が、現場ならではの視点でレースを分析します。
【安田記念・解説】インディチャンプ G1初挑戦で初勝利、春のマイル王だ!
2019/6/4(火)
19年6/2(日)3回東京2日目11R 第69回 安田記念(G1)(芝1600m)
- インディチャンプ
- (牡4、栗東・音無厩舎)
- 父:ステイゴールド
- 母:ウィルパワー
- 母父:キングカメハメハ
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スタート直後にダノンプレミアムの鞍上の動きが変だった。前で競馬をするだろう馬が後ろにいるだけで何か嫌な予感がする。アーモンドアイと同じ様な位置での競馬。そのダノンプレミアムは直線で失速してゴール後に下馬していた。
アエロリットが逃げて、1000mが57.0だがスムーズな流れ。絶好の4番手ぐらいを進んだインディチャンプが、直線半ばで内目から外へと出して来た。逃げ込まんとするアエロリットをキッチリ捕らえてのゴール。アーモンドアイは最後に良く進路を確保して伸びては来たが、届かない脚色でもあった……。
何がどうなったのか。JRA-VANのPVがなかなか出てこなかった。
やっと画面で確認できる時間となった。ロジクライがスタートして2完歩目ぐらいに内へと逃げてしまっていて、4頭が被害を受けてしまっていた。一番ひどかったのはペルシアンナイト。その内のロードクエストは後脚が流れていた。競馬はスタートが肝心。狭いゲートから出た瞬間にいろんな事が起きる。競馬の最初の部分であり、大概の全てを左右するものでもある。それがまさかここで起きてしまうとは…。
ダノンプレミアムにアーモンドアイも、思わぬ位置になったのは間違いない。その時点でこのレースは大きく違う方へと向いてしまった気がする。アエロリットがすんなりと先手を取って行く。2F目だけが10.9で後は11秒台の前半ながら絡まれずに行けた。
1000通過を57.0は、今や速い流れとは言えない時代だ。2番手グァンチャーレ、3番手ロジクライ。その後ろにインディチャンプ。前走の様に遅い流れではないから、折り合いは十分についている。アーモンドアイとダノンプレミアムは並ぶ様に後ろめにいる。ペルシンナイトは最後方だ。
道中の各馬のポジションを見ても、想像していたそれと大きく違うのが解る。そもそもダノンプレミアムがこの位置にいることがあろうはずがない。アーモンドアイはそのダノンプレミアムの後ろめだろうが、これ程後ろでもないはずだ。そんな気持ちで4角を迎える。
直線に入って、後ろにいたスマートオーディンに並ばれたあたりではステッキも入れて追っていたダノンプレミアムだが、その後はもう戦意喪失となったのか、最後は流してのゴール。すぐに下馬していた。アーモンドアイは直線で馬群の中。すぐ目の前をインディチャンプが内から外へ出して行ったが、その後ろで外へ出せて進路は出来た。そこからあそこまで肉薄していったが、やはりスタートでのあのハンデがありながら、良くここまで追い上げられたもの。改めて凄い能力を持った馬だと言えようか。
勝利インタビューで、かなりの暑さで湯気が出そうな福永騎手がコメントの中で、『完璧に乗らないと勝てないと思っていた…』と語っていたが、まさしく言葉どおりに完璧に力を発揮できたインディチャンプ。直線半ばで内目から外へ、ロードクエストの外へ出して来てからのギアの上がり方が半端なかった。前を行くアエロリットを完全に上廻る脚色であり、猛追して来たアーモンドアイの勢いをも受けとめる凄い力を出しきっていた。
完全に力を出し切った勝者。2着馬もそうだろう。それに対して、相当なるハンデを背負ってしまった本命馬。クビ・ハナでの差しかないが、永遠とも思える差であったかも知れない。
火曜朝の坂路監視小屋には、残念ながら勝利調教師の音無師はいなかった。牧場廻りでもしているのだろう。池江師とは少しだけその件で話せたが、言葉少なに『仕方のないことでした…』だった。後で監視小屋内での会話は当然にあのスタート直後のこと。いろいろな意見があるのも確か。ただ勝ったのは実力を余すことなく発揮できたインディチャンプであり、負けてなお強しはアーモンドアイだったのは間違いのない事実であろう。
プロフィール
平林雅芳 - Masayoshi Hirabayashi
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、その情報網を拡大し、栗東のジョッキーとの間には他と一線を画す強力なネットワークを構築。トレセンおよびサークル内ではその名を知らぬ者はいないほどの存在。