成長一途のヨハネスブルグ産駒 タガノブルグが古馬と激突へ
2014/8/10(日)
-:関屋記念に向かうタガノブルグ(牡3、栗東・鮫島厩舎)ですが、橘Sから中1週で挑んだNHKマイルCでは驚きの末脚を発揮してくれました。
鮫島一歩調教師:ジョッキーが上手いこと乗ってくれましたね。コーナーを内々で回って、上手いこと外に出して、終いは切れました。あの競馬で1600でも大丈夫なんだな。東京の1600をああいう形で差してくるのだから、将来的には距離を延ばしてもいいのかな、と感じました。
-:あの時は17番人気でした。評価が低かったのは、ファンの見る目がなかったのではなく、この馬の戦績を見ると致し方ないのかと思います。アーリントンCの時に勝ち馬のミッキーアイルと戦って、着順は4着ですが0.8秒負けています。
鮫:あの時は完全にミッキーアイルの一人舞台で、他が競りかけていかなかったというのと、ジョッキーがジッとしていれば、もうちょっと前(の着順)があったのかなという感じはあります。
-:それがNHKマイルではタイム差なしのクビ差です。
鮫:際どいところまできましたよね。
-:脚質的なものを考えると、毎回毎回とはいきませんが、展開さえハマればタガノブルグも大きい舞台で勝てるのかと考えられます。
鮫:その前の1400を良い時計で勝っていますし、能力はそれなりにあると思います。
-:1分20秒を切っていますよね。
鮫:内々を回ってくるという、上手い立ち回りができるというのも能力ですし、それを考えると、面白い馬なのかと思います。
-:特に追い込み馬の中には、大外を回して、他の馬を怖がるデメリットを抱えながら、末脚の良さだけで上位を狙うケースも多いと思います。この馬の良さは内外関係ないところですか?
鮫:普段からうるさいのですが、気持ちがけっこう強いのです。
-:パドックなど、僕らファンが目にするところでは、チャカチャカしていて、短距離馬にありがちな気性なのかなと思ったのですが、厩舎で見せて頂くと、意外に落ち着いている面もありますよね。
鮫:厩舎では人に対しても従順だし、落ち着いています。ウチの同じ様なタイプにエールブリーズがいますが、あの馬は最初も掛かるし、オドオドしたりしますが、厩舎でも人にかかってくるんです。そういう面では、タガノブルグは大人しいし、良い子ですね。
-:オンとオフの使い分けができているのですね。
鮫:そうですね。
-:先生がこの馬を初めてご覧になったのはいつ頃だったのですか?
鮫:オーナーから預かったのは2頭目ですが、けっこう遅かったです。育成場に入ってきてから初めて見たのですが、頭が高くて難しそうな馬でした。入ってきてからも頭が高いし、とにかく苦労しました。今はそういうところが全然ないです。
-:それはハミ受けなどですか?
鮫:ハミを嫌うというのもありますし、ああいうタイプなので、馴致が難しかったのだと思います。こっちにきてから、じっくりとやっていったら、けっこう素直に思ったより早く矯正できました。
-:猛烈に追い込んでくる馬というのは、前半なだめるのに苦労したり、諸刃の剣みたいなところがあります。この馬は案外、騒ぎません。手応えが感じられないくらいで、逆に心配になります。それほど乗りやすそうなイメージがあります。
鮫:NHKマイルCでも馬込みの内々に入って、経済コースを通って折り合いがついていたし、直線もジョッキーが狙ったところから抜け出せました。そういう面では、乗りやすい追い込み馬なんですかね。
「体型だけでは一概に言えないのですが、この馬は体型や気性的にスプリンターですよね。だけど、レース運びを見ていると、もう少し距離に融通性がある気がします」
-:もともと末脚が確実な馬でしたが、あそこまで切れるなら、もうひとつ上の舞台で初タイトルを狙っていきたい馬だと思います。右回りも左回りもこなせますし、展開には左右されるかもしれませんが、確実な末脚を持っています。お父さんのヨハネスブルグは現役時代には2歳戦しか勝っておらず、3歳では勝てずに引退しているんですよね。
鮫:早熟性は子供にも出ています。他の馬たちも勝ち上がり率は高いし、短いところではポンポン勝ちましたからね。この馬も気性的には短距離馬かなという気はしました。
-:マイルを持つからには、短距離馬の中でもマイラーという表現でいいと思います。
鮫:東京のマイルをああいう形で走れるのだから、スタミナはあると思います。パドックなんかでチャカチャカする面が落ち着いてきたら、距離もこなしてくるかなという気はします。
-:その辺はお父さんのブリーダーズカップ・ジュヴェナイルも勝っている血に、母系にはスペシャルウィークが入っています。スペシャルウィークは伸びすぎて、コルク針みたいに縮めておくことが難しく、弾けさせるのに苦労するイメージがあったのですが、この馬はどちらかといえばヨハネスブルグが出ているのですか?
鮫:出ている感じですね。スペシャルウィークというよりもヨハネスブルグですよね。体型的にも短距離馬の特徴を持っています。
-:バリバリの1200や、スプリンターズSに出て行くような体型でもないですね。
鮫:体型だけでは一概に言えないのですが、この馬は体型や気性的にスプリンターですよね。だけど、レース運びを見ていると、もう少し距離に融通性がある気がします。
-:一回、2000mとかも使ってみてもいいかなという感じですか?
鮫:東京だったら1800にしますかね。これから1600で慣れていったら、案外、面白いかもしれません。
-:コーナー4つがこなせたら、選択肢も広がりますよね。
鮫:器用さがあるので、コーナーは案外いいかもしれません。
-:ヨハネスブルグ自体も、4歳で種牡馬的な価値を落としたくないから、現役を引退しただけの話で、2歳時の成績だけで早熟と決めるのは危険かもしれません。その後は未知数ですから。そういう意味では、タガノブルグの活躍は、セレクトセールに向けてもタガノブルグの価値やイメージを変えた気がします。
鮫:僕自身のイメージも変わりました。ヨハネスブルグで長いところを走っている馬はいませんが、自分のところの馬で1800、2000と試したいですよね。
-:夢を与える意味でも使ってみてください。
鮫:これから使っていって、もっと落ち着きや融通が出てくれば、近い将来に試してみるかもしれません。
タガノブルグ・鮫島一歩調教師インタビュー(後半)
「古馬初対戦のパートナーは岩田騎手」はコチラ⇒
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プロフィール
【鮫島 一歩】 Ippo Sameshima
鹿児島南高校馬術部時代にしごかれた先生が、“トシ”の冠名でお馴染みの馬主の上村叶氏(かみむら かなえ)。
卒業後はブラジルで酪農をやる夢を抱き、鹿児島から北海道に渡り酪農学園大学の酪農科に入学。高校での厳しい訓練に音を上げた馬術だったが、馬を見ると乗りたくなってしまい馬術部に入る。この大学時代の同期が飯田雄三調教師。飯田師が4年で卒業した後も留年して、1年遅れで昭和53年に栗東の増本豊厩舎に調教助手としてトレセン入り。
2000年に厩舎開業してからは、馬術を基礎にした地道な調教で活躍馬を送り出した。「馬の気持ちを考えながら馬と対話したいですね。毎日苦しい調教に耐えている馬に優しくしないとね」。
1954年鹿児島県出身。
1999年に調教師免許を取得。
2000年に厩舎開業。
初出走:
00年3月4日 1回阪神3日目12R
イケツキフジ、同アイアルカング
初勝利:
00年5月6日 3回京都5日目12R ギャンブルローズ
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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