
夏馬インカンテーションが勝負の秋シーズンへ
2014/11/2(日)
軽い気持ちでいた緒戦から激走
-:みやこS(G3)に出走するインカンテーション(牡4、栗東・羽月厩舎)ですが、夏に復活してからの活躍が目まぐるしかったですね。帰厩されたということで、まずエルムSから振り返って頂きたいのですが、どんな変化がこの馬にあったのでしょうか?
羽月友彦調教師:オープン馬でもありましたし、重賞を勝っていたのですけれども、全然調教は目立たなかったんです。それが、この夏の調教からは、急に速い時計が出るようになっていて、その辺は成長したんだなあ、と感じていました。エルムSに関しては8ヶ月ぶりでしたし、過度な期待はしていなかったのですが、ビックリするくらいに走ってくれて、改めて力を感じました。
-:その辺りはファンの人気にも表れていて、先生と同じような目で見ていたと思うのです。まさに4コーナー手前からの行きっぷり、つまりエンジンがかかった時に、幾らか早いのかな、と思うほどの勝ちに行く勢いには、正直びっくりしました。こんなにいきなり走れるものなのかという。先生も同じように感じられましたか?
羽:過程が全然順調ではなかったので、あのレースに関しては、無事に回ってきてくれればいい、という程度にしか思っていなかったですね。

-:それがあそこまで走れたということは、インカンテーション自体の気持ちの強さや、仕上がりの早さがあったのでしょうね。後の新潟の2戦というのは、ローテーションをきっちり1ヶ月ほどずつ取られていましたが、今年の夏の前半は暑かったじゃないですか。特に新潟の2戦目とか、その影響がレースに出ないのか気にしていたのですが、ものの見事にアッサリでしたね。
羽:夏が得意みたいですね。去年もそうでした。
-:それに加えて3戦とも輸送だったということを考えると、結構タフなのではないでしょうか。
羽:輸送引けはしているんですよ。栗東では500キロほどはいつもあるのですが、新潟へ行くと20キロ近く減っているんですよ。
-:それでも競走成績にそれが影響していないというのは、やはりハートが強い馬だということですか?
羽:頭がいいですからね、この馬は。
平坦コースで安定している理由は?
-:その頭の良さについてですが、例えば、ファンの知らない馬房の中や、それから調教の仕草など、教えていただけますか?
羽:凄く人懐っこいですね。例えば餌を食べているところへ人間が入っていっても、全然威嚇したりしないです。それに、よく寝ています。新潟などに出張しても、お昼を食べたら、ドテッと横になってますね。普通は輸送をしたらソワソワするものですが、調教はうまい具合に手抜きしてきます(笑)。
-:その辺は、写真を撮っていても「不思議な馬だな」と思いますね。どちらかというともっさりしているのに、時々尻っぱねしたり。遊んでいるのか、もしくは楽しんでいるのか、馬に聞いてみないと分からないですけれども。馬房で寝転んだりとか、凄くリラックスできるというのは、アスリートとしてはすごく大事なことですね。
羽:休むときに休まないと力も出ないだろうし、そういう点では手がかからず、賢いですね。
-:これまでの成績を振り返ってみると、坂のコースが苦手なのかなと、結果だけからは見受けられるのですが、いかがですか?
羽:阪神と中山、良くないですね。
「ただ、恐らく(敗因は)直線の坂のせいではないと思うんですね。阪神、中山だと、もう最初から競馬になっていないので」
-:ただ中京での勝ち星はありますし、一概には言えませんね。それに、この夏の成長と調教での動きが変わってきたということからも考えると、今後はまた違う一面も魅せてくれるかも知れないです。
羽:そうかも知れないです。札幌コースに坂はありませんが、決して向いているとは思えない札幌でも抜け出してくれましたし。ただ、恐らく直線の坂のせいではないと思うんですね。阪神、中山だと、もう最初から競馬になっていないので。
-:その辺りは、先生の解釈では、どこにポイントがあると思っていますか?
羽:正直分からないですね(笑)。
-:直線平坦とは言っても、この間の新潟とか、札幌、京都、色々と競馬場は違うじゃないですか。だから平坦なコースでも、なにか何処かでやらかすというか、できないことが有りそうなものなのですが、直線が平坦なコースでは安定しているんですよね。
羽:そう。本当によく分からないですね(笑)。
目安の馬体重と注意しておきたい気配
-:今度の京都での一戦というのは、また1ヶ月ちょっと休んだことで、リフレッシュした姿が見られるのですか?
羽:はい。ずっと放牧に出さず栗東にいたのですが、2週間ほどはかなり楽をさせ、先々週からは徐々に調教を強くしてきています。こちらの期待通り、休むときは休んでくれる馬なので、一旦緩んだ体も、段々と引き締まっているんじゃないかな、という印象です。
-:すると、体重面に関しては、今回は近距離輸送じゃないですか。増えてきても問題は無いという解釈でいいですか?
羽:この馬は結構、体重の増減が多いのですが、成績には影響していないので、6~8キロ増えても大丈夫だと思います。
-:もし体重を気にしなくていいとしたら、先生の感覚でファンの目線になってみて、パドックや返し馬での仕草の時、何か分かりやすい好調の仕草、ポイントなどが有ったら教えて欲しいです。
羽:この馬は特にないですね、そういうところは(笑)。
-:そんなにイレ込むタイプではありませんか?
羽:イレ込まないです。適度な気合い乗りですね。だから、もしイレ込んだりするようなら良くないとは思います。……そういえば一度有りますね。東京に行った時だったかな、凄くイレ込んでしまい、ゲート入りも危なくて、ということが。
-:余り入れ込みすぎるのは……。
羽:マイナスでしょうね。
-:でも、これだけこの夏に安定していたら、トレセンでも期待が高まっていると思うんです。今、追い切りが終わったところですが、2頭併せで追われて、動きとして、先生の期待や予定されていたことと比べてどうでしたか。
羽:想定していた通りだったと思いますよ。

-:そこまで「調教=レース」というタイプではないので、順調に調教をこなせていたらレースでも動ける、と思っておけばいいですね。
羽:そう思います。
-:これだけ連勝できていたら、3連勝目という期待を持つファンもいると思うので、メッセージがあればお願いします。
羽:はい、ぜひ3連勝、4連勝したいと思っているので、応援してください。よろしくお願いします。
-:この先は、チャンピオンズカップという大目標がある訳ですけれども、先程インカンテーションは夏が得意という話でしたよね。チャンピオンズCは真逆じゃないですか。その辺りの心配はしなくてもいいのでしょうか?
羽:う~ん……ちょっと心配です(笑)。
-:それはまた、直前のレース前に時間をいただけたら取材させてください。どうもありがとうございました。
羽:こちらこそ。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦)

プロフィール
【羽月 友彦】 Tomohiko Hatsuki
1995年に名門、小林稔厩舎よりトレセン生活をスタート。その後、石坂正厩舎にも所属し、一流厩舎でのノウハウを経験し、'07年3月より厩舎を開業。乗馬で培った技術を調教に取り入れつつ、縦列調教で逍遙馬道を用いたトレーニングスタイルで育成に努めている。
'08年には湯浅三郎厩舎より引き継いだ実力馬ワンダースピードで重賞初勝利を挙げると、同馬で幾多のダート重賞を制した。現在オープン馬は(11/2現在で)2頭を管理。片割れのインカンテーションは厩舎生え抜きの出世頭。秋のG1挑戦で更なる高みを目指している。
1970年鹿児島県出身。
2006年に調教師免許を取得。
2007年に厩舎を開業。
初出走:
2007年3月10日 1回中京3日目9R セフティーフリーズ
初勝利:
2007年4月8日 2回阪神6日目10R ワンダースピード
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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