馬を信じて連覇を期す 生粋の淀巧者トーセンラー
2014/11/16(日)
ファンに持ち味を理解されている馬
-:今年もマイルCS(G1)に向かうトーセンラー(牡6、栗東・藤原英厩舎)ですが、前回の京都大賞典はちょっと残念な結果になりました。
荻野仁調教助手:3着ですが、前残りの展開でした。馬場も回復して、もしかしたら良いかなという気持ちもあったのですが。
-:京都大賞典は2年連続で3着ですが、去年の3着とは意味合いが違っています。去年はゴールドシップが出ていたので、ゴールドシップをマークに行った競馬でした。それで伏兵に足元をすくわれての3着でした。ですが、今回は展開に泣いた3着でした。
荻:勝ちたかったですが、悲観はしてないです。
-:トーセンラーは馬場が良い時じゃないと走れませんし、馬場が良くても先行馬の前残りがあり、諸刃の剣のような難しさがあります。
荻:その通りです。ファンもその辺を理解してくれていると思いますし、常に良い天気、良い馬場でやりたいです。
-:レース前にこの馬が運動をしているところを見させて頂いたのですが、今までよりもちょっと大きく見えて、凄く楽しみにしていました。
荻:去年ぐらいから460前後の体で競馬をするようになって、だいぶどっしりした競馬をするようになりました。弟のスピルバーグも天皇賞(秋)を勝って、脚元に色々あっただろうけど、待てばこの血統は走りますね。420、30台で菊花賞やダービーを走っていましたが、当時は貧相な体でしたよね。ようやく大きくなってきました。
-:競馬場よりトレセンで見る時の方が、一層男馬らしいですよね?
荻:どっしりしています。もう主になっています。
-:それをレースに生かして欲しいです。
荻:僕もそう思います。ここを目指してやっていましたし、馬も状態が良いです。
-:連覇を狙えるデキにありますか?
荻:今のデキは良いです。あとは全てが噛み合えばですね。
6歳秋で体調維持はおてのもの
-:1週前の坂路では朝一番、誰も走っていない綺麗な馬場をユタカジョッキー(武豊騎手)でサーッと上がってきました。時計的にはそんなに速くなかったですよね?
荻:先週に小崎騎手を乗せて軽めにやりました。テンからサーッと行って、52秒台の終い12後半くらいで上がってきました。いつものパターンで、軽くサーッと走らせてから、今回はちゃんと誘導をつけてやりました。
-:どの馬と併せたのですか?
荻:トーホウストロングです。道中は誘導馬のペースで、最後にスッと抜けました。抜けての反応を確かめてもらって、反応が良くても悪くても、ちょっと気合いをつけて、足りなかったら一発入れてという感じでした。「良かったわ」とのことでした。
-:あのひと追いで完成ですか?
荻:段階的にやっています。先週はサーッとやって、今週は待ってからの切れで、来週は同じような調教で、楽な手応えで上がれたら完璧というイメージです。今週は先生が所用でいなかったので、言われた指示通りにやりました。
-:素人目に見たら、1週前なので、もうちょっとやっても良かったのかなと。全体の時計ももうちょっと速めでと思いました。
荻:それは前の週にやりました。51秒台とかが出れば良いというものではなく、一回競馬も使っていますし、前の週に52秒でやりました。終わった後の息の入りもありますし。
-:ラーは牝馬っぽい調整に近いのですか?
荻:うちの厩舎自体が51を出したらどうのこうのではないです。毎週の組み立てですね。
-:藤原英厩舎の時計を見ていると、馬場の悪い時は極端に遅くしたりもしていますよね?
荻:やればいくらでも走れる馬ですが、負荷を掛ける部分と、疲れを残さない部分の兼ね合いですね。
-:坂路で好時計を出した馬が、レースで疲れているのは多々あることですからね。
荻:そう思います。他所と比べたりしないですし、先生は先生のやり方でやっています。
-:ラー自体は若い時に比べて、同じ坂路で走っていても、疲れの取れ方とかが変わってきているのではないですか?
荻:全然違います。若い頃は時計を出すと疲れたりしていましたが、もうおっさんですしね。
-:晩成型の血筋を考えると、おっさんというよりも、熟成されたという感じですね。
荻:ピークはピークであって、それが長く続くかはどうですかね。衰えがないとは言い切れないと思います。今はこの馬の状態が良いので、その状態で走らせて、あとは結果がどうでるかですね。最大のコンディションで走れた時に、結果を残せるなら、この馬は凄いなと思います。前の年に勝った馬が、その次の年に勝つかといったら、他の厩舎でもそうでもないですし、加齢はありますよね。父のディープインパクトやオルフェーヴルのような、超ド級のオープン馬とは違います。あの辺は本当のスーパーホースです。どこに行っても勝つような馬ではないです。条件が揃わないと走らないです。
新興勢力が例年以上のマイル戦線
-:京都のマイル戦と言ったら、条件としては揃っているのではないですか?
荻:そうですね。今回は良い条件であれば、落としたくないレースです。相手もけっこう渋いですよね。
-:去年以上に、色々な面で楽じゃないですよね?
荻:ワールドエースも強いですし、展開的には色々あってもミッキーアイルもいますからね。
「(ラーが)分かってくれればいいですけどね(笑)。あの馬が直線で思いっきり気持ちを出してくれる態勢で臨みたいですね。あと1週間ありますし、気を抜かないようにしたいです」
-:若いライバルたちですね。
荻:あっちはみんな良い時期にきています。若い馬達の方が、去年のラーみたいにバカッ走りする可能性もあるわけです。
-:そこは藤原厩舎として、事前から組み立てて、長いスパンを掛けてマイルCSの舞台に送り込んでいます。熟練の技と経験を生かし、ラーの経験を花開かせることが可能じゃないですか?
荻:どこの厩舎も一緒のことを考えてやっているので、みんなそれなりにビシッと仕上げてきます。
-:僕ら素人からして、藤原厩舎といったら、狙ったレースを獲りにくる精度は一流です。弟が天皇賞(秋)を勝っていますし、兄貴もここでひと頑張りして欲しいです。
荻:頑張らないとですよね。分かってくれればいいですけどね(笑)。あの馬が直線で思いっきり気持ちを出してくれる態勢で臨みたいですね。あと1週間ありますし、気を抜かないようにしたいです。
全弟スピルバーグが天皇賞(秋)制覇
-:前回に6キロ増えていた馬体というのは、トレセンではもうちょっと増えているのかなという印象でした。あそこから数字を気にして減らす必要もないですよね?
荻:減らすとかは考えてないです。
-:走れる態勢にある条件で、出たなりの体重で良いということですよね?
荻:動きですよね。普段の調教で乗っている感じと、追い切った感じを見ていて、動けている感触かですね。ジョッキーは去年の追い切りも乗っていますし、こっちの思っていたイメージで動いていたかどうか、それがその馬の体ですから。
-:6歳の秋のトーセンラーの体ですね。
荻:先生の言う「馬を信じろ」ですね。あまりにもボテッとしている馬なら絞らないといけませんが、それがその馬の今動けている体なら、普通に食わせて、普通にします。馬も競馬が迫っているのは、何回も走っていたら分かるので、もうモードに入ってくる時期です。昨日みたいにジョッキーを乗せると馬も分かってくるし、ここから自分でモードを作ってくる馬です。
-:若干マイナス(体重)になっていても、それはラーがモードに入っているということですね?
荻:そんなに気にしなくていいと思います。
-:ディフェンディングチャンピオンとして、堂々とした切れ味を期待しています。
荻:晴れて良馬場なら(笑)。
-:マイルCSで雨ってあんまりイメージないですよね?
荻:そうだといいです。
-:最後に、スピルバーグを応援していたファンもラーを応援していると思います。
荻:ラーの弟ですから、あの馬は絶対に走ってくると思っていました。
-:スピルバーグの方が若い時からマッチョ系で、肉質が多かったです。
荻:あの馬は難しかったと思います。天皇賞を勝つんだから、大したものですよね。
-:ラーのファンにメッセージをお願いします。
荻:みんなで晴れることを願って、良馬場で競馬できることを願いましょう。応援のほどよろしくお願いします。
-:プラス、流れる展開ですか?
荻:流れて前でやりあってくれる展開が良いですね。
-:去年みたいに馬場の真ん中からきて欲しいです。
荻:理想ですよね。なかなかあんなに綺麗な競馬はないですよね。去年は周りも度外視していました。やってみないと分かりませんからね。テン良し、終い良しのマイルのスペシャリストが出てきて、中でタメたりしているのを見ながら、それを全部差し切るというのは、大したものですよね。またああいう競馬ができれば良いんですけどね。
-:他の舞台でも、京都なら結果を出す馬ですからね。
荻:また中距離で使っているので、マイルでもゲートを出てテンでガツンと行くイメージはないです。落ち着いて前でやりあってくれるのを見て、道中は楽な気持ちで追走していて、スッと良いところ、良い枠から出したいです。タイミングも去年はバッチリなんですが、枠順とかで、あんまり後ろから行っても届かないです。去年は完璧でしたが、いつも簡単に競馬はいかないですからね。
-:今年も決まるように祈っています。有り難うございました。
(取材・写真=高橋章夫)
プロフィール
【荻野 仁】 Hitoshi Ogino
卓越した調教技術は、専修大学時代の馬術チャンピオン(障害)という裏付け。藤原英昭厩舎の開業当初から調教助手として屋台骨を支えており、フードマンとして各担当からの意見を取り入れ全頭の飼い葉を調合している。2つ上の先輩である藤原英昭調教師とは小学生時代から面識があり、両人の絆と信頼関係は絶大。名門厩舎の躍進を語る上でこの人の名前は欠かせない。
プロフィール
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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