例年以上に出走までのハードルが高かった今年の有馬記念。起死回生のG2連勝でここまで漕ぎつけたが、騎手時代から同馬に携わっている野元調教助手は、それが当たり前と言わんばかりに、かねてから秘めていた能力を強調する。今回は一気の相手強化となるものの、レコード決着の別路線組となれば、ダークホースとして侮れない。かつて同レースで波乱を演出してこともある名門厩舎の刺客、それがラストインパクトだ。

勝ち癖をつけて挑む大一番

－：ラストインパクト(牡4、栗東･松田博厩舎)が金鯱賞で重賞連勝。おめでとうございます。

野元昭嘉調教助手：ありがとうございます。

－：次は有馬記念なのですが、使った後の状態というのはどうですか？

野：別に変わりないですね。レース後に少し疲れは出るのですが、徐々に回復して問題ないですね。

－：京都大賞典を使ってから2カ月弱間隔を空けてますし、疲れた上で有馬記念という感じではないですよね。

野：そうですね。状態面には何の問題もないと思います。

－：3歳時から結果を出してきた馬ですが、ようやく本格化を迎えた感じがあるので、この有馬記念も楽しみなのですが、手応えのほどはいかがですか？

野：相手は強いですけどね。本当に超一流ばかりいますから。何と言っても世界レーティング1位と2位がいますからね(笑)。でも、コイツも着実に一段一段勝って、力を付けて、連勝して勝ち癖も付いているし、いいんじゃないかな、とは思っています。

－：中山の2500というと、今年の日経賞以来です。その時はウインバリアシオン、ホッコーブレーヴの3着だった訳ですが、あの時よりもパワーアップしている感じはありますか？

野：昔から変わらないんですけどね。ずっと"いいなぁ"と思って乗っているんです。あの時もね、先に動かれる競馬だったから、直線はあそこからヨーイドンみたいな感じで、よく3着まで来ましたしね。

－：この馬は思っている以上の瞬発力を持っていますよね。

野：持ってますよ。ここ3走も速い上がりで。ジリっぽいと言われることはありますが、僕はいつもそう思っています。

ラストインパクト

－：3歳時の競馬を見ていると、それほど切れという感じは……。

野：ビューっと切れていない感じはしますが、時計的には最速か2番目の時計で上がっているんです。切れないというイメージはないし、好位に行くと切れ味は後ろからの馬より鈍るでしょうが、この前みたいに中団ぐらいになったら、それなりに切れてますしね。

－：では、レース展開としたら、強力な相手の中で走るわけで、どういうふうに立ち回るのがベストですか？元ジョッキーの野元さんなら、イメージ的にどのような印象で考えているのでしょうか。

野：いつも先行が多いから、先行の中団でジワッと脚を溜めればいいんじゃないですかね。

－：中山コースが新しくなって、芝コースも張り替えられているということで、綺麗な馬場で走れそうです。この馬が強敵と戦う時にベストの条件はありますか？

野：綺麗な馬場でも凄い時計が出るし、この前は良でしたが、かなり緩かったですからね。菊花賞4着の時も馬場が悪かったし、どちらも走るから、そこまで気にはしてないです。

－：有馬記念へ向かうにあたっても、何の不安もなく、という状態ですか？

野：あまりにも雨でグッチャグチャになる馬場は嫌ですが、綺麗なパンパンな馬場でも、多少傷んでいても、何の問題もないと思います。

ラストインパクトの素顔とは

－：1週前追い切りなのですが、感触を教えて下さい。

野：水準以上の、思い通りの反応はしていましたね。

－：時計だけで追い切りを見るファンもいると思います。今週は特に冷え込んでいて、どんなコンディションだったか教えて下さい。

野：シャーベットみたいに"シャキシャキ"いっていましたね。たぶん他の厩舎にもチップが刺さったような外傷を負っていた馬がいっぱいいたと思うんです。コンディション的にはハッキリ言って良くなかったですね。

－：そんな中で、時計も水準以上のものが出て。向こう(レーヴデトワール)は結構動いていました。

野：あの馬は動く馬なんです。時計自体は遅いですけどね。“終い速めに”という感じで行こうと思っていたから、僕的には理想通りの時計で行けたかなと。

ラストインパクト

12/17(水)、CWコースで6F86.2－69.4－53.2－38.2－12.0秒を馬なりでマーク
レーヴデトワールが先行する形で同入している


－：体重の変化なんですが、ここ2走が京都、中京で、そんなに輸送距離がなかったと思います。前回は486キロということで、それを基準にすると、中山への輸送でどれくらいの体重で出られそうですか？

野：たぶん変わらないですね。小倉に行った時もプラス6キロ、490キロで小倉大賞典を勝ちましたからね。輸送とかもおとなしく、いらないストレスとか力んだりはしないから。一応、前後4キロぐらいは見ていますが、何の問題もないと思います。いつも落ち着いています。競馬がある日は分かっていますよ。この前もちょっとカイバを残していて、たぶん自分で調節しているんでしょうね。

－：気合とかテンションで競馬が近づいているのが……。

野：ちょっと分かったのでしょうね。で、体重計に乗せたら486キロでプラスマイナスゼロでしたからね。

－：普通にこちらにいる時は食べていますか？

野：食べてます、食べてます。


「落ち着くし、ゲートもおとなしいし、ジョッキー時代に乗っていた時も、乗りやすいし、何の問題もないと思いますけどね」


－：シルクさんのクラブ馬ですが、普段厩舎を見れないじゃないですか。ラストインパクトの素顔、どういう馬なのかを教えてもらえますか？

野：本当に手間のかからない馬で、何かとやりやすいですね。ちょっとお子ちゃまみたいな面もあって、ちょっかい出して怒ったりしてはりますけど(笑)。

－：人懐っこさもあります。

野：人懐っこさもあるし、外へ出たら従順というか、無駄なことをしない。どこへ行ってもね。パドックでは競馬の前で力んで速い脚とかになるのが、それくらいの時の方が競馬で走っていますし、かと思ったら、他のところはドシッとしていて。まあ、安心しているのもあるんでしょうね。

－：返し馬へ行ってもあまり気合は乗り過ぎませんか？

野：馬場の入り口のところは飛んでいきますけどね。

－：下ろしたら？

野：落ち着くし、ゲートもおとなしいし、ジョッキー時代に乗っていた時も、乗りやすいし、何の問題もないと思いますけどね。

－：珍しいパターンですよね。自分が乗っていた馬を自分で管理して。

野：そうですね。ありがたいことです。

G1を勝って種牡馬にさせたい血統

－：4歳の19戦目にして有馬記念という頂点まで来ましたね。

野：さんざん自分で「走る」と言ってた馬やから、ここまで成長してくれて良かったです。

－：あとは、大舞台で結果を出すのみですね。

野：そう簡単なことじゃないです。凄い馬ばかりいますからね。でも、有馬記念というグランプリに出られることが凄いことですし、賞金も持っていないと全然出られないですからね。

－：特に今年は一番下でも賞金が高かった。

野：凄かったですからね。ファン投票が入れば良かったのですが、会員さんがもうちょっと投票してくれたら(笑)。

－：会員さんは数が限られていますから(笑)。体重以上に大きく見せる馬じゃないですか。

野：ディープの子っぽくはないですね。やっぱりパシフィカス系の血が入っているから。「顔がちょっとデカイかな」とみんなに言われます。ビワハヤヒデとかナリタブライアン、ティンバーカントリーの血も入ってるから馬力もあるし、どんな馬場でもこなせるのかなと。

－：でも、ディープ譲りの瞬発力もある。

野：瞬発力もあるし、綺麗な馬場に行けばね。そのあたりはディープの血も出ていると思うし。


「血統はお父さんとお母さん両方のいいところを取っているのかなと思います。ここまで来たら種牡馬になってほしいし、血統的にはなっていい血統ですからね」


－：ディープインパクト産駒といえば蹄が薄くて……。

野：薄いです。

－：雨降り直後の濡れた馬場というのは、一番滑りそうなイメージがあるのですが。

野：それがないんですよね。薄いというか、蹄底が浅いという訳ではなくて。

－：皮膚の薄さと共通したものが蹄にも出ていますか？

野：お父さんとお母さん両方のいいところを取っているのかなと思います。

－：なかなかそういうところは、人間が配合で組み合わせたくても理想的にならないものです。

野：ここまで来たら種牡馬になってほしいし、血統的にはなっていい血統ですからね。

－：あとは、もうひとつ結果を残すと。

野：G1を勝たなくても種馬になっている馬はいっぱいいますから。ブランドを付けるためにはどうにかね。それでも、メンバーが強い(笑)。とはいえ、力を付けているから、頑張ってほしいです。僕も分からないですね。G1まで行くと力関係は。

－：でも、松田博資厩舎といえば、アドマイヤモナークが有馬記念で穴を開けたり、厩舎として注目しているファンもいると思います。そこまで人気薄になるかは分からないですし。

野：松田厩舎自体、今まで走る馬が凄く出ていますからね。またここに来て上り調子でラストインパクトが参戦。人気も凄いところがいて、その次ぐらいになるでしょうが……。

ラストインパクト

万全の状態で菱田騎手に委ねるのみ

－：今回乗り役が菱田ジョッキーになるということですが、初めてのジョッキーでもそんなにクセのある馬じゃないですか？

野：この馬自体クセはないし、菱田はウチの厩舎の馬でよく競馬にも乗っているし、僕は何の問題もないと思っています。

－：あとは中山の2500。ちょっとトリッキーなコースですが、乗りやすさと状態の良さでうまく立ち回ってほしいですね。

野：順応にこなすと思いますよ。

－：どんなレースになるかは、ゲートが開いてみないと分からないですが、楽しみもあるんじゃないですか？

野：僕は楽しんで見ますけどね。多少は緊張しますが。G2、G3でも1番人気を背負わされているから、この前でもあのメンツで1番人気ですからね。やっぱりさすがに“勝ってくれ”って緊張はしますよね。

－：でも、ゴール前は結構安心して見られました。

野：坂を上る時に“あぁ、これは勝ったな”と思いました。

－：具合の良さで相手関係もこなしたいです。

野：能力もあるし、具合も上がってきているし、どうにか。

－：最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。

野：この1週間、最終追い切りをしたら、また良くなると思うので、できるだけ万全の態勢で競馬に持って行きたいです。競馬場では応援よろしくお願いします。

－：もちろん出走するだけではなくて、ちゃんと上位を狙えるコンディションにあると？

野：そう思いますよ。今のところ。当週の調教も考えながら乗って、いつものように持って行けたらいいなと思います。

(取材・写真＝高橋章夫)