異色のキャリアを超越する存在クイーンズリングが権利獲りへ
2015/3/8(日)
-:フィリーズレビュー(G2)に出走するクイーンズリング(牝3、栗東・吉村厩舎)ですが、デビューは昨年12月。有力馬としては、デビュー時期が遅めとなった経緯から教えて頂いてもよろしいですか?
吉村圭司調教師:よろしくお願いします。現在の競馬界は育成のサイクルが早まっていますが、この馬はゆっくりさせたほうが良いタイプと聞いていました。厩舎に来てからも、時間を掛けてやっていましたが、最初は年明けにデビューというイメージでした。それでも、思っていたより順調にきて、年内デビューも可能になりました。当初よりも馬は良くなってきましたよ。
-:それはどの辺りが変わったのでしょうか?
吉:やっぱり体が弱かったですよね。実は9月ぐらいに1回入厩させていて、ゲート試験も受かったのですが、これから速いところをさせていくにはまだ早い感じがしたので、一度牧場に戻しました。それで帰ってきてからですよね、変わったのは。動き、時計と全然違いましたから。
-:晴れてデビューを迎えたわけですが、関西馬でありながら中山を選んできました。少し珍しいことだと思います。
吉:そういう馬もいると思いますよ。レース番組を見ると関西には1600mや1800mのレースがなかったので、新馬ですし、距離も変えたくなかったですから中山を選びました。それに、新馬ゆえに競馬を知らないので、輸送さえクリアしてくれさえすればイレ込んだりはしないものなのです。
-:それでも、新馬戦において、あえてタフな中山競馬場を使うというのは、ある程度のパワーやスタミナが必要だと思います。
吉:そうですね。動きも最初の頃から一変しましたし、これなら、そこそこ良い競馬ができるだろうとは思っていました。
▲フィリーズRは前身の報知杯4歳牝馬特別に吉村師が持ち乗り助手当時に手がけた
メイショウアヤメで2着に惜敗 リベンジを期したいレースだ
-:聞きづらい言い方になりますが、確勝を期してレースに臨んだわけではない、ということですか?
吉:しかし、関東馬の中に入っても人気はしていましたし、互角くらいには走れるのでは、とは思っていましたね。
-:断然人気の馬に勝ちましたし、新馬戦の内容としては完璧であったと思いますが、あの時の馬場状態は悪かったのでしょうか?発表では稍重で、1000mの通過も1分6秒ほどでした。
吉:パンパンではなかったですし、ペースは遅かったですよね。ただし、新馬戦ですので、スローペースは否めないですよね。
-:馬場のコンディションもありましたが、勝ちタイム自体は平凡でした。内容としましては2番手からの競馬でした。
吉:折り合いもピタッとついていましたね。良い勝ち方だとは思いましたし、ゴール前でも余裕はありました。次が楽しみにはなりましたが、新馬戦を勝ったからといって、これからどうなるかは分からないですからね。
-:騎乗したブノワ騎手はどのようにおっしゃられていましたか?
吉:能力はありそうだと、けっこう褒めていましたね。
-:その言葉を裏付けるように、2戦目の菜の花賞も勝ち上がりました。1ヶ月後に再び中山競馬場でのレースとなりましたね。
吉:牝馬限定戦でしたし、初戦の輸送の時でも担当者が「馬運車で飼い葉を食べていましたよ」と言っていたほど。言葉通り、全く動じていなかったので“それならもう一度、中山へ行ってもいいな”となりました。輸送のダメージがないかと様子は見ていましたが、体もこちらに帰ってからすぐに戻りました。なんとかそこをパスしてくれれば、ローテーション的にトライアルを使うにも楽になりますからね。ここは頑張ってもらおうと思って送り出しました。
-:2戦目は1ハロン短くなり、道中のペースが上る可能性はあると思ったのですが、ポジションを下げてもしっかりと競馬ができましたね。
吉:競馬が上手ですよね。ジョッキーの指示に従順に応えてくれるタイプだと思います。行かせたら前につけますし、そこで折り合うことも出来ますからね。
「2走目は大外枠でしたが、上手く立ち回れて最後はしっかりと抜け出してくれたのでね。やっぱり能力が高いのだと思いましたね。 “2戦目で改めて評価が上がった”という感じでしょうか」
-:菜の花賞は初戦と違う競馬で、控えてしっかりと折り合えることもできましたし、時計的にも目処が立たったのかなと思います。
吉:前の週のフェアリーSよりも時計は良かったですからね。
-:そう考えても、この馬の評価が一気に上がった2戦目だと思います。先生の評価としてはいかがですか?
吉:2走目は大外枠でしたが、上手く立ち回れて最後はしっかりと抜け出してくれたのでね。やっぱり能力が高いのだと思いましたね。初戦だけでは分からないところがあったので“2戦目で改めて評価が上がった”という感じでしょうか。
-:確認できた初戦との違いはどこでしょうか?
吉:牝馬ですし、デビュー2戦目に中3週という間隔で、もう一度、中山へ行くことはメンタル面を考えるとどうなのかとは思いました。しかし、輸送も飼い食いも大丈夫でしたし、体は少し増えているくらいで出走できました。パドックではイレ込みの心配もあったのですが、そういった感じは全く、精神的にしっかりしているなとは思いましたね。
-:ここまで2戦はパーフェクトな内容でしたが、当時の中山というのは外枠が有利で、2戦とも外枠を引き当てていました。その点がラッキーであったと思うファンもいると思うのですが、能力自体は高いものを感じられたのでしょうか?
吉:外枠が有利と言っても、マイルに関してはどうでしょうか。中山のマイル戦で大外というのは極めて厳しいところですよね。普通にゲートを出ていても、少し遅れた状態になりますからね。
-:菜の花賞はしっかりとゲートを出られた馬は少なかったですしね。クイーンズリングのスピードならもう少し前に行くのかと思ったのですが、想像以上に控えていました。また、内枠で揉まれた時にどうなるか、ですね……。
吉:大丈夫だとは思ってはいます。それは調教を見ていても、外から抜かれても動じていないですからね。
-:先日、馬体を見させていただく機会がありました。日本の競走馬はつなぎの部分に角度のある馬が多いのですが、クイーンズリングは極端に角度がない感じがしました。それでいてマンハッタンカフェ産駒らしく、つなぎは長い、珍しい体をしている印象がありました。脚元のケアなども含めて、調整はいかがでしょうか?
吉:脚元は丈夫ですよ。ソエの心配もないですね。管囲は少し細いのですが、脚元は大丈夫です。
※管囲=体高、胸囲とともに馬の大きさを測る基準のひとつで、前脚の膝と、球節の中間の周囲を指す。平均18~20cmで、馬体を四肢によって支えるので、通説では細いよりも太い方が丈夫とは言われる。
-:管囲の太さと脚元の丈夫さというのは、必ずしもイコールではないと。良い意味で体重も軽い方が良いのでしょうか?
吉:今が460キロぐらいですから、丁度いいのかもしれませんね。軽すぎず、重すぎず。
クイーンズリング・吉村圭司調教師インタビュー(後半)
「気になる1400m適性は?」はコチラ⇒
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▲クイーンズリングの立ち姿(3/4撮影)
プロフィール
【吉村 圭司】Keiji Yoshimura
荒尾競馬で調教師をしていた父の影響で競馬界へ。トレセンへ就業後は飯田明弘厩舎、池江泰寿厩舎と渡り歩いた。技術調教師として池江厩舎に在籍していた当時は、オルフェーヴルの三冠達成を目の当たりにするなど、貴重な経験を得て、2012年3月から厩舎を開業し、3年目となった昨年は27勝をマークと着実に勝ち星を伸ばしている。今回のフィリーズレビューは思い入れの強い一戦で、飯田明厩舎の持ち乗り時代に担当していたメイショウアヤメが前身の報知杯4歳牝馬特別で2着惜敗。当時味わった悔しさを糧にレースへと挑む。
1972年熊本県出身。
2011年に調教師免許を取得。
2012年に厩舎を開業。
初出走:
2012年3月10日 1回阪神5日目7R ペプチドサファイア
初勝利:
2012年3月24日 2回阪神1日目1R ポップアイコン
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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