異色のキャリアを超越する存在クイーンズリングが権利獲りへ
2015/3/8(日)
-:今回は初めての関西でのレースとなり、1400m戦になります。大概は1800mでデビューした馬というのは、将来を考えて、その距離を選んだのだと思われます。1600mのチューリップ賞ならまだしも、1400mだと不安に感じるファンもいると思います。その意図はありますか?
吉:確かに戸惑いはあるかもしれません。それでも行かせれば反応できる馬ですし、こなしてくれるとは思います。ただし、チューリップ賞は毎年メンバーが揃う傾向にあります。前走の後に一息入れて、少しでも放牧に出したかったというのもありますね。
-:2歳女王決定戦の阪神ジュベナイルFの頃にデビューしたわけですからね。そう考えると、ここまでトントン拍子で来られているのかと思います。フィリーズRで先生が望むものはありますか?
吉:基本的に1200や1400でデビューさせて徐々に距離を延ばしていくパターンがほとんどじゃないですか。G1のマイル戦を考えると、やっぱり瞬発力勝負を経験させておきたいというのはありますね。そういった狙いもあります。
-:それでは意図的に距離を縮めていったと。
吉:さらにはローテーションの問題ですかね。(チューリップ賞もフィリーズRも)同じ阪神のコースなので、一番はそこのローテーションのところだと思います。アネモネSもありましたが、放牧期間も短くなりますし、オークスまではもう輸送をしたくなかったですから。
-:牝馬でありながら、2戦とも輸送して結果を残していることは素晴らしいですね。
吉:精神的にしっかりしていないとできないことだと思います。若馬は初戦が大丈夫であっても、2戦目はイレ込むことが多いと思います。
-:体を見ても、しぼんでいるところはないように見えます。
吉:そうですね。飼い葉もしっかり食べてくれています。
「関西でのレースと言っても、当日輸送でイレ込む馬もいますので、そういった課題もありますが、阪神を経験させておきたかったというのもあります。クリアしてくれるとは思っています」
-:牝馬の中には走って行くとキリキリしだして、細くなっていく馬もいますが、この馬はそうではないですよね。今週からM.デムーロ騎手が騎乗しての追い切りでした。動きやジョッキーの感触などはいかがでしたか?
吉:理想通りの調教をこなしてくれましたし、ジョッキーも「乗りやすい」と言ってくれました。反応も良かったので、1週前としては言うことはないと思います。
-:それでは1400mでも大丈夫ですね。
吉:関西でのレースと言っても、当日輸送でイレ込む馬もいますので、そういった課題もありますが、阪神を経験させておきたかったというのもあります。クリアしてくれるとは思っています。
-:先生としては桜花賞とオークスでは、どちらの方が合っているとお考えですか?
吉:どうでしょうかね。母父にアナバーの血が入っているので、スピード能力は十分に秘めているとは思うのですが。
-:どちらかと言うとお母さんの血のほうが出ていると。
吉:アナバーはマイルやスプリントの方が合っていると思います。アナバーの子でフランスにゴルディコヴァという馬がいたのですが、ブリーダーズカップマイルで3連覇しています。(クイーンズリングの父の)マンハッタンカフェだけでなく、その血も活きてくると思いますよ。それに、この馬の叔母であるトーレストレラはフランスの1000ギニー(日本ではマイルの距離)で勝っている馬なんです。
-:そうなってくると桜花賞の方は適性があると。
吉:そういったところも踏まえて1400mを使うわけです。もちろん血統だけではないですし、この馬の特徴もありますが、先ほどの通り、出していけば前に行ける馬ですからね。
-:私の個人的な見解では、本質的には日本的な上がり勝負の瞬発力系でもない気がします。素人的にはオークスのような長い距離でも、前目に行けるようなスタミナも感じる馬ではあります。
吉:うーん……。瞬発力を求められるようなレースの経験はまだしていないですからね。どうなるでしょうか。体の造りからも伸びのある馬だとは思います。1600m、1800mでも走れていますし、距離は大丈夫なのかなとは思いますね。
-:“遅れてきた大物”ですね。目指せゴルディコヴァです。
吉:さすがに僕の口からそうは言えませんね(笑)。来週、結果を残せたら夢が広がるのかもしれませんよね。
-:先生に対するプレッシャーも高まりますね。
吉:そういったプレッシャーの中で良い仕事をしないとね。その経験で自分も大きくなれるわけですから。是非、結果を出して胸を張って桜花賞にいきたいですね。
-:ただ、珍しいタイプではありますよね。外国からお母さんを連れてきて、日本でも同じようなパフォーマンスを出せているというのは。馬場が全く違うわけで、適性が違うのは当然だと思いますし、それもマンハッタンカフェという、長めの距離が得意な馬がお父さんであるにも関わらず。
吉:お母さんのアクアリングは社台の募集馬でしたし、尾関先生(知人調教師)が管理されていましたから、期待されていた馬であったと聞いています。アクアリングは新馬を勝った以降は勝ち星は挙げられなかったようですが、体質的な要因があったのかもしれませんね。
-:先生にとってはこのような馬を管理できるというのはラッキーでしょうか。
吉:こういうのは巡り合わせですからね。有難いことだとは思っていますよ。以前、取材していただいたダッシングブレイズが、その後の結果が良くなかったですからね(苦笑)。ここはなんとか。
-:あの馬も能力はありますし、これからが楽しみだと思います。まずはクイーンズリングの桜花賞ですね。
吉:権利は獲りたいですね。頑張りますよ。
-:鞍上のM.デムーロ騎手もJRA騎手として幸先の良いスタートを切りました。良いパートナーに巡り合えましたし、デムーロ騎手が重賞を制したばかりのコースですしね。当日も楽しみしていますので、頑張ってください。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=武田明彦、競馬ラボ特派員)
クイーンズリング・吉村圭司調教師インタビュー(前半)はコチラ⇒
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プロフィール
【吉村 圭司】Keiji Yoshimura
荒尾競馬で調教師をしていた父の影響で競馬界へ。トレセンへ就業後は飯田明弘厩舎、池江泰寿厩舎と渡り歩いた。技術調教師として池江厩舎に在籍していた当時は、オルフェーヴルの三冠達成を目の当たりにするなど、貴重な経験を得て、2012年3月から厩舎を開業し、3年目となった昨年は27勝をマークと着実に勝ち星を伸ばしている。今回のフィリーズレビューは思い入れの強い一戦で、飯田明厩舎の持ち乗り時代に担当していたメイショウアヤメが前身の報知杯4歳牝馬特別で2着惜敗。当時味わった悔しさを糧にレースへと挑む。
1972年熊本県出身。
2011年に調教師免許を取得。
2012年に厩舎を開業。
初出走:
2012年3月10日 1回阪神5日目7R ペプチドサファイア
初勝利:
2012年3月24日 2回阪神1日目1R ポップアイコン
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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