ディアデラマドレとノビア 母子の挑戦を遂に結実へ
2015/5/10(日)
-:ヴィクトリアM(G1)に出走するディアデラマドレ(牝5、栗東・角居厩舎)ですが、これが3回目のG1挑戦となります。前回のマイラーズCはスローの流れでありながら後方にいたので、こんなにも付いていけないのかと意外な気がしました。
酒井貴之調教助手:レース前に、(藤岡)康太には「任せる」と言っていたのですが、彼が「いつも通りの乗り方なら京都の開幕週なので届かないこともあると思うので、ある程度前が届く位置で競馬をしてみたい」と言っていたのですね。それで、馬の状態も良さそうだったので、どんな競馬をしてくれるのかなと思って楽しみにしていたのですが、他の馬がゲート内でゴソゴソ暴れていた時に、その音で反応してゲート内でソワソワしてしまったのです。その瞬間にスタートを切られてしまったので、出負けしてしまいましたね。それで、康太も無理をせずというか……。
-:試したかったプランが試せなかったと。
酒:そうですね。それで腹を括って、彼女の競馬に徹したのだと思いますね。
-:終いに速い脚を使えるのがマドレの強みだと思うので、そういう競馬になった訳ですが、結果的に成績表を見ると、上がり31秒9という、これはマイル戦でのレコードですね。
酒:そうらしいですね。負けたのは当然悔しいのですが、G1前の前哨戦としては、馬も直線だけの競馬で、改めて誰にも負けないほどの末脚を再確認しました。直線で綺麗に伸ばしてきてくれたので、上がってきてすぐに息も入ったし、あれだけの脚を使ったのに、馬体のダメージはいつもの競馬と変わらないぐらいでした。時計を見たらビックリしますが、帰ってきてから脚元もチェックして、もちろん獣医さんにも脚元と馬体をチェックしてもらって「いつもと変わらないね」と。
▲母のディアデラノビアも手がけた酒井助手はマドレの成長を感じとっている
-:おそれいります、という話ですね。
酒:馬を触っていて感じたのは、僕らが思っている以上に、彼女にとっては“普通の放牧明けの一戦を終わった”という感じじゃないでしょうか。
-:誤解したらダメなのは、これまでディアデラマドレというのは、ちょっと形を嵌めないと好走できない面があったのですが、4走前の府中牝馬Sを勝った頃から、色々な条件を与えてやらなくても、内枠でも、馬群の中からでも伸びるという成長した一面を見せてくれるようになりました。それがエリザベス女王杯の3着に繋がっていると思うので、前回はたまたまゲートが悪かったというシンプルな考えで見ていたら良いですか?
酒:はい、そう思います。
-:ゲートさえ出ていれば、もうちょっと器用な競馬をしていた可能性があると。
酒:直線で外を綺麗に伸ばしてきてくれたことで、ひょっとしたら最後に内に突っ込んだり、そういうことがあったら、もっと前に近付いていたのかと多少は思いますが、もし、そうしていたら、馬体へのダメージもありえたのかなと。上がってきてからの馬体の回復や、そういうところを見ていたら、言うことがない前哨戦でした。
酒井助手「一昨年よりも去年、去年よりも今年、今年よりも今と、本当に日々成長しているなと」
-:聞いた話ですが、直線で一気に脚を使うというのは、全体的に速い時計で走るよりもダメージが残りやすい場合もあるのですよね。それだけ、ディアデラマドレの馬体は以前より完成度が増していると。
酒:それはそうですね。間違いないですね。
-:疲労の回復度も問題なく行けるようになっていると。
酒:ええ。お母さん(ディアデラノビア)もそうだったのですが、歳を取るにつれて、もちろんカイバ食いもそうですし、オンとオフの切り替えを馬自身が分かっているといいますか。競馬の週になって3日前、2日前、1日前、当日となっていくにつれて、写真撮影をされている皆さんから「ちょっと太いんじゃないの」と、そういうようなことをちょこちょこ言われるのですが、彼女は競馬の当日が分かっているので、最後自分で体をつくっていくのでね。それで競馬が終わったら、ガツガツ食べるようになるし、すぐに2~3日したら体も回復というか、元のトレセンにいた時の体重に戻るので、本当に賢い子だなと。
-:ということは、今のマドレもそういう風になってきているということですか?
酒:そうですね。一昨年よりも去年、去年よりも今年、今年よりも今と、本当に日々成長しているなと。
-:お母さんのノビアは脚捌きを見ると、若干硬さがある感じだったと思いますが、マドレ自体は歳を取るにつれて、硬さが出たりというのはありますか?
酒:お母さんの方は首が高くて、もっと一瞬の脚というイメージがあるのですが、最後は馬群を割ってきたり、色々なことを覚えて、それが競馬で活きるようになってきたのです。この子も競馬を通して、馬群を割ること、重馬場、内枠をクリアすること等、本当に競馬の幅が増えて、終い伸びてきてくれて、おまけにそれが確実にどんどんと成長していっていますね。
ディアデラマドレ・酒井貴之調教助手インタビュー(後半)
「初めて挑戦する東京マイルの適性」はコチラ⇒
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プロフィール
【酒井 貴之】Takayuki Sakai
名古屋の大学に通っていた当時、興味があったのがサッカーと競馬。“男として好きなことを仕事にしたい”と思いたって、この世界を志す。夏休みを利用して、北海道の三栄育成牧場でアルバイトをし、大学卒業後は就職。乗馬練習で落馬し入院したことにより、BTCを受験して合格。その後は社台ファームで4年間勤務した後に競馬学校を経て、小原伊佐美厩舎でトレセン生活が始まる。角居勝彦厩舎には開業2年目から13年間勤務しており、これまでにマドレの母であるディアデラノビア、インセンティブガイ、カネヒキリ(500万を勝利するまで)などを担当してきた。2度目のG1挑戦となった昨秋のエリザベス女王杯では勝った僚馬のラキシスに0秒2差の3着。3度目のG1挑戦で母子悲願のG1タイトル制覇を狙う。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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