「泰然自若」厩舎2度目のダービー制覇へ リアルスティール
2015/5/24(日)
-:皐月賞では2番人気に支持されたリアルスティール(牡3、栗東・矢作厩舎)ですが、よろしくお願い致します。一番上手いレースをしたのに勝てなかった事実があったと思うのですが、先生の感想はどういったものでしたか?
矢作芳人調教師:勝った馬が強かったと、素直に認めるしかないのではないかと思います。一番上手いレースをしたかどうかというのは、勝つことが一番上手いレースであって、負けたのだから一番上手いレースだったとは思っていませんね。
-:レース後に「何らかの策を考えなければ……」とおっしゃっていましたが、皐月賞からダービーに向けての先生の作戦というのは、どういう思惑がありますか?
矢:それこそ、ファンやマスコミが喜ぶような奇策なんてものは競馬にはないので、今までやってきたことの精度を高めるのが一番なのです。まだ1コーナーへの入り、折り合い、それと抜け出してから完全にソラを使っていたので、その部分が一番ですが、そういう足りない部分が一杯ある馬なので、そこを高めていくということですよね。多分、競馬はウチの馬の方が(ドゥラメンテより)上手だとは思うので、そこをもっと上手な競馬をできるようにする、ロスのないような競馬をする、それを高めていく作業をしているというところでしょうか。
▲高橋章夫氏の質問に師らしく包み隠さず本音を明かしてくれた矢作芳人調教師
-:これまでリアルスティールについて、柿崎助手や渋田助手にお話を伺ったのですが、デビュー前のこの馬のコンディションというのは「緩さも残っていて、どこまで行けるかという状況にも関わらず、新馬を使うとかなり成長した」という話がありました。この状況でもまだまだ成長する余地は残しているということですか?
矢:全然ありますよ。全くと言っていいぐらい。だから、共同通信杯から皐月賞一本という話もなくはなかったのですが、やっぱり1回競馬を使うことによる伸びしろが大きいと思ったので。スプリングSを使ったのは、中山を経験させることを重視したのではなくて、競馬を1回でも多く経験させることが、成長に繋がると思って使った訳で、そういう意味でまだ4回しか競馬をしていないですから、一戦一戦毎の上積みは大きいと思います。
-:リアルスティールの特徴としたら、福永ジョッキーも言っているように「乗りやすさ」というところがあると思います。スプリングSの時も皐月賞の時も引っ掛かっていないとは言えないですね。
矢:そうそう、それが1コーナーへの入り。決して満足しているものではないのです。
-:まだまだ成長する余地が残っているということを考えると、きっちり仕上がった時は、やっぱり期待通りガツンと引っ掛かるぐらいの、パワフルな馬になるのではないかという気はしているのですが。
矢:きっとそうだと思いますね。ユーイチによく言っているのは「エピファネイアより(折り合いは)マシだろ」って。あれを引っ張れたら、ウチの馬なんて引っ張れるよ。
-:そう考えると、ファンとしたら、リアルスティールにあとどこが欠けているのかというのを知りたい訳なのですが、具体的に言ったらトモの成長などでしょうか?
矢:言っている意味はすごく分かるけれども、やっぱりその部分は馬の成長に合わせないといけないのでね。ただ、最初から自分の頭の中では、大目標は5月31日だったというのはあるので、昨日(5/20)の追い切りでもそうだけど、今回が一番手を緩めていないのです。精度を高めるというか、そういう作業を確実にこなしていくしかないと思っていますね。
20日、福永騎手が騎乗してCWコースで併せ馬
一杯に追われて6F80.6-11.7秒をマークし、併走馬に先着している
-:皐月賞前の1週前追い切りと今回の1週前追い切りを比べると、馬場状態も違いますし、コンディションも違う訳ですが、今回の方が抜群に良く見えましたね。
矢:それは嬉しいな。良かったとは思いますよ。負荷の掛かり方も、時計云々ではなくてあの時よりも掛けているし、既に体は大分シャープになりつつあるのでね。やっぱり切れ味を出さないといけないですし、そういう点は考えていますね。
-:昨日の追い切りの時間帯が、G1出走馬の追い切りとしては比較的遅い時間帯となる、8時45分ごろだったのですが、その意図は何かあったのですか?
矢:いやいや、それはない。朝だったらモヤで見えなかったからね。
-:皐月賞を使った反動というのはありましたか?
矢:そんなところは全くなかったですね。純粋にレースのリアクションがどう出るかだから、スプリングSの後が一番堪えていたかなと。かつスプリングSの後は初めて(ノーザンファーム)しがらきに出さずにそのままでしょ、皐月賞まで。そこら辺の部分で微妙な違いがあったのかもというのは思わないでもないね。
「もちろん。プラスアルファにしなきゃ勝てないレースだし、(プラスアルファは)あると思いますよ」
-:ファンからしたら、皐月賞+アルファの状態を考えてもいいですか?
矢:もちろん。プラスアルファにしなきゃ勝てないレースだし、(プラスアルファは)あると思いますよ。
-:皐月賞を観たらドゥラメンテが1番人気になることも想像できますが、あの気性やポジショニングを考えたら、府中の2400でより展開を嵌めた馬が、勝利に近づく気がするのです。リアルスティール陣営としたら、ドゥラメンテを意識しながらの競馬というのはあり得ますか?
矢:あり得るけども、そこは調教師の範疇ではないのでね。それはもうユーイチに任せているし、あとは当日の馬場状態と枠順を見て、アドバイスをする程度で……。例えば、去年のワンアンドオンリーが馬場状態的にやっぱり前だなと思って前に行きましたね。ウチのディープブリランテの時もそうでした。超高速馬場だったので、岩田(岩田康誠騎手)に前で勝負しようということは言いましたが、それは今の段階で言えることではないので。というのも、1週1週、馬場が違ったりするからね。
-:それが馬券を買うファンもやきもきするところなのですが、その話を踏まえて、先週のヴィクトリアマイルの結果を見ると、やっぱりちょっと特殊な馬場だという印象がありまして、内の4頭分ぐらいが、今の府中のおいしいところかなと。
矢:そういう点では、ウチは競馬をしやすいかな。有利とまではないですが、たとえ18番枠になったとしても、この馬のスタートの速さは絶対的なので。スタートは速いが、出して行かなかっただけで、出して行けば行っちゃうぐらいの速さがあるから、そういう点でどんな枠でも、良いポジションを1コーナーで取れているというのはあるよね。それも含めてのダービーだから、そういう点ではスタートの上手さというのが武器になると思いますね。
-:ダービートレーナーとして、ファンに対して府中の怖さとかポイントを教えて下さい。
矢:「皐月賞はコーナー4つの小回りで」とよく言われますが、皐月賞以上にダービーの方が馬のスキルは問われると思います。一定の先行力は必要だし、自在に動ける強みが問われるのではないのかなと。最近の競馬は、昔と違って“テレビ馬”もそういる訳ではないし、そんな鬼のようなハイペースになることは考え辛いから、ある程度の器用さ、スキルが割と問われる場だと思っているのですが、それは兼ね備えている馬なので、あとは瞬発力を研ぎ澄ますこと。理想は直線で並んで叩き合いになれば、と思っています。
-:その辺がソラを使わずに僅差でも先頭でゴールするという策と言えば策ですね。この馬の右回りと左回りの特性で、若干左回りの方が良いですか?
矢:良いのかなというのはありますね。しかし、馬とは基本的に左回りの方が上手いのですよ。右回りの方が適性を問われます。余程脚元が曲がっていたり、疾患を抱えていたり、そういうことでない限り、人間と一緒で基本的に左回りがベターですから。右回りの方が基本的に上手い下手が問われますよね。
-:その面でも、皐月賞からのプラスポイントというのはありますね。
矢:東京コースというのが面白いですよね。
-:末脚に磨きをかけるということで言うと、体重面はちょっと絞るイメージですか?
矢:ちょっと絞る、「ちょい」だな。というよりも、体重が減っていなくても、馬の体自体が研ぎ澄まされてきています。
リアルスティール・矢作芳人調教師インタビュー(後半)
「調教師として一度ダービーを勝っている強み」はコチラ⇒
1 | 2
プロフィール
【矢作 芳人】 Yoshito Yahagi
父の矢作和人氏は大井競馬の元調教師。自身は名門・開成高校を卒業するも、父の影響を受けて競馬界へ足を踏み入れる。厩務員・調教助手時代は5つの厩舎を渡り歩き、2005年に厩舎を開業。実に14回目の受験で、晴れて調教師免許を手にした。
厩舎開業後はコンスタントに勝ち星を重ね、スーパーホーネット、グロリアスノア、グランプリボス、ディープブリランテら活躍馬を多数輩出。2014年にはついに初の調教師リーディングを獲得している。
また、メディア・ファン対応も精力的にこなしており、2008年には初の著書「開成調教師 安馬を激走に導く厩舎マネジメント」を発刊。『よく稼ぎ、よく遊べ』をモットーに、他とは一線を画した厩舎運営を続けている。
1961年東京都出身。
2004年に調教師免許を取得。
2005年に厩舎開業。
初出走:
2005年3月5日1回阪神3日目1Rマルタカクイン
初勝利:
2005年3月26日1回中京7日目9Rテンザンチーフ
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
■公式Twitter
@aklab0328さんをフォロー