もう一つ勲章を ラストシーズンに挑むストレイトガール
2015/9/6(日)
ついに手にしたG1タイトル
-:ヴィクトリアマイルでG1馬になったストレイトガール(牝6、栗東・藤原英厩舎)の秋緒戦ですが、まず高松宮記念では13着と大敗してしまいました。時計を見ると1分8秒台の決着で、去年が1分12秒台。時計4秒も悪い状況で3着に来ている馬が今年は大敗してしまった、その敗因というのを教えていただけますか?
田中博司調教助手:う~ん、いまだに分からない部分が大きいのが正直な話ですね。
-:負けるにしても、あそこまではと?
田:いつもと違う負け方だったので、直後のヴィクトリアマイルに関しては調整の方向性がいつもと違ったのは確かです。馬に対してちょっと強めのつくり方をしましたね。レースに対して、ちょっと止めちゃっているのかと。気持ちが散漫になっている部分があって、ああいう負け方をしたのか、年齢的なものなのか……。
-:田中さんとしては、高松宮記念の敗因をちょっと甘えという部分が?そう思ったから、ヴィクトリアマイルは結構攻めて、ギリギリに仕上げようというテーマでやってらっしゃったと。
田:ええ。調整が終わって、レースの前日時点でやることはやったし、これで走らなかったら、競走馬としてのモチベーションが年齢や体力的なものから、しんどくなってきたと諦めざるをえないと思って臨んだのがヴィクトリアマイルでした。
悲願のG1制覇となったヴィクトリアマイル
-:それで、あれだけの結果が出て。
田:結果が出てくれたし、高松宮記念の敗因はそこじゃないのかなとわかったかもしれません。馬場が悪かったので、かなり外を回して、距離的にかなりロスしているのは確かだったので、その辺だったのかというのも考えられるし。
-:これまで大敗したことがない馬が13着に負けて、しかも、そこから一気に引き返せたというのは……、
田:やっぱり馬がすごいということが改めて思います。まだまだ諦めていなかったと分かりましたし。
「いつもであればある程度100に近い状態でレースに臨んでいたところを、その後のレースが本番というのを踏まえての調整なので、どこまで仕上げたら良いのかというのは未知なところがあります」
-:5歳時は勝ちきれない競馬が続いていたのが、6歳になってようやくG1馬になれたということは、今回の休み明けも、休み明けの状態というよりは、ソコソコ仕上げてきているのですか?
田:今回は初めてと言えるほど、前哨戦を使って、スプリンターズSまで中2週での競馬となります。いつもであればある程度100に近い状態でレースに臨んでいたところを、その後のレースが本番というのを踏まえての調整なので、どこまで仕上げたら良いのかというのは未知なところがあります。使った後の反動が出てしまうと次が困るので、ある程度は仕上げて、反動が出ないように、というつもりで攻めていますね。
-:反動が出ないようにするポイントというのは、ある程度、調教量を長めにこなすと。
田:こなしておいて、体ができてないとガクッと来ますからね。逆に今回使って、そこからもうひとつ上がってくれるのがベストなのですが、どこまで仕上げて使ってやればそうなるか。今回であれば暑さ、気候の条件もありますし、今までと違う条件はそこですね。
-:(放牧先である)イクタトレーニングファームでの調整方法というのはいかがでしたか?
田:いつも通りやってもらって、1カ月前にトレセンへ帰して。馬が入ってくるのに合わせて、自分は北海道から帰ってきましたね。
-:帰ってきて、久々に会ったストレイトガールの最初の印象はどうでしたか?
田:何らいつもと変わりない感じで、無事に夏を越せて帰ってきたなと。安心できましたし、今週まで順調に、狂いなく調整できていると思います。
ヴィクトリアマイル出走時の追い切りの様子(田中助手が騎乗)
前哨戦から結果を出せる仕上げ
-:昨日(9/2)、1週前追い切りが終わったところなのですが、岡田ジョッキーが乗って併せ馬で追われました。どんな調教だったか教えていただけますか?
田:この馬は1週前にジョッキーを乗せて、CWコースでシッカリやるというのがパターンなので、その辺はいつも通りで乗り役にやってもらいました。時計的にもシッカリできたのではないかなと思います。この後、どれだけ馬が上がってくるか、ですね。
-:「上がってくるか」というところは、ストレイトガールの特徴から言うと、直前にグッと体が上がってきますね。
田:そうですね。レースに近くなればなるだけ、ドンドン上がってきてくれるのが今までのパターンなので、今週末辺りから、今までとはまた違う雰囲気に変わってくるはずだと思います。
「食いが落ちてもいませんし、馬房での仕草がイライラしているところは見られないですね。今まで通り、グッと上がってくるんではないかというのは、想像が付きますね」
-:そんなにピリピリした感じはないですか?
田:食いが落ちてもいませんし、馬房での仕草がイライラしているところは見られないですね。今まで通り、グッと上がってくるんではないかというのは、想像が付きますね。
-:本命馬でしょうから、中2週で向かう本番に向けて、順当な発進をしたいですね。
田:オーナーも生産者も、この馬に関わっている人みんなが勝ちたかったG1だったので、獲ることができて、馬も勲章がもらえました。「1つ獲ってもうひとつ」というのは人間のエゴもあるのですが、馬は無事ですし、元気一杯です。競走馬として走るのであれば、もうひとつ獲らせてあげたいし、前哨戦だからと言って、多めに見てもらえるという立場でもないというのも、自覚して調整しています。前哨戦からシッカリ結果を出して、本番を迎えられるように行ってくれるのではないかと思います。
-:色々な人が喜んだヴィクトリアマイルでしたが、その中でも一番喜んだのは田中さんですよね。
田:やっぱり(勝つまで)長かったというのもありますし、去年は勝てそうで勝てなかったという悔しさがありました。今までが1200mでずっと男馬と勝負してきて、その1200でもうひとつ以上は勲章が獲れたら良いかなと思います。
9/2(水)、岡田祥嗣騎手が騎乗してCWコースでの併せ馬
一杯に追われて6F79.2-12.6秒のタイムで僚馬に先着している
-:今回はどれくらいの体重で出走できそうですか?
田:ほとんど今までの調整過程と同じで、今週の火曜日(9/1)の時点では、裸で468~470のところです。大体いつも通りで、競馬では460を切るか切らないかで行けると思います。もう6歳牝馬ですし、馬体重の変動というのも、もうない時期だと思うので。
-:6歳牝馬でクラブの馬だったら、引退して繁殖に上がっている時期ではありますが、厩舎自体も大事に使ってきたからこそですね。
田:4歳の夏に函館で詰めて使った時期があったのですが、当時は滞在競馬というのもありますし、馬もすごく力を付けていました。それによって馬が傷んだ訳でもなく、逆にドンドン良くなっていましたからね。
-:あの時は4連勝していたので、キーンランドCで2着の後も、スプリンターズSに行くのかなと思った人もいると思うんですよ。
田:あそこで行ったらどうだったんだろう、という思いもありますが、オーナーや先生が「我慢しよう」と1回休ませてもらったのも、いまになって頑張れる要因のひとつなのではないかと思います。そのままの勢いで行っていたら、今も無事で走っているかはどうか分からないですよね。
田中博司調教助手インタビュー(後半)
「既定路線は今年も香港遠征」はコチラ⇒
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プロフィール
【田中 博司】Hiroshi Tanaka
父は田中耕太郎元調教師。同厩舎で競馬人生をスタートした後、スタッフの産休がキッカケで小学生時代からお互いを知る藤原英昭調教師のもとへと異動し、名門厩舎の躍進に携わってきた。調教技術もさることながら、培ってきた知識と人脈、そのリーダーシップは秀でており、理想像といっても過言ではない調教助手。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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