陣営の忍耐が産んだ女王グランプリへ マリアライト
2015/12/20(日)
ひたすら我慢で厩舎初のG1馬誕生
-:有馬記念(G1)に出走するマリアライト(牝4、美浦・久保田厩舎)についてお伺いします。主戦の蛯名騎手がよく、牧場・厩舎サイドが馬を大事にしてきたから力を発揮できた、とおっしゃっていますが、厩舎としてこの馬を管理するにあたって気をつけてきた点などがあったら教えてください。
久保田貴士調教師:まず2歳で入ってきた時から、ディープの女の子なのでどうしても小柄な感じで、能力に体が追いついていないというところがありました。カイ食いが細くて一回使うと反動が大きく出てしまうようなところがありましたし、どの時点で能力に体が合致してくるかなと思っていました。そういう状況でしたが、春はクラシックを目指さなければいけない時期だったこともあって、3戦目には少し無理をしてスイートピーSを使いました。
-:そのスイートピーSは6着でしたが、6月に500万下を勝ち上がりました。その後の3歳秋の予定というのは、どのように考えていらしたのですか。
久:秋華賞を視野に入れつつではありましたが、使えば反動がきてしまうので、まだそこに向かえるほどの体力はなかったかなと思いますし、ジックリいくしかないなという風には思っていました。
-:500万勝ちの後は勝ち切れない競馬が続いて、今年2月も1000万下からスタートしましたね。この後から勝ち上がっていくのですけれども、何か転機になったことはありますか。
久:中山2500の潮来特別を勝ったということですよね。そこが転機だったと思います。それまでは1800、2000mのレースを使っていて、どうしても勝ち切れないレースが続いていました。最後は長く良い脚を使うので、ちょっと目先を変えて距離を延ばしてみましたが、それが合ったのでしょうね。
-:内容、結果ともに良いものでした。
久:非常に強い勝ち方をしてくれたので、そこで秋はエリザベス女王杯に行きたいな、と思いました。
「もうこの頃からは日々のカイ食いも良くなって、調教内容も加減しなくて済むようになりました。ようやく体が能力に追いついてきたなという感じでしたね」
-:秋はまずオールカマーからの始動になりました。
久:マーメイドSのあと、夏場もいくつか使いたいところはありましたが、馬もちょうどその頃から体重もだいぶ安定して良くなりはじめていましたからね。エリザベス女王杯が目標ということなら、夏は無理しないでおこうと。幸いマーメイドSに準OPの身から挑戦して2着に入ったことで、微々たるものではありますけど賞金も加算できましたし、この賞金でエリザベスに出られないなら、それでしょうがないなというのもその時点で決めていました。
京都大賞典も同じような時期にあって、オールカマーとどちらにするかで悩みましたが、短い期間に京都まで2度往復するのも良くないですし、レース間隔をある程度取りたかったので、ちょうど良く間隔があくぐらいのレース選択をしました。オールカマーなら、レース後にリフレッシュ放牧に出して、エリザベスの1ヶ月前ぐらいに戻ってきてという、いつものパターンでG1を迎えられますからね。
-:そのオールカマーですが、レースを振り返っていただけますか?
久:今振り返ると、あのメンバーはかなり強かったと思います。そのなかで外を回ってそれほど差のない5着。牝馬限定の重賞を使った後での牡馬との混合重賞で、終いも坂を上ってからもうひと伸びしていたので、力を付けているなというのはそこで分かりました。
-:オールカマー後の調整過程を教えてください。
久:いつものように一旦ノーザンファーム天栄の方に出して、1ヶ月ぐらい前に厩舎に帰ってきました。もうこの頃からは日々のカイ食いも良くなって、調教内容も加減しなくて済むようになりました。ようやく体が能力に追いついてきたなという感じでしたね。
全てがかみ合ったエリザベス女王杯
-:エリザベス女王杯当日の馬の気配というのはいかがでしたか。
久:パドックでは落ちついているけど活気があって、大きく外々を回って歩いていました。すごくいい雰囲気で歩いているな、と思いましたし、引っ張っている厩務員もその雰囲気を感じ取っていました。
-:では、レースの前の手応えは。
久:強い馬たちが一杯いましたが、いろいろ条件が揃ってくれれば良いところまでやれるのではないか、とは思っていました。馬場に関しては、上がりがそれほど速くならない感じである程度時計がかかった方が良いので、前の日の雨でちょうど良い馬場状態になってくれたかなと思いました。枠順に関しても、オールカマーは外枠で、外々を回らされたというところもありましたが、12番枠なら問題ないだろうと思いました。作戦はもう、蛯名騎手がずっと乗っているので、お任せする形でした。
-:前に大きく逃げている馬もいる展開でしたが、ご覧になっていて「勝てる」と思った瞬間などはありますか。
久:1、2コーナーに入っていくときも、キレイに良い流れに乗れているなと思って見ていました。4コーナーを回って良い手応えで前を捕まえられそうなときに「お、きたな」とは思っていましたね。でも残り1ハロンを切ったあたりで外からビューンと来たので「あー、やっぱり来たか(笑)」と。やられてしまうかと思いましたが、ゴールの時は頭ひとつ出ていましたからね。あれをしのぎ切れたのは、それだけ力を付けたということでしょうね。
-:早め先頭で目標とされる形になりましたし、やはり最後は馬もキツかったでしょうね。
久:そう思いますよ。強いメンバー相手に勝ちに行って、最後までしのぐというのはキツかったと思います。馬場や枠順や展開など、いろんなピースが全てガチッとかみ合ったという感じでしたし、もう一回同じレースをやれといわれても難しいかもしれませんね(笑)。
-:厩舎にとって初G1制覇でしたが、お気持ちはいかがでしたか。
久:やっぱりなかなか手の届かないところだったので、嬉しかったですよ。周りの応援してくれている人たちに良い報告が出来るな、という安堵感もありました。
ベストコースで更なる強敵に挑戦
-:この勢いに乗って、次は有馬記念ということになります。
久:今度は更に強い牡馬だとか、ジャパンCを勝った馬などが出てきて、それこそ本当にすごいメンバーですからね。
-:エリザベス女王杯のレース後の過ごし方というのは?
久:また一度天栄へ放牧に出して、12月の頭に厩舎に戻しました。レース後の回復は早かったです。厩舎に戻ってきたときは、もうエリザベスのときと同じぐらいの体重に戻っていましたし、使うごとに減っていた頃に比べると逞しくなりましたね。
-:この中間の調整はどのような感じですか。
久:もう秋3走目でだいぶ馬のスイッチの入りも早くなっているので、あまりやり過ぎないように気を付けています。ただ今週は1週前追い切りということを考えて、やらなさ過ぎないようにある程度負荷をかけたりと、加減だけ注意して調整してきました。1週前追い切りも良い動きをしていましたし、エリザベス女王杯でしっかり仕上げていたので、現時点である程度は出来ているかなと思います
-:今後の馬の様子を見ながらになると思いますが、当週はどのような調整をされる予定ですか。
久:あまりプレッシャーをかけないように、単走でサラッと、エリザベス女王杯のときと同じようなパターンになるのではないでしょうか。ストレスをかけないように、のびのび走らせてあげようかなと思っています。
-:中山2500mというコースは今年すでに勝っています。
久:引っかかる馬ではありませんし、合っている条件だとは思います。
-:先ほど先生もおっしゃられたとおり、相手が一段と強くなります。
久:やはり馬場状態だったり展開だったり、上手くかみ合ってくれないと、まだまだ厳しい戦いになるとは思います。ただ、思った以上に馬が力を付けてくれているなという実感はありますし、これまで昇級初戦から好走しているように、強敵相手でも気後れせずに力を発揮してくれると思います。
-:最後に有馬記念に向けて抱負をお願いします。
久:グランプリという舞台へマリアに連れてきてもらって、G1馬として出走させてもらうというのはすごくありがたいことです。ファン投票でも支持していただきましたし、応援してくれている人たちに恥じないような競馬をするために、あと1週間でキッチリと仕上げていこうと思います。
(取材=競馬ラボ)
プロフィール
【久保田 貴士】Takashi Kubota
父は1993年の桜花賞、オークスで2着となったユキノビジンを管理した久保田敏夫調教師。学生時代は馬術の選手として数多くのタイトルを獲得。1992年に美浦・柴田欣也厩舎の厩務員となり、高橋祥泰厩舎の調教助手時代にはタイキフォーチュン、サウスヴィグラスなどの調教に携わった。2003年に厩舎を開業し、3年目より11年連続20勝以上。2007年と2009年には優秀調教師賞を受賞し、今年マリアライトでエリザベス女王杯を勝ちG1トレーナーの仲間入りを果たした。
1967年茨城県出身。
2002年に調教師免許を取得。
2003年に厩舎開業。
初出走:
2003年 3月9日 1回 中京2日 1R ファカルティー・5着
初勝利:
2003年 4月19日 4回 中山7日 1R ケイツーウイン