今年の7月に逝去された田中章博師の管理馬とスタッフを引き継いで、9月21日に開業したばかりの寺島良調教師。助手時代にはアサクサキングス、ダノンシャークなど数々の活躍馬を担当しており、「一番思い出に残る馬」と語るアサクサキングスとの秘話、調教する上でのモットーなど、35歳という若さで合格した師のエネルギッシュな話を伺うことができた。

菊花賞馬アサクサキングスから学んだ一流馬の背中

-:この度はご開業されまして、おめでとうございます。競馬人生の新たなスタートを切られたわけですが、先生が競馬界に入って調教師になるまでの成り立ちといいますか、経歴を教えてもらってもよろしいですか?

寺島良調教師:まず、ノーザンファーム空港牧場に入ってから、厩務員試験に合格して、大久保龍志先生のところで7年半ほどお世話になっていました。

-:大久保先生のところではどのような馬に乗られていたのですか?

寺:菊花賞を勝ったアサクサキングスはずっと乗らせてもらっていました。その後に松田国英先生のところに異動して、2年半くらいお世話になっていたのですけど、ちょうどそのくらいに調教師試験を受け始めました。

-:先生は今年で35歳になられたそうですが、何度目の試験で合格されたのですか?

寺:3回目で合格しました。最近は若くして調教師試験に合格される方が多いですよね。

寺島良

▲開業後初勝利時の一コマ 武幸四郎騎手と口取り式に向かう寺島師(左)

-:今まで色々な重賞やG1を勝つような馬を担当されてきたと思うのですが、ここまでで一番印象に残っているというか、思い出の馬はどの馬ですか?

寺:やっぱり(アサクサ)キングスは初めの頃にやらせてもらったと言いますか、この馬に関しては最初からかなり馬が出来ている状態で自分のところに来たので、馬から教えてもらうことが多くて、思い出深い1頭ですね。

-:確かにアサクサキングスは早くから一線級で活躍していましたね。

寺:北海道から出張で帰ってきて、自分が担当するようになったのですが、すぐにポンポンと勝って。馬格もあって、2歳馬離れしていましたね。背中も良い馬でしたし、龍志先生も「この馬がお手本」と良く言っていましたね。今も、あの馬に近づけるような馬作りをしていくという気持ちで馬を扱っています。

-:アサクサキングスはホワイトマズル産駒で、私のイメージなのですが、この父の産駒は気性の激しい印象がありますが、この馬に関してはどうでしたか?

寺:スイッチのオン・オフがハッキリしているところがあって、オンになった時は気合を表に出すところはありましたけど、普段は煩いところもなくて、扱いやすい馬でしたね。すごく真面目な馬だったのでしょうね。ただ、この馬に関して言えば、乗りやすさで長いところもこなしていたようにも思えますね。

-:気性と能力を合わせて、全体的に優れていたということでしょうか?

寺:そうですね、心肺機能も優れていたので長距離もこなせたのでは、と。本質的には中距離向きだったと思いますね。

寺島良

▲09年阪神大賞典のパドックでアサクサキングスを曳く寺島師

開業2週目で初勝利!新進気鋭の師が心がけるモットーとは?

-:それでは、開業されるまでのお話をお伺いします。先程も触れましたが、田中章先生が亡くなられて、急遽、という雰囲気がありましたが、開業の話があってから直ぐに、という感じだったのでしょうか?

寺:いや、開業の話が出てから半年くらいの準備期間と言いますか、何かをしたわけでは無いですが、自分の気持ちもしっかり開業に向けて整えることができましたし、北海道の牧場周りも終わって、落ち着いた時に開業の話になったので、自分の中で大きな心配はしていなかったですね。

-:管理馬についてもお伺いします。田中章先生から引き継いだ馬の中でも代表格のキングズガードは近走3着内を外さない安定した走りですが、先生はどうご覧になられますか?

寺:ちょうど良い成長曲線と言いますか、気持ちと身体が噛み合いだしたところはありますね。体重も段々と増えてきていますし、これからが楽しみな1頭ですよね。この後は東京のオープン、グリーンチャンネルCを一度使ってから武蔵野Sに行こうと思っています。(グリーンチャンネルCは2着)。

寺島良

▲武蔵野Sで重賞初勝利を狙うキングズガード

-:武蔵野Sは1600mですが、距離はこの馬にとってどうでしょうか。近走は1400mを中心に使われていますが?

寺:以前にマイルや1800mを走った時にこなせる感じがあったので、そこまで心配はしてないですけども、ベストは1400mだと思います。スタートはのっそり出るので乗りやすい馬のように思えますが、道中はけっこう行きたがるところがありますからね。そういった面を克服して、武蔵野Sに向かいたいと思っています。

-:キングズガードで先生の重賞初勝利が見られると良いですね。

寺:そうですね、重賞を獲れる馬だと思いますし、この馬でタイトルが獲れたら良いですね。

-:他には、3歳馬のコクスイセンはどうでしょうか?

寺:(武)幸四郎さんも先日乗った時に「これはこれから走ってくると思う」と言ってくれたように、まだまだ気性的に子供でカッとなるようなところもあるのですが、そういった面が抜けて、身体もドッシリしてきたら、先々は楽しみな馬になると思いますよ。(この取材後に武幸四郎騎手を背に見事な逃げ切り!寺島師にとって開業初勝利を挙げました!)

-:秋になってしまいましたが、デビュー前の2歳馬で特に期待されている馬はいますか?

寺:2歳も田中章先生から引き継いだ馬が多いのですが、開業する前に一度入厩しているスマートアレスは楽しみな1頭です。キンシャサノキセキの仔でけっこうな大型馬なのですが、既にゲートも受かっています。この秋にはデビュー出来るはずで、期待しています。

寺島良

▲取材直後に師にとっての初勝利となったコクスイセン

-:それでは、これから長い調教師生活が続いていくとは思いますが、その上で先生が普段から心がけていること、競走馬を管理する上で重要なことはなんでしょうか?

寺:競走馬が走るにあたって一番重要になってくるのがバランスだと思っているので、それはいつも心がけて乗っています。「ただビシバシやって鍛える」というよりも、その馬のバランスを整えてあげることをここ何年かはモットーにして調教するようにしています。人間もそうですけど、正しいフォームで走らせてあげることによってケガも減りますし、乗り運動などのフラットワーク(※角馬場などでの軽い運動。追い切り前のウォーミングアップも兼ねている)も大切です。そういった土台の上で調教の本数や強さをこなして、馬を鍛えていきたいと思っています。

-:勝ちたいレースはありますか?

寺:やっぱりダービーですね。アサクサキングスで2着しましたが、ああいった大舞台に自分の管理馬を送り出せるような調教師になりたいですよね。それがこの仕事の醍醐味だと思いますので、頑張ります。

-:最後にファンの皆さんに向けてのメッセージを一言、よろしくお願いします。

寺:けっこう若くして調教師になれたので、今後長く競馬界に居られると思いますし、特徴のある馬と言いますか、ファンの方々に愛されるような馬を造っていきたいと思っていますので、これから応援よろしくお願いします。