不安だらけで昨年2着のリアルスティール 道悪もOK
2017/10/26(木)
リアルスティールが昨年2着以上の手応えで天皇賞(秋)に臨む。今年は帰厩も遅く、仕上がり途上だった毎日王冠を快勝。ぶっつけ本番だった1年前とは順調度が違う。調教では雨で重くなったウッドコースをピッチ走法で軽快に駆け抜け、道悪も問題なし。柿崎慎調教助手は「日本のG1の中ではベスト」という舞台へ、自信を持って送り出す。
-:毎日王冠を制して、天皇賞・秋(G1)に挑むリアルスティール(牡5、栗東・矢作厩舎)について伺います。前回はおめでとうございました。
柿崎慎調教助手:ありがとうございます。
-:実質的には中山記念(8着)以来のレースで、柿崎助手としても、なかなか期するものがあったと思うのですが?
柿:そうですね。やっている僕らとしては、色々アクシデントがあったというほどではないものの、皆さんが思っているよりも性格の荒い馬なんです(苦笑)。それだけに、こちらは一戦一戦無事に送り出すことしか頭になくて、その中で確かに中山記念でも惨敗していたし、長期休養明けで不安の方が大きいレースだったのですが、結果として勝ってくれて良かったですよね。
-:性格の荒さというと、普段トレセンで観ていないファンからすると意外かもしれません。リアルスティールの激しさが分かりやすいエピソードとしてはどういったものがありますか?
柿:ニュースにもなったのですが、去年の天皇賞(秋)では装鞍所で鞍を置かせられなくて、暴れちゃって手に負えない感じでした。
▲デビューからリアルスティールを担当する柿崎慎助手
-:パドックでもアレっ!?みたいな感じでしたよね。なぜかいなかったという。
柿:そうそう。だから、ちょっと別の場所に移動して、馬を縛り付けて鞍を置いたのですけどね。それでパドックに入るのが遅くなってしまって、去年の天皇賞、直前でそんなことがあって、馬がイレ込んで大変だったのですが、今週の火曜日も全休日明けでガスが溜まっているのか、馬に乗ろうと思って出したら、ボーンと暴れ出してヒヤヒヤしました。何事もなかったのですが、G1週なのにね。
-:火曜日はそういう傾向が強いですか?
柿:この馬に限らず、そうなる馬が多いですが、それこそここで調教の鞍を置こうとしている時も、壁をバンバン蹴ったり、噛みついてきたりして、やっている方はヒヤヒヤしながら、いつもやっていますね。
-:それは、昔から今になっても全然変わらないですか?
柿:そうですね。鞍置きが怪しくなったのは3歳のスプリングSくらいからですね。ずっと(矢作)先生が「海外に連れていきたい馬だ」と言っていたのですが、海外だと厩舎装鞍が出来ないのです。やっぱり色々な人に見られている中で鞍を置いたりもしないといけないので、ずっと我慢して、みんなと協力をして、装鞍所で置いたのですが、去年の天皇賞(秋)で本当に爆発してしまって……。さすがにそこから先生も、これはちょっと危ないなという感じで、ひとまずは厩舎装鞍という形で、日本ではやっていますね。
-:確か天皇賞(秋)のレース後に「次は厩舎でやってきます」みたいなことを言っていた記憶がありますね。
柿:そうですね。厩舎装鞍自体は大丈夫なのです。だから、今年のドバイも向こうの装鞍所で鞍置きの練習もしていたんですよ。ドバイでも厩舎装鞍を申請してみたのですがNGが出て。
「この馬とはもうすぐ3年以上の付き合いですが、みなさんが思っている以上に、常に緊張感がありますね。すぐにかんしゃくを起して暴れだすので」
-:鞍置きのスクーリングをしていた訳ですね。
柿:そうですね。だから、この馬とはもうすぐ3年以上の付き合いですが、みなさんが思っている以上に、常に緊張感がありますね。すぐにかんしゃくを起して暴れだすので。
-:ディープインパクト産駒というと、優等生なイメージですが、そういう素顔もあると。余計に追い切りとの兼ね合いというか、追い切りでつくり過ぎたら、競馬場でテンションが高くなる不安もありそうですね。
柿:ですが、惨敗した今年の中山記念の時はすごく落ち着いていたんですよね。鞍置き自体は厩舎装鞍をしていたのですが、装鞍所からパドックに行く感じが、いつも2人曳きしないとしんどいくらいの馬なのですが、その時は全然。僕1人で引っ張れて、返し馬に行く時も、みんなで「だいぶ気性が成長したな」「レースに落ち着いて行けるな」「大人になったな」と言っていたのですが、結果レースで大人しいというか、全然ハミを取ってくることがないままレースが終わってしまって……。
振り返れば、毎日王冠では装鞍所に入るくらいから、言ったら馬はイレ込んでいましたよね。ガッと力も入って、ちょっとしたことでふっ飛んで行きそうなくらい怖い雰囲気で。やっぱり一般的には落ち着いて歩いている方が良いのでしょうが、この馬に関しては、それくらいちょっとパドックで気合いが乗り過ぎているくらいの方が良いのかもしれません。
-:天皇賞(秋)の時も、そういう元気を出していた方が良いということですね。
柿:僕らはヒヤヒヤなのですが、実際に返し馬に行ってしまえば、ミルコ(デムーロ)も「すごく落ち着いていた」と言っていましたし、レースで折り合いも付いていたので、そういう意味では走る兆候なのですかね。
-:トレセンでの調整の段階で、気配の違いというのはいつも変わらない馬ですか?
柿:中山記念の時も特別変わった様子はなかったと思いますね。それがレースに行ったら、アレっ?っと……。
▲5歳にして激しさは変わらないリアルスティール
-:残念ながらドバイを回避されましたが、俗に言う鼻出血とは違って、外傷性の鼻出血だったということでしょうか?
柿:そうですね。調教後、鼻にピッと血が付いているくらいで、ダラッと出た程ではなく、よくよく診たら鼻血じゃないかなとわかりました。ダラッとしたら肺からの出血でしょうし、もちろんすぐに獣医さんに内視鏡検査をしてもらって、肺から出ていないか検査をしたのですが「それは出ていない」と言われましたね。ただ、原因がどこから出ているかというのが分からなくて、先生に連絡をして、上の人たちと話し合った結果「ちょっとでも不安があるのだったら止めよう」と。今思えば、中山記念も惨敗していたし、馬が走りたくないというサインを出しているのかなと。
-:そこに関してはもう心配はないですか?
柿:そうですね。ドバイから日本に帰ってきて、ノーザンファーム(空港牧場)さんにお世話になったのですが、調教では1回も出したことがなかったので、もちろんトレセンに帰ってきてからも、1回も出していないですね。
-:前回の毎日王冠を振り返っていただくと、どうでしたか?
柿:もちろん天皇賞(秋)を本番に、毎日王冠はあくまでもステップというか、前哨戦と考えて馬をつくっていました。そんな中で少しでも次に繋がる良いレースをして欲しいと思って送り出したのですが、内容は良かったですよね。スローペースでしっかり折り合って、終いもすごく良い脚で来てくれたのでね。
-:前哨戦を勝ったからこそ、次は状態が持たないのでは?と思うファンもいるかもしれません。
柿:そう思う人はいるでしょうけどね。ただ、結果、勝ってしまいましたからね。前回も時計こそ出ていましたが、この馬ならあれくらいは出て不思議ではないので。僕も戦前は他の馬の動向をチェックしていたのですが、おそらく毎日王冠に出走した馬の中では、(厩舎に)帰ってくるのが一番遅かったんじゃないかと記憶しています。9月16日に帰ってきたと思いますが、他の馬は8月の終わりに帰ってきて、そこから何本も追い切りをしていたのを知っていましたが、先生の方針として、この馬としてはいつも大体これくらいに帰ってくるのです。だから、必然的に追い切り本数も少なかったですし、たまたま直前に速い時計が出たというだけで、むしろ急仕上げだったんですよね。
-:ちょっと遅めの帰厩というのはどういうポイントだったのですか?
柿:先生の考えで、僕らも早い時期に帰ってきてやった方が良いのではないかと、本当は心配になるくらいで(笑)。
「もともと休み明けでも走れるタイプですが、1回使った方がもっとよくなるタイプなので、そこに期待しています」
-:それだけ間隔も空いていましたからね。
柿:でも、いつも通りで。
-:ソウルスターリングなんかは、相当早く、8月下旬くらいからやっていましたよね。前走後の雰囲気はいかがですか?
柿:さすがに全く疲れていなかったということはなかったですが、こちらの想定の範囲内です。1週間は本当に軽い調教で楽をさせて、カイバも毎日よく食べて、さっきも言ったように、昨日も暴れるくらいすごく元気で。
-:去年がぶっつけで2着。今年は1回使って臨めるということですね。
柿:そうですね。もともと休み明けでも走れるタイプですが、1回使った方がもっとよくなるタイプなので、そこに期待しています。