1度もハナを譲らない「ザ・逃げ馬」初のマイルG1でもマイペース貫くマルターズアポジー
2017/11/16(木)
デビューから23戦すべてでハナを譲っていないマルターズアポジーが、初のマイルG1でもマイペースを貫く。小回りの1800mや2000mの重賞でも勝ち星を挙げて有馬記念にも出走したが、マイル路線に転じた2走前の関屋記念で圧巻のスピードを披露した。近年では珍しい個性派とコンビを組んできた武士沢友治騎手に、逃げのスタイルを確立した経緯と大舞台に挑む胸の内を聞いた。
-:マルターズアポジー(牡5、美浦・堀井厩舎)に初めて乗った時の感触などを教えていただけますか?
武士沢友治騎手:最初の頃はやっぱりすごい敏感な馬で、ゲート裏などの場所、場所で変化が起きた時に、すごいテンションが上がっちゃうというか……。若い馬にはけっこうあるんですけど、若い馬にしてはパワーというか、ある程度の怖さをちょっと持っていた馬というイメージがありましたね。
-:レースを重ねて色々な経験を積んできていますけど、若い頃と比べて心身の変化で変わってきた点というのはありますか?
武:競馬をだいぶ使っているので、調教でもAコースであるとか、ゆっくり乗れる場所では自分のペースでテンションが上がらずに走れるようになりました。やっぱり場所、場所で自分のスイッチの入り方が分かっているというか、追い切りに行くとけっこうな勢いで行くんですけど、そういう所では競馬でもテンションが上がりますけど、逆に自分もそこに付いていっているという感じなので、最初使った時みたいに、ちょっと周りが見えなくなるぐらいにテンションが上がるということは少なくなってきたかなと思いますね。
-:「若い頃はテンションが上がった時の動きがすごかった」ということでしたけど、他の馬と違った特徴があるなと感じた部分はありますか?
武:僕は馬の本性だと思いますよ。馬は逃げるものですから、本性が競馬に出ていて、普通にしている時は牛みたいな感じなんですけど、恐いというか、周りの影響を受けてパッと気付いた時は、本当にすごい反応してビックリしたりだとか、けっこう極端な所が見えたりしますが、逆にそれが、逃げるという競馬のスタイルにつながっているんじゃないかと思いますけどね。
-:そこら辺で、逃げという戦法を取ってきた訳ですね?
武:抑えられたらと思ったんですけど、抑えると逆にリズムとか動きを壊すような行き方なので。だったらそこを少し上手く抑えて、リズム良く行ける方がという形で、ということで今のスタイルなんですけど、全然逃げを譲ったことがないというのはすごいですよね。
「(相手に)自分も潰れるという感覚があるのであれば、やっぱり抑えざるを得ない。相手との兼ね合いというか、もう後ろからくる馬のことは考えていないですね」
-:最近のレースで気を付けている点というのはありますか?
武:行き過ぎず、ですよね。ちょっと出し過ぎちゃうとね。馬のテンションを上げないで逃げるというイメージというか、最初の1ハロン、2ハロンというのはやっぱり気を使いますよね。
-:今までそういう形でレースをしてきて、2000mを中心に使ってきましたけど、マイルでも新潟、中山で武士沢さんが騎乗されて、前々走は再びマイル重賞(関屋記念)という形で勝ちました。マイル路線に関しては、この馬の感じはどのように思われていますか?
武:どっちかと言うと、行き方が短距離系の行き方なので。1800m(小倉大賞典)とか2000m(福島記念)で重賞も勝ってくれましたけど、そこはみんな止まるだろうという考えも持っていたでしょうし、正直逃げ馬でああやって人気になってきちゃうと、けっこう競られて来られるし、2000mで前半の入りが速くなり過ぎちゃうと、さすがに持たなくなっちゃう。そういうことを考えれば、マイルとかの方が競馬はしやすいのかなというイメージはありますね。それでも行き過ぎないようには、というイメージはありますけどね。
重賞初勝利となった16年福島記念(G3)
-:マイルでの重賞勝ちとなった関屋記念を振り返っていただけますか?
武:同じ逃げ馬というか、前に行く馬もいましたけど、内枠(2枠3番)の利もあって無理せず、そこまでテンションも上がらずに行けましたね。でも、来られたら来られた分だけ僕のも行くので、来た馬(2着ウインガニオン)も人気していましたし、(相手に)自分も潰れるという感覚があるのであれば、やっぱり抑えざるを得ない。そこら辺を考えれば、あの馬の武器じゃないかなと。やっぱり来られると怖いんで、その分行ってしまいますし。そういう展開にならないようにこれからも祈っていますけど、メンバーも強くなりますしね。相手との兼ね合いというか、もう後ろからくる馬のことは考えていないですね。
-:それが、今回のマイルCSに向けて、どういう競馬をしようかというつながりにもなるということですね?
武:じゃあ2~3番手でやれるかというと、もうやれる感じではないので、あの馬の持ち味というか、逃げにはこだわっていないけど、あの馬のリズムでということですね。何か変化をもたらすこともないので、あの馬の持ち味と気性面では……。
1600mの17年関屋記念(G3)でも武器をいかして完勝
-:マイルでも勝っていますけど、1800mでも2000mでも重賞を勝っています。これまでのキャリアの中で、この馬の一番強いレースができたと思うのはいつでしたか?
武:小倉大賞典の時はちょっと「おっ、強いな」と思ったんですけどね。あの時も小回りの小倉で、周りも少し脚を使わされた感じで突き放すようには見えたんでしょうけど、気性的に勝って走っちゃったような感じだったので、ちょっとダメージがあったのかなと思います。逆に福島記念は、少し落ち着いたペースで走って、後ろに脚を使わせたというレースでした。それが全部、相対的に上手くいったのが関屋記念で、マイルで本領発揮したという形でした。1800mや2000mでもずっとできれば良いんですけど、そういう前半のペースとかも絡んでくるので、やっぱり難しくなってくるのかなというのはあると思いますよ。
-:最後に、G1に向けての意気込みをお願いできますか?
武:メンバーは強いですけど、その馬たちと走れることは素晴らしいことです。最高の結果というか、良い結果を出したいと思います。勝てれば一番良いですけどね。
武士沢騎手も手応えを掴んだ17年小倉大賞典(G3)
プロフィール
【武士沢 友治】Tomoharu Bushizawa
1978年2月9日生まれ。青森県出身。1997年にデビューして1年目は8勝、2年目は16勝を挙げた。10年目の2006年にアルゼンチン共和国杯をトウショウナイトで勝って初重賞制覇を飾り、2013年に自己最多の24勝をマーク。2017年7月にJRA通算300勝を達成した。重賞通算5勝のうち、3勝をマルターズアポジーで挙げている。