「本当に競走馬になれるのか…」 “常識”を覆して砂の頂点見えた テイエムジンソク
2018/2/11(日)
快進撃が止まらない。昨年のチャンピオンズカップでG1初挑戦ながら2着に好走したテイエムジンソクだが、東海ステークスも圧倒的な支持を集めながら、2つ目の重賞タイトルを手にした。今回は初めての関東圏での競馬、芝スタート、距離などクリアすべき課題は大きいが、ダート界の主役を担うためには乗り越えるべき壁でもある。厩舎にとっても悲願のG1タイトルが懸かる一戦へ向けて、管理する木原一良調教師に手応えのほどを伺った。
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-:フェブラリーS(G1)に挑むテイエムジンソク(牡6、栗東・木原厩舎)ですが、前走の東海Sは単勝1.3倍圧倒的な支持。あそこまでとは驚きました。
木原一良調教師:オッズを見ると、私も怖さを感じました。人気にはなると思ってはいましたが、逆に良からぬことを考えてしまいましたね。メンバーを見て、自分でペースをつくって、完璧に自分の競馬をしてくれたと思います。2着馬も迫ってきましたが、おつりがあったので、大丈夫でしたね。もっと離せたかもしれませんが、そのまま後ろを見ながら連れてきたような競馬でしたね。
-:先生も安心しながら観られたレースでしたか?
木:メンバーを見たら、時計もだいぶ違いましたからね。とは言え“競馬のことだから、やってみないと分からないということも多いからな”と思いつつも、やっぱり強かったね(ニヤリ)。
-:準オープンの勝利を皮切りに近7戦で5勝ですよね。なおかつ連続連対と。この馬の成長力をどのように捉えられていますか?
木:認めざるを得ないと思いますよね。函館戦(大沼ステークス、マリーンS)の時点では、オープン特別ということで、ここから先の馬だと思っていたのですが、時計も優秀で随分と強い勝ち方をするから。“まだオープン特別だからな”という思いはあったのですが、そこからの競馬が想像以上ですね。特に大沼S、マリーンSの2回とも勝ちっぷりがすごかったから。何が吹っ切れたのか未知数ですが、馬なりで来て後ろを離しちゃうんだよね。
▲開業21年目の木原一良師にとってG1初制覇のチャンスが近づいている
-:この辺りから段々相手は強くなっていったわけですが、これだけパーフェクトな成績を出せる秘訣というのを教えていただけますか?
木:秘訣はないのですが、馬が吹っ切れた感じですよね。自分の競馬をさせて自由に走らせておいたら、気持ち良く走るもんね。今まで、控えて馬込みで競馬をしていた馬だから。窮屈な競馬ばっかりしていたのが、自分の競馬で変わってくれました。
-:プラス肉体的にも成長したということですね。
木:そう思います。精神面共々ね。
-:精神面で言えば、もともと外枠じゃないと走れないとか、あまり条件のつかない馬だと思っていました。
木:いつも行きたがると、すぐに馬込みに入れて我慢させていた馬だから、勝ち味を覚えたということかと。
-:ここまでのクラスに来ようと思ったら、なかなか並みの体力じゃ出来ないことですよね。
木:見た目はダートという感じの馬じゃないですからね。いつも下見所に行くと寂しく見える。どう見てもダート馬じゃないんですよね。芝馬という感じがするほどで……。正直、競馬場のパドックでは、他馬の方が良く見えるほどです(笑)。
-:それだけシャープな体型でも、ハートで走るということですね。
木:とはいえ、体力は付けたんですよね。自分のペースで行って、なおかつ持続性があって長くいい脚が使えるから、そこが一番大きいんじゃないかと思います。
▲東海ステークスのゴール前 師は着差以上のパフォーマンスだったとみている
-:しかも、あのポジションで走っていたら、観ている方としたらいつかバテるんじゃないか、不安になるけど、この馬はゴールまで持つんですよね。
木:チャンピオンズC(2着)がそうだったでしょう。(3着の)コパノリッキーを捕まえにいって、最後はねじ伏せましたけど、「すごい、勝った!」と思って手が挙がりかかったけど、アレっという感じだったから……。
-:でも、あれをG1初挑戦で、初めての左回りを克服して、なおかつ外枠から難しい競馬だったという。
木:そうなんです。ちょっと外に張っているレースでした。控えたから“どうするんだろうな”と思っていたものの、それでも上手いこと最後まで踏ん張っているからね。東海Sの時の3着(モルトベーネ)の秋山君もレース後に「ジンソクに付いていったらこっちが持たない」と言っていたくらいですからね。
-:今度は初めての府中になりますね。
木:輸送は小倉よりも短いからね。初の府中と、芝スタートと、ワンターンの競馬……。3つあるよね。聞きたいところでしょう(笑)?
-:聞きたいところですね。
木:恐らく今の状態で行けば芝スタートは大丈夫じゃないかなと。芝は生まれた時から牧場で走っているから、こなせないことは無いと思うんです。
-:たまにスタートで気を遣う馬はいますよね、ダートスタートの方が良い馬もいると思うのですが?
木:確かに芝スタートでは全然違う馬がいますね。
「ワンターン。スピードがある馬だから、結局走りやすくなるんじゃないかと思うんですよね。自分で競馬をつくっていけば、そういう展開になるのではないかと」
-:たまにいますよね。それは心配ないと。
木:そう思うんですよ。ダートに入ってグンとエンジンが掛かる馬がいるから、芝の間はモサモサしているのですが、ダートに入った瞬間にガンとギアが噛み合うという馬はけっこういますよ。どちらに出るか何とも言えないのですが、恐らく大丈夫じゃないかと思っています。
それとワンターン。スピードがある馬だから、結局走りやすくなるんじゃないかと思うんですよね。自分で競馬をつくっていけば、そういう展開になるのではないかと。行く馬がいれば、付いていかせれば良いし、後はどこで捕まえるかだから。-:これまでのレースを観ていると、テイエムジンソクにとって一番やりにくいのは、コーナー4つの時のドスローの競馬だと思います。マイルだったら、逆にこの馬のペースをつくれば、上がりの掛かる展開に持ち込めるとも言えそうですね。
木:そうですね。それに、僕はジョッキーに注文を付けることはないですから、古川くんが自分で判断していますから。
-:フェブラリーSでは、どういうポジションで走るのかというのが気になるところです。
木:それも未知数なんですが、欲しい枠順でいえば、周り見ながら行ける真ん中よりも外がいいかな。まあ、内でも走っているんだけどね。
-:相手の出方を見ながら行けたら良いなということですね。この馬の馬体重をみると新馬戦から10キロくらいは成長していって、前回は498キロでしたね。
木:ダート馬にしては少しさびしく見える体ですが、逆にこれに筋肉を付けちゃったら動かなくなるのかな、という……。とある雑誌で“ちょっと寂しく見えても、それで走る”という記事を読んだことがあります。納得させられました。その馬なりの筋肉で動いているのだから、見栄えを良くしてどうこうしてしまうと、逆に重くなるんじゃないかなと。それでも、最初に比べたらだいぶ見栄えがするようにはなってきたんだけどね。最近は風格が出てきたというか。
-:僕らはテイエムジンソクという眼で見てしまっているから、そんなに見劣りする馬体だとは思わないですけどね。
木:馬は分からないよね。本当に格好(だけ)じゃないんだよね。
-:ムッチリした、マッチョな馬の方が走りそうに思えますが、それが全てじゃないですからね。
木:違うんだよね。その考えがことごとく覆されるんだよね。
-:この馬を購入された(竹園正継)オーナーもそうお考えですか?
木:これは繁殖セールで買ってきて、お腹に入っていた馬ですからね。3歳の春に連れてきたんだから。当時は細くて細くて。もう間に合わないから、やれるだけやろうと。ここまで……。
-:でも、新馬戦でもいきなり10番人気で6着というのは。しかも2戦目で勝ち上がっていますからね。
木:ただ、正直なところ何が良くてここまで来るのかなと。いまだにわかりません……。それだけ相馬を超えた馬ですね。