ラブミーファイン 1200mデビュー予定で1800mを快勝 北海道2歳重賞ダブル制覇へ
2018/7/20(金)
ラブミーファインが『常識』を覆す。新種牡馬・ジャスタウェイ産駒で母系もスピード血統だったため、当初は芝1200mの新馬戦を予定。調教で折り合いの不安がなく直線で弾ける素質を感じた陣営は、芝1800mでのデビュー戦に変更して良血馬を相手に快勝した。珍しい臨戦過程でも、距離短縮は問題なし。デビュー前から手応えを感じていた杉山誠二調教助手に、異例の「北海道2歳重賞ダブル制覇」への手応えを聞いた。
-:函館2歳ステークス(G3)に挑むラブミーファイン(牝2、栗東・田所秀厩舎)ですが、新馬戦が1800mだっただけに、このレース選択を意外に思う方が多そうですね。
杉山誠二調教助手:当初、(田所秀孝)先生としゃべっていた内容では「1800mのローテーションで、北海道で3戦。新馬~コスモス賞~札幌2歳Sといこう」という話だったのですが、先生とオーナーが話し合って、出走することになったようです。
血統的には、母系は短距離の系統なので距離に対しての不安は特別ないのですが、元々、デビューも1200mの芝をメインに考えていたほど。カッと行くような感じの子じゃなかったので、先生に「1800mに変えてもらって良いですか」ということで、相談をして1800mを使いました。ああいう良い結果が出たので「1800mのローテーションで、中距離で行こうか」という話だったんですよね。
▲1800mの新馬戦からの臨戦過程を細かに語ってくれた杉山助手
元々、先生と考えていたのは、ヤマノタンポポの母系でこの子がサンデーの3×4の配合。ヤマノタンポポって僕が競馬場に入った頃、田所秀雄元調教師の厩舎にいた頃は現役として走っていたのですが、現役時代に競馬も観ていました。けっこうテンションの高い逃げ馬だったことを覚えていましたね。
そして、ラブミーファインのお母さん(ヤマノラヴ)はどこにいたのかなと思ったら、飯田雄三先生のところにいたので、友人のスタッフにどんな馬だったかを聞いたら「ちょっとテンションが上がるところがあるかもね」ということで、気を付けながらやってきたので。
-:そういうテンションが高くなる可能性もあるということで、1回使ったことでの精神面の変化はいかがですか?
杉:1回使ってちょっとうるさくなったかなと思ったのですが、乗ってみたら思ったよりも落ち着いていて、そんなに乗ってもカリカリしていたりはしていないですね。落ち着いている方が良いのか、テンションが多少上がった方が良いのかというところは何とも言えないですけどね。ただ、カイバも食べているし、特に今までと変わらず、運動していても調教していても変わらない感じがあるので。
-:精神面も考慮して距離を延ばされたということなのですが、乗った感触での距離適性はどうでしょうか?
杉:将来的に競馬を詰めていくと、マイルくらいになるのかなと。
-:函館に関しては、1200mと1800mの間がないですからね。
杉:どっちにしろ、デビュー戦は上がりをしっかり走れる馬をつくらないと競馬にならないから、そういう形で新馬をつくりましょう、ということで、上がり重点の調教をしました。テンからバンバン行くような調教はしていなかったので、折り合い重視で、普段は折り合いを付ける攻め馬をし、自分たちの思惑通りレースでも直線で弾けてくれたというレースでしたね。
正直、スタートして前半が1分5秒で2番手だったので“勝ったわ”と思っていました。追い切りも自分で乗っていて、弾けるので、よっぽど藤沢先生の馬(3着のコントラチェック)が弾けない限り、いけると。馬場が多少渋っているのも余計に自信がありました。函館のチップで終いを伸ばした時でも、12秒台で動けているので、少々渋った馬場でもこなせるんだなと。
そういうところがジャスタウェイの血が出ているのかなと気はしますし、母父がアグネスデジタルなので、そういう点もちょっとパワーがあって一瞬弾けるタイプみたいな感じで、良いスピードを持っているけど、どこで使うのかだろうなと感じなんですよね。逆に言ったら、もっと降ってくれても平気だと思いながらいたので。
-:当日の馬場はどれくらいの重さでしたか?
杉:そんなにメチャクチャ重くはなかったと思いますね。重くなくて、芝自体の毛足が長くて、雨でちょっと芝生の上を走って、ピュッと止まったら滑るみたいな感覚は分かりますかね?伸びて走る馬より掻いて走る馬の方が絶対に有利だと思うので、藤沢厩舎のああいう手脚の軽い馬というのは伸びて走るので、伸びて走ると走り辛いのかなと。
この間のレースの後も、古川(吉洋)君のメイショウトーチは3コーナーくらいで滑る感じのノメり方をして「そこから全然ハミを取らなかったわ」と言っていたくらいだから。「元々、3コーナー辺りは悪い」とみんなが言っているくらいで、そう考えると、自分が思っていた通りの感じの馬なんだなという気はしますね。
-:相手がけっこう人気を集めていたので、ビックリした人も多かったと思いますけど、陣営としては手応えがあったと。
杉:勝つ気でしたよ。前日から先生と今回、函館に来ているスタッフで食事に行って、「最後はステークスに行きたいね」ということをしゃべっていたので、自信がなかった訳じゃないし。
-:その「ステークス」というのは……?
杉:札幌のことですね(笑)。「最後」というのも、北海道シリーズの最後ということなので。
-:今は調教映像も観られますけど、新馬なので、やっぱりやっていらっしゃる方のほうが素質などはわかると思います。重賞にも送り出せるような手応えはあった訳ですか?
杉:僕はサヤカチャン(今年のクラシック出走)とワークアンドラブ(昨年のホープフルステークス出走)の2頭もやっていて、その後にこの子を担当させてもらっているので、比較対象となるのが、オープンまで行けた馬たちでした。2頭も自分で調教してきていて、ラブミーファインは最初にもらった時に400kgくらいしかなかったので、評価的にはあまり良い評価をされていなかったと思います。それがこちらに連れてきて、見る見る体が立派になってきて、調教をこなす度に動きも良くなってきていたから、走るよと言って。
だから、他の厩舎の子から「杉山さん、その馬どうなん?」と言われた時に「走るよ」と言っていたのですが、トータルで見たら、みんなも「何を言っているんだよ!?」という感じだったと思います(苦笑)。本当は藤沢さんの馬がいなかったら、この馬が1番人気になってもおかしくないなと、自分の中では思っていたのでね。パドックでは僕が2番で向こうが1番だったので、後ろから歩きを見ていましたし、絶対にこの馬の方が道悪は得意だろうなと思って見ていたので。
-:僕も関係者から「馬場が悪かったらダメなタイプかもしれないだよ」と耳にしていました。
杉:最初、歩様を見た時に、そんなタイプなんだろうなと。言っても、僕も35年競馬場で働いているので、それなりにやってきていますからね(ニヤリ)。何人かのブンヤさん(新聞記者さん)で、厩舎を担当して来ている人にも「自信がある」とは言っていたんですよね。
いま放牧に行っている去年のサヤカチャンでも、あの子も札幌に行った時に、「俺はこの馬を札幌2歳Sで使って帰るんや」と最初から言っていたんだけど、誰も信じてくれなくて。「何で札幌2歳Sなの?」と言うから、「この子でオークスに行きたいんや」とずっとやってきて、とりあえずオークスに行けたので。
▲サヤカチャンとのコンビでオークスにも出走した杉山助手
-:函館2歳Sに戻りますと、ペースもかなり変わってくると思いますけど、そういった対応というか、戸惑いがなければ良いのかなと思いますが?
杉:そこがどうなのかな、というだけですね。ただ、先生としゃべっていたのは「将来のこともあるので、そんな1200mを意識した調教はしなくていい。今までやってきた感じでやっておいてくれ」という感じで言われているので。
-:ゲートはいかがですか?
杉:ゲートは問題ないですね。ゲートも出したら出ていくし、池添(謙一)君も次は2回目になるので、馬もある程度分かっているでしょうし「折り合いは付いた」と言っていたけど、おそらく出していったら出ていくんだろうなというのは感じてくれたと思うので。フワッと乗って折り合うタイプじゃないので、やっぱりこっちがちょっと我慢しなさいよ、というようにすれば我慢できるけど、というところがまだあるので。ただ、1200m、1200mと使っていっちゃうと、そこがなくなってしまったら嫌だなと思ってね。それで1800mを、という形でやってきたので、急に1200mになるから戸惑いもするだろうけど、何とか函館なら、本気でお前がG1で通用するなら勝ってみろよ、みたいな。
-:でも、今年は突出している馬がいない感じもしますからね、
杉:本気で自分たちが思い描いているような感じで走ってくれるのならば、大負けはすることはないと。逆に言ったら、ここで大負けをしているようじゃ、本当に桜花賞だとか札幌2歳Sだとか、そんな大きなことは言えないと思うので。
-:いずれにしても札幌は使う可能性は高いですか?
杉:一応、最終的にはそこは視野に入れていると思うので。ただ、函館2歳Sの結果で、また変わってくるかもしれませんね。函館2歳Sと札幌2歳Sを両方勝って、真の北海道チャンピオンになれればね(笑)。昔は普通に札幌2歳Sを使って、下りてきて函館開催の時は札幌2歳Sを使って函館2歳Sを使ってというのは、昔は普通だったんですよ。今は牧場への出し入れとか、使ったら放牧だということになって、馬の入れ替えが頻繁に出来るようになったから、そういう馬はいなくなったけど。
僕らが入った頃は、連れてきたら厩舎で4~5カ月やっていたので。もっと言えば4年くらい同じ馬をずっと一緒にやったりもしているので、僕ら古い人の方がそういうノウハウを持っていますから。今時の若い子は、来て1週間~10日で競馬をして出ていく経験があるかもしれないけど、同じ馬をずっとやるというのがないので、ウチの厩舎の若い子にも言うんだけど、そういうところは分からないのはかわいそうだなと。
そういう入れ替えが激しいと、いかに馬の変化を見抜いて、早め早めにケアしていかないと長持ちしないじゃないですか。だから、4年間競走馬として活躍させるのは大変なんだよ、と。走る、走らないじゃなくて、無事に競走馬として良い状態で競馬に連れていくというのが俺たちの仕事であって、今はあの馬が走ったから、あの担当者はすごいよね、という感じになっているけど、ほぼほぼG1馬でも、牧場の人の方が触っている時間は多いんじゃないのと。
あの人はずっと同じ馬をやって、ケガもさせずにコンスタントに競馬に出して、良い競馬しているなという人から仕事を盗みなさいと、ウチの厩舎の若いスタッフには言っているのですがね。僕も色々な経験をして、その集大成としてやっていければ。先生も引退まであと3年ないので「G1タイトルがなぁ…」ということを言われているので、それは僕もお父さんの代からいて、今の先生の開業の時からずっといるので、それは同じ目標としていけたら良いなと思いますね。
-:サヤカチャンはオークスという目標を叶えた訳ですけど、この馬は3歳春までということを考えると、どういった目標になりますか?
杉:僕は、この子は桜花賞からNHKマイルCかなと思っているので、上手いこと成長してくれたら2000mくらいかなと思いながらやっています。
-:今回は貴重なお話をありがとうございました!レースを楽しみにしております。
プロフィール
【杉山 誠二】Seiji Sugiyama
1967年生まれ、滋賀県出身。父が厩務員で、栗東中学校を卒業してすぐに競馬場へ入った俗にいう“トレ子”。5人兄弟のうち男は3人いて、皆厩舎スタッフを務めている。石坂正厩舎に兄と弟が在籍し、故人の兄はサマー2000シリーズを制したイタリアンレッドを担当、弟はドナウブルーを手がけた。
思い出の馬は2頭。エーシンマイェスタは気性難で知られたエイシンシンシアナの子で、32秒台の上がりで差し切り勝ちを決めたり、3連勝を果たすも一時は「G1の夢を見た」と懐かしむ。もう一頭は札幌2歳Sを制したオリエンタルロック。重賞を勝ちながらダービーで除外の憂き目にあった。