菊花賞馬が復権を狙う。破竹の勢いでクラシック最終冠を制し、一躍将来を嘱望されながらも、その後の香港ヴァーズから、惨敗が続いてしまったキセキ。秋初戦の毎日王冠では3着に入り、復調の兆しを感じさせたが、不振の原因は?また、同世代のライバルにどんなパフォーマンスをみせてくれるのか。真価を問う天皇賞(秋)に挑む。

尾を引いた菊花賞の激走のダメージ 春は歯車が噛み合わず

-:天皇賞(秋)目前のキセキ(牡4、栗東・中竹厩舎)ですが、前回の毎日王冠では久しぶりにキセキらしい好走(3着)をしました。菊花賞以降の香港ヴァーズ(9着)~日経賞(9着)~宝塚記念(8着)と着順が悪かった所を振り返っていただけますか。

清山宏明調教助手:香港ヴァーズの見た目はリフレッシュして回復出来ていたように思っていました。しかしレースを観るとやはり菊花賞の極悪馬場を激走したダメージがあったのかと思いました。僕らがみて図るよりも体の奥底とか、心肺機能など目に見えないダメージが想像以上に残っていたということを教えてもらいました。なので、キセキの本来の能力で走ってきた結果ではないと思います。その後はダメージがあったということを踏まえて、春先からのレースを見据え、日経賞からステップを図る形で行きました。激走の中で精神的に歯を食いしばってきた反動で、こちらが思うようなイメージでレースを迎えられていない感じでしたね。日経賞では、そういった不安が反映されたように思います。ルメールジョッキーもそういうことを踏まえて、ポジショニングも色々考えてくれて、道中早めに良いポジションを取りにいこうと思ったんでしょうね。でも1周目のホームストレッチのところでポジショニングを上げようとした時に、キセキが精神的にナーバスなっていたところでゴーサインに感じてしまったんです。だから、ああいうチグハグなレースになったんだと思いますね。

キセキ

▲菊花賞キセキの復活に尽力する担当の清山助手

-:日経賞を観ていた僕らファンの中にはルメール騎手が上手く乗れなかったと思う人もいらっしゃると思うんですよ。

清:正直、いらっしゃると思いますよね。でも、ルメールジョッキーはあれだけのレース経験も踏まえて、実績と感性を持っている人なのでジョッキーの乗り方で負けたレースではないと思います。キセキにとって最善のレースをしようとした最初のコンタクトが、そういう形になってしまったということだと思いますね。

-:それだけキセキが競走馬として敏感な面もあるということですね。

清:余計にクローズアップしてしまいましたよね。

-:それも、先ほどおっしゃっていた菊花賞の燃え尽き症候群みたいなところから立ち直る過程での精神状態で、以前より過敏になったということですか。

清:燃え尽き症候群ではなくて、僕らが思うよりもそれだけダメージを残すレースであったというのが菊花賞ですね。そこを勝ち切るだけの能力と、それから本当に最後の最後まで歯を食いしばって頑張るという他の馬よりも優れていた。根性というか、精神力の強さというのがあの菊花賞に凝縮されているんです。僕らが思ったよりもすごく体力も、俗に言う命を削るじゃないですけど、それだけのエネルギーと生命力を使っていたんですよ。

-:そのダメージが、結局、宝塚記念まで少しずつ尾を引いていたということですか。

清:身体的なダメージ、精神的なダメージというのは時間を追う毎に回復出来ていたと思います。やはり宝塚記念の時というのは、レースでチグハグだったところがずっと尾を引いていたところもあります。なおかつファンへの期待をずっと裏切っているという責任感と、僕らが思っているよりも、キセキの本当の能力を発揮出来ていない形がずっと続いていたので、宝塚記念で結果を出して、もう一度キセキの本当の姿を見て欲しい思いがあったんです。レースの進め方は段々良くなってきていましたけど、歯車が一旦ズレてしまうと、急激には良くはならないですよ。

-:宝塚記念を終えて、もう1回リフレッシュして今回の毎日王冠に向かいました。菊花賞の激走からほぼ1年で、あれが本来のキセキの姿とは言えないですけど、58キロを1頭だけ背負ってのレースということを考えれば、復調とみて良いですか。

清:そうですね。やはり秋の東京の開幕週で馬場コンディションとしては最高の舞台でした。キセキが引いた枠が1枠でしたし、経済コースで一番良いところ、他馬より距離損なく走れるところをいただいている訳ですよね。ただ、キセキのそれまでの戦法から考えると、内枠というのを上手く活かせない戦法を今まではしてきました。でも、これから天皇賞(秋)、ジャパンCを見据えた上で、あの絶好枠を活かすにはメンバー構成を考えても、ある程度攻めた形のポジショニングを取ってレースが上手く出来ないことには、これから先のことはイメージ出来ないと思っていました。今までは今回のような先行策を取っていなかったですから。

毎日王冠に向かう調整の中で上手くオンとオフというのを会話出来るような状態をキープしながらレースまで進めていけたので、それが上手く絶好枠を活かす形にできたのだと思います。エキサイトし過ぎないで、速い流れの中を我慢出来たのは大きな収穫でした。キセキ自身も菊花賞から時間を経て、苦しいレースを経験しながら成長してくれたのでしょうね。なおかつああいうスピードを要求されるレースの中で、勝ちに行くレースを川田ジョッキーがしてくれたので、負けはしましたけど、キセキの持っている能力を再確認出来たレースでした。

言葉は悪いですけど、キセキの本当の能力をまた見られたという嬉しさの方が強かった。ああいうレースが出来たことで、マイナスに思っていた面を、こうやって攻めて乗り越えてくれたことがすごく嬉しかったんです。悪い流れを断ち切る糸口が見えた気がしました


-:これまでのレースを振り返ると、後方から差すという一つのパターンがあって、それは馬場に関係なく示してくれました。馬場が悪くなっても菊花賞のように気持ちで勝ち切るというレースをしてくれたんですけど、毎日王冠ではレコードにコンマ2秒に迫る中で、1000m59秒の流れを2~3番手で行くというのは、これまでのキセキの中では一番頑張った追走だったんじゃないですか。

清:そうですね。本当にスタートからゴールまで、気持ちでも体力的にも緩むところがなかったですね。今までと違うレースが出来たのもキセキに能力があるからなので負けはしましたけど、レースが終わった時に僕はすごく清々しい気持ちでした。言葉は悪いですけど、キセキの本当の能力をまた見られたという嬉しさの方が強かった。ああいうレースが出来たことで、マイナスに思っていた面を、こうやって攻めて乗り越えてくれたことがすごく気持ち的に嬉しかったんです。悪い流れを断ち切る糸口が見えた気がしました。

-:乗っていた川田ジョッキーも、引っ掛かるレースが過去にあったというのを分かっていながら2~3番手に行く、かなり肝を据えたレースをしたと思います。それを出来るコンディションに持っていくためにトレセンで清山さんとキセキの間でどういう準備をされたんですか。

清:日々、すぐにスイッチが入って、人の言うことを聞かない、今までのレースでもそうですし、普段の調教の時でも、自分の意思を尊重し過ぎるくらいの我の強さを発揮して、コントロール出来ない状態になることがあったんですよ。ですから極力オブラートに包みながら会話が出来るような状況を意識しながら乗っていました。

キセキ

-:男馬でありながら、牝馬っぽい扱いが要求されるのですね。

清:要求されますね。それで、そういうのを理解するとドッシリ構えるところもあったりするので、気が良すぎると言ったらおかしいですけど、走ることに正直で真面目なので良い方向に会話が出来ていくと、こちらが思うことがちゃんと理解出来るようになりますからね。

-:ここは抜いた方が自分も楽なんだよ、ということをちゃんと教えてあげるということですね。

清:だから、リズムのつくり方も気をつけないといけない。急激にギアを上げる形にすると、反応しちゃうんですよね。そうすると人の意思とは逸脱するところまで入っていってしまうので。

-:毎日王冠のラップ的に、これまで経験してこなかったペースだと思います。緩急をつけて最初はフワッと出して、最後は頑張ってくれるというレースだったと思うんですけど、こういう速いペースを経験したことによって、天皇賞(秋)のスピード勝負に生かせそうですね。

清:今回の毎日王冠からの天皇賞(秋)を考えると、非常にプラスに働くと思いますね。スピードを持続させることを要求されるレースを同じコースで経験出来たという点はすごく大きい。

-:ただ、キセキにとってまた試練だと思うのは、中2週というところですね。

清:そうですね。でも、良い状態でレースを使って、非常に回復も早かったのでダメージが残ったという感じは全然なかったです。ドンドン大人になってきているから回復も早いのか、体調が良かったからそういう時季的なものも手伝ってなのか、本当にこちらが心配するよりも体の戻りも早かったので中2週でも大丈夫です。

キセキ

-:菊花賞のG1勝利からちょうど1年が経って、馬体的な成長というのはどういうところで感じられますか。

清:やっぱり大人っぽくなってきましたね。筋肉的にもガチッとしてきましたし、シルエットもそういう風に見せるように、顔つきも大人になってきましたしね。

-:かわいさがちょっと抜けてきましたね。

清:そうですね。ちょっと子供っぽい顔だったのに、大人の顔になってきましたね。

-:体重的には、どれくらいで出走出来そうですか。

清:今度はもう少し絞っていけると思うんですけどね。

-:490キロ後半くらいですか。

清:そうですね。そこが一番動ける形の体重かなと。僕の中で理想のイメージなんですけどね。

-:これで立ち直って、もうワンランク上を。

清:菊花賞の一回だけではないところを見せたいですね。精神的にも成長してくれたので、本当のキセキの力がどうなのかというところが試される厳しいレースになるとは思うんですけどね。

滅多に巡り合うことのできない素質 キセキとの日々を噛み締めて
キセキ陣営インタビュー(2P)はコチラ⇒