キタサンミカヅキ 地方移籍で素質が開花 前哨戦覇者が淀へ舞い戻る
2018/10/28(日)
地方競馬の夢を背負った一戦へ。今年は京都競馬場で行われるダートの祭典。前哨戦の東京盃を連覇したキタサンミカヅキは現在8歳にもなるが、JRA時代は重賞に手が届かなかったものの、船橋競馬へ移籍して素質を開花させた。地方競馬のトップホースがNAR全国リーディング争いを繰り広げる森泰斗騎手とのコンビでJBCスプリントへ挑む。アウェイのハンデを乗り越えるなら、この人馬しかいないだろう。
-:JBCスプリント(Jpn1)へキタサンミカヅキ(牡8、船橋・佐藤賢厩舎)と挑む森泰斗騎手に伺います。よろしくお願いします。この馬には、ここ3戦でコンビを組まれてきました。もともとはこの一年弱、南関東、地方競馬のトップクラスの馬として活躍してきたわけで、客観的な印象も持たれていたと思います。実際に手綱をとられてのギャップは感じましたか?
森泰斗騎手:初めて乗せていただいたのはプラチナカップ(7月16日・浦和)の前の追い切りですね。いい意味で思っていた通りでした。すごく力強く、率直にいい馬だなとは感じましたね。追い切りの段階で、なかなか地方競馬のレベルでは感じられない力強さを感じました。
▲10/22からの浦和開催では埼玉新聞栄冠賞を制すなど
固め打ちの森泰斗騎手 京都コースは初騎乗になる
-:実戦に行ってのギャップもなかったですか?
森:「ちょっと引っ掛かるところがあって、気性もキツい」という話を事前に聞かされていたのですが、全くそんなことはなかったですね。逆に折り合いが付き過ぎてしまうのではないかと思ったほど。それは年齢を重ねることでの落ち着きものもあると思いますし、レースに挑むにあたっては良い方向に出ていると思うんですけどね。JRA時代は気性のキツさから、引っ掛かっちゃって、短い距離になると、ポジションを取りに行けない競馬ばっかり続けていたみたいなのですが、メンタル的な面で年齢を重ねてきたことが、良い方向に出ている典型といいますか。
-:管理する佐藤賢二先生も「何故かは分からないけど、中央ではうるさい馬だったと聞いていた割に、こっち(船橋)に来てからはそういうことはないよな」みたいな話を前走のレース後、されていました。
森:環境なのか、加齢によるものか…本当のことは馬に聞いてみないと分からないですけどね。ただ、担当厩務員がすごくかわいがっているといいますか、よく面倒を見ている賜物でもあると思うんです。
-:他のジョッキーで「佐藤先生の仕上げはすごい」とよく言っている方がいるのですが、厩舎の仕上げ、育成にもよるものなのでしょうか。
森:佐藤先生の厩舎は、基本的にハードトレーニングですよね。外厩の坂路を使えばまた違うかもしれませんが、中央の一線級と互角に戦おうと思えば、それくらいやらないと、というところはありますよね。どうしても競馬場の平坦コースのダートで調教をするだけなので。もちろん、馬にもよりますけどね。(体質の)弱い馬にやり過ぎても壊しちゃいますし、それだけに、その辺の見極めもすごいと思いますね。長く南関のトップでやられている方だから、学ぶことは多いですね。
-:キタサンミカヅキにはここまで3度、乗られましたが、それぞれのレースの状態面を比較されるといかがですか。
森:(3走前の)プラチナCはものすごく暑い日でした。正直(2走前の)アフター5スター賞の時はちょっとくたびれていて、調子自体はあまり良くなかったと思うんですよね。ただ、それでもあの勝ちっ振りなので、底力が全然違うなと思いましたが、この間(東京盃)は立ち直っていましたね。東京盃の最終追い切りの段階から、アフター5スター賞の時とは違うと感じていましたよ。
-:プラチナCの日は確か最高気温40度なんて予報もあったことを記憶しています…。アフター5スター賞の時は「戦前はこのデキで大丈夫かな」と思うくらいだったのですね。
森:普段の調教を山本聡紀(騎手)がやっているんですけど「良くないですね。でも、競馬に行けば走りますよね」と言っていた記憶があります。でも、この間はすごく良かったので。
-:ダメージは芝より軽いダート戦ですし、前走の状態はキープ出来ていれば。
森:そうですね。あと最終調整にも乗る予定です。状態はあの厩舎だし、抜かりなく仕上げてくると思いますね。
-:前走(東京盃)は意外だったのですが、ジョッキー自身としては初めてのダートグレード制覇ということでおめでとうございます!
森:そうですね。言い訳はしたくないのですが、地方競馬の騎手はなかなかチャンスが…ね。一昔前ならJRAと互角に戦える馬もたくさんいましたけど、一時は馬場を貸しているかのごとく、手も足も出ない時期もありましたから。最近はまたポツポツと力のある馬が出てきてくれていますが…。それでも、僕自身、2着は何度もあるので、自分に何かが足りなかったという思いもありますし、(去年のJBCスプリントの)コパノリッキーでも負けてしまいましたし、(エンプレス杯の)ワイルドフラッパーも2着でしたしね。3着もたくさんありますから。
-:ご自身の思いとしては、嬉しさもありましたか?
森:う~ん、ある程度…ですね。騎手としてはそれで良くないのかもしれないけど、普段の重賞レースと違った感情は正直湧かなかったですね。
-:よくはないかもしれませんが、悪いことではないと思います。もっと高いところを狙いたい、という考えでは。
森:そうですね。一応、嬉しいのは嬉しいですけどね。だけど、これで交流は勝ったけど、やっぱりJpn1は勝っていない訳ですし、これからは「次はJpn1を勝っていない」と言われないように(笑)。
-:その前回のレースを振り返っていただくと、先行馬もそれなりにいましたけど、レース後のコメントを聞いていると「あまりペースが上がらないという見立てもあった」ということでしたね。
森:(3着の)グレイスフルリープは外枠(14番)で、クリストフ(ルメール)もどちらかと言うと固く乗るタイプで、そこまで「攻めない」ですから。あのメンバーレベルでテンの入りが34秒4だったので、速くないですよね。上がりもあの馬たちなら、それなりの脚で上がってくるから、後ろからの競馬だと36秒フラットくらいで上がらないと差し切れないですよね。それは不可能なので、僕のイメージとしては競馬としてはかなり上手く乗ったレースだと思います。
ただ、「キタサンミカヅキは直線一気」というイメージを持たれている方たちも多いと思いますし、この間のレースに関しては、そういうスタイルではおそらく負けていたと思います。結果が伴ったというだけで、負けたら批判される競馬だったと思いますが…そういう仕事だから、紙一重ですよね。
-:その展開に加え、あの日は馬場も前残りの傾向があったのかなと。あの競馬は、それを踏まえてのことだったのですか。
森:それも踏まえてです。しかし、出して行くと脚を使えなくなる馬も中にはいますからね。
-:理想は、前に行って同じ脚を使えたら、それに越したことはないですからね。
森:そうなんですよね。あの馬に関しては、昔の直線一気というイメージは捨てて良いと思うんですよね。3回乗りましたけど、年齢を重ねて多少ズブさも出てきているし、もう、そういうイメージではないと思うんですよね。ちゃんと付いていっても脚が使えますし。
-:やっぱり直線は外に出したいタイプですか?
森:出したかったんですけど、あの流れなのでバラけないじゃないですか。あの流れなら出せないから、速くなればある程度バラけるから、外に出せるんですけど、あそこに行くしかしょうがないですね。
-:一線級が相手ですからね。それだけペースも遅ければ、あそこでバラけることはないですよね。
森:ネロの(戸崎)圭太が上手く乗っていたよね。最高の騎乗というか、逃げ馬に同厩舎の馬(マテラスカイ)がいたから、それを見ながら良い流れで行けるというのもあるけど、よくあそこが空いたなと思います。圭太が右鞭に持ち替えたのが見えたので、それで、そこしかない…と。勝つ時は上手くいくもので、自分自身も冷静でしたよね。昔の若い時なら舞い上がっているのでしょうけど、さすがにもう良い歳ですからね(笑)。それなりに経験もさせてもらってきているので、ハハハ。
-:ただし、次戦は京都競馬場で行われるJBCということで、また違った感情が湧くのではないでしょうか?
森:そうですね。競馬場自体も乗ったこともないですから。こちらの馬もわざわざ京都に使いに行かないですからね。でも、競馬場自体の情報は頭に入っていますしね。
-:そんなに癖があるかどうかと言うと、ないと思うので。
森:今年の新潟でも初めて乗せてもらいましたが、対応できる感触はありました。それに、エキストラ騎乗も乗せてもらうことになると思うので。こちらの馬場だとダートでも時に偏りがあったりしますが、JRAのダートはそこまで傾向がないと思いますし、当日の馬場もレースを観たりすれば、把握できるでしょうから。
-:散々聞かれている、聞かれると思いますが、中央の馬場だとどうなのか、時計的な面が気になりますよね。
森:やっぱりこちらのダートとは質が違いますからね。僕もその馬場であの馬に乗ったことがないので、正直に言えば、分からないですね。ただ、あの時とは馬自体も変わっていると思います。これまでいい成績が残せていないから合わないというのは、一概に言えないと思うんですよね。ただ、パワーが優れている方なので、あまり速い時計の決着になってしまうと、という心配はありますよね。
-:地方のように水分を含んでくっつきやすくなるのならともかく、中央の馬場だったら、あまり雨は降らない方が良いですね。
森:そうだと思います。
-:枠は選びますか。
森:やっぱり真ん中より内が良いかな。あんまり外で振り回されるのも嫌ですからね。
-:長距離輸送は久々ですね。
森:そうですね。そこは心配していませんが、土曜日に京都競馬場でスクーリングをして、馬場を見せて、という感じになると思います。
-:ということは、金曜日に輸送するのですか?
森:そうですね。僕も金曜日の大井を休ませてもらうことになると思います。京都で1泊して、土曜日の朝スクーリングに乗って、土曜日に調整ルームに入って、という感じですね。
-:自身も前乗りされるわけですね。アウェイですけど、今年は南関の騎手の方もすごく多いので。
森:馬場をお借りする訳ですけど、地方競馬の祭典ですからね。そういった意味では、普段の顔見知りが一杯いるというのは心強いですからね。お祭りですし、楽しみですよ。
-:今年は地方競馬ファンの期待もかなり高まっているんじゃないかと思います。最後にレースに向けての意気込みをお願いでできますか。
森:今までの歴代のJBCで、地方馬が勝ったのは2回しかないですからね。ましてや今年は京都ですし、簡単なハードルではないですけど、それでも多分(キタサン)ミカヅキならやってくれる気がするんですよね。負けたことがないから、やっぱり自分の中ではすごく良いイメージしかないので…勝つイメージがあります。勝てれば、いや、勝ちたいですね。
-:JBCが中央の舞台でやることも異例の年。地方に来て台頭した異色のキャリアの馬と、頑張ってください。
森:ありがとうございます。
プロフィール
【森 泰斗】Taito Mori
1981年1月11日生まれ。1998年に足利競馬場でデビューし、宇都宮競馬場を経て、船橋競馬場に移籍、現在に至る。これまで積み重ねた勝ち星は2300勝を超え、今年は既に昨年を上回る勝鞍を挙げている。南関東のみならず、昨年のJBCスプリントではコパノリッキーの手綱を任されるなど、地方競馬を代表する名手の一人。