常識破りの3冠牝馬アーモンドアイ 夢を広げる一戦に
2018/11/18(日)
アーモンドアイが、再び"常識"を破る。シンザン記念以来3カ月ぶりの出走で桜花賞を勝ち、オークスから前哨戦を使わずに臨んだ秋華賞も、圧倒的な強さで牝馬3冠を達成。秋華賞のレース後にジャパンC参戦が発表された。中5週のローテーションでレース17日前に帰厩するパターンは、桜花賞→オークスと同じ。3冠を達成したジェンティルドンナしか成し遂げていない3歳牝馬のジャパンC制覇への手応えはいかに-。不利と言われていたローテーションで秋華賞、菊花賞、天皇賞・秋とG1を3連勝したノーザンファーム天栄・木実谷雄太場長に聞いた。
(取材、構成=競馬ラボ・狩野)
-:アーモンドアイ(牝3、美浦・国枝厩舎)の牝馬3冠達成おめでとうございます。秋華賞を振り返っていただけますか?
木:ありがとうございます。秋華賞はオークス以来、間隔が空いての出走となりましたが、当時と変わらないくらいの状態まで持っていくことができて、レースでパフォーマンスを発揮できる状況だったと思います。レースは4コーナーで前の馬が膨れる形になって、少し走りがバラついてしまったんですよね。そこで心配しましたけど、前が開けば伸びるのはわかっていたので、勝つことができてホッとしました。
-:レース後に熱中症のような症状が出たと聞きましたが?
木:口取り写真を撮影しているときから前掻きをしていて、寝たそうにしていました。オークスの後もそういうところが少しあったので、それだけ1回のレースで走りきっているということじゃないでしょうか。心配しましたけど、大事に至らなくてよかったです。当該週の追い切り前日に脚をぶつけてしまいましたが、その部分を見ても大きな問題もなかったので安心しました。
オークス後の記念撮影。左端が木実谷場長
-:ジャパンCへの参戦は予定通りだったのでしょうか?
木:秋華賞の後はノーザンファーム天栄に戻って、体調面も含めて回復具合を慎重に確認していました。ジャパンC参戦ありきで調整を進めたわけではなく、国枝先生も週に1回は状態を確認に来場されていました。その中で私たちの思っていた以上に回復が速く、これならジャパンCに向けて進めていけるのではないかということで、11月8日に美浦トレセンに入厩しました。
-:中5週のローテーションは桜花賞からオークスに向かうのと同じ間隔で、天栄からトレセンへ移動したのもオークスの時と全く同じレース17日前です。これは意識的に日程を決めたのですか?
木:レース後の上がりの状態や気温も違いますから、一概に春とは比較できないですが、だいたい2週半前の入厩はこのような形です。火曜日に天栄である程度しっかり強めに調教して、水曜は少し楽をさせて輸送に備えますね。意識したというか、いつもどおりですよ。
-:どの馬も同じパターンなのですか?
木:そんなことはありません。レースの10日前に入厩する馬もいれば、1カ月以上トレセンで乗り込む馬もいますし、あくまでも馬の状態や状況に合わせて調教師の先生方と相談するようにしています。
-:アーモンドアイは今回初めて古馬相手に、しかも牡馬の一線級と戦います。手応えはいかがですか?
木:他の世代のトップホースたちと走るのは今回初めてになりますので、やってみないとわからないというのが正直な印象でしょうか。実際にどこまで通用するのか、走り終わってみて初めてわかることだと思います。まずは無事に走り終えてくれることが一番の願いですね。
-:コーナー4つで内回りの秋華賞よりも広い東京コースのほうが良さそうに思います。
木:秋華賞を振り返ってみても、コーナーリングに課題を残していますので、現状は広くてコーナーの緩いコースがこの馬には合うと思います。
-:コーナーリングが得意ではないというお話がありました。これまで2ケタ馬番が多い馬ですが、スムーズに運べる外枠のほうが良いですか?
木:一概にどちらが良いとは言えないですね。外枠でも外に馬がいれば別でしょうし、天皇賞・秋のように(馬群が)バラけることもあるので、内枠でもポツンと追走できることもあります。どの枠であれ、スムーズに追走できることが大事になってくるのではないでしょうか。
「圧倒的な強さで3冠牝馬になったからといって、同じ世代の馬としか走っていない。ここでいい結果を残して、皆様にさらなる夢や希望を持ってもらえれば」
-:牝馬3冠を獲れる馬に巡りあうことは、なかなかないと思います。これほど能力の高い馬ですから、古馬の強豪を倒せるという期待は大きいのではないですか?
木:いくら圧倒的な強さで3冠牝馬になったからといって、同じ世代の馬としか走っていないわけですからね。オークスや秋華賞は今まで一緒に走ってきた馬たちとの力関係はわかっていました。ですから焦点はアーモンドアイ自身がスムーズに追走して、セールスポイントである末脚を発揮できるかどうかだけでしたが、今回はそれ以外に越えなければいけないハードルがいくつもあると思っています。
-:ジャパンCは試金石の一戦ですね。
木:そうだと思います。先ほどもお伝えしたように、無事に走り終えることがまずは一番ですが、ここでいい結果を残して、私たちスタッフ、出資会員の皆様、そしてファンの皆様に更なる夢や希望を持ってもらえれば何よりです。
-:アーモンドアイの翌週は、菊花賞をフィエールマン(牡3、美浦・手塚厩舎)で優勝されました。関東馬では2001年マンハッタンカフェ以来17年ぶり、トライアルを使わないローテーションで驚いたファンも多かったと思います。
木:いつもスタートが遅かった馬ですが、うまく出て中団より前にいましたし、最初の坂の下り以外は折り合って最後もよく伸びてくれました。いい内容だったと思います。
-:次走は有馬記念という話もありましたが、疲れがあるので断念すると発表されました。
木:菊花賞から2カ月くらいの間隔ですが、まだ疲れが残っており、有馬記念ではフィエールマンのパフォーマンスが発揮できる状況にはならないだろうという判断です。ローテーションはこれからの馬の状態を見ながら決めていきますが、この馬が本格化するのは4歳になってからとデビュー前から感じていましたし、来年はもっといいパフォーマンスをお見せすることができるはずです。
-:さらに菊花賞の翌週にはレイデオロ(牡4、美浦・藤沢和厩舎)で天皇賞・秋を勝って、3週連続のG1制覇を成し遂げられました。オールカマー、天皇賞・秋、有馬記念というローテーションは当初から決まっていたのですか?
木:ローテーションはドバイ遠征後、当初検討されていた札幌記念での復帰がなくなった時点で、オールカマーで始動し、天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念のうち2つを使おうということだけ決まっていました。オールカマー後の状態によってはジャパンCという選択肢もあった中で、こちらの思っていた以上に回復が速かったため、天皇賞・秋に出走することになりました。天皇賞・秋の後も天栄に戻ってきたのですが、さすがに歴代2位の好時計で駆け抜けた反動が残っていることから、ジャパンCではなく、有馬記念に向けて現在調整を進めているところです。
-:レイデオロは天皇賞・秋の前に話をお伺いした時に左手前のほうが強いから右回りのほうが良いかもしれない。とおっしゃっていましたが、左回りでも素晴らしい末脚でした。
木:今回は最後の2、3完歩まで右手前で伸びていて、成長を実感することができた内容でした。有馬記念は小回りですから難しいコースですけど、中山でも3勝しています。ポジショニングが重要なレースなので、あとはスタートを決めてスムーズなレース運びが出来ればと思います。
「レースでパフォーマンスを発揮できる状態で送り出すことが何よりも重要なので、うちは間隔とかローテーションとか気にしていないですよ。これ、毎回言ってますね(笑)」
-:アーモンドアイをはじめ、3頭とも過去に結果の出ていないローテーションでの優勝でした。ノーザンファーム天栄にとっても自信になったのではないですか?
木:次の世代への1つの指針にはなると思いますが、同じようなローテーションで臨んだプリモシーンやブラストワンピースなど結果を残すことができなかった馬もいますし、一概に『これで良し』というわけではありません。大事なことは、その馬が目標としているレースでパフォーマンスを発揮できるコンディションにあるかどうかです。それが中2週なのか3カ月空いているのか、馬によって違います。うちはレース間隔とかローテーションとか気にしていないですよ。これ、毎回言ってますね(笑)。
-:やはりアーモンドアイは大事に使いながら、これまで通り狙ったレースを一戦一戦取りに行くという形になりそうですか?
木:あくまで馬の完成度によります。しっかりしてくれば間隔を詰めて使えるようになるかもしれないですし、逆にまだ詰めては使えないなということになるかもしれません。とにかく私たちがしっかりと馬を観察し、レースでパフォーマンスを発揮できる状態で送り出すことが何よりも重要だと思っています。
-:今回もありがとうございました。
プロフィール
【木實谷 雄太】Yuta Kimiya
1980年8月5日生まれ。東京都出身。国学院久我山高から東京農工大へ進学し、馬術部に所属。卒業後の2003年からノーザンファーム空港で勤務し、同12月から山元トレーニングセンターへ。2011年10月からノーザンファーム天栄に移り、2015年から場長を務める。趣味は野球観戦で、東北楽天ゴールデンイーグルスの大ファン。