偉大な父超えを目指して奮闘中。父はあの岩田康誠騎手、競馬学校生時代から名門・藤原英昭厩舎のもとで研鑽を積み、今年3月からデビューした岩田望来(いわた みらい)騎手。話題性に富んだ同期の中では、やや遅れる形となったが、3月30日に36戦で晴れてJRA初勝利をマークした。目標とする父超えを目指し、日々、どんな意識をもって競馬に取り組んできたのか。注目のルーキーの素顔に迫った。

「ビューウィークに2勝! 父は斎藤誠調教師の大型ルーキー」 岩田望騎手と同期・斎藤新騎手のインタビューはコチラ⇒

焦り、遠慮 課題を乗り越え「馬を押せる」騎手に

-:今年デビューを果たし、3月30日に初勝利を挙げた岩田望来騎手にお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。デビューしてから、人気の馬で2着はありましたが、実戦に乗ってみての難しさを教えていただけますか。

岩田望来騎手:よろしくお願いします。ゲートを出て指示通り乗ることを意識過ぎていました。結局、それが、自分の馬に伝わってしまい2、3着に繋がっていたのだと思います。

-:もっと楽な気持ちでハナに行くなり、2番手に控えるなりしていたら、最後の伸びも違った。前半でもう少し馬をリラックスさせてあげられたら良かった、といったところでしょうか。

岩:そうですね。自分の気持ちが焦って、競馬でテンションが高くなった馬を自分が上手く誘導してあげられませんでした。馬の全能力を発揮させるためにも、もっとリラックスして乗れたら良かったと思います。

岩田望来

-:2着は、あと1頭に負けさえしなければ勝利じゃないですか。それは一番悔しいような気がするのですが、終わった後はいかがでしたか。

岩:2着は3度ありましたが、終わった後は、やっぱりゲートを切って良い位置に付けられていたら、この馬には負けなかっただろうな、という競馬は多かったですね。

-:これまでで一番悔しかったのはどのレースでしょう。

岩:中でも(3月24日)阪神の淀屋橋ステークスは、ハンデがなかった特別戦で2着。勝ったミラアイトーン(牡5、栗東・池江寿厩舎)は強かったのですけど…、ラベンダーヴァレイ(牝6、栗東・藤原英厩舎)は調子が良く体重も絞れて、勝負になるんじゃないか、という状態でした。勝ち馬は強かったんですけど、もうちょっと差を詰められていたんじゃないかなと思いますね。

-:最後に伸びてきたけども、交わせなかったレースでしたね。そういう手応えを感じる時ほど、ジョッキーは色気を持つというか。

岩:そうですね。手応えが良くても、僕はまだ自分の気持ちが先走って、コーナーで膨れたりするところが多いので、今後はもっと自分の気持ちよりリズム良く回って来て、最後の直線を迎えたいと思います。

-:より丁寧に。

岩:はい、より丁寧に、ですね。

岩田望来

▲競馬学校生時代の岩田騎手(2018年8月札幌で撮影)

-:そういう面では、毎日、調教や追い切りに乗っているじゃないですか。その辺も競馬に繋がるところじゃないですか?

岩:やっぱり自分の行きたいところに誘導する、行きたいペースで乗るということは競馬に繋がると思っていますし、意識して乗っています。

-:難しいことですよね。

岩:難しいですね。

-:いま一番、自分の騎乗に関して、改善したいところ、注意しているところがあったら教えていただけますか。

岩:まだ気を遣い過ぎて、自分のしたい競馬が出来ていないです。道中も積極的な競馬をして、最後の直線は自分の出せる最大限の力を発揮して、馬をしっかり「押したい」と思います。

-:なかなか難しいことですね。主張し過ぎたら、先輩に注意されそうです。

岩:そこは自分のしたい競馬だと思っているので、そこはちゃんと謝るべきところは謝って、主張すべきところは主張したいです。

豊富な乗馬経験の持ち主 父の子ではなく岩田望来として認められる日を目指して

-:逆にいえば、先輩から注意されるくらい目立つ競馬をしたいですね。初勝利した時に「お父さんの息子ということじゃなくて、岩田望来と覚えて下さい」といったコメントをされていたじゃないですか。それは、やっぱりお父さんはお父さんで成功した1人の騎手として見て欲しいし、自分は自分で見て欲しいという自立した考えがあるということですか?

岩:今はどうしても親の名前を借りて乗せてもらっています。何年後になるか分からないですけど、やっぱり早い内に「岩田康誠の息子」じゃなくて、「岩田望来に乗って欲しい」と言われたいと思っています。

-:お父さんの壁というのは、かなりハードルが高そうですね。

岩:そうですね。まだ越えられるという自信はないのですけど、これから乗っていって、技術を付けてドンドンその壁を乗り越えていきたいなと思います。

-:しかも、入った厩舎が藤原厩舎という、名門に入ったわけです。

岩田望来

▲エポカドーロの調教にも騎乗するなど名門厩舎で活躍馬の背中を経験している

岩:先生も厩舎スタッフの皆さんもすごく応援してくれているので、ありがたいです。

-:藤原厩舎は昨年もリーディングをとられたわけで、同期の3人プラス経験のある藤井勘一郎ジョッキーという中では、一番恵まれた環境で騎手デビューをしたともいえるでしょう。バックアップ体制は強力だったけども、勝ち上がりは一番遅かったというところで、悩んだところはなかったですか。

岩:デビュー初日から良い馬に乗せてもらっていたのですけど、なかなか結果を出すことが出来ず、5週間掛かってしまいました。でも、その分、他の同期よりは良い経験が出来たなと思います。

-:1人の若者とすれば、同期が勝つ毎に「アイツも勝ったのか」みたいな気持ちにはならなかったですか。

岩:正直、やっぱりなりましたね。

-:それはどういう風に気持ちを切り替えたのですか。

岩:自分自身では落ち込んでいたんですけど、周りのジョッキーの方や厩舎のスタッフさんの方に「焦るなよ」と言われて、何とか堪えていました。

-:でも、「焦るなよ」と言われたら、余計に焦るのが人間だと思います。

岩:そうなんですけど、そこを何とか自分の気持ちを押し込めて、馬に伝わらないように心がけていました。

-:お父さんからは何かアドバイスはありましたか。

岩:「勝つまではとりあえず焦らないように。競馬は上手く乗れているから、あとは自分のタイミングと運次第やぞ」と言われていました。

岩田望来

-:お父さんがデビューしたのは園田競馬場ですけど、お父さんから、デビュー当時の話というのは聞いたことはありますか?

岩:「自分の若い時より乗れているから」というようなことは言われましたね。

-:それは、やっぱり競馬学校の2年生の時から、ここに研修というか、乗りに来ていたじゃないですか。その中で勉強したことが大きかったのですか?

岩:それも大きかったですし、競馬学校に入る前から乗馬もずっとしていました。乗馬から色々と連動して、馬をつくっていったり、競馬に向かっているので、厩舎的にもそういうところが一番大きかったと思います。

-:だけど、馬術で馬に乗るというのは、競馬とどこかで離れるというか、同じだけど、レースだけは全然違うところもあるじゃないですか。そこはすごく難しくないですか?

岩:そこは、やっぱり一番の違いはスピード感覚だと思っていますね。

-:そのスピード感覚に最初は戸惑いましたか?

岩:やっぱりペースが遅いんじゃないか、速いんじゃないかと最初は思っていましたね。

-:いよいよ5週間経って、野中厩舎のポップフランセ(牡3、栗東・野中厩舎)で初勝利を挙げる訳ですけど、道中どこかで勝てるかも、という気配はありましたか?

岩:勝てるとは全然思っていなかったです。ずっと2番手で競馬をして、砂をけっこう嫌がる馬だったので、あまり嫌がらないところで乗ろうとして、最後の直線を迎えました。

-:だから、あえて先頭の馬とはちょっと距離を取って。

岩:そうですね。あえて距離を取っていました。

-:それで、その馬に逃げ残られるんじゃないかという怖さはなかったですか。

岩田望来
岩田望来
岩田望来
岩田望来
岩田望来

岩:ペースもちょっと遅かったんですけど、自分の馬は前の馬より手応えが良かったので、これは大丈夫かなと思って、最後は必死で追っていました。

-:追い出して残り200くらいで先頭の馬に並んだのですが、その時はいよいよという気にはなりましたか?

岩:そうですね、交わしてから、後ろから来ているんじゃないかと思いながら、ずっと真剣に追っていました。ゴールしてからは「勝ったのかな?」みたいな気分でした。抜けて勝っていたんですけど、本当にこれで勝ったんだなと思いました。

-:すごく幸せな時間だったと思います。

岩:そうですね。とりあえずホッとしました。ちょっとレースで悪い部分もあったので、映像を観て反省しないと、とも思いました。

-:意外にスンナリした競馬に見えたのですが、実際に映像を観て、どこが悪かったのですか?

岩:3~4コーナーでちょっと動かれた時に、自分のアクションが小さ過ぎて、外にいたジョッキーに「動くなら、もうちょっと自分のアクションを大きくしていたら、入られないよ」というアドバイスをいただいたり、直線に入る時にも外に膨れてしまったので、野中先生にも「そこはもうちょっとタイトに回らないとダメだよ」というアドバイスをいただきました。

-:それで、検量室に戻ってきて、野中調教師や厩務員と口取りに行く訳なのですけど、お母さんもいらっしゃって、初勝利のお祝いの時には、色々なジョッキーに混じってお父さんも来られていました。すごく幸せな初勝利でしたね。

岩田望来

▲初勝利を挙げ、父も祝福に駆けつけた表彰式

岩:はい、良かったです。思い出に残ります。

-:最後に、これからどんなジョッキーになりたいかを教えていただけますか。

岩:これからは乗せていただく一鞍一鞍を大事に乗り、そこで良い結果が出せるようにしたいです。将来的には、父を越えるジョッキーになって、海外でも名の知れたジョッキーになるのが目標です。

-:どんなタイプのジョッキーになるんでしょう?色んなスタイルのジョッキーがいるじゃないですか。

岩:乗り方は、良いジョッキーの良いところを真似して、自分に合ったポジションや追い方を研究しながら、しっかり押せるジョッキーになりたいです。

-:しっかり押すというのは、なかなか難しそうですね。

岩:そうですね。難しいですね。

-:ファンにアピールするところはありますか。

岩:ファンの方には、これからも積極的に競馬をしていって、より盛り上げられるように頑張るので、応援よろしくお願いします。

-:ありがとうございます。