デュープロセス 名手が認め、厩舎の想像を上回る素質 5連勝で初重賞タイトルへ
2019/6/14(金)
リーディング厩舎が重賞ダブル制覇へ。北海道開催の幕開けとなる今週、北は函館スプリントステークス、東京ではユニコーンSが行われるが、その両重賞に有力馬を送り込むのが安田隆行厩舎。いずれも上位人気必至の存在だが、3歳ダート馬にとってはJRAのダート重賞は初めての挑戦となるのがユニコーンS。そこで初タイトルを狙う4連勝中のデュープロセスを中心に、函館SSのダノンスマッシュとの話題とあわせ、陣営を直撃した。(取材:競馬ラボ小野田)
-:ユニコーンS(G3)のデュープロセス(牡3、栗東・安田隆厩舎)は4連勝中ですね。
安田景一朗調教助手:自分たちが思っている以上に成長してくれているので、本当にビックリですよね。ここまで来たとことにもビックリですし、一戦一戦、走る毎に馬が成長している、この成長度合いも、僕はビックリですね。
-:思い描いていた以上なのですね。
安:そうですよね、思っていた以上です。
-:新馬戦のケイアイターコイズも、その後もかなり強い勝ち方をしていた馬ですし、後続にかなりの着差を付けていた訳ですが、それでも未知数だったと。
▲昇竜ステークスの口取り撮影 右から2人目が安田助手
安:あの時は、正直、ケイアイターコイズが強い馬だとは分からなかったですし、時計は速かったですけど、相手関係に恵まれたのかと思っていました。というのも、緩さが目立つ馬でしたし、走りのバランスも決して良いとは言えなかったので。2戦目も相手に恵まれて勝ちましたし、500万に入って、やっぱり経験を積まないといけないかとは思っていましたけど、(ジョアン・)モレイラ騎手だけは「この馬はすごく良い馬だ。芝はあまり得意じゃないかもしれないけど、本当に良い馬だし、ダートなら良いところまで行くよ」と言ってくれていました。僕はリップサービスだなと思っていて、あまり真に受けていませんでした(苦笑)。
ただ、500万を勝った時も粗削りの競馬。厳しい展開でしたけど、行き切ったまま勝ってしまうという。当時の時計も速かったんですけどね。そこからオープン(昇竜S)に行って、後ろからゴボウ抜きした頃から、やっぱり馬がガラッと変わってきましたよね。緩さは否めませんが、走りのバランスが2~3カ月前とは全く別馬になってきました。あの時は相手が強かったですし、勝つイメージは湧かなかったですけど、ひょっとしたら相手なりに走れるんじゃないかなと思ったのですが、結果ああいう競馬でしたからね。ただ、道中で砂を被って嫌がって、最後外に出して伸びてくるという競馬で、ミルコ(デムーロ)も「最後はまだ余力があった」と言っていましたからね。
それで東京(青竜S)ですよね。僕も最終追い切りに乗せてもらったのですが、本当に痺れるくらいの手応えでしたし、この状態で負けたらショックだと思うほど。競馬自体が逃げたり、追い込んだり、全然形が決まっていないので、今回も砂を被ったらどうなるかなど、イメージはしていたのですが、今度は好位の4番手で、厳しい流れを押し切るという、むしろ中京の時より、前走の時の方が改めて強いと思いましたよね。(2着の)デアフルーグとかは後ろから強い競馬でしたけど、ウチは本当に前に行った中で押し切って、最後はまだフワフワしていましたし、着差以上に強かったですしね。追い切りの動きも良かったのですが、本当に強かったですね。
-:昇竜Sはレースを観ていたら、前の他の馬が潰れて、ニューモニュメントが勝ったんだなと思ったら、また後ろから来ましたからね。
安:とにかく勝負根性がすごいんですよね。抜け出したら遊ぶのですが、調教でも並んだら絶対に負けないというか、この馬の良さというのは、相手が強ければ強いほど食らいつくというか、この馬の良さが活きるのかなと。
-:外国産馬ですが、ダイワメジャーっぽさはあるのですかね。
安:そういうところなのでしょうね。今回も4連勝していて、強いと認めますが、色々な競馬をしていますし、今回はどんな競馬をするのかな、と正直思います。ずっと同じ戦法だったら分かりそうですが、どういう競馬をするか思い描けないので、逆にそこがちょっと不安です。
-:ジョッキーには、こう乗って欲しいというオーダーはしていなかったのですね。
安:全く言わないです。ミルコに任せているので、今回も色々考えているでしょうしね。ただ、砂を被ったりしたら、不安定なところはありますが、今後砂を被っていかないと、一線級とは戦っていけないので。僕は内枠に当たったら、とことん砂を被せて欲しいと思うくらいです。
-:今回の結果に捉われ過ぎずに、ということですね。
安:そうですよね。ここが最大目標じゃなくて、やっぱり来年のフェブラリーSなどを意識していますからね。今、怖いのは、競馬の内容は違うのですが、順調にスムーズに勝ち過ぎているので、色々な経験もさせたいなと感じますね。
-:距離適性はどう感じていますか?
安:僕は1600mも大丈夫だと思いますし、1800mダートでも問題なのかなと。最近、馬も落ち着いてきて、調教でもコントロールしやすくなってきたので。あとは、まだワンターンの競馬しかしていないですし、未知数ですが、そのためには馬の緩さを解消して、もっともっと心身共に成長していかないとダメなのかなと思います。
これだけ勝っているのですが、課題は山積みなので。この状態でこういうパフォーマンスを見せてくれるので、楽しみの方が大きいですけどね。良い意味で期待を裏切ってくれているので、これから先も僕らの期待をドンドン裏切って、こんな馬になったのか、という存在になって欲しいですよね。この馬は本当に勉強になりますね。「500万を勝てるかな」など、失礼なことを言っていたなと反省しています(苦笑)。
-:イギリスの血統ですよね。それでいて、普通はヨーロッパの血統なので、ダートというのも意外ですね。
安:お母さんはそうですよね。メチャクチャ硬い馬じゃないのですが、ダートが良いのでしょうね。デビュー前に北村友一騎手と、この馬をどこで使うべきかという話をしていたら「1400のダートなんてどうですか」という、友一のありがたい一言がありました。その一言がなかったら、最初は芝を使っていたかもしれないですし、周りのそういうアドバイスにも助けられているというか。
-:そんな経緯もあったのですね。状態面はいかがでしょうか。
安:良いと思いますけどね。今日(6月12日)は予定より1~2秒遅くなったのですが、先週にシッカリと負荷を掛けていますし、もう息も出来ているので。ダイワメジャーの子で今週重賞だからということで、あまり変に欲を出して、いつもと違うことをするのも嫌ですからね。むしろちょっとイージーというか、先週の時点で馬をつくって出来上がっているので、今週は本当にソフトに、気分良く競馬に挑めるような調整をしました。それに、調教云々というより、テンションが心配なので。前回は大人しかったのですが、前々回はいくらかちょっとテンションが高かったですし、前回は休み明けで、今回はずっと在厩しているので、前回ほどそんなに調教も必要ないかなと思っていますしね。本当に状態やデキは前回くらい良いですけどね。
-:テンションの面というのは、競馬場でもそういった素振りというのは。
安:前々走の中京では見せましたね。前回は全く見せなかったんですよ。だから、やっぱりそういう精神面での成長が大きいのかなと思いますし、今回も最終追い切りはソフトにやらしてもらいましたけどね。
-:暑さは大丈夫ですか。
安:良い汗の掻き方もしていますし、息遣いも良いですし、今回使ったら一息入れる予定だと思うので。特別、ダイワメジャーの子が夏に弱いというのもあまり聞かないので。
-: 6月は2歳の産駒もよく走っていますからね。
安:そうですよね。ダイワメジャー自身も安田記念で走っているので、この時季は良いかなとは思います。
-:とりあえず今おっしゃっていたように、ここで勝ち負けになっても、ジャパンダートダービーというのはおそらくなさそうですか。
安:オーナーサイドが決めることなので、これは何とも言えないですけど、僕としては、この緩さの中で走ってくれているので、やっぱり成長を促したいという気持ちがあります。オーナーと調教師さんが決めることなので、僕の意見ですが、夏は無理して欲しくないなと思いますけどね。
-:沢山使っているのは事実ではありますよね。
安:そうですよね。今回で6回目なので、賞金も十分に足りているので、夏はそんなに使う必要はないかなと。休養できるように願っています。
-:緩さというのは全体的なものですか。
安:全体的な緩さですよね。だから、あの感じでこれだけ走っているので、あれで芯が入ったら、本当に化け物になるんじゃないかなと思いますけどね。どんな馬になるのかなと。ただ、そう言って変わらない馬もいるので…。今でも十分に走ってくれているので、十分なんですけどね。あまり欲を出さずに、欲張り過ぎないようにします。
-:そして、厩舎としては、今週はユニコーンSだけではないですね。函館スプリントS(G3)にはダノンスマッシュ(牡4、栗東・安田隆厩舎)も控えます。
安:北海道もありますし、全て駄目だったら…と想像すると怖いですね。ダノンスマッシュの前走の高松宮記念(4着)は外枠という厳しい条件の中で、最高の騎乗をしてくれたと思いますし、やっぱり上位は全部内枠だったので、正直負けて強しの競馬だったかなと、僕は思っているので。ただ、結果が欲しいですけど、高松宮記念が終わってから、あの子にとってはしんどい競馬だったみたいで、体調も崩して、やっぱりなかなか疲れも取れなかったことは事実です。やっと間に合った感じなので、その辺がどうかと思いますけどね。
-:今回はジョッキーも替わるだけに、今回から秋へかけて、より結果が求められるかと思います。
安:このご時世でなかなか厳しいところがあるのは事実です。ただ、こういう乗り替わりということになったにも関わらず、引き続き友一が調教に乗ってくれています。「安田厩舎には本当にお世話になっている」と言ってくれていますし、彼には本当に感謝の気持ちで頭が下がります。
-:今でこそG1でもたくさん名前を聞くようになった北村騎手ですけど、もう何年も前から乗っていらっしゃいますからね。
安:安田厩舎は、彼がデビューした時からずっと乗ってくれていますし、競馬学校時代の北村が1年生の時に、ちょうど僕が出会い、その時に仲良くなって、それ以来プライベートでも仕事でも、本当にずっと仲が良いんですよね。僕は、彼の人間性もすごく好きですし、安田先生も「北村友一のためにG1を獲らせてあげたい」という気持ちをずっと持っているので、厩舎スタッフも「北村君を乗せてあげよう」とう感じですし、所属ではないですけど、本当に安田厩舎所属みたいな感じですよね。
-:今回は乗り替わりという結果になってしまいましたが、馬の話題に戻らせてもらうと、北海道のコースに関しては、問題なさそうですね。
安:先週、(川田)将雅とも話したのですが、さほどそういう心配はないのかなと。「ただ、改めて先週調教に行ったら、直線が短い」と。「やっぱり直線でスムーズさを欠いたら、あの直線の短さでは致命的だ」ということは言っていたので。
将雅自身も、スムーズに競馬をすることをイメージしていると思いますし、左回りより右回りの方が反応は良いです。左回りでも全然悪くはないのですが、右回りの方が走りはスムーズなので、コース替わりで中京から函館に替わるというのは、この馬にとっては良くて、プラスかなという感じですかね。
-:ここからはセントウルS、スプリンターズSを予定とのこと。右回りが続きますね。
安:まだまだ成長している最中なので、後に左回りでも良いパフォーマンスを見せられると思いますけど、現状ではやっぱり右回りの方がベストパフォーマンスを見せられるんじゃないのかなと思います。今回は相手どうこうよりも、やっぱりコンディションも含め、本当に自分との戦いなのかなと。ここで、この7~8分のデキで勝つようなら、本当に秋のGⅠ戦線というのもすごく楽しみになりますし、この感じでどんな競馬をしてくれるか、秋競馬に繋がれば良いかなと思いますね。
プロフィール
【安田 景一朗】 Keiichiro Yasuda
1978年10月27日生まれ。父は安田隆行調教師。弟は現在、調教師として活躍する安田翔伍師。ジョッキーであった父の影響で自然に競馬に興味を持ち、小学校5年から乗馬を始めると、栗東高校で馬術部に入部。そして、スポーツ推薦で青山学院大学に入学。そこからノーザンファーム、競馬学校を経て、2002年6月から約半年間、作田厩舎に所属。2003年1月から安田隆行厩舎に所属し、攻め専としてトランセンドなどの調教に携わってきた。厩舎のスポークスマンとしても活躍している。