【凱旋門賞】フィエールマン&ブラストワンピース 日本馬初制覇へ 常識破る新たな挑戦
2019/9/29(日)
常識を破って悲願を成し遂げる。日本時間10月6日(日)深夜に行われる凱旋門賞(G1、フランス・パリロンシャン競馬場)に、ノーザンファームはフィエールマンとブラストワンピースを送り込む。イギリス滞在、札幌記念からの直行など異例の臨戦過程を「新たな挑戦」と語るのは、ノーザンファーム天栄の木実谷雄太場長。ディープインパクトやオルフェーヴルといった名馬も跳ね返され続けてきた壁を打ち破り、世界の頂点を狙う手応えを聞いた。
(取材、構成=競馬ラボ・狩野)
-:凱旋門賞に参戦するフィエールマン(牡4、美浦・手塚厩舎)とブラストワンピース(牡4、美浦・大竹厩舎)についてお伺いします。2頭とも初めての海外遠征となりますが、輸送は何時間くらいかかったのですか?
木実谷雄太場長:9月10日に出発して、仁川(韓国)とフランクフルト(ドイツ)を経由してロンドンに到着しました。ノーザンファーム天栄の出発から計算すると、だいたい35時間ですかね。私は成田空港で見送って、イギリスに先回りして到着を待っていました。
▲G1馬2頭を送り込む木実谷場長
-:ドバイ遠征の際は日本より気温が高かったり、坂路コースがなかったりして調整方法は変わるというお話でした。今回滞在するニューマーケットの施設はいかがですか?
木:大草原の中に高低差約40mの坂路があって、日本にいるときのように坂路調教はできます。気温は朝が12~3度で、日本とは気候がだいぶ違いましたね。人間の感覚だと肌寒いくらいでした。
-:凱旋門賞に向けて、中間にイギリスで調整するパターンは異例かと思います。
木:海外で馬をより良い状態で送り出すということを、ノーザンファームとして模索しています。札幌記念が終わるまでは遠征すると決まっていたわけではありませんでしたが、行くならイギリスで調整して臨むことになっていました。いろいろな選択肢がある中で、新たなチャレンジですね。
-:入念に準備された上で今回は2頭での遠征となりましたが、札幌記念の結果次第ではゼロという可能性もあったのですか?
木:もちろん、その可能性もありました。札幌記念の結果を踏まえて、2頭とも凱旋門賞へ向かおうということになりました。
-:その札幌記念はブラストワンピースが内から差し切って優勝しました。有馬記念や最近のレースは外を回していましたが、違う形で結果を出しましたね。
木:馬群の中を割ってきたという点では、ゆりかもめ賞や毎日杯でもそうでしたからね。体調面も上向いていたので、実力通りの結果だったと思います。うまくジョッキーが進路をとってくれて、抜け出して来てくれました。フィエールマンとは通ったコースの差が大きかったですね。
-:フィエールマンは外から良い脚で追い込んできましたが3着でした。状態はいかがでしたか?
木:天皇賞(春)の疲労がだいぶ残っていたので、状態はまずまずといったところでした。毎回3カ月ほど間隔をあけて走ってきましたが、回復にもう少し時間が欲しかったというところです。ただ、そんな中でもよく走ってくれたと思います。
▲札幌記念を制したブラストワンピース
-:フィエールマンはイギリス到着後に、イレ込みがややきつかったという公式レポートがありました。
木:乗り出した日に、いきなり広いところに出たので馬が驚いてしまったんでしょうね。翌日の報告では落ち着いたということだったので、大丈夫だと思います。
-:ブラストワンピースは直接ご覧になって変化はありましたか?
木:輸送後も落ち着いていました。2頭とも熱発もなく、馬体重もすぐに戻ったと聞いています。疲れは順調に回復しているとのことなので、輸送自体はうまくいったと思います。これまで遠征に同行してきた獣医さんの経験は大きいと思いますね。
-:今年のキセキをはじめ、これまでの日本馬のほとんどはフランスで前哨戦を使って本番へ臨むパターンでした。
木:オーナーサイドで決まったローテーションで、札幌記念からでもレース間隔は2カ月弱。キセキのように前哨戦を使うと中2週です。今回は違ったローテーションの選択肢を取ったということです。
-:昨年、ノーザンファーム勢は凱旋門賞への出走がありませんでした。今年は凱旋門賞に限らず、海外への意識が強いように見受けられます。
木:特別、今年から力を入れたわけではないですよ。吉田勝己社長は常々「海外」と言っていますし、クラブ会員様のパーティーなどでも「世界で」という話をしていますからね。去年以前もドバイをはじめ、オーストラリアなどにも行っていますので、イメージの問題かと思います。
▲キレ味勝負は歓迎のフィエールマン
-:凱旋門賞にはどのような印象がありますか?
木:毎年、最後の1000mが速いですよね。基本的には道中ロスなく進んでのヨーイドンだと思います。当日の天気はカギではありますが、ロンシャン競馬場が改修されてからのレースを見ていると、時計は以前より速い印象です。
-:やはり内枠を引いて、いかに脚をためられるかが重要になりそうですね。
木:ただ20頭もいますし、一概には言えないですね……。日本よりペースが遅くて馬群の密集度が高いので、内で閉じ込められて競馬をさせてもらえないかもしれません。かと言って、外を回して勝てるほど甘くないでしょう。これだけ日本馬が出ていて勝てないんですから、大変なレースです。
-:お話にもあったとおり、勝てば日本馬初の快挙となります。
木:世界的にもすごく注目されているレースだと思いますが、どのレースでも勝ちたいことに変わりはありません。馬のコンディションもありますし、勝つときはいろいろな要素が重なり合ってうまくいきます。私たちは、レース当日まですべてが良い方向に行くことを願って準備するだけです。
-:ありがとうございました。
プロフィール
【木實谷 雄太】Yuta Kimiya
1980年8月5日生まれ。東京都出身。国学院久我山高から東京農工大へ進学し、馬術部に所属。卒業後の2003年からノーザンファーム空港で勤務し、同12月から山元トレーニングセンターへ。2011年10月からノーザンファーム天栄に移り、2015年から場長を務める。趣味は野球観戦で、東北楽天ゴールデンイーグルスの大ファン。