関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

川合達彦調教助手

川合達彦調教助手(栗東・池江泰寿厩舎)

負けて強し。全世界が注目するフランスの凱旋門賞で誰しもにそう思わせたオルフェーヴル。帰国して緒戦となるJCには、なんと凱旋門賞馬ソレミアとの再戦となるが、やはり気になるのは当時と比較しての状態面。今回は凱旋門賞時にも帯同して調教に携わり、レース直前にはパドックを曳き、帰国後もその背に跨って感触を確かめている川合達彦調教助手に、激戦後からJCへの臨戦過程について伺ってきた。

≪関連リンク≫「川合達彦調教助手インタビュー」
(トーセンジョーダン・ジャパンカップ出走前)


凱旋門賞と僚馬アヴェンティーノの存在

-:競馬ファンのみならず、注目を集めるオルフェーヴルですが、川合さんは凱旋門賞でパドックも曳いてらしたので、あの時のデキを知る貴重な存在ですよね。

川合達彦調教助手:僕は凱旋門賞が行われる2週間前に行ったんですね。オルフェはフォワ賞を使うために1ケ月前に行きましたが、僕はフォワ賞を使った後の1週間後に行きました。シャンティイのライオンコース(ダート)の4kmある直線の調教場の1km部分、その中でも傾斜が一番ある部分なんですけど、もう、調教がスゴい迫力でしたね。傾斜があると言っても、栗東の坂路と比べたらキツくないですが……。

-:もっと緩やかな上り傾斜だったと?

川:そうですね。そこで普段の調教はしていたんですけれど。

-:ライオンコースのダートの質について教えてください。ダートと言っても各国砂質が違ったり、砂の重みが違ったり、それがどんな感じだったのか非常に気になります。

川:日本のダートとは違いますね。もっとグリップが良くて、走りやすい感じです。重くもなく、軽すぎもなく、本当にクッションが良い。

-:砂丘で言ったら波打ち際みたいなイメージですか?

川:多分、海の砂みたいな感じで、そんなにサラサラじゃないですけど。軽い感じのダートでしたね。

-:オルフェーヴルも走りやすそうな?

川:そうです。走りやすそうでした。何がスゴかったかと言ったら、そこのフランス馬と隊列を組んで、普通キャンターを走るんですけど、オルフェだけ蹴りがスゴくて、1頭だけ砂が高く上に飛んでいて迫力がありました。池江先生も調教だけで「これは本当に勝負になる」とおっしゃっていました。あの光景は、それほどスゴかったです。

-:走る馬の中でもオルフェーヴルのスナップやキック力は強い、ということですね。

川:地面を蹴り上げる力ですね。それがスゴくて、森澤助手が目一杯抑えても、最後だけちょっと速く走ってしまうんです。走りたくてしょうがない獣のような、そういう迫力を感じました。

-:素晴らしいですね。

川:多分、今までオルフェを見てきた中で1番のデキだったと思いますね。

-:宝塚記念を使った後、さらにグッと良くなって。

川:そうなんです。肩の筋肉からトモの筋肉の肉がグッとついて良く感じました。

-:素人目にテレビで見ても凱旋門賞の馬体は凄いな、と思いました。僕が最後に見たのは宝塚記念でしたから。もちろんパドックも見ていますけど、そのイメージと全然違ってスゴいなという迫力がありました。

川:そうですね。全然、違いましたね。

-:フランスまで輸送や環境の違いなど、馬には負担が掛かるじゃないですか。その中でもオルフェは平常心を保っていたからこそ、いい状態で出走できたんですね。

川:もちろん精神的な強さも大切ですが、それが出来たのは、帯同馬のお陰でもあるんですよね。

-:アヴェンティーノですか?

川:そうです、いつもアヴェンティーノが先頭で、その後ろにオルフェという形でした。そうすることで馬の落ち着きがでました。あとは環境ですね。何もない森の中で馬がリラックスできたんでしょう。

-:何もない森の中だと馬は不安になったりしないんですかね。トレセンの狭い環境に慣れている馬にとって、いきなり壮大な所へ変わるわけですから。

川:それはアヴェンティーノのお陰で、いつも何があっても前にアヴェンティーノが一緒だったので不安にならずに過ごせたんだと思います。

-:2頭はセットだった訳ですね。オルフェーヴルには、いつもアヴェンティーノがいた。彼らは仲良しだったんですか?

川:そうですね。馬房も隣同士ですしね。馬は集団生活で行動する動物ですから、仲間がいるってことは心強かったと思います。

-:それは調教だけではなく、フォワ賞の返し馬でも仲間意識が出てましたものね。

川:レースでも返し馬でもアヴェンティーノが前にいて。

■「(凱旋門賞当時は)今までオルフェを見てきた中で1番のデキだったと思いますね」

-:凱旋門賞なんですけれど、返し馬にいった時にアヴェンティーノが先に出ていくじゃないですか。ゆっくり出ていったんですけど、そのゆっくりの蹴っぱりで、芝がポコンと掘れて、飛んでた映像が映っていたんですよ。これは一体、どんな馬場なんだろうと思って。

川:あの時は最悪の馬場でしたよ。雨続きで、何て言うんですかね。日本の芝で雨が降った重馬場になると、馬が掘った芝が後ろに飛ぶんですよ。向こうは後ろにも少しは飛びますが、土や、草が前に飛ぶんです。柔らかい芝生に蹄がめり込むんです。土の奥から根が、それも細かい根が絡んでいるんですね。かなり特殊で馬には負担が掛かるような馬場だと思います。

-:ただ、映像的にはスゴくキレイで、言われなかったら重馬場と分からない人もいるんじゃないかというぐらいのキレイでした。変な日本語ですけどキレイな重馬場という。

川:たしかに、そうでしたね。

-:それとオルフェのレースを振り返るとフォワ賞の時も思ったんですけど、日本での競馬に比べてラップが遅いじゃないですか。それを抑えて位置がどこかというよりも折り合って走れたのが凄いと思いました。結局、あの極限のコンディションのオルフェーヴルは誰も乗ったことがないぐらいの仕上りだったと思うんです。それを、あの遅いラップで抑えつけるというのは馬に乗らない我々が考えている以上に過酷なことだったんじゃないかと。

川:それはそうだと思います。

-:実際、凱旋門賞でも直線で抜けてきた時は重馬場と忘れさせるような走りでした。テレビで見ている人のほとんどが勝利を確信したと思うんですけど、川合さんはどういう風にご覧になりましたか?





川:僕も現場で見て、観客と一緒に見ていたんですけど、もう勝ったと思いましたね。

-:ところが?

川:あとで見たら、物見とすごく内にモタれてたということですね。やっぱりジョッキーもそうだと思いますし、僕ら関係者も本当に悔しかったですね。

-:それは多分、テレビを見ている人も同じ気持ちで。

川:そうですね。思い出す度に……。

川合達彦調教助手インタビュー後半は→

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【川合 達彦】 Tatsuhiko Kawai

2005年4月で引退した元騎手。中学生時代に偶然目にした騎手課程の募集がきっかけで、馬の世界へ飛び込む。栗東・坂田正行厩舎より騎手デビュー。デビュー3戦目で勝たせてもらった自厩舎のイブキノウンカイが思い出の一頭。
「金髪で派手な馬だったけど気品あふれる馬でした。僕が乗る前に青葉賞でレオダーバンの2着に来た実績馬に乗れて嬉しかった」。
騎手引退後は調教助手に。'07年より池江泰寿厩舎に所属。追い切りでは併走馬に跨ることが多い。時計が速くなり過ぎないように全体のラップに注意を払いつつ、追い切りをつけている。高額馬が多い同厩舎で「どんなに高い馬でも鍛えないと走らない」がモットー。