元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
ドゥラメンテ引退
2016/6/30(木)
そのドゥラメンテが引退することを決定付けた宝塚記念を振り返りましょう。レースの週には大変な雨が降り、当日の馬場発表は、やや重。しかし、発表されていた馬場よりも重く見えていたのは私だけではないと思います。そんな中、ファン投票一位のキタサンブラックがハナに行く展開となりました。そして1000m通過が、まさかの59秒と早くなり、後ろの馬も一気にチャンスが出てきました。そして、3コーナー付近、1番人気のドゥラメンテは岩田君に見事なまでにマークされ、思うように動けない中、重い馬場を考えた蛯名君は、少しずつ出していく選択をしました。迎えた4コーナーではラブリーデイが少し早めに進出し、大外を通って上がってきたマリアライトが前を行くキタサンブラックを最後に捕まえ、見事オールスター戦を勝利しましたね。
エリザベス女王杯でも見せたように、馬場適性がモノを言ったレースとなりました。そして、牝馬の56キロという斤量も有利に運びましたね。しかし、何よりも馬を信じて外を回してでも勝ちにこだわった蛯名君の気迫と、それに答えるだけの馬の能力があったからだと思います。ゴール入線後には、ドゥラメンテからミルコが下馬しました。スローを見ていると、初めての馬場に少し長い距離、全てを出し切った馬が疲れきった上にバランスを崩してしまったように見えました。そのまま、馬運車で運ばれるドゥラメンテの姿がターフで見る、最後の姿になってしまいました。見事なマリアライトの勝利と怪物の故障。今回の宝塚記念は、良い意味でも、悪い意味でも忘れられないレースとなってしまいました。
ファンの皆様にはなかなか伝わらないことだと思いますが、お手馬が怪我するというのは、騎手としても心が非常に痛いです。毎日のように自分が乗る馬が、どんな状態でいるのか、調教に跨ったり、馬房に会いに行ったりと騎手はしています。レースが無いときも、そんな馬達のことを考え、負ければ、自分がどう乗るべきだった。何が悪かったと考え、頭を休める日は少ないです。そうやって、乗っている馬だからこそ、騎手はトレーニングにも力を入れ、頑張るんです。今回の件に関しても、ミルコはこの怪物と向き合うために相当な努力をしてきたと思います。そして、私達には考えられない程のプレッシャーと戦ってきたと思います。そんな中での怪我というのは、本当に辛いですね。騎手をやっている以上、相棒の怪我は付きまといます。しかし、それでも毎週、戦う。それが騎手だということを、現役を引退してから久しぶりに思い出させられたレースでした。
今週からは夏開催本番ということで開催が福島・中京へと舞台を替えます。福島では伝統のハンデ戦ラジオNIKKEI賞、中京では高松宮記念に続く道となるのかCBC賞が行われます。どちらも開幕週だけに速いタイムが想定されますが、降り続いている雨の影響で馬場も全く読めません。いつもの馬の力+馬場適性が今週もまた大事になってくると思います。
その中でラジオNIKKEI賞はロードヴァンドールに注目しています。先週の道悪では圧倒的な勝利数を見せたダイワメジャー産駒ですし、四位君が軽い斤量(53キロ)で勝負する時は目が離せないですからね。他ではドバイでコンビを組んでいたベルカントではなく、福島に登場する豊ちゃんとコンビを組むブラックスピネルにも注目です。馬体重+10キロで全く仕上がっていなかったとはいえ、重賞3勝のスマートオーディンに勝った馬ですからね。こちらは最大斤量の57キロになりますが、非常に楽しみです。CBC賞ではラヴァーズポイントに注目しています。恵まれた斤量と前走ではダメージの少ない競馬を元に、今回は後ろから飛んでくることも可能では?と思っています。日本競馬の怪物の引退から、夏競馬で新たな怪物との出会いを期待して、今週も競馬を楽しみましょう!!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。