元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
味変なんていらない美味
2020/11/23(月)
皆様、こんにちは!この間は本当に冬なのか?というくらい暑くなったと思えば、突然寒さが戻るなど、天候の振り幅に踊らされる週となりました。そのおかげで食べ物ができるのにも例年以上に時間がかかっているそうで、全ての美味しい時期がずれてきているみたいですね。孫が大好きなイチゴの季節になってくるのですが、例年に比べると出てくるのが遅いのかなという印象も受けています。孫は本当にイチゴが好きで、毎日毎日イチゴ!とせがむと聞いています。美味しいものは何度続いても良いのでしょうね。私なら味変もしたくなりますけど(笑)。
競馬界でも味変がおきず、上手いレースを続けているルメールがマイルCSで4週連続の重賞勝利。馬も人もG1機会3連勝を達成しました。上手いレースと完璧な勝利は何度見ても飽きがこず、味変も必要ないなと思ってしまいました。しかし、福永君とインディチャンプ、川田君とアドマイヤマーズは、まさに味変を起こしてやるという強い意志をもった完璧な騎乗だったと思います。特に4角では内枠が当たったグランアレグリアを意識しての運び方は2人共に巧みで、素晴らしい騎乗だったと思います。
4着に入ったスカーレットカラーのイン差しも痺れましたね。G1という大舞台で腹をくくって勝負をして、失敗すれば騎手のせいと言われることも恐れずに勝負した岩田君は本当に素晴らしかったです。逆にサリオスは前回のコラムでは力がまだ足りないのかもしれないと書きましたが、レースを見る限り、そうではありませんでしたね。今回勝ち切れずに5着という結果は、素晴らしい騎乗がなかったから起こりえたと思います。
外枠から厳しい競馬になることは予想していましたが、ゲートで半馬身ほど立ち遅れ、引っ掛かることを恐れてポジションを取ることができず一気の瞬発力勝負で挑みましたが、サリオスはそのような馬ではありません。これほどの馬で特徴や馬場状態を読めずに負けるというのは関係者から見ても不満が残ります。しっかりとスタートを出し、ポジションを取ることができていれば、併せていればどのようになったかを見たかったです。G1は完璧もしくは腹をくくった騎乗ができなければ勝利は得られません。力が拮抗しているからこそ、ひとつの無難が勝利を遠ざけることがあるということを見せつけられたレースとなりました。
逆にルメールはスタートからポジションを取ると、内枠だったことからもブロックされることは頭にあったと思います。しかし、休んで勝ち上がった阪神Cの経験があったからこそ、焦らずに外への進路を待つことができました。ギリギリまで溜めた脚は凄まじいものがあることまで計算に入っていたと思います。もちろんヒヤリとはしましたが、それでも彼の中では大丈夫な範囲での騎乗だったと思います。前が壁になって抜け出せないシーンをダメだと言う人もいますが、それは内でしっかりと勝負している証でもあります。
結果が全てなのが競馬ですが、今回の壁になりながらも勝ったルメールの騎乗は素晴らしかったと私は思います。掛かりやすい馬でも臆することなくポジションを取り、折り合わせ、壁になるも進路を探して差し切る。馬の力あってこその勝利になりますが、その力込みで考えるのが騎乗ですからね。この勝利で惜しむとすればグランアレグリアの弟が、母も亡くなってしまっていること。まさに2020年の世界で1番というマイル戦でした。
3日間開催が終わってすぐの木曜日には枠順が発表されジャパンカップが行われます。歴史の中で類を見ない3頭の3冠馬の戦いに、普段競馬を観ている人以外も興奮してしまう対決が待っています。まずはこのレースで引退を発表したアーモンドアイ。これだけ勝っているルメールから「ライフホース」と言わせる逸材の最後がどうなるのか非常に楽しみです。
そこに待ったをかけたいのが新たなる怪物コントレイルでしょう。正直に私はこちらに今回は分があるのではと思っています。しかし、もう1頭の3冠馬デアリングタクトも侮れません。アーモンドアイは120%で走り切る馬だけに本音は前走からの間隔が欲しいところでしょうし、コントレイルも3000mという長丁場で見えない疲れがあるのではと心配しています。デアリングタクトも雨での戦いでしたから、最強3頭も走ってみないと分からないところがあると思っています。
残念ながら一矢報いるのに期待していたサートゥルナーリアの回避が発表されましたが、一生に一度しかないような豪華なレースを制するのはどの馬か!こんなレースなら、何度でもおかわりしたい気分です!!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。