元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
ルメールの隠れた技術
2021/5/18(火)
皆様、こんにちは!とうとう梅雨に入り、雨が続いています。湿気が多く、歳をいくと頭痛や不調に悩まされる日々となっています。そんな中、競馬界では感動の涙がありました。先週土曜日、中京で行われた三津谷騎手の引退レースとなった京都ハイジャンプは競馬の神様が味方をしてくれたようなレースでした。
誰しも騎手になる際、一番トップを目指すという夢を持っています。いつかは大きなレースを勝ちたい、リーディング騎手になりたい。そう思ってもなれるのはごくわずか。いつしか、夢が慣れに変わり、現実を突きつけられる。騎手になれたことに誇りを持ち続ける人もいれば、もがき苦しむ人もいる。結果の出ない努力を努力しているのにと思う人もいます。ただ、求められるのは結果。それが騎手です。
そんな苦しいことでもある騎手をそれでも続ける人、辞める人。それぞれの人がいて、どちらの選択も正解だと思います。今回の引退に関しても自身の決断であり、育成に興味を持てたことや持病のぜんそくも含めて新たな道へと進むための引退は彼の中で正解であれば私は良いと思います。まだまだ若いからやれたことはあったんじゃないかという思いと、新たな道で成功してほしいなと思う気持ちがあります。
今回のマーニは彼の障害歴の中で初勝利を挙げ、自分が大きく関わりながら作りあげた相棒。その相棒との勝利は、格別だったと思います。あのガッツポーズは自分が勝てたこともですが、自分で作りあげてきた相棒を勝たすことができた喜びの方が大きかったのかもしれません。最後に見せた彼の雄姿は、多くの人に感動を与えたのではないかなと思います。
感動の土曜日の翌日、日曜日には東京競馬場でヴィクトリアマイルが行われました。勝利したのは東京開催G1 5連勝となったルメールとグランアレグリアのコンビでした。レース前から1頭だけ違うレベルにあると思っていましたが、流石のレースに唸ることばかりでした。今回はルメールの匠な技術が詰まっていたレースでもありました。
普通に外を回しただけとも見られるのですが、まずポイントとなったのは返し馬での馬のおろし方にありました。テンションがカギになる馬だけによくチェックしながら見ていましたが実に上手い、そっと馬をおろした姿を見て、これでは敵わさないと思ってしまったほどでした。レースはスタート後から1コーナーまで外に馬を置かず、最高のポジションを取ったことで決まりました。内からクリスティが主張し逃げ、2番手スマイルカナ、レシステンシアと続き非常に速いペースで流れましたが、ルメールにとってはやりやすい展開となったと思います。
直線は前を行く馬を可愛がりながら、じっとタイミングだけを計る展開。前を行く馬達は、まだ来ないのか!?と逆に脚を使わされました。ここがまた匠な乗り方でした。GOサインを出すと一気に突き放し、圧巻の勝利を挙げました。やはりマイルまでならば敵はいない馬です。国内G1もですが、世界のマイルでも通用する程のレベルにあると再認識させられました。
2着にはランブリングアレーが入りました。吉田隼人君も腹をくくり、グランアレグリアをマークしながらのレースで非常に素晴らしかったと思います。3着にはあの立ち回りで2着じゃなかったの?と唸らされたマジックキャッスルが入りました。このレースで枠を活かし一番上手に乗ったのが戸崎君だったと思います。今後も堅実に善戦してくる同馬から目が離せないと思います。
今週は牝馬2冠目のオークスが東京競馬場で行われます。なんといっても注目は白毛馬ソダシになるのではないでしょうか。レースセンスのある馬ですし、女王を理解している吉田隼人君とのコンビにぜひ勝利を挙げてほしいと思う反面、東京コースがどうでるかという不安は無きにしも非ず。しかし、最大のライバルであるサトノレイナスがダービーへと向かうため、相手選びは非常に難しいと思います。
その中でも注目しているのはアールドヴィーヴルになります。前回は不完全燃焼なレースになりましたが、松山君にコンビが戻ることや東京コースは非常に楽しみでもあります。その他ではタガノパッションも面白い存在になる気がしています。ファインルージュやステラリアなど福永君が仕込んできた馬も楽しみですが、何よりも白馬の2冠を多くの人が望むレースになりそうです。2週連続でサンデー(レーシング)競馬になりましたが、今回は出走がないため金子競馬になることを願いながら、週末を待ちましょう!
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。